【タイトル】  森を歩く一人の男 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【ジャンル】  文学 【種別】  短編小説 【本文文字数】  762文字 【あらすじ】  いろいろ制約付けて書いてみた。改良加えまくるので、その基盤がこれっていう。 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************ テーマ/森の中の一本道を歩いている男 規制/小道具禁止、回想シーン禁止、ほかに言葉を喋るものの登場禁止  木々の鳴き声が耳に届く。木々の泣き声が耳に届く。風があるのか、森をつくる木々は声を上げていた。彼はその中に築かれたたったひとつの道を、ひたすらに歩き続ける。  彼の行く先はどこだろう。一本道はただただひとつの道を築いている。ならば、彼の行く先は歩みの向きがどちらかさえわかっていれば予測できるのではないだろうか。  そうに違いないとは言い切れない。彼がすでに築かれている道を行くかは誰にもわからない。もしかしたら、彼は誰しもが踏み込まない道を自らの手で作り上げるかもしれない。密林故に深い緑の道無き道を、あえて切り開くかもしれない。  彼は思うかもしれない。今歩く道だけが、ほんとうに道なのだろうかと。  この道が行き着く先はある。道とは、誰しもが通(とお)り通(かよ)うからこそだんだんと踏み固められ道と成る。その道がどこかに続いているからこそ、誰かが来て誰かが過ぎるように誰かが通っていったはずだからこそ。その道には、どこにも行き着かないのではないかという不安はない。  だからこそ、彼は思ってしまうかもしれない。ほんとうにこの道だけが、と。  そうなれば、彼がどこに来訪するかはわからなくなる。  逆に考えれば、彼がどうやってこの一本道に辿り着いたのかも把握できなくなる。在る道が道らしいからこそ道と思われるだけのことで、どこにも繋がる道がところせましと蔓延っているということこそが真実。  彼の足裏が踏みしめるのは、現在。  彼の足跡なき一歩前は、すでに過去。  彼が脚を振り上げ進む先は、未来。  それに定められた道など、あろうはずがない。  嗚呼、しかし――  干乾び枯れた木のような彼が、転倒したまま起き上がる気配がない。  どうやら、彼の終点は道中のようだ。  <終>