【タイトル】  夢を聴く 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【ジャンル】  恋愛 【種別】  短編小説 【本文文字数】  741文字 【あらすじ】  「夢を見る」「夢を失う」「夢を聴く」三御題作品のひとつ。終わってしまった夢物語ほど、客観的で感情の籠もらないものは無いでしょう。 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************  夢を聴く 『彼女の歌声は、この世界に永久に残り続けることでしょう。それを暗示するように、彼女が亡くなってしまった今でも彼女の歌はみんなに愛されています。彼女が突然歌手としての活動を中止した理由は、私たちへの愛です。私たちファンを愛するからこそ、彼女は歌うことをやめたのです。私たちは、彼女が必死の想いで決断したというのに、ただ自分たちの満足のためだけに言葉を投げかけ続けてしまったのです。「もう一曲。あと一曲」どれだけ傲慢だったか、胸が痛んでなりません――』 「ほんとうは、どうだったのだろうね」 「何が?」  車のワイパーが、クィックィッと音をたてる。雨粒がガラスにぶつかって、音をたてる。そのどれもが雑音にしか思えなくて、俺は苛立ちの色を含んだ返答をする。 「彼女よ。最強最高の歌姫様。突然歌手止めたのは、私も少しは気になってたの」 「君は、ああは想わない?」 「ええ。だって、あんなのは彼女の外キャラを見てるだけだもの。それか、自分たちの中で良い形になるよう捻じ曲げてるだけ」 「綺麗に終止符がつくというのは、彼女が残る形として一番良いものではないかい?」 「そうだろうけど、でも、そんなのは彼女じゃないと思うわ」 「どうして?」 「彼女が発したものではないからよ。彼女の色が一切ないものは、彼女の跡じゃないわ。違う?」 「どうだろうね。少なくとも、彼女が送ったものだけが彼女の総てではない気がするよ」 「えらく、彼女の味方をするのね」 「当たり前さ」  バックミラーを覗き込む。すると、炎をめらめらと燃え盛らせた双眸が隣にきた。  思わず笑ってしまって、言いにくくなる。  だけど、言った。 「僕は、彼女を女神と思うまでに愛してしまった、ファンだからね」  信号が青になって、  僕が運転するこの車は凄まじい速さで駆け去った。