【タイトル】  ショートショートすと〜り〜ず 【 別 】 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【ジャンル】  恋愛 【種別】  短編小説 【本文文字数】  2277文字 【あらすじ】  君は僕の幼馴染。君と僕はいつもいっしょで。でも、いつまでもいっしょではいられない。時を重ねるごとに道を数を増し、ついに別の道を歩むことを知った、中学最後の年。とある日のこと。 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************ You are dear. Only you want it. May the hand which I stretched out to you get anything? 「……あの娘、あなたのいる私立に行くっていいだして。それでね、あの娘はいつもいつも絵を描く仕事につきたいって言ってて。それで、あなたは何か知ってるんじゃないかと思ってねぇ。ごめんなさいね、こんな夜遅くに。今日もあの娘とデートだったんでしょ? なにか言ってなかったかしら?」  そうコールがかかってきたのは、雨音の連鎖のみが部屋を埋め尽くしたときだった。  僕は受験生。中学なので、目指すのは高校だ。  上のほうにいけば将来の視野が広がる――僕には夢がなかった。  だから、ただただ勉強して、真っ暗な将来から目を逸らすしかない。  高校生となった僕が、何とかしてくれることを願って。今の僕は将来の僕を大きくする手助けをするしかなかった。  そのとき、唐突に部屋へ入ってきた母親。  少々幼い容姿に、エプロン姿。視界にいれるのが恥ずかしい。  疑問いっぱいという表情で、電話子機を手渡してきたのだ。  おそるおそる耳を当ててみると、今の会話に至る……ということ。 「三城ですか? 今日もデートしてて、楽しそうだったんですけど……」  僕には、小学校から恋人がいる。  ずっとだ。小学校高学年から、僕が告白した。  もともと両思い。幼馴染なのだから、相手の気持ちがわからない〜などということはあまりない。  それでも、志望校の唐突な変更には、理解できないものがあった。  三城は絵が上手かった。  昔の頃は意識していなかったけど、前に一度みせてもらったものは素晴らしい出来栄えだった。  ……僕という人物画だったけど。 「僕の志望校に変えるなんて、三城も何考えて……」 「みっくん。ほんとにそう思ってるの?」  みっくんというのは僕のあだ名。  ずっと「僕」で突き通しているせいなのか、「くん」で定着している。  本名でも、「さん」をつけられることは少ない。  ……背が低いのも考え物だ。中学最終学年になっても、三城を抜けないなんて。 「三城はしっかりして、何か考えがあって動いてる。親の偏見かもしれないけど、あの娘はちゃんと考えてるわ」 「……そうですね。偏見じゃないと思います」  いつもそうだった。  唐突に買い物に行こうと言い出したときも、僕の衣類が古くなってきたからだったり、安売りがあったからだったりする。  前にそのことをほめると、ほっぺを赤く染めて照れたっけ。 「みっくんにしかわからないこと。私たち親にはわからないこと。きっとあると思う。 だから、一度あの娘に話してみて。私たちじゃ、話せないこともあるだろうから……」  寂しそうな、それでも寂しさを押し隠した声。  ふと走馬灯が駆け巡った。  小さい頃。一度こんな声を聞いたような気がする。  運動会。僕と三城が別々になってしまい、同じ競技をやることになったとき。  隣にいた三城へ話しかけた僕に、三城はこのような声を返してきた。  あのあと、結局僕が一位。三城が二位をとったっけ。  悲しそうに、それでも嬉しさにいっぱいの表情で、俺を称えてくれた。  ――あのとき、ゴールの直前、三城は力を抜いたんだ。  なぜと問われると、わからないと答える。  ただ、と付け加え、言葉を続ける。  もしマンガやアニメの、三流映画の、クサイ台詞で例えるなら…… 「『君が一番で、自分よりも大事』なのか……」 「え? 何か言った?」  そんな声にもこたえることができず、僕は思考をめぐらせる。  今日のこと。買い物に行って、ファミレスにいって、どっちの奢りか揉めて、割り勘になって、多めにだそうとする三城を抑えて僕が全額出して……  ふと弾けた。  なぜ気づかなかったのだろう――雰囲気とのギャップがありすぎたのだ。  帰り道、僕と三城は静まり返った道を、とぼとぼと歩いていた。  手はつないで、無人の寂しさも感じることなく、とても――とても暖かかったのをおぼえている。  はにかんだ三城は、それでも手を離そうとしなかった。  あのときだ。三城が、寂しさを押し殺す声を出したのは。  僕が唐突に進路の話をはじめたから、三城は僕の志望校をしって、三城と僕の志望校は違っていて―― 「……三城は家に」 「いるわよ。部屋に閉じこもってるけど、誰かさんがきたりしたら、顔をだしてくれるでしょうねぇ」  わざとらしい声、とても明るく陽気だった。  僕は思わず笑みを漏らし、それじゃっと前置きしてから通話を切る。  唐突に押し寄せる静寂。何の音も聞こえない。  少しの間子機を見つめ、ゆっくりと机の上へと置いた。  弾かれるように、身支度を済ませ、玄関に走り行く。  母親から声がかけられるが、軽く答えることしかできない。  それほどの衝動に、僕は突き動かされていた。  三城もそうだったのだろうか。だから、三城も自分ですら理解できないことを……  簡単に言えば、寂しさ。  少し前までは暖かかった手が、とても冷たく思える。  それ以上の愛しさ。三城が僕に、僕が三城に、お互いがお互いを求める感情。  ――それ以上考える余裕は無かった。  ふと、ポケットを探る。  そこにあるのはぼろぼろになった布切れ。  辛うじてお守りの形を保っているのだが――とても暖かく感じだ。  それをポケットへ押し込むと、僕は大きく一歩を駆け出す。  そして気づいた。  ――雨は、すでに上がっていた。  I do not understand only you. Though it is the nearest, to know it most. I was able to still understand only you  It does not need the understanding. If you can feel it.