【タイトル】  ショートショートすと〜り〜ず【 跡 】 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【ジャンル】  恋愛 【種別】  短編小説 【本文文字数】  1393文字 【あらすじ】  君は僕の彼女。でも、君は僕のお姉ちゃん。君が微笑んだ時間、僕が微笑み返した時間。奇跡の一瞬に、全てを託して――僕は君が死んだ事実を受け入れよう。君が死んだこの世界はくだらない。それでも、君を思い出せるこの世界で生き続けよう。君に話すことをたくさんつくる。それまで――待っていてくれるかい? 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************  The miracle is irritating 『ここに来ると、昔のことを思い出すよね』  雨降る公園。  雨粒が遊具と摩擦して音の連鎖を鳴らす。  聞こえないはずの声。走馬灯のようにこの景色に当てはめられた――君。  君は微笑んでいた。  僅かに前を向き、俺へと首を回している君の姿。  嬉しそうに輝いていた君の瞳。ほんのりと赤く染まった君の頬――その全てが今 は遠い。  手を伸ばしても届かない距離。それはまるで太陽のようで。 『あの時の君は、もっと明るかったのに……私のせい、かな?』  僕へと沈んだ顔を向ける君。  公園へと背を向け、僕に微笑んでいた。  その微笑は弱く、その瞳は寂しく――僕は、君を抱きしめたかった。 『私は君のお姉ちゃん。でも、君は私にそれ以上の好感を抱いてくれて、私も…… 』  雨音にかき消される。   君の、幻想めいた声も。雨が起こす幻という奇跡。  掠れていく君、僕という生命の炎も今まさに途切れようとしていた。  せっかく会えたのに――僕は無意識に君へと手を伸ばしていた。 『君はまだ、お姉ちゃん子だったかな? ――でも大丈夫』  言わないでほしい。  彼女のことだから、きっと僕にとって輝かしい言葉を紡ぐだろう。  でも、言わないで欲しい。今は、君の傍へ行くことを許して欲しい。 『君は、そんなに弱い子じゃない。なんたって、私の弟なんだから♪ だから、こ れでお別れ』  静かにそう言った彼女は、幸せそうに目を閉じる。  僕の思いはひとつだった。すべてを捨ててでも君の傍に行きたかった。  求めれば求めるほど、近づけば近づくほど――君との光年以上の距離はさらに遠 くなる。 『伝えられてよかった。もう会えないと思っていたのに。ちゃんと最後の言葉、い えた』  満足そうな声。勝手だった。勝手すぎた。  こんな勝手をされたことが何度もあった。彼女との初デート、彼女ははしゃぎす ぎて僕を連れまわし、一人で大盛り上がりしてた。  それでもとても楽しかったけど――今回は、違う。  今回だけは許せない。僕からは何も言っていない。彼女に伝えたいこと、たくさ んある。それ以上に、彼女にもう一度キスをしたい。  ――彼女の傍に、ずっといたい。  すべては砂となって零れ落ちる。どんなに大切だと思っても、零れ落ちていく。  誰も止められない。僕にも、彼女にも。  それを認めない僕は子供で、それを認めた彼女は大人だった。 『ずっといっしょにいられなくてごめんね。だけど――』  僕の歩みが止まった。  とめどなく涙は流れるけど、何も理解できないけど。 『笑ってほしいな。私の大好きな――君だからこそ』  消えた。  零れ落ちる砂はすでに去り。  嘆く僕に、返答はなくて。  彼女の面影を求め、空を掻く五指は何かを求める。  息が詰まった。肌に打ち付けられる雨粒がべったりと僕を濡らす。  妙に熱い体――靄がかかった思考回路はシャットアウトしようとしていた。  去っていく彼女に触れる寸前、手は空を切る。  元々彼女には届かないのだ。  どんなに努力しても、どんなに願っても、死んでしまった彼女はもどらない。  僕は絶望を知って、彼女の呟いた最後の言葉を胸に抱きしめた。 『笑って欲しいな。私の大好きな――君だからこそ』  ――笑うよ。君のために。君の幸せのために。僕は生きて、幸せになる。  The miracle gives a person despair again. But the fact to get a reason to live by a miracle will not change.