ショートショートすと〜り〜ず【  恋  】 水瀬愁 ショートショートすと〜り〜ず【  待  】の逆バージョン ******************************************** 【タイトル】  ショートショートすと〜り〜ず【  恋  】 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【ジャンル】  恋愛 【種別】  短編小説 【本文文字数】  2326文字 【あらすじ】  子供の頃の僕は意地っ張りで、幼馴染の彼女のことが好きなのに素直になれなくて。でも、彼女は僕の恋人になってくれた。何度目かになるデート。待ち合わせしたのに、君は来なくて。降り出した雨の中、公園で待つ僕はブランコに触れて…… 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************  I love only you. I want to love only you. I continue loving it simply because it is you. Because you love me.  雨が降り出した。  傘を持ってこなかったことが悔やまれる。  先ほどまで子供たちがはしゃぎあい、母親たちがおしゃべりをしていた砂場にも、誰もいない。  それでも、僕がここを離れるわけには行かなかった。 「遅いなあいつ……」  せっかく――せっかく、小遣いが入ったのに。  今まであいつの我侭聞いてやれなかったから、努力したのに。  全部使うつもりで――彼女をデートに誘ったのに。  悲しくはならないけど、少しもやもやとする。  そう――きっと、この雨のせいだ。  僕の身体を打っていく無数の雨粒。  近くのブランコからは衝突音が連打に近い速さで聞こえてきて。  なぜかとてもむなしくなり、心細くなり――時間の流れを忘れてしまう。  やっぱり、僕はまだ子供か。  思わず自嘲的な笑いを浮かべてしまう。 「ある日のこと、ここで遊んでいた子供が二人いました」  そのうちの一人は泣き虫な、それでもやんちゃな男の子。  もう一人は、男の子の抑制係ともいえる落ち着いた女の子。  二人は反発しあいながらも、いつもいっしょでした。  女の子がどうだったかはわかりませんが――男の子は、女の子のことが好きだったからです。  そして今日も、男の子は女の子に反発しながらも、女の子の手を握っていたのでした。  男の子はブランコを勧め、女の子を先に座らせました。  ふたつあるブランコ。ひとつは今にも壊れそうで、ざらざらとした感触が少し痛いもの。もうひとつは新品で、つるつるとした心地よいもの。  男の子は壊れそうなブランコの前に立ち、女の子を新品のブランコへと座らせたのでした。  小さな、小さな優しさ。  それに気づいた女の子は、とても暖かい笑みを浮かべました。  好きなのに、大好きなのに、それでも素直になれなくて。  男の子はがむしゃらにブランコを乗り回し始めました。  そのときです。  ブランコの板がメキメキという音をたてて壊れ始め、男の子が勢い良く地面へと振り落とされたのは。  男の子の目には、真っ暗な暗闇しか映らなくなってしまいました。  男の子の身体は動かなくて、男の子の心は動かなくて。  女の子の叫びに言葉を返すことも、女の子の涙を拭うことも――できなくて。  誰かが駆け寄ってくる足音を聞きながら、ゆっくりゆっくりと意識を落としていった男の子。 「結局、ただの捻挫だったんだけどな……」  僕の手はいつの間にかブランコを掴んでいて。  錆びている金属の鎖が、金切り声のような音をたてて軋んだ。  ブランコの上へ、雨粒以外の雨が流れるのを止められなかった。  あの頃の自分は馬鹿で、あの頃の自分は女の子が隣にいてくれることを当たり前だと思っていて。  今の僕は大馬鹿者で、今の自分は現実の痛みを噛み締めていて。  ずっと、なんてことはありえない。知ってるからこそ、むなしい。  彼女には彼女の生きる道があって、そこに僕が居ることも居ないこともあって。  そのむなしさが、強く僕の心を締め付ける。 「ねぇねぇ、何で泣いてるの?」  僕は呆然と音源へと振り返った。  そこには、前にお気に入りだといっていた服を惜しみなく濡らしている――彼女。  呼吸は荒れていて、胸に手を当てて肩を上下させている。  同い年でもこうは大きくない、豊かな胸に目が行きそうにもならなかった。  彼女が僕の視線に気づき、にっこりと微笑んで、僕の中で時間がもどってきた。  迷いなくポケットへ手を入れ、ハンカチを取り出すと、彼女の頬を軽く撫でた。  ハンカチ越しでも、ふくよかでもなく貧相でもない頬の柔らかさが伝わってくる。  彼女が目を丸くした。 「い――いいよ、拭かなくても! それに、どうせ濡れちゃうし……」  それでも、ハンカチがびしょぬれになるまで拭いてやる。  ハンカチをポケットへ押し込むと、自分の着ている上着を彼女へ被せた。 「頭まで被れば濡れないだろ、風邪ひかないようにな」  何かを言いたげな眼差しが俺を突く。  それでも彼女は何も言わず、嬉しそうに笑顔を浮かべた。  その表情が輝かしくて、自然と心が跳ね上がる。 「こんな雨だったら……今日のデートは中止だね」 「………………そうだな」  雨は降り止みそうになかった。  彼女は俺を見上げるようにして、瞳を意地悪に細める。 「今さっき、先輩さんに告白されてたんだよ?」 「へぇ、どんな先輩?」 「友達はかっこいいって言ってる。でも、タイプじゃなかったなぁ」 「どんな子が好みなんだ?」 「………………聞かなくても、わかるよね」 「ああ。ちなみに、俺のタイプもわかってるよな」  彼女を抱き寄せる。  クスクスと笑ってくるのもなぜか癇に障らなくて。  感傷的だからかもしれないけど――彼女がとても愛しく思えてくる。  あることを思いついて、実行に移すことにした。 「あ! 今エッチなことしようとしたでしょ〜?」  ――なんでわかるんだ。  きゃーきゃーとはやし立てる彼女を無理やり黙らせた。  僕もだまることになるんだけど。  彼女の腕が僕に回り、僕の腕が彼女に回る。  暖かかった。蕩けそうなほどに、暖かかった。  僕の身体と彼女の身体が触れ合う箇所がとても甘美で、思わず彼女を抱きしめる力が増す。  彼女はそれに答えるように、強く抱きしめ返してくる。  長い長い時間、僕たちはお互いを黙らせあい、自分に素直になった。  寂しいから、余計に愛しい。  自分は大馬鹿者だから、それだけで十分。  世界は哲学的で、良い影響悪い影響でしか物を考えないけど。  世界は変化して、だからこそ永遠はないのだけれど。  それでも――彼女を愛する自分だけは、変えないでいたいと思った。  We merely merely kiss while intense rain falls.