【タイトル】  ショートショートすと〜り〜ず【  好  】 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【ジャンル】  恋愛 【種別】  短編小説 【本文文字数】  1403文字 【あらすじ】  観覧車回れよ回れ想い出は君には一日我には一生(栗木京子)を元に作成したSS。憧れの『先輩』とデートならぬデートをする『僕』は、心に秘める気持ちを伝えられぬまま最後の遊戯、観覧車に乗って――夏の夜の下で紡ぐ恋愛ストーリー 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************  観覧車回れよ回れ想い出は先輩には一日我には一生 (栗木 京子)  昇っていく。  それに心をときめかせる年ではないけれど、捻くれ者の僕よりずっと純粋な先輩は輝く笑みを浮かべてはしゃいでいる。  先輩の眺める世界は、点々とした人々の行き交う街だったり人工の光が綺麗に瞬いていたりするだろう。  でも、僕の見る世界は薄汚れていて。  僕の心が悪いから、僕の心が汚いから。  だから、先輩が美しい  だから、先輩がわからない。  ――ずっとこのまま、回ってればいいのに。  そうすれば、ずっと先輩を眺めていられるから。  夏も真っ盛り。蒸し暑いけど、今は気にならない。  いや、気になってるか。暑すぎて足元がふわふわしてる気がする。  頭がくらくらして、汗が噴出しそうで。  そう、暑いんだ。  先輩と僕の距離が、原因じゃない。  近づこうとは思ってないし、僕は先輩の特別になりたいだなんて願望もない。  『トモダチ』――当たり障りのない、それでも遠くから眺めるよりかは一歩踏み出した距離で、先輩を見ていたいだけ。  そう、それだけなんだ。  だから、何も言わなくていいじゃないか。  頂上まであと少し。名残惜しい一瞬一瞬をしっかりと胸に刻み、夜の暗闇の中で輝く先輩を覗き見る。  僕は欲張りじゃない。先輩の迷惑になるようなことは、したくない。  それでいいんだ、それが僕だ。だから、何も言わなくていいじゃ―― 「……ねぇ」 「は、はいっ!」  いきなり声をかけられ背筋を伸ばしてしまい、ハッとして後悔する。  そんな僕のしどろもどろを見てクスクスと笑う先輩――僕も思わず笑みを浮かべた。 「今日はありがと。楽しかったよ♪」 「あ、はい……僕も楽しかったです」  本当のことだから、感謝の思いを込めて告げる。  でも、まだ頂上にも達していないというのに――ココで会話を始められると、なぜかわからずともドクンドクンと胸が高鳴る。  そんな僕を見つめる先輩は、ゆっくりとその身を近づけてきた。  あまりに唐突な出来事に、口をポカンと開けて僅かに身を退くことしかできない。 「まったく……先輩は」 「え――ええと、すみません」  拗ねたように口を尖らせた先輩に、反射的に謝罪してしまった。  そんな僕の反応をおもしろそうに笑う先輩。笑われてるのに、嫌な気がしない。 「フフ、やっぱりそーゆーとこが可愛いな。だから……言っちゃうね」  大人っぽい色を帯びた先輩の声。  僕は顔を上げてまっすぐに先輩の顔を見てしまい、予想外の近さに退こうとしてしまう。  だけど、背には壁があって。 「先輩は優しくて、鈍感だから、多分わかってないと思うんだけど。 私って……もう、先輩ナシじゃいられないんだよ?」  熱っぽい瞳から目が離せなくなる。  頭の中も先輩で埋め尽くされて、許容できないほど溢れてて。 「………………大好きだよ」  観覧車で交わしたキスの味はわからない。  僕のことを友達だとしか思ってないだろうと思っていたのに、それは違っていて。  両想いだと気づくと、悩んでいたことがバカらしく思える。  こうして幸せの一時は終わってしまった。  先輩にとっては恋人への通過点だったかもしれないけど。  僕にとっては――忘れられない、瞬間。  どんなに幸せになっても、この幸せを忘れることはない。  どんなに不幸になっても、この幸せを忘れることはない。  先輩と過ごす日々は幸せで、楽しいだろう。  でも、降り積もっていく記憶は儚くも消えていってしまう。  でも、でもね――  僕は忘れないよ。  観覧車での、先輩と交わしたキスだけは――