【タイトル】  CROSS!〜物語は交差する〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【サブタイトル】  CROSS!〜白の季節に物語る想い〜(第100部分) 【ジャンル】  恋愛 【種別】  連載完結済[全127部分] 【本文文字数】  5109文字 【あらすじ】  舞台は現代風の孤島『風宮島』。主人公は季節を巡って愉快なヒロイン達との物語を築いていきます。一番の見所であるヒロインは、可愛さ溢れて10人以上!諸所に導入されているバトルロワイヤルも必見です。ほのぼので、ちょっぴりえっちなひと時を、味わってくださいね♪紡がれる、自分の心――届くことを、伝わることを願って――CROSS紡がれた、自分の心――届いた、伝わった、心――想い人との愛を育む力となることを願って――CROSS 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************  白い息を吐きながら見上げた空。  息ではない白が、はらりはらりと舞い落ちていく。  曖昧で、しかし見惚れてしまうほどに美しい――雪がはらりはらりと舞い落ちていく。  ひとつの粒を追って、足元を見る。小さな、瞬いた後には見失ってしまうほどに儚いそれが、黒いコンクリートの地面に吸い込まれて消えていったのを見て、視線を前へもどした。  静寂に包まれた住宅街は、とても侘しい。  しかし、先ほど通った商店街は俄かに騒がしい様子だった気がする。  商店街で喧騒をつくる人々は、淡い暖かさを胸に秘めているだろう。静けさの横たわる住宅街も、各々(おのおの)の家で笑みを灯しているに違いない。  雪粒が、俺の頬を叩いて消えた。  冷たかった。当たり前すぎて、思ったことがバカらしく感じる。  一年が――過ぎる。  次の年がやってくる。  季節は巡って、あの再会を綴った春へと還る。  ……気が早いか。  もう今年は終わり、と思える時期ではあるけれど、そうやすやすと来年は来てくれそうにない。  悪い意味じゃなく、良い意味で――思わず笑みが漏れてしまうほどの、良い意味。  まあ、結局は。  俺も、御劉や輝弥のことを言えないほどに盲目なんだろうさ。       ○  ○  ○  粉雪混じりの風が、頬を撫でる。  寒い――肩が震えてしまった。  身を縮め、マフラーに唇までを埋めて寒さを凌ぎ――見渡す。  どこまでも青い海。白が降り落ちていく様は、どこか美しい。  空に募るどんよりとした雲と、それとは正反対に透き通った海。その二つが頬を摺り寄せているように見えるのは、僕だけだろうか。 「あ……」  地平線に点が灯る。  胸が張り裂けそうなほどに待ち望んだ相手の、再来を運ぶ船。  トクン、トクン――心臓が鼓動を打つ度、彼方の人が近くなる。  まだかまだかと思う気持ちのままに走り出してしまいそうな足を、必死に押さえ込む。  船は、目の前で止まった。  僕は、じっと押し黙る。  胸の高鳴りを抑えて立ち竦む僕は――見た。  三度のキスを交わした、愛しくてたまらないその女の人を。  堪えきれなくなって、呼ぶ。 「小夜歌さん!」  女の人――小夜歌さんはにっこりとした微笑みを、返してくれた。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇  CROSS!〜白の季節に物語る想い〜 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇  小夜歌さんが超絶な美少女だってことを思い知らされた。  誰もが必ず振り返る――男(おとこ)女(おんな)は関係なく、彼氏持彼女持の人も例外でなく。  そんな小夜歌さんはきょろきょろと落ち着きなく辺りを見回して、フフッと笑った。 「私のよく行ってた店、あんまり変わってない……よかったわ」 「まだ二週間も経ってないですから、ちょっと神経質ですよ」 「そう?」  あっと、息を呑む。  僕へと振り向いた笑顔には、少し寂しさが滲んでいたのだから。 「……そうよねぇ。これからは、もっと時間が開いちゃうっていうのに、この程度で焦ってちゃ駄目よね」  電話で計画し合ったことなのだけど。  二ヶ月に一回が限度らしい。  行事がかち合ったりしたらそれすらも無理で、一年に会えるのは四回くらいだとか。  ……電話とメールは毎日三十通くらい交し合ってるけどね。  それでも、久しぶりに見た小夜歌さんは――眩しかった。  余計な不安が渦巻いてしまうほどに。  僕は小夜歌さんの手に触れた。  冷たかった。でも、暖かく思えた。  とても――愛しかった。 「……僕も、ダメダメです」  本当だった。  本当すぎた。  これだけは、とてもじゃないけど揺るがせられない。  だって、小夜歌さんのことが好きだから。  誰よりも、好きだから。  誰よりも小夜歌さんのことが好きになりたいから。  ちょっとだけ目を丸くした小夜歌さんは、クスリと微笑んで僕の手を握り返してきてくれた。 「じゃあ、これからもラヴラヴね。離れても大丈夫そうで、安心だわ」 「そ、そう来ますか……まあ大丈夫でしょうけど」 「そうよ。愁くん次第なんだから」  僕が不安材料なんスか――やんわりと反論してみる。 「ええと……なぜに僕だけ?」 「私は愁くん以外を愛したりしないわ。愁くんが望むなら、向こうの学校では誰とも喋らない。 愁くんがいてくれれば私は幸せなんだもの。愁くんさえいなくならなければ、後はどうなってもいいわ。 だから、あとは愁くんだけ……」  いきなり身体を寄せた小夜歌さん。  僕が、小夜歌さんのマフラーに頬擦りするようになってしまう。 「どんな手を使ってでも、愁くんを落としてみせるわ」 「ハハ……それは、大丈夫ですよ」  確信があった。小夜歌さんとほとんど同じ理由だけれど。  あのとき、卒パで出会ったあのときから僕は―― 「僕も、小夜歌さんを手放すつもりはありませんから」  ――小夜歌さんナシじゃ生きられないっていう病気に、かかってしまったんだから。  小夜歌さんはいきなり片目を瞑った。  どうしたんだろうと思って、雪が目に当たったのではと思い当たる。  反射的にハンカチを取り出し、小夜歌さんに伸ばしていた。 「ありがと♪」  小夜歌さんは僕のハンカチを持つ手をぎゅうっと両手で包み込む。  ……ええと、その。  これじゃ、ハンカチ渡せないんですけど。  っていうか、目大丈夫なんですか?  いろいろ言いたい。けれど、それら総てを飲み込んで。  僕は、にっこりと微笑み返した。       ○  ○  ○  白が、舞い落ちていく。  季節の巡りの、終末を語る儚き白の精霊たち。  次の季節では、始りを語る淡き桜の精霊たちが、俺たちを祝福で包み込むことだろう。  終わりの季節は、少しだけ嫌いだ。  一人になると物(もの)悲(がな)しくなってきてしまうから。  理由なく、胸の奥のほうがプルプルと寂しさに震え始めて。  目元に何かが滲んできてしまいそうで。  でも、総ては、冬という白の季節が見せる幻――  粉雪の向こうに、くっきりとした人影ができる。  歩みを緩めて、それを見つめる。  ――俺たちの家の前で、美姫が待っていた。  俺を見つけた美姫は、とてとてと歩み寄ってくる。 「おかえりなさい、弟君♪」  なんで外に……呟く前に美姫の手を取った。  俺と同じくらいに冷たい――結構な時間を待っていてくれたのだろう。  『遅いよ』なんて文句も言わず、美姫は俺が帰ってきたことを純粋に喜んで、にっこりと微笑んでいて。  俺は、こう返すしかなかった。 「……ただいま」  嬉しすぎて零れそうになった涙を抑えるので、精一杯だったから。  一年が過ぎる。  今年起こったことのすべてが色褪せの道を歩み始める。  来年からは、今年以上に幸せだから――この気持ち、忘れてしまうのだろう。見過ごしてしまうのだろう。  大切だと思うものが、ずっと傍にいてくれる。傍にいてくれることが当たり前いなって、安心して。  嫌だな――美姫を傷つけるかもしれないってことが、たまらなく。  ずっと、ずっと今のままだったらいいのに。  そうすれば、季節が何度巡っても最高に幸せなままでいられるから。       ○  ○  ○  遠い距離は心も離すのだろうか。  それは、少しだけつらい。  だから、なくならないよう努めよう。  手の中にある暖かさが本物であるうちに。 「ねぇ、愁くん」  小夜歌さんは、僕の腕に強く両腕を絡めながら呟いた。 「私達、ちゃんと恋人に見えてるかな?」 「……どちらかといえば、姉弟(しまい)じゃないかと」  はっきりそう言うと、小夜歌さんはむむぅと頬を膨らませて不満を訴えてくる。  でも……なぁ。 「じゃあ、恋人に見てもらえるよう努力してください!」 「僕ですか!?」  ビシッと人差し指を立てて言い聞かせるような小夜歌さんも、お姉ちゃんぶるのをやめるべきだ。  ……なんてことがいえるはずがない。  だって、さ。  僕は――今の小夜歌さんが、大好きだから。  お姉ちゃんぶる小夜歌さんが嫌いなわけじゃないし、『変えて』なんていえるはずがない。  だって、僕は恋に恋しているわけじゃないし。  ちゃんと小夜歌さんのことが、好きなのだから。  だから、今の小夜歌さんが嫌いなはずがない。  ――こんなこそばゆい本心も、いつかはちゃんと言えるのかな。 「……っと、そろそろだね」  腕時計に目を下ろした小夜歌さんが、言う。  僕は|何がそろそろなのか(・・・・・・・・・)すぐに覚ることができた。  僕は、見上げる。  いつの間にか夜の暗闇に満ちている、星の瞬く大空を。  大切なものを掴み取った一年が、終わる。  この一年は、かけがえのないものだった。  大切な人に、出会えたから。  でも、でも。  これから先は。これからずっとは。  この一年と同じほどに大事な記憶(メモリアル)。  そっと、そっと。  全部を、心のアルバムに刻んでいって。  大切な人に出会えた喜びを、倍にしていきたい。       ○  ○  ○  今の俺は、一人じゃない。  今の俺は、微笑む意味を知っている。  時を歩むということに、こんなにもワクワクを募らせる日が来るなんて――思いもしなかった。  主人公になるつもりは、なかった。  でも、今は――なりたい、かもしれない。  傍にいてくれる愛しい人を、笑顔にさせ続けたいから。 「さぁて、新年の最初を男といっしょに〜ってのも嫌なことこの上ないから、そろそろ行こうか」  雪の降り散る様をしきりに眺めていた俺は、片手をあげて去っていく輝弥に目を移した。  声をかけ立ち止まらせたくなって、でも言いたいことは何も浮かばなくて。  じっと、雪景色の暗闇に消えていく輝弥の背中を見つめる俺は。  突然駆け出した輝弥の、走る先を見て――暖かい安心感を、得た。  これ以上眺めていることはいけない気がして、そっとそちらから視線をはずした。  輝弥の方向に背中を向け、歩みだす。  なぜか、霧消に。  ――真紀恵の顔を拝みたくなった。  携帯の冷たい感触。握り締める。ポケットより引き出した。  同時、鳴り響き始める着信音。  ディスプレイを見て、思わず笑みが漏れそうになった。  いや、きっと漏れてしまっているこどだろう。  ……運命を手中に収めてしまうほどに、俺たちはラブラブなんだな。  素晴らしい。  だから、もっと高めていこう。  俺は通話のボタンを押した。  彼女は待っていることだろう。  俺の迎えを、今か今かと。  だから、王子にならざるを得ない。  姫が待ち望んでいらっしゃるのだから、仕方がない。  いつの間にか、俺は衝動に駆られるようにして走り出していた。  彼女は俺が来たとき、どんな顔をするだろうか。  ただそれだけを、考えて。       ○  ○  ○  シンデレラは、結局は魔法がなくても王子と心を通わせられた。  僕も――結局、どっちがシンデレラなのかはまだわからないのだけれど。  僕も、あの御伽噺のように。  なんて想うのは……本当に、身勝手だ。  だけど。  恋ってものは、そんなもんなんじゃないかな? 「ねぇ……春花」 「なぁに?」  闇黒の空から降り落ちる雪。  それに手を差し伸べた様のまま、春花は僕に振り返った。  言葉を失ってしまいたくなるけど。  だけど――言うって決めたから。  僕は震えそうになる声を無理やりにしっかりとさせて、言った。 「ホワイトクリスマスの、プレゼント。今更だけど、渡していいかな?」 「ん……ほんと、今更だよね」  柔らかい笑み。総てを見透かされてる錯覚を得てしまう。  いや、と自答した。  伝えることから逃げたいから、そう感じてしまったんだ。錯覚を振り払う。甘さに逃げる選択を捨てる。  僕は、肩掛けカバンからゆっくりとそれを取り出そうとし―― 「それじゃ、今更だけど私もプレゼントしちゃおうかな♪」 「え?」  キョトンとしている間に、春花はしてやってしまった。  てへへという微笑みは、頬が触れ合ってしまうほど間近に―― 「暖(あった)かいね、マフラー」  ひとつのマフラーに二人でくるまっているせいで、自然と春花は僕の腕に抱きついていて。  その心地よさに、頑(かたく)なな気持ちが揺らいでしまって。  ――また今度で、いいよね?  二つのリングが入っている箱は、まだ早いのかもしれない。  僕は、箱を持つ手を弱めた。  赤い糸が、僕らを繋ぐ。  赤い糸で編まれたマフラーが、僕らを近づける。  相手の吐息を、鼻先で感じる。  ドキドキが――止まらない。  雪が、冷たい風が、火照った頬を冷やしてくれて良かった。  少しでも長く、この瞬間を楽しむことができるから。       ○  ○  ○  3――  2――  1――  ハッピーニューイヤー♪       ○  ○  ○ 「弟君♪」  クラッカーの撒き散らす紙吹雪の中、微笑んだ美姫は俺に言った。 「今年一年も、よろしくね♪」       ○  ○  ○  交差する――  それぞれの想いを――  それぞれに語る――  誰かが主人公なわけじゃない――  みんなが主人公なのだから――  CROSS――  紡がれる、自分の心――  届くことを、伝わることを願って――  CROSS――  紡がれた、自分の心――  届いた、伝わった、心――  想い人との愛を育む力となることを願って――