CROSS!〜物語は交差する〜 水瀬愁 仮令この命尽きようとも ******************************************** 【タイトル】  CROSS!〜物語は交差する〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【サブタイトル】  ♯04[ミッション、開始](第104部分) 【ジャンル】  恋愛 【種別】  連載完結済[全127部分] 【本文文字数】  4914文字 【あらすじ】  舞台は現代風の孤島『風宮島』。主人公は季節を巡って愉快なヒロイン達との物語を築いていきます。一番の見所であるヒロインは、可愛さ溢れて10人以上!諸所に導入されているバトルロワイヤルも必見です。ほのぼので、ちょっぴりえっちなひと時を、味わってくださいね♪紡がれる、自分の心――届くことを、伝わることを願って――CROSS紡がれた、自分の心――届いた、伝わった、心――想い人との愛を育む力となることを願って――CROSS 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************ 「ねぇ、篠崎くん。今日暇してる?」 「コード先なA・Bでも煮詰まったのか、エリィよ」 「……フラグブロッカーの称号を、あなたに」 「アタタカイメ☆」  ということで、篠崎はショッピングシティに来ていた。  CROSS! 3rd〜輝かんばかりの交錯を〜  第四話:ミッション、開始 「篠崎くんって、今時のファッションとかに興味はないの?」  昇りエスカレーターで、一段上から篠崎を振り返るエリィが、言った。  赤いドクロ入ったシャツに深緑のジャンパーという姿の篠崎は、迷うことなくキッパリ。 「興味ない」  と言い切る。  それにガクンと身を崩し、エリィはあははと苦笑いした。  二人はエスカレーターから降り、ビルとビルとを繋ぐ橋を渡り、エリィの先行でひとつのショップへ入っていく。  そのショップの、女性衣類が連なる方へ、エリィは足早に歩いていった。  篠崎はその後ろを遅れないようにしてついてい 「……ゲーム買うか」  こうなんてことはちょっとも思いはしなかった。  ショップから出ようと踵を返した篠崎の背に、グバッと抱きつくエリィ。 「……あんたさんはデートの雰囲気ってものを分かっておらん」 「……どうしろと?」  ジト目を送って篠崎の腕に絡みついた彼女は、静かに言った。 「『ショッピングの長い彼女に文句を一言も漏らさず穏やかに微笑んで待ってくれる男の子』になってください」 「ムリだ」  エリィを引きずってでも帰ろうとし始める篠崎は、しかしピタッと動きを止める。  そして、はぁっと溜息を吐き、彼はエリィに黒い皮製の財布を手渡した。  キョトンと目を瞬(しばた)かせ、両手で掴むそれを見下ろすエリィ。  彼女に向かって、篠崎は口を開く。 「……気に入った服買って来い。デートの雰囲気を作ってやれないお詫びだ」  小さくなっていく篠崎の背中をぼぉっと見つめながら、エリィはふむと唸った。 「……これはこれで、ね」  その頬は、少しだけ赤く染まっていて。  その瞳は、少しだけ潤んでいたのかも。 1.  世界は朽ち果てていた。  鉛色に整えられた空。そこに、まん丸と塗られた紅蓮の月がある。  その下に広がる台地は、物音ひとつない静寂に朽ちていた。  限られた者しか立ち入れぬ、だからこそ住まおう者などいない。故、この世界は衰退も繁栄も行わず、ただ存在している。  "……いkoうカ"  ただ存在しているだけのこの世界を、一時の宿り木としている物が三十。  それは黒。  ただただ黒い、無機質な物体。  "時を……加速saせヨう"  三十の黒は、総て同時に動き出した。  紅蓮の月へ――まるで、現実ならば遥か彼方にあらんそれを、掴もうとするかのように。  無謀だった。  その行為は、いろんな意味で無謀であった。  "……来ruか"  同時、来る。  三十の内の十四を刈り取った三撃の放ち主、金髪灼眼の少女は、蝶の羽を比喩させる双翼を大きく広げ、残り十六の的(てき)に身を捻る。  "一でmoいい。生キ残るのだ。同胞yo"  その少女へ、死角からの打突を目論む黒がひとつ。  しかし豪速を纏った黒は、瞬時に振り返っていた少女の逆袈裟(ぎゃくけさ)によって粉々に砕かれた。  少女の目は次に移る。  だが、残り十五の黒の全速で生まれた、少女との距離は、少女から見える黒が点になるほどだ。  常人ならば絶対に超越できない――だが。 「……」  一歩でそれを、成し遂げた。  黒の軍勢を飛び越え、紅蓮の月への道を遮る少女は、灼眼をさらに燃え上がらせ。  "一個の戦神たる貴様ni立ち向かエるとは、思っておraぬさ"  駆け抜ける軍勢の十二の死命に断罪を与え、脇を抜けていった三の愚物を逃した。  だが、間違えるな。  ――|少女はまだ全力では(・・・・・・・・・)、|ない(・・)。  最高速へ跳ね上がらんとする黒の二に、振り返ると同時の撃をお見舞いした少女は、残る一へ大跳躍する。  速度で勝る少女が、ただひとつの黒に追いつけぬ道理はない。  "やhaり――こちらから来訪は、果たせぬか"  距離を詰められた黒は、思う。  だが、しかし不敵な口調をもって、黒は宣言した。  "しかし忘reるナ……破壊神の芽ha、すデにあちらhe落ちているコとを"  やはり、月をつかむことは在り得ない。  月はこの空に浮いてはいても、この空に存在してはいないのだから―― 2.  携帯をいじっていた篠崎は、気づいた。 「……数は、三ほど」  それらの位置を察し、瞬時に判断する。 「……此方(こちら)からの対処が、必要だな」  篠崎は携帯|売り場(コーナー)から飛び出し、大通りを疾走して、突き当たりを右に曲がり、トイレの大便用個室へ駆け込んだ。  ひとつ長い息を漏らし、篠崎は壁に手をつく。  そして、静かに目を閉じ。 「……コネクトオン」  |世界を渡った(・・・・・・)。  同様に、それらに気づいたエリィは試着室の中で両手を組んでいた。  膝を床につけ、懺悔のポーズをつくる彼女は、ゆっくりと目を閉じて。  一言、呟き。 「……コンタクト」  |世界に手を伸ばした(・・・・・・・・・)。 3.  三人の男は駆けていた。  血走った目をしきりに左右へ向け、灰色と化した街中を全力疾走する男達には、それぞれひとつの黒が突き従っている。 「『確立――対象因子捕縛活動』」  三人のうちの一人を捉えた、十字より広がる青白い世界。  先を行く二人は、振り返ることなく疾走速度を高めた。 「『確立――対象因子爆砕活動』」  空間に枷をはめられ、両手両足どころか指先すらも動かせない男は、唐突に、集束した閃光によって内から膨れ上がり破裂した。  しかし、粉々となった男の断片は瞬間停止して、巻き戻される。  復元していく男――黒が唸りをあげるように、身をくねらせた。 「『確立――対象因子消失活動』」  その黒へ伸びる、青白い世界を展開させたのと同じ十字。  それは、男から伸びる黒の先端部を宙に貼り付けた。  十字の中心へ流動して行く極光。四方からの圧力に、黒は砂塵となりつつあった。  しかし、己が滅されることに何も感じていないかのように、黒は十字の縛りから逃れるように蠢きはじめる。 「『確立――対象因子討滅活動』」  しかし、十字の中心で色濃くなった波動(ちから)が爆発を起こしたことで、黒は一気に砂塵と化した。  黒は、男が復元させたのと同様に、自己を瞬間再生させることができる。  ……のだが。  黒の断片群は、復元する暇なく"光"に塗り潰され、消却されてしまった。 「あァ――」  気の抜けた声を発しながら崩れ落ちる男。  その姿は|人混みをつくって止ま(・・・・・・・・・・)|る人々(・・・)と同じ灰(セピア)色に褪せた。 「今ので限界きたかも……」  声が響く。音源のないその声は、エリィの声であった。 「十分だ。これ以上の消費を避けるため、即刻コンタクトアウトしろ」 「む、むむぅ……そのぶっきらぼうな言い方、気に入らないなぁ」  その声に応える、灰色と黒だけの世界で|自分の色(・・・・)を保つ篠崎は、クスリと微笑んで言う。 「……元の世界に戻ったら、いっしょに飯でも食おうか」  そして、高層ビルの屋上から飛び降りた。  舞台へ参上するために。  "この世界には、表と裏が存在している"  構えを解いたエリィは、篠崎に伝えられていた言葉を思い出していた。  "表と呼ばれる世界は、人の存在を許し、今は温暖化やら化石燃料枯渇やらの問題に悩まされている方のやつだ"  エリィは、頬を滴り落ちんとする汗を拭い、ゆっくりと立ち上がる。  "そして、裏というのは――表の時間速から切り離された|戦場(・・)だ"  胸元に手を伸ばし、その谷間で滲む汗をしみこませるようにゆっくりと手の甲を抉りこむエリィ。  "裏世界は無数に存在している。表(こちら)が一秒進む度、新たな裏(あちら)が作り出されているといっていい……わかりにくいかね?"  汗がべっとりとついたその手を、エリィは、もう片手で取り出したハンカチに押し付けた。  "某青狸の道具であった『時を止めるやつ』を思い浮かべてくれ……想像できたかな? それじゃあ、それのスイッチを今日押す場合と明日押す場合を仮定してくれたまえ。二つは同じ『通常時間枠から切り離された世界』ではあるが、状況は全然に違うはずだ。裏世界とは、そういうものなのだよ"  ほっと息を吐き出すエリィ。その動悸は、まだ強い鼓動を発している。  "我々は、我々の行く【黒撃退戦線】の裏を『裏世界』と呼び、真に表の対として存在している裏世界のことを『純裏世界』と呼んでいる。さっきの狸話でいったのは我々の『裏世界』であって、本当はもっと複雑……なんだろうね?"  己の右胸に手を当てた彼女は、強く強く目を閉じた。  "本当は何もわかっていないんだ。総て推測。もしかしたら、私の語ったことに本当など含まれていないのかもしれない。確認できているのは、私の行(ゆ)ける裏世界と|もうひとつ(・・・・・)だけだから、こう結論付けているけどね"  そして、ゆっくりと目を開く。  "我々は何も解り得ていない|それ(・・)と、世界の存亡をかけた激戦を行う――いわば正義の味方なのだ"  "……ともに戦おう。|超能力者(スペシャリスト)よ"  エリィは確信を、思い出した。  地に落ち立った篠崎は、じりじりと退かんとする二人の男に目を配った。  そして、ゆっくりと……不敵な笑みを浮かべ、言う。 「君たちには、速やかなる退場を被(こうむ)ってもらう……覚悟はいいかね?」  二人の男の答えは、繰り出される二つの黒の打突が体現していた。 4. 「宣伝なんてしてやらんよ。以上、一服中のCM担当パーソナリティ『諺兎(ことわざウサギ)』でしたんよ」 5.  篠崎は右腕に装着した武具を展開した。  骨折したときの添え木同然な背負い方だったそれは、展開したときに一気に姿を変貌させた。  喩えるならば――それは剣。  チェーンソーのように無数の小刃をいったりきたりする両刃。小刃の動きは時計回りで、その反対回りをしている武具の中心部は扇風機の羽が回っているかのようなものだ。色はオレンジとホワイトで構成されており、灰色の世界で一段際立っている。 「せいっ、と」  軽い掛け声とともに豪速で武具を振り切った篠崎。その風圧を切り裂き、二つの黒は篠崎に辿り着かんとしていた。  しかし、半瞬の差で篠崎は跳躍による回避を成功し、黒は空(から)を振った。  そして、それは篠崎の|狙い通り(・・・・)――  振り切った武具を、重力を生かす形で垂直に振り下ろす篠崎。  その斬撃は黒のひとつを捉え、盛大な摩擦音を金切りあげ始めた。  逃れようとする暇もなく、黒は叩き切られる。  だが、それは黒の先端近くを横に斬っただけでしかないこと。あまりにも無意味のように見え、あまりにも無駄なように見え。  しかし、その実は必殺の一撃であった。  切断面から粒子を吹き散らす黒。それは、訪れる何かから逃れようとするように宙を暴れ、内から一気に光り輝き放散した。 「……一抜けは、黒の物質体AかBか」  フフッと微笑む篠崎は、黒の消失とともに灰色とあせた一人の男ともう一人へ向き直り。  武具の刃を軽く持ち上げ、言った。 「|あの世界(・・・・)だけではないのだ。戦神が降臨している世界は、ね」  一歩の跳躍、身の捻り、刃の振るい。その三動作を瞬速で行った篠崎は、残るひとつの黒を切り捨てた。  呆気ない終わりが…………訪れる。 6. 「ごはん、いっしょに食べてくれるって約束したもんね♪ ね、ね?」 「……わかったから、そう急かすな」  個個に色のある世界の方で、篠崎はエリィに腕を絡まれ走らされていた。  ざわめきのあるこの世界は、少なくともこの街だけは、平和に満ち溢れている。 「ほら、はやくはやく〜」  だから二人も、こちらの世界の住人としての最高の様で、喧騒を歩み行くのだ。       ○  ○  ○ 「予告なんてしてやらんよ。以上、今日の星占いで最下位だったCM担当パーソナリティ『諺兎(ことわざウサギ)』でやんよ」       ○  ○  ○