【タイトル】  CROSS!〜物語は交差する〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【サブタイトル】  ♯01[愛してるぜベイベー(1)](第111部分) 【ジャンル】  恋愛 【種別】  連載完結済[全127部分] 【本文文字数】  4262文字 【あらすじ】  舞台は現代風の孤島『風宮島』。主人公は季節を巡って愉快なヒロイン達との物語を築いていきます。一番の見所であるヒロインは、可愛さ溢れて10人以上!諸所に導入されているバトルロワイヤルも必見です。ほのぼので、ちょっぴりえっちなひと時を、味わってくださいね♪紡がれる、自分の心――届くことを、伝わることを願って――CROSS紡がれた、自分の心――届いた、伝わった、心――想い人との愛を育む力となることを願って――CROSS 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************  青い海原を脇に抱える道を、二人で歩いていたとき。 「あなたといると、なんだか子供みたいにはしゃぎまわりたくなるの」  コンビニ袋いっぱいにアイスを詰めて、二人で歩いていたとき。 「あ、もちろん、悪い意味じゃないですからねー」  少女が、にこにこと幸せげに笑いながらそう言った。  どうしてと聞けば、えー? と嬉しげに声を上げる。 「まあ、理由なんてどーでもいいことじゃありませんかっ」  ふふんと鼻を鳴らしている様子をみると、どうやら追求してほしそうだ。  理由は何か、わかっている。ただ単にじゃれあいたい。同じ気持ちだったから、乗らない手はなかった。 「あ! もー、袋落としちゃいますよー。まったく、|一矢(かずや)さんは食いしん坊な子供ですかぁ?」  叱るように、少女がもうっと不満を訴える。  しかしその表情は、眩いばかりの笑みなのだ。  ――まるで、夏に梅雨があることを知らないかのように。  CROSS! 4th〜繋いだ手と手、小さな小さな恋愛模様〜 「その……えと…………コンビニにさ、お菓子を買いにきた小さな子がいてさ、それでさ、その子がさ、おつりを受け取り忘れちゃってさ、急いで走って追いついたらさ、お菓子を落としてばら撒いちゃったみたいでさ、道の真ん中でその子がしゃがみこんでてさ、駆け寄ろうとしたときにさ、迫ってきてる車が見えてさ、それで、あの」  端的にいおう。  ――事故った。  そういうわけで、俺は大部屋の一角に住まうこととなったのであった。  真っ白が多いこの領域は、娯楽分が乏しすぎて気に入らないものがありけり。  まあ、休むために居るわけなので、眠れる環境がこの世界(びょういん)での最適というやつなのだろうけど。  それでも暇なことは変わらなく、また、俺は、この領域でぐでーんと過ごしていたほうが平和だと今現在痛感しているのである。  というのは。 「……」  超能力に目覚めたら威力がつくであろう凝視、それを向けてくる美弥子さんが原因であることはいわずもながら。  お見舞いに来てくれたのかと言えばそうではないと返され、じゃあナンデスカと尋ねればこうなった。  呆れられているのか、不満を訴えられているのか。反応をどう返せばいいのか全くわからん。 「……」  無言の圧迫感は、俺の受けねばならない責任なのだろう。  美弥子さんを心配させてしまったのだ。俺は、とんでもない罪を犯してしまった。  そっと、美弥子さんに零す。 「心配かけて、ごめん」  美弥子さんは顔を上げなかった。それが答えのような気がした。  俺が身を乗せるこのベッドは窓際に寄せられていて、陽の光が俺に届いてしまう。窓から照りつけるそれはじりじりと俺の頬を焼いてくるので、まるで俺を叱るかのようだった。  数日すれば、俺はすぐに退院することとなった。  コンビニに訪れるため、久しぶりに乗り込んだバス。そこで、久々にその人と出会った。  目を真ん丸くするその人に、俺は近寄る。 「やあ、|菊山綾乃(きくやまあやの)たん。今日も可愛いねハァハァ」 「……フルネームとたん付けと荒い息を止めてくださらないと、隣に座らせてあげませんよ?」  仕方ないので、隣に立つ。  現役中学生の彼女は、学校では優等生のまじめさんらしい(本人談) キリリとしている顔立ちに強めの吊り目だから、たしかに堅そうに見えてしまいそうだが、俺にとっては最高の漫才相手なのだ。  人間、見た目だけが総てじゃない。うん。 「ごめんね。連絡も無しに来れなくなっちゃってさ」 「べつに、私とあなたは腐れ縁なだけでしょう? メアド交換してるわけでもないし」 「あ、そういえば交換してないね。そうかそうか、菊山さんがどうしてもっていうんだから交換するしかないよなぁ」 「誰もそんなこと言ってないです!」 「恥ずかしがらなくていいよ、綾乃」 「ものの数秒で呼び方が変わりすぎです……」 「運命の赤い糸で結ばれた二人にとって、ちょっとした垣根なんてへでもない!」 「他の娘とやっててください……」 「誰か紹介して。ついでに住所も。観察して絞り込むから」 「ストーカーの手助けはしないです!」 「ちっ、バレたか。さすがあやのん、頭がキレますのぉ」 「バレるバレないの問題じゃないようなっ」 「悪いな。事故ったばかりでまだ頭脳がコナン並なんだ」 「それでも在り得ないくらい天才――って、事故にあったんですか?」  思わずサラリと言ってしまったのが運の尽き。先ほどまでのテンポの良さはどこにいったのか、綾乃ちゃんが嘘? と問いかけるように顔を覗き込んでくる。 「ああ、大丈夫大丈夫。気が滅入っちゃうような後遺症もないし、ちょっと馬鹿になっただけだよ」 「……ほんとに、大丈夫なんですね?」  馬鹿に関するツッコミはナシか。  お兄様は大天才ですわよ! とか、元々馬鹿でしょ何言ってんの近寄んないでいっしょくたに洗濯しないで! とか……後者は自虐すぎてちょっと悲しいな。  まあ、ともかく。 「ほんとのほんとに大丈夫だから。もうへっちゃらへっちゃら。今日からバイトに復活するしね」  ふんっと力こぶをを作ってみせる。彼女は眉を顰めるだけで、心配そうな目を止めようとはしなかった。  困った。ええと、どうしよう。  いつもどおりみたく会話したいのだけど、どうやらそれは叶わないらしい。  ああ、そうか――  なら、この状況を思う存分楽しんでしまえばいいんだな。  よし、と俺はニヤリと笑う。 「ああ! 退院したばかりでまだつらいから綾乃ちゃんに寄りかからないと死んでしまう!」  大げさに叫んで、倒れこむようにして綾乃ちゃんの隣席を確保。そのままの勢いで綾乃ちゃんへと両腕を広げ、身を寄せる。  すっぽり、綾乃ちゃんが俺の両腕に包まれた。  小さな身体だなぁと、感じた。  中学生といえばこのくらいなのだろうけど、それでも、驚いてしまった。  こんなに華奢な身体では、あまり荷物を背負えはしまい。 「……学校。がんばれよ、綾乃ちゃん」  呟いたつもりだったけど、どうやら声にはならなかったようだ。  綾乃ちゃんが顔を背けたまま、ずっと恥ずかしがっていたから、きっとそうに違いないだろう。  たしかに、男女の一組が抱き合っていると見られているのだとすると、かぁっと頬が熱くなってしまいそう。  きっと綾乃ちゃんも同じ気持ちだろうと、綾乃ちゃんの微笑ましい一面を垣間見たような気がして、得した気分のまま次のバス亭で降りた。  さあ、みなさんお待ちかねの店長初登場シーンだ。  男前と本人が言うことはある、男前な容姿。何をしていてもある程度様になってしまうが、しかしクールな感じはなく、豪快な性格で近寄りやすいのもこの人の良さだろう。  |村井一矢(むらいかずや)。この人は、そういう名である。 「むむぅ」 「……」 「ほほぅ」 「……」 「ちょ、ちょっとたんま! たんまたんま!」 「賭けにハンデもくそったれもないでしょ、店長」 「たんたんママ!」  誰ッスかそれ。  と言った風に、俺がまさかのツッコミ役を務めなくてはならないのである。  このコンビニの制服たる、エプロンチックなものとジャージ地味たもの。それらは橙色で、気にならない程度にダサい。  来るときも帰るときもずっとそれを着ているこの人の頭は、一度カチ割って調べてみたかったり。 「ってことで、俺の勝ちですし、休んでた分をマイナスするって話は無しになるんですよね」 「ぬ、ぬぬぅ。まあ、お前の勝ちだしな……」  凄く悔しげな顔をする店長を見て、少しばかり気分が良くなる。 「あ、店長とサボってんじゃねーよ! ……って、チェスやってんの? 私も混ぜろよぉん♪」  ……まあ、ものの数秒で気分の座標は真反対に落ちたんだけど。  そうして店番の方に出れば、やっぱり美弥子さんとは離れられないわけで。 「どうせ誰も来ないだしさー、もっとチェスしよぉぜー?」 「やだ。もう負けたくない」 「まったく、カズは子供ねぇ」  あなたに言われたくない。それと、カズて呼ぶなっ。  ほろ苦い敗北の味が、まだ消えないでいる。何か気の紛れるようなことが、起きてはくれないものかね。 「……」  っとそのとき、まさかの静寂タイムが訪れた。  理由なんてないというのに、なぜか空気が堅苦しい。口を閉ざせばならない雰囲気というのが美弥子と二人のときに現れるとは、予想外なことだった。  いや、そうじゃない。俺の感想は、もっと違う。  ――遠慮したり、ためらったり、まるでタイミングを図るかのように意気込んじゃって、まるでらしくない。  そして疑った。美弥子さんらしいってなんだろう、と。  俺は一応美弥子さんを見てはいるけど、それはやっぱり一面にすぎないのだろう。  その一面というのが彼女の真実なのかは、俺なんかに判断できるものではない。  らしい・らしくないって思えるほど、俺は美弥子さんをまだ知れてはいまい。  そう考えて、俺はもっと美弥子さんのことを知りたいと思った。  知れば知るほど、同じ時間を共有している錯覚に近づけるから。  俺が美弥子さんに惹かれ続ける限り、いつかはこの決意をしてしまうことだろう。たとえそれが、彼女を独占したいという勝手で欲望的な考えだったとしても、人の恋とはそういうものであるからこそ。 相手の事が気になって仕方がなくなる。恋とは、そういう病なんじゃないかな。  だから、柄にでもない口走ってしまっても、それは病のせいなのだから仕方ない。  うん、仕方ないんだ。そうなのだから、言え。言ってしまえ、自分。  まるで演劇をする前のように緊張してしまいながら、俺は言った。 「……何か、あった?」  この一言の重みは、きっと想像以上のものだろう。  彼女が扉なら、今の一言は扉の施錠に差し込む鍵。  扉の向こうとは、こちらといっしょかもしれないし全然違うかもしれない、全くわからない未知だからこんなにも緊張するし、不安にもなってしまう。  ああ、不安要素は別にあるか。扉の向こうに行けるか以前に―― 「…………何もねぇよ」  ――こう言われてしまうのに、俺は恐れをなしていたんだろう。  二文字で言い表すなら、玉砕。完膚無きまでの敗北。  俺に踏み込める扉の向こう側なんて、今はまだ一切無いのだ。  それ以降、美弥子さんと会話することは一度も無く、運が悪いことにななみさんも正利も来てはくれなかった。  それだけだとただ気分が落ち込むだけなのだけど、ひとつだけ気がかりなことが残ってしまった。  帰り際、店長が囁いた言葉。 『宿題だな、若僧。』  ドキリとしてしまったけれど、ずっと奥で雑誌を読んでいる店長になら俺の様子を察するくらい簡単なことだ。  とりあえず、明日。今日は疲れたから、明日。  女の子に優しく接する方法でも、店長から聞き出してしまおう。  ――明日はもう、五月だ。