【タイトル】  CROSS!〜物語は交差する〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【サブタイトル】  ♯02[お別れには、言葉とともに花束を(1)](第112部分) 【ジャンル】  恋愛 【種別】  連載完結済[全127部分] 【本文文字数】  2026文字 【あらすじ】  舞台は現代風の孤島『風宮島』。主人公は季節を巡って愉快なヒロイン達との物語を築いていきます。一番の見所であるヒロインは、可愛さ溢れて10人以上!諸所に導入されているバトルロワイヤルも必見です。ほのぼので、ちょっぴりえっちなひと時を、味わってくださいね♪紡がれる、自分の心――届くことを、伝わることを願って――CROSS紡がれた、自分の心――届いた、伝わった、心――想い人との愛を育む力となることを願って――CROSS 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************  頭が朦朧とする中、疑問だけが脳裏に埋め尽くされていた。  頬が痛みの塊となってしまったかのよう。今自分が寝そべっているのが何かさえ、わからない。  薄っすらと細めた目は、映してくれている。声を荒げて何か叫んでいる巨漢と、巨漢の前に仁王立ちしている|心愛(ここあ)。巨漢はこちらへと近づいてこようとし、心愛はそれを必死に止(とど)めている。  遠いことのように感じて、実際に遠のいていっていることに気づいた。  暗くなっていく。そのとき、巨漢の口走ることにひとつだけ怒りが生まれた。なんだよ、彼女って。なんだよ、お前何様だよ。お前彼女の何なんだよ。勝手なこと思い込んでるんじゃねーよ。心愛が傷つくだろうが。訂正しろよ。心愛のために訂正しろよ。お前なんかが心愛の彼氏だなんて冗談でもキツイんだよ――  コンビニエンスストアの看板に纏わり付く蛍光灯が、いちばん最後に暗くなった。  梅雨の時期が、訪れた。  CROSS! 4th〜繋いだ手と手、小さな小さな恋愛模様〜  もしも人生が思い通りになるなら、こんなにも悩んだりはしなかっただろう。  苦労は少ないほうが嬉しい。たしかに、人生には俺の思い通りになってほしいかもしれない。  けれど、だ。楽しむ楽しまないの問題を挿んでしまえば、また別の答えがでてくる。そうだろう?  予想だにしないことをしてくれる彼女に、ときたま、こんな顔もするんだとときめかされてしまう。俺の恋というのは、それが募りに募ってのものなのだろう。傍に置き過ぎて愛着が湧く、というやつだ。物でも、よくあることなのではなかろうか。  つまり、片想いの確率九十九パーセントなのだ。  突拍子も無いことが起きて急に距離が、というわけでもなく、平々凡々に知人してますな距離感。美弥子さんが俺に好意を持ってくれているというのは、絶対的なまでに期待できないだろう。  振り向いてくれるとは言いがたい。やっぱり、グッドなタイミングをもっと待つべきなのではなかろうか。  美弥子さんがばたばた動いているのをレジから窺いつつ、俺はそう思うのであった。まる。  ……さて、そろそろ手伝いにいこうかな。  ジャンケンで勝ったために、俺のサボリは正当化されているのだが、それでも何か手伝わないわけにはいかなかった。  よし、と気合を入れて立ち上がる。  理由は何にしよう。二人でやったほうが楽だから、でいいかな。  ちょっと緊張しながら、俺は美弥子さんに近寄っていった。  帰りのバスでも、ときたまだが会うことがある。  そして、今日は偶然にも同じバスで居合わせた。 「やっほ。綾乃ちゃん」 「あ……今晩は」  うん、お美しい。俺はそう思って、いそいそと綾乃ちゃんの隣席に腰を下ろす。  綾乃ちゃんは通路側に座っているので、俺が座ったのは窓際の方だ。綾乃ちゃんが身を縮めて道を開けてくれたのは同席していいということと受け取り、今日は漫才をナシにしてあげることにした。 「5月に入って、いきなり夏になったけど、体調崩したりしてない?」 「ご心配には及びません。テニスやってますし」  窓の方に頬杖を突きながら尋ねると、予想外な返答がきて目を丸くしてしまう。 「なんだ、綾乃ちゃんって運動部だったのか。てっきり文化部かと思ってた」 「……そんなに、か弱そうでしょうか」  その一件については、徹夜で語り合わねばならないだろう。ともかく、スポーツ一直線な灼熱野郎には見えていないのは確かだとだけ言っておく。 「細いところは細くて、豊かなところは豊かだよな」  舐めるように綾乃ちゃんを見定める。定型的なナイスバディといったところで、制服を押し破らんばかりの胸がけしからん。  けしからん。けしからんぞ、ぐへへ。 「変な目で見ないでください」  怒気を含んだ声が発せられるととともに、人差し指が俺の頬に伸びてくる。俺は窓に顔を押し付けられて、思わずうげっと呻いてしまう。  ――っと、その時。  ぐんぐん変わっていく外の景色とともに、ひとつの横顔が往ってしまった。  あまりに一瞬のことすぎた、けれど、確かにあの横顔は美弥子さんだった。  花束を持っていた、ような気がする。何を意味するかは、全くわからない。  それに――凄く悲しげな表情をしていた。  彼女がこんな表情をするのかと驚かされてしまうほど、愁いを帯びていた。  気になる。彼女に何かあったのだろうか。杞憂に終わるかもしれない心配事だ、しかし心配せずにはいられなかった。  意味も無く、心の奥底がざわめいたのだ。まるで、今の一瞬が何かの伏線であると知らせるかのように。 「……どうかしたんですか?」 「んー」  どもるしかない。言えるようなことではないし、言ってもどうにもならないことでもある。言わないほうが得策だろうと、俺は横に首を振った。  それで納得し、それ以上突っ込んでは来ない綾乃ちゃん。彼女の、霧消に寂しげな表情が、どこかの誰かの今さっき垣間見た表情に似ている気がした。  俺は、きゅうっと胸が締め付けられる思いを抱いた。  ――――くだらない一途の恋が、加速を始めようとしていた。