【タイトル】  CROSS!〜物語は交差する〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【サブタイトル】  ♯03[十代目アイラブユー(1)](第113部分) 【ジャンル】  恋愛 【種別】  連載完結済[全127部分] 【本文文字数】  2801文字 【あらすじ】  舞台は現代風の孤島『風宮島』。主人公は季節を巡って愉快なヒロイン達との物語を築いていきます。一番の見所であるヒロインは、可愛さ溢れて10人以上!諸所に導入されているバトルロワイヤルも必見です。ほのぼので、ちょっぴりえっちなひと時を、味わってくださいね♪紡がれる、自分の心――届くことを、伝わることを願って――CROSS紡がれた、自分の心――届いた、伝わった、心――想い人との愛を育む力となることを願って――CROSS 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************  何でこんなことが、真実なのか。性質(たち)が悪い冗談であってほしい。いや違う。見ていたことの総てが、虚偽だった。それだけなのだ。ただ、嘘が嘘であると、嘘は真実でないと、知りたくなかった。ただそれだけのことにすぎない。 「その彼の言っていたことは、真実よ。私も昔、独自に調べてこの事実を知ったのだけど、そのときは心底驚いたわ。彼女がそんなだなんて、誰も思いはしないはずよ」  その言葉は、俺へのなぐさめのように聴こえた。その程度がオブラートになろうはずがないけれど、少しだけ救われたような気がした。  けど、確かに、現実は目の前に広がっている。  その現実が嘘でないかぎり、心臓(こころ)に抉り込まれる刃は止まることを知らないままであろう。  ドクドクと血が流れる。その血は、もしかしたら涙の代わりなのかもしれない。叫びの代わりなのかもしれない。崩れ落ちる代わりなのかもしれない。  代わりに嘆いてくれるものがあるから、まだ前を見れている。まだ口をぎゅっと結べている。まだ立ち続けている。  恋(はな)は、あまりにも予想外な形でパンっと弾けた。  CROSS! 4th〜繋いだ手と手、小さな小さな恋愛模様。べつに冷めなくていい恋の病〜 『なんでもない』  偶然見かけたのだけど、悲しそうな表情をして一体どうしたのだと聞けば、そう答えが返ってきた。嘘だと、すぐに見抜けた。ぎこちない笑みに優しげな態度、嘘をつくのに慣れていないなと思った。  美弥子さんが何かを背負っている。なのに、強がって平気平気と言ってみせている。強がりと見抜けているのに、彼女の背負っているものが目に見えないものだから、どうすれば手伝うことになるのかわからないでいるのだ、俺は。  俺が肩代わりできるような荷物ではないのかもしれないという、不安がある。それならば俺にはどうこうできはしないし、まず俺が関わろうとすることさえ彼女の邪魔になってしまうだろう。  まあ、悪いけどな、俺はそんな理屈で納得できるほど大人じゃないんだよ。なんたって、高卒なレベルの頭脳だしな。俺は理知的じゃない。どちらかといえば直感で動くタイプだ。だから、踏み込むのに気合が必要なのなら、どこからだって掻き集めちまうんだよ。  やれやれ。今の気持ちを、ちゃんと美弥子さんに伝えられたらいいのにな。もっと紳士的にかっこよくして、というおまけがつくが。どっちにしても、恥ずかしくって言えやしない言えやしない。 「…………はぁ」  隣の存在を意識しつつ、こっそり溜息を吐く。  そんな、頬杖をついて無駄な時間を過ごす俺たちのところへと―― 「あぁ……よく、よく居てくださいましたお二人さん!!」  自動ドアがウィーンと開くとともに、そんな嬉々とした声が飛んできた。  走り込んできたのは、久々に見る正利とお人形のような少女。 ◇  正利は、ちょっとしたアルバイトをしている。  スィンガーソングライターへの習練とは関係無く、ただ技術力が足りていたことと、アルバイト先の雰囲気を気に入ってしまったのが核たる理由だろう。  そして、今日も正利はアルバイトのためにそこへ訪れていた。  そこは、小さな小さな喫茶店だ。木造で、どこか落ち着きの香りがする。窓から陽の光がさんさんと照って、店内は見事なくらいに明るかった。  店には一台のグランドピアノがある。正利はいつもどおり、そこの黒イスへと腰かけているのだった。 「愁さん。今日はどんなものを弾きましょうか?」  練習がてらに何度か弾いた正利が、カウンターの方へと声を飛ばした。 「う〜ん、そうだねぇ……」  考えるような、ちょっとした唸りが正利に返る。唸りの主は、背が低めの童顔な男の子だ。  子、と表現するのは妥当でなく、社会人並の年齢ではある。ただ、容姿は美麗な高校生と言った風で、むさ苦しくも老いた風にも見えはしない。  名を|水瀬愁(みなせしゅう)というその男は、いくつか条件を指定した。正利は顎を撫でて少しばかり思案し、笑顔を浮かべて頷く。  そして、弾き始めた。音色は、始まってすぐの霧散した具合からゆるやかに絡まり合ってひとつの旋律になる。柔らかな雰囲気に見合う、落ち着く伴奏。  それから少しして、一人の客がやってきた。  まるで、正利が引き始める頃合を図ったかのように、丁度よく。  愁が気づいて、軽く会釈する。  入店してきた少女も、軽く会釈を返した。  少女は、鈍く照る金髪を全て下ろし、前髪にちょうちょん結びのような形をした黒リボンをつけている。制服はセーラーのようなもので、フリルが心なしか影を薄くしていた。それほどに少女の容姿が良く、愛くるしい人形がとてとてと歩いているのかと見間違えてしまうほどである。  正利は気づかずに、一生懸命弾き続けている。少女はそんな正利を見据えながら、カウンター前の席へと腰を下ろした。  曲が終盤に移る。それから少しして、ゆっくりとフィーネし、正利は己の膝の上に両手を下ろした。  愁が拍手する。正利は顔を上げて、そして少女に気づいて、微笑んだ。 「今日は」 「今日は。また弾いていらっしゃるのね」  正利と少女は、いつもこの会話をする。そして正利は、いつもどおり微笑を返すだけだった。  少女はむっつりとした無表情で、愁の方へと向く。ちょうど、愁がオレンジジュースを差し出した。 「はい、いつものね」 「ありがと」  一言零し、少女はストローに口をつけて黙々と飲み始める。正利は鍵盤に片手を添えて、少女の様子を横目に見ている。  おもむろに、少女がストローから離して、正利へと呟いた。 「ノクターン」 「ん、了解」  正利はそれを受けて、また両手を鍵盤の上で踊らせ始めた。  二人は、いつもこんな日常を過ごしている。とくに親しいというわけでもない。  あまり人の来ない時間帯を見計らって少女がやって来て、その少女のリクエストに正利が答えるというだけである。  しかし、正利の中ではなんとなく手放せない習慣となっていた。そろそろくるかという時間になっても少女が来なければ、愁と顔を見合わせて不安がってしまう。それでも、少女は一日も欠かさず、週に一回のペースで訪れ続けている。  少女が愁の店に来るのは、決まって水曜日である。  少女が訪れるその時間は、ほんとうにがらりとしていて、まるで少女が図ったかのようなのだ。  少しおかしな、少女と正利の些細な習慣。  確かに、正利の日常へと少女が居座り始めていた。  そんなある日のことだ、店へ訪れようとする正利の前で少女が何者かに|拉致(らち)されんとしていたのは。  咄嗟に少女を助け出した正利は、少なからず信用を置いている彼の元へと一目散に逃げることとして――  今に至る、わけである。 ◇ 「あぁ……よく、よく居てくださいましたお二人さん!!」  自動ドアがウィーンと開くとともに、そんな嬉々とした声が飛んできた。  走り込んできたのは、久々に見る正利とお人形のような少女。  俺と美弥子さんは、この場ですべき反応の模範解答を求めて互いの顔を見合った。