【タイトル】  CROSS!〜物語は交差する〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【サブタイトル】  ♯05[十代目アイラブユー(3)](第115部分) 【ジャンル】  恋愛 【種別】  連載完結済[全127部分] 【本文文字数】  3052文字 【あらすじ】  舞台は現代風の孤島『風宮島』。主人公は季節を巡って愉快なヒロイン達との物語を築いていきます。一番の見所であるヒロインは、可愛さ溢れて10人以上!諸所に導入されているバトルロワイヤルも必見です。ほのぼので、ちょっぴりえっちなひと時を、味わってくださいね♪紡がれる、自分の心――届くことを、伝わることを願って――CROSS紡がれた、自分の心――届いた、伝わった、心――想い人との愛を育む力となることを願って――CROSS 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************ 「ちょっと。ななみんにななみん以外の名前があるなんて聞いてないわよ!」 「そりゃそうです、口から出まかせですから」  っていうか、普通はひとつしか名前持てないよな。それなのに、あの人たちって納得して帰ってくれたような……生きてる世界に違いがあるようだな、これは。雰囲気からわかるように、あの人たちとは世界ひとつ分くらい住居の距離が離れてそうだ。 「でも、あのボディガードさん達には一度お会いしたことがあるの。顔をおぼえられてたら、ちょっとヤバかったかもぉ」  ななみさんもどうやら異世界人のクチらしい。あまりの驚愕に苦笑いすら引き攣っちゃいます。 「ともかく、店が荒らされずに済んだっつうことで、なんとか事無き終えたわけだなっ」  店長、発音が若干違うために存在しない単語となってます。今すぐ修正をっ。  CROSS! 4th〜繋いだ手と手、小さな小さな恋愛模様〜  俺が店の入口まで行き、カウンターの方に戻ってくる間に、そんなツッコミ所満載な会話がされる。なぜ入口まで行ったのか、あの巨漢達が去ったかを確かめるためなのは言わずもながらだろう。  美弥子さん、ななみさん、店長の三人のいる方へと戻った俺は、疑問に思っていたことをついに口に出す。 「それにしても、ななみさんと店長は奥のどこにいたんです?」 「あー。それは至極簡単、奥の窓を跨いで進入したってだけ。べつに、外出してくるって嘘吐いてロッカーの中に隠れたわけじゃないぞ。そんなめんどいことはしない」  そりゃそうだ。 「まあ、グッドタイミングで帰ってきてくれたものよ。すかぁっとしたな!」  美弥子さんがそう言って、空想のバットの握り締めてフルスイングのモーションをとる。満面の笑みから察するに、相当ご機嫌なようだ。  とまあ、一段落なわけなんだけど、それでもまだ気になることが残ってしまっている。  第一に、こんなめんどくさいことが起こってしまった根本的な理由さんだ。 「正利たちは、まだ奥ですか?」 「んー」 「私達が言うより、見たほうが早いんじゃないかな?」  店長とななみさんの言葉に、俺は嫌な予感がした。  店長とななみさんを両脇に、きっちりと閉められた奥に続く扉を見据える。  コツ、コツ、コツ……  数歩前へと歩き、ドアノブへと手を伸ばした。  指先がノブに触れる。さらに伸ばして、握りこむ。回す。キィィという摩擦音が立ち消えるよりもはやくドアを引き、その先の光景を逸早く目に入れる。  そして俺は、見た。  風でゆらりと舞うカーテンと、虚ろに下界を照らす照明と。美弥子さんや店長の私物が散らかる、大きめのテーブルと。呆然とその無人の"奥"を、俺は見つめた。 「……誰も、いない」  正利の姿が脳裏に浮かんで、すぐに霞んでいった。  ここには、誰もいない。もう嵐は去ったのだ。  理解して、今彼らはどうしているのだろうと心配げに思った。  がらじゃない。そうフッと笑おうとしたけれど、表情は堅く強張ったまま動かない。  嵐が去ることをついさっき願ったというのに、今は何と嵐に置いてきぼりにされて悲しんでしまっている。俺は片手で目を覆い、天井へと顔を上げた。  ――帰ってきたら、ボッコボコにして全部吐かせる。  堅く誓い、やっと口元に笑みが浮かんでくれた。  ごめんと言うべきことがふたつある。  ひとつめは、匿ってくれたというのに、香月さんたちに一言も残さず出て行ってしまったこと。  ふたつめは、いつも来るたびに見かけていた放置自転車を勝手に拝借したこと。 「これ、乗り心地悪い……お尻、痛い」 「そればっかりは、我慢してもらうしかないなぁ」  がむしゃらに漕ぎながら、背中の方を振り返ってそう笑う。  ぎゅうっと両腕を回してきている少女、メアルちゃん。彼女を振り返り、吐息を感じられそうな距離であることを再認識してしまい、少し居心地が悪くなった。  ……フラグたってルートに叩き込まれたわけッスよね!?  こんな展開で、そうじゃなかったとしたら、泣く。泣いたら、美弥子さんや香月さんによしよしとなぐさめてもらおう。  一際強く自転車のペダルを漕いで、前を向いた。  ここまで辺境的な場所に来れば、大丈夫だろうか。  左右に森の生い茂る、街のはずれからも外れてしまったであろう道。ゆるやかなカーブがくねり、若干の上り坂で、強く漕ぎ続けるのは苦しい。体力配分を考えつつ漕いでいくこととし、ペースを変える。  まるでジャングルを進んでいるかのようだが、あのコンビニ自体も今いる場所と五十歩百歩で、そう心揺さぶられることはない。 「……なんで、私に構うの?」  尋ねられた。落ち着いた口調で、あまりにも小さかったので、尋ねられたとは気づかずに流してしまいそうになった。  漕ぐのと並行して考え、考えると同時に口を動かす。 「友達だからかな。危ないめに遇おうとしているのを、見過ごせなかったんだ。あっ、友達ってのは勝手に思い込んでるだけだから、その、嫌だったなら、ご、ごめん」  ……いや、もしかしたらちゃんと考えれていないかもしれない。しどろもどろになって、考えもナシに無茶苦茶言ってしまったのがその証拠。 「嫌なんかじゃない。勝手に決め付けないで」  キツク言われてしまい、しゅんと項垂れて黙るしかなかった。  ああ、不快な思いをさせてしまったな、と思う。溜息を吐く代わりに、自転車の進むスピードが極端に落ちた。  その矢先、腰に回る腕がより一層抱きしめてくる。  ぎゅうっと、強く。とても温かく。 「私を友達って言ってくれたのは、マサトが初めて」  ――怯えた風に、少し震えて。  彼女には、何かが欠けているのではないかと思った。  喩えるなら、それは砂粒。膨大な数となれば、その粒子は砂漠をも創り上げてしまう。  些細だけど、しかしとても大切な、彼女にはそんな積み上げるべき砂粒が欠けてしまっているのではなかろうか。  彼女の影に渦巻く、思いがけないほど暗い漆黒。彼女の、驚くほど冷たく凍てついてしまった心。  彼女に絡みつく痛み(いばら)を垣間見た気がして、堪え切れなくて顔をしかめた。  彼女にとって、友達という初めて募ってくれた砂粒はとても眩いのだろう。  一寸も抜かりなく閉ざされた闇の中では、淡い光すらも希望(みちしるべ)になってしまう。それと同じ、錯覚なのだ。  彼女は錯覚している。彼女に必要なのは、もっと強く、もっと暖かで――  そのとき、森を追い抜いた。  パッと、世界が披けた。  目を覆いたくなるほどに強い日光。それでも、魂を抜かれてしまったかのようにぽかんとクチを開けて、その絶景に目を奪われるしかなかった。  海。人はそれを、そう名づけた。  一文字で収めるには惜しい、広大な青の野原。それは小説で表現されるようにきらきらと輝いていて、まるで大きな宝石のよう。  これが宝石だったとしたら、きっとどんなものよりも清らかで、どんなものよりも美しくて、どんなものよりも安らかな名を持つことだろう。  これに見合う言葉なんて、世界にはひとつも存在しないのかもしれない。だから過去の偉人は、これに海と名づけることに妥協してしまったのだろうか。  きっと、そうだ。音と光景と香りによる祝福。見た者は、妖精に出会った想いできっと呆然と我を忘れてしまう。世界とはこんなだったのだと、気づかされてしまう。  夏の音色を、夏の陽射しを、夏の微笑みを、  迷って、悩んで、そうして苦しんだ先で、見つけた。  いつの間にか道も、つらい上り坂が終わってらくちんな下り坂になっていた。  ――全身で受けても尚余るほどの多大な光。  ひりひりするほど熱く照っていて、それを海が綺麗に跳ね返していた。