【タイトル】  CROSS!〜物語は交差する〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【サブタイトル】  ♯06[十代目アイラブユー(4)](第116部分) 【ジャンル】  恋愛 【種別】  連載完結済[全127部分] 【本文文字数】  1974文字 【あらすじ】  舞台は現代風の孤島『風宮島』。主人公は季節を巡って愉快なヒロイン達との物語を築いていきます。一番の見所であるヒロインは、可愛さ溢れて10人以上!諸所に導入されているバトルロワイヤルも必見です。ほのぼので、ちょっぴりえっちなひと時を、味わってくださいね♪紡がれる、自分の心――届くことを、伝わることを願って――CROSS紡がれた、自分の心――届いた、伝わった、心――想い人との愛を育む力となることを願って――CROSS 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************ 「すごい――――綺麗」  感嘆の声を漏らしてしまうのも無理はない。それほど美しい水の平原が、広がっていたのだから。  ボロ自転車は、海道のフェンスの方に寄りかからせるようにして置いてきている。今居るこの浜辺は、ビーチバレーで遊べたりできるほど幅広くないが、彼女にはそんなこと気にもとまらないらしい。うずうずと高まる興奮とともに、寄せては引く波の方へ彼女が一目散に駆けて行く。  ギラギラと強い陽の光は、真上にあるけれど、見つめるにはあまりにも眩すぎる。海に照、跳ね返ってくる光くらいが見るにはちょうどいい。それを余程美しいと感じたのだろうか、|蒼原(うみ)と同じようにキラキラ輝く瞳をする彼女が、見る見るうちに表情を緩ませていっていた。  鈍く照る少女の金髪を、横目に覗く。前髪につくちょうちょん結びのような形をした黒リボンが蒼原からやってくる微風にゆらゆら揺られてゆるやかに踊っていた。目を下にやれば、制服のスカートが揺らめいているであろうから、ある意味美しすぎる場景を垣間見れるはずだ。だが今は、グッと堪えておくことにする。  こんなに綺麗な海を前にして、ただ突っ立ってるのは勿体無いだろう?  ――っと、そんなことは彼女もとっくに気づいているみたいだ。 「ふふ、冷たい♪」  スカートを持ち上げて、浜辺へと寄ってくる波に素足をつける彼女。  どうやら出る幕は無さそうだ、と思って一声だけかけておく。 「はしゃぎすぎて、服を濡らさないよーに」 「うん」  無邪気にはしゃいで、無邪気に表情をころころと変えて、無邪気に素直になって。何の苦しみも、何の息苦しさも、何のつらさも感じることなく、今彼女は笑ってくれている。今までの彼女が、ずっと肩を強張らせていたのではないかといまさらになって気づいた。  この時間が、彼女の骨休めの時間になってくれていると嬉しい。  押し寄せる波に、数歩前の足跡がさぁっとかき消されること。  波に向かって歩くと、冷たかったり気持ちよかったり動きにくかったり楽しかったりすること。  清水に濡れる貝殻は陽に翳すときらきらと綺麗なこと。  どうでもいいようなそんなことを滅一杯感じることで、砂粒が彼女に積もっていってくれると嬉しい。  ああ、あともうひとつ。  ――ずっと笑っていてくれると、嬉しい。  彼女の笑顔は、思いの他輝かしかったのだ。  そう、まるでこの海やこの青空やこの陽や、この夏の日のように。  CROSS! 4th〜繋いだ手と手、小さな小さな恋愛模様〜 「ねぇ、マサト」 「ん、何?」 「なんで、海はとっても青いの?」  足首までを波打ち際に晒す彼女の横へ、どっしりと腰を下ろしながら言う。 「海は、空を愛しているんだよ」 「……愛?」  ――海は、綺麗に澄み渡る広大な蒼穹(そら)に恋焦がれて、それと同じ色になりたいと願って、それと同じ存在になることに憧れて、自身を青く染め上げて、自身を綺麗に澄み渡らせて、強く強く相手のことを想って、だから|蒼原(うみ)は綺麗に澄み渡る広大な青となって、"天"と対になる"地"に根付いた。  真正面から、遠い彼方に位置する愛して止まない存在を見つめるために。 「……白白しい。それに、キザね」 「ご尤もで」  苦笑いを浮かべるしかない。 「でも、良いと思う」  肩に彼女の頬が押し当たるのを、感じた。  柔らかいこそばゆさと、ほのかに甘い芳香がくすぐったい。 「美しいから、良いんじゃないかな」  そうなのかもしれない。彼女に言われると、ほんとうに良いんじゃないかって気がしてくる。 「不安だったんだ。自分の言葉は誤解で、実は真を紡げていないのではないかって」  美しい美しいと歌っても、誰にも賛同してもらえない。そんな不協和音を想うと、怖くてたまらない。 「みんな、そんなもの。人って、不安を感じずにはいられない生き物でしょ」 「ん……」  押し切って、引き始める波。その水面を見下ろすと、歪んだ自分の姿が見えた。 「…………ありがとう」  良いと言ってくれて、美しいと言ってもらえて、心の底からそう言葉が溢れる。  と、次の瞬間、水面に映る顔が二つになった。  微笑む彼女が、頬がくっつきそうな距離でいっしょに覗き込んでくれている。彼女が見ているのは水面の方なのに、なにやら彼女にじっと見つめられているような気がして、顔をさらに俯かせてしまった。  でも、彼女から目を逸らしたわけじゃない。まだ、彼女を見ている。  そのとき、波がさあっと引いて、今度こそ彼女が視界から消えてしまった。  覚悟するために与えられた時間(ひととき)にしては、十分すぎる猶予であった。そう思い、彼女へと顔を上げる。 「俺も、君を支えてみせるから」  え――――と呟いたのであろう。しかしそんな彼女の声は、この甘ったるい幸せの時間は、惜しくももうかき消されてしまった。  寄せては返す小波と、近寄ってくる多数の者達によって。