【タイトル】  CROSS!〜物語は交差する〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【サブタイトル】  ♯09[季節はずれのロマンティック(2)](第119部分) 【ジャンル】  恋愛 【種別】  連載完結済[全127部分] 【本文文字数】  4588文字 【あらすじ】  舞台は現代風の孤島『風宮島』。主人公は季節を巡って愉快なヒロイン達との物語を築いていきます。一番の見所であるヒロインは、可愛さ溢れて10人以上!諸所に導入されているバトルロワイヤルも必見です。ほのぼので、ちょっぴりえっちなひと時を、味わってくださいね♪紡がれる、自分の心――届くことを、伝わることを願って――CROSS紡がれた、自分の心――届いた、伝わった、心――想い人との愛を育む力となることを願って――CROSS 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************  コツッ、コツッ……  ジッポライターを机にあてる。親指と中指で挟み込んだ長方形のライターの角が、机と擦れる音をたてた。  ――どこにも無い愛を求めて、走っていた。  大切なライターだった。そう、形の無い思い出とおなじくらい大切だった。  ――がむしゃらに駆けて、ここに辿り着いてしまったのかもしれない。  でも、ほんとはどうかわからない。思い出からすると、一番手放してしまいたいものでもある。ほんとは大切ではないかもしれない。どうなのだろう。俺にはわからない。 「どうだと思う……」  カチャッと音がたつ。そして、焦げる音を携えて真っ赤な炎が燃え上がった。  ライターに灯った光。それは、何物をも照らすことができて、何物をも焼き尽くしてしまうことができる。俺が喩えるならば、痛み。彼女はこれを、灯(ともしび)と断言した。  今でも思い返せる。目蓋を閉じれば、全てを余す事無く。  これは、それすらも消却し切ってくれるのだろうか。 「どうだと思う……」  少女は答えようとしない。  答えることができないわけではない。願えば叶う。そう、俺が答えて欲しいと願えば、少女は答えてくれる。  だが、願えはしない。少女に黒い牙を向けたくは無かった。  だけれど、願わないと選択することもまたできなかった。少女に見ていて欲しかった。  どちらがほんとうの気持ちなのだろう。何を迷って、歪んでしまったのだろう。 「どうだと思う……」  ――いちどきりの、でかいでかい恋花を咲かせた。  でもその花は、すぐに花びらを散らせてしまって、咲いたことを誰にも解ってもらうことはなかった。故に"咲かなかった"と同意。  咲かなかった花に、俺はどうしようもなく走りたくなって、今も俺は走り続けているにちがいない。 「……心愛(ここあ)」  心が愛で出来ててね、だから心愛なの。飲み物のやつみたいにね、あまぁいあまぁいのよ。わたしね、まわりにいるひとくらいはみんな笑顔にしてあげたいの。何度か聞かされたことがある。  あの時は空が澄んで見えていた。あの時から少しして、空なんて見なくなった。今は、見ようにも見ることができない。  心愛。今、目の前にその人はいる。虚ろな瞳。無の表情。自分の名の由来をふんわりと微笑んで語ってくれた彼女、ではない。 「心愛」  願った嘘(ゆめ)だった。捨てられない嘘だった。好きだといえば好きよと返してくれる、そんなまやかしの彼女だった。  前ではない方向にある、虚像。甘(あま)く、旨(うま)く、決して嫌なわけではなかった。  だが、いつも胸は苦しかった。吐き気がして、息ができなくて、目が霞んで。つらいわけはなかった。いつだって苛まれていた。それにすらも目を反らすことができるのが嘘の世界であり、俺の自由にできる目蓋の裏の"望んだ世界"だった。  彼女とであったこのコンビニが舞台なのも、何かの因果かな。天井に吊り下がる照明の濁った光を見上げて、目を細める。  無隅の夢の最中、もう役者は誰一人だって居ないし幕を閉じるにも良い頃合だ。どうせ消え失せてしまうならば、いっそ自分の手で下ろしたいものである。 「さよなら――」  遺物が消え去るわけはない。だけど、少しの時間を置いたのだから、抱えても生きていける。 「――本心から愛した人よ」  ライターの持つ手を伸ばす。それの赤は嘘の心愛に伝染して、手元よりも大きく大きく燃え上がり始めた。  これからもっと膨れ上がる。期待と喜び。感慨、せめてこの炎の間だけは燃え上がってくれてもいいかもしれない。  そう、この炎が全てを包み込んで、視界が白く染め上げられる間くらいは、泣いていても誰にもわかりはしない。  CROSS! 4th〜繋いだ手と手、小さな小さな恋愛模様〜  さあさあ、四件目じゃー。 「主な用途は?」 「玉を床にシュッシュッ! そしてバッコーンとどっかーん!」  つまり、ボーリングなわけである。  ガムテで作られた特大ボールと、ペットボトルを林立させた三角形。なんだか可笑しくて、それなのに気分は良い具合に高揚していた。 「五本倒したらオレンジジュース。それ以上だったらお手製のスライムで、それ以下だったら輪ゴムてっぽう……少数派のほうが絶対良いよ!」  残念、その理論は間違っている。なぜなら、ガーターはポケットティッシュだから。  しかし、ななみさんはヒートし切っている。水を差すのもわるいだろうとおもって、ストライクをとった俺(トップバッター)は黙りこくることにする。景品のスライムを練りつつ。 「いっくよぉ――」  ななみさんが構えたっ。スカートが小さく揺れる。  そして次の瞬間、ななみさんが腕を背後へと振って助速を図った後に特大ガムテボールが放たれた。  チェック柄のスカートが揺れるぅぅぅぅぅうううううう!! 「イェイ♪」 「ああ、うん……」  基本、むっつりスケベな俺である。眩いばかりの笑みを浮かべるななみさん(ピースを突き出してきている)に、少しだけ申し訳なく思った。  よぉし、五件目ー。  よくよく考えれば、いっぱい動き回りまくってるんだなと痛感。脚が棒になる思いもひどく痛感である。まるで持久走中かのような身体の発熱具合だったりもする。ずばり、非常につらい。  だが、めそめそはしないのだ。十分に、壮絶に、何かが凄んでくれちゃうほどに、ヤケなのである。無論、胸を張れるくらいに、だ。  そして辿り着いたのは、俺のテンションと反比例する場所であった。 「……お化け屋敷か」  まあ、定番っちゃあ定番なんだけれど。今の雰囲気的には、もっとこう―― 「文句言ってる間に入っちゃえばいいの。行こう♪」 「ちょ、まっ、引っ張るな!」  俺の片腕がななみの両腕に絡め取られてしまい、強制連行的に、暗黒の立ち込めるその室内へと足を踏み入れさせられる。  ――入った途端、パァッと一歩前の世界が消えてしまった気がした。  そのまま奥へ奥へと引っ張られたので確かめられはしなかったけど……どうせ気のせいだろ。たぶん、扉が閉められたのだ。  やはり学生が作ったものだというか。 「ほら、ドクロですよ。かわいいですね、ふふ♪」 「……」  きっと女子が作ったのだろう。暗がりの天井から紐を伸ばして降りてきたピンク色のドクロは、その存在意義を全うできないどころか、もてはやされてしまっている始末である。哀れ。せめて、ななみさんに可愛がられて成仏しちゃうがいい。 「ななみさんって、怖いものは苦手じゃないんだね」 「あ、そっちのほうが好み?」  なぜそういう問題になる?  会話は気力超消耗に繋がると判断し、溜息ひとつ漏らして口を閉ざす。  無言で、すたすたと歩き始めた。 「ちょ、ちょっと待ってよぉ」  歩くのはやいよーという声を耳にする。さらに数歩だけ早足になって、速度を緩めた。歩みは止めずに、振り返る。 「第一、こういうのは恋人同士とかが来るもんだろ。ななみさんと俺のペアには似合わない」 「んー……嫌だった?」  べつに、ななみさんと来たくなかったわけでは無いけれど。  俺の脇を通り過ぎていくななみさんを、目で追って前に向き直る。途端、何かとてつもない違和感を抱いた。  相手方の雰囲気の一変だろうか。そんなものを察知できる勘が俺にあったとは、とうてい思えないが。  少し思案して、ハッと思い至る。視覚が、ヒントをくれたのだ。  ――――ななみさんが、ワンピースを着ている。  白一色に桜の花びらみたいなものが添えられた、簡易なもの。露出はあまりないが、清楚を思わせる。  薄く微笑むななみさんに、俺はゾクリと恐怖した。 「でも、入ってもらわないと困るの。この小部屋なら、外界情報をほとんど除外できているから、プロット通りのことを遂行できるだろうし」 「何を……言ってるんだ?」  口からは、そんな呻きが漏れた。心が凍て付く。先ほどまでの気持ちはどこへやら、ななみさんを親しい人とは見れなくなっている自分がいた。  ――どうやって服が変わった。  下に着ていたわけではないようだ。周囲が暗闇だから断定はできないけれど。  当然、恐怖してしまっている理由はそんな程度の要素があるからだけではない。もっと、本能的な警笛である。  強張る俺に、ななみさんはゆるりと片手を差し出した。 「行こう」  どこへ、とも言ってもらえない。未知への何かの感情が、身を震わせる。  迷った。戸惑った。そんな俺を静かに待っているななみさんを見据えて、よけい戸惑いと迷いが募っていった。  と、そのとき。不自然なものを見つける。焦点を合わせて、ぎょっとした。  亀裂である。ななみさんの背後で、大きく斜めに刻まれる亀裂。暗闇よりも暗い、光など存在しない狭間。  亀裂が広がる。予想外にも、拓けた世界は白かった。ななみさんの足元がその白になって、俺とは反対の方向――亀裂の方向へと、ななみさんが倒れ行こうとする。  二度目の警笛。今度は、迷いも戸惑いもしない。俺はがむしゃらに駆け出して、手を伸ばした。  そして、まだ静かに手を差し伸べているななみさんを抱え込んで、落下の方を見る。  どこまでも白かった。まるで白紙のように、どこまでもどこまでも。  故、想像もつかない着地の衝撃に怯えて、目を瞑る。 「今日はありがとう。ほんと、楽しかった」  夕暮れの光によって、橙色に染まる教室。彼女の希望で訪れたこの場所は、彼女に砂のごとく積もっていく何の特徴のない思い出を語ってくれる。  彼女はここで、たくさんの些細な物事に喜怒哀楽を示し、いろんな笑顔を浮かべるのだろう。  皮肉なものだ、彼女の選ぶのがまさかこんな場所とは。 「……あなたは」  ほんとうは弱いんじゃないのかい。尋ねるまでもない。それに、決して尋ねてはいけないことだ。慌てて口を閉ざす。ななみさんが、ん? と首を傾げて覗き込んで来ていた。 「なんでもない」 「えーっ。嘘、ぜったい嘘」  見透かされる。しかし、突き通す。プイと視線を逸らした。 「……ねぇ、ちゃんとこっち見ててよ」  冷たいような、穏やかなような、そんな"お願い"の声がした。  さっきまでの会話が嘘のように消えてなくなって、俺は彼女に向き直る。 「もう、大丈夫?」  訊かれて、気づいた。  落ち込んでいた自分。彼女とこの祭りに訪れて、いつの間にか高らかと笑えている。そう気づくと、彼女の表情が子供を想う親のように見えた。  頷く。彼女がふわりと笑う。 「良かった。なら、私もありがとう。今度、また会いましょう」  ――弱ければ、前が向けない。  ――弱いから、前から顔を背けてしまう。  ――誰もが強いわけじゃない。人には、怖いと思って足が竦んでしまう者だっている。 「ちゃんと見てね。弱いけど、ちゃんと立ち向かうことにしたから」  地震のように、揺れだした。  立っているのがやっとな俺に対し、彼女は動じる様子なく微笑んだままだ。美しい夕焼けに、黒絵の具ががむしゃらに落とされていく。俺は彼女を抱き寄せようとした。 「大丈夫、大丈夫よ。杞憂だわ。心配しないで」  神秘的な瞳。すべて飲まれてしまいそうになる。  だってこれは……と、彼女の口唇から吐息が漏れる。揺れに伴う騒音で、聴こえないかもしれなかった。それすらも杞憂で、彼女の言葉は、深い深いところまで俺に木霊してくる。  全て解き、全てを繋ぎ、全てを創り、全てを壊してしまう、あの言葉が―― 「だってこれは――夢なんですもの」  聞き逃すまいという姿勢だったからか、よく響いてきすぎて俺は――意識を飛ばした。  遠くへ、遠くへ。