【タイトル】  CROSS!〜物語は交差する〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【サブタイトル】  ♯13[愛してるぜベイベー(4)](第123部分) 【ジャンル】  恋愛 【種別】  連載完結済[全127部分] 【本文文字数】  2076文字 【あらすじ】  舞台は現代風の孤島『風宮島』。主人公は季節を巡って愉快なヒロイン達との物語を築いていきます。一番の見所であるヒロインは、可愛さ溢れて10人以上!諸所に導入されているバトルロワイヤルも必見です。ほのぼので、ちょっぴりえっちなひと時を、味わってくださいね♪紡がれる、自分の心――届くことを、伝わることを願って――CROSS紡がれた、自分の心――届いた、伝わった、心――想い人との愛を育む力となることを願って――CROSS 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************  クリアピンクの浮遊粒子状円形組織。雲のように微風に流されるそれに触れようとして、あっと一瞬戸惑った。  触れないほうがいいのかもしれない。警告のようだった躊躇を良い様に受け取って、俺は手を伸ばさないこととする。  俺は、この摩訶不思議な世界を見上げた。  満開の桜の木が八方に林立していて、無数の桃色の花びらに空が閉ざされている。そう見えても、次の瞬間には、ちゃんと青い空が広がっていて、桜の木の枝は空を閉ざすほど伸びていないと気づく。  だけどそれも錯覚で、目を凝らせばやはり空は閉ざされていた。不思議なものだ。見ていると、何がなんだかわからなくなってきそう。  次、また視界が一風変わる。咲き誇る春が過ぎて朽ち枯れる秋が訪れたかのように、  群が一になり、拡散が集束につどって、  いつの間にか俺の前には、枯れ果てた一個の大木が根を張っていた。  CROSS! 4th〜繋いだ手と手、小さな小さな恋愛模様〜  凄(すげ)ぇ。  そう感嘆してしまうほど、美しく、悲しく、絶景だった。  空気すらも嘆いている気がする。風が、いや、動くもののすべてが、死に絶えてしまっているように錯覚できる。あのクリアピンクも、無数の桜の花びらとともに何処かに消えてしまっていた。  この木は、この死の世界を体現しているのではないか。そう思いながら、おそるおそる、誘われるように歩み寄る。  近づいて、気づいた。木以外の存在に。  ただ埋もれているわけではない。枝のように、その少女は木の幹(みき)から生えていた。  白に近い銀髪が花のように広がっている。両腕を広げ、まるで来る者を拒まぬという風なその姿勢は、まるで女神だ。  木の女神。いや、あえてボケるとすれば―― 「木の美姫(みき)。幹だけに」 「……ん」  言葉を零した拍子か、女神が小さく呻きを漏らした。ゆるりと、瞳が開く。  どこまでも蒼い海が、俺を見つめてクスリと笑った。 「親父なギャグだな。それでは、蟲すら笑わせられないぞ」  いきなり毒舌だった。俺はがっくしとコケそうになりつつ、失笑気味に言い返す。 「あのなぁ……そこはな、お世辞でも爆笑するのが先輩後輩の関係だぞ」 「別に、お前と私は先輩後輩の関係でもないだろう」  うぐぅ。 「それでも、だ。相手の敬いの心は基本中の基本だ。理解しろ、おぼえろ、英単語みたく暗記しろ。わかるか?」 「解らないな。でも、まぁ、おぼえておいてやろう」  会話が一段落着く。そして、一番の疑問がやっとこみ上げてきた。舌で転がしてから、相手の様子を窺いつつ尋ねる。 「……知りたい夢が、あるんだ。場所を教えてはもらえないだろうか」 「私がどう見えるかについては、疑問に思わないんだな」  別に思わないわけで無いけれど。俺は女神の横まで歩んで、その身体が続いている大木にもたれかかった。もしかしたらくっついた瞬間に女神のようになってしまうのではないかと、不安が滲む。 「まぁ、いいさ」 「イエスかノウかしか聞きたくないんだ。時間も、無いかもしれない。 知っているか。ほんとうは知らないのか。早く答えてくれないか」 「答えはしてやれないが、知りたいことを知るための術は教えてあげられる」  ハッと女神を振り返った。やんわりと、しかし強い力を宿して、その微笑は形作られる。まさに、ドラマの一カットに相応しい美貌だった。 「訊いてくれないか」  女神が言う。俺はその唇の動きを見逃さないようにしてから、かじかむ舌で言葉を返す。 「……何を?」 「私には、伝えたい名がある。その名は何かと、私に訊いてほしい」 「それを訊いて、何か変わるのか?」 「訊けば、辿り着きたい場所にひとっ飛びさ」 「随分と、凄い裏技(なまえ)なんだなそれは」 「凄いのは、その名を持った者だよ」  女神が目を細める。 「ほんとうに、凄かった。あの者は、私を変えて、周りに居る人は全員変えた。誰一人、笑えないようなつらさは抱えていなくなった。 強くて――私よりもずっと脆い、強い者だった」  矛盾。しかし、なんとなくわかる気がした。兎に角、彼女の瞳の邪魔はできなかった。  懐かしむような、思い返して悲しむような、俯き加減の弱々しげな光。でも、何処か、心配にはなれなかった。  落ち込みなどという、そういう類の光ではない。つまりは一時の感傷なのだと、確信できていたのだ。  だから口は挿まず、ひとしきり浸らせて、待つ。ある程度してから、彼女は我を取り戻して俺に促した。 「訊いてくれないか」  何を、という問いはすでに尽きた。突き動かされるようにして、俺は口を開く。 「――」  この場に相応しい訊き方だったような気がしたが、既に心はそこから離れていっていた。全霊はすでに、彼女の次の一言に傾けられている。どうにもしようがない集中は、俺の本心に違いない。絶対に聞き逃したくは無かった。もしそうなったら、一生分後悔してしまいそうだった。  彼女が唇を震わす。彼女の舌に、言葉が絡まれた。もう少し。あと少し。彼女の口から、言葉が零れるまでほんの少し。  そして、足りない瞬(すこし)が降り積もって、 「三井祐夜」  ああ、と思って、俺は唐突にクリアピンクに包まれた。  別れの言葉を言う暇は、なかった。