【タイトル】  CROSS!〜物語は交差する〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【サブタイトル】  ♯15[お別れには、言葉とともに花束を(2)](第125部分) 【ジャンル】  恋愛 【種別】  連載完結済[全127部分] 【本文文字数】  2623文字 【あらすじ】  舞台は現代風の孤島『風宮島』。主人公は季節を巡って愉快なヒロイン達との物語を築いていきます。一番の見所であるヒロインは、可愛さ溢れて10人以上!諸所に導入されているバトルロワイヤルも必見です。ほのぼので、ちょっぴりえっちなひと時を、味わってくださいね♪紡がれる、自分の心――届くことを、伝わることを願って――CROSS紡がれた、自分の心――届いた、伝わった、心――想い人との愛を育む力となることを願って――CROSS 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************ 。私は、親に嫌われているかもしれない。  出来の悪い子。友達が先生にいつも褒められていて、自然とそう気づくことができた。私は常に、誰よりも劣っていたということもある。  決定的だったのは、小母様が母様と、二人で話しているのを盗み聞きしたとき、私がこう称されていたのを知ったとき。  "とんだ災難"  私は、自分が忌み嫌われていることを、無視できはしなかった。  努力したのは、言うまでもない。  優等生な誰かが一時間勉強するなら、私は2時間勉強する。そういった、単純明確な努力に全身全霊を傾けた。  でも、それが叶わなかったことは多い。私は、母様の娘としてやらねばならない習い事をいくつも受けさせられていた。そのどれもを乗り越えたから、母様は清楚美人なのだ。そう教えられたから、断るわけにはいかないのである。  頑張った。そう、頑張ったのだ。でも、報われることはなくて、見つめてくる目はどんどん険しくなるばかり。苦しみが増えて、胸が締め付けられて、嫌な気分になる。友達が親しく話しかけてくれるのに、不快に思って否定して、いつの間にか私はどんな場所でも孤独になった。つらくてたまらない。だからこそ、今の道の先に、こんな苦しみの無い日常があるって信じて、さらに頑張ったのだ。  進級して、また聞くことになった"とんだ災難" 感情が、止まらなかった。  でも、感情はどこにも出ようとしなくて、  押し殺そうとしていないのに押し殺されて、  余計苦しくなるのに、絶対に吐き出されなくて、  なんでこんな目にって、弱気になって泣いたことをおぼえてる。  そんなときが過ぎて――母様は倒れてしまわれた。  今日は、そんな母様のための日。病院に向かって私は、花束を両腕に抱えながら、歩いていく。  一人だけれど、今は覚悟があるからか、苦しくなかった。  もやもやが何一つない。ずっとこんな風だったら良いのに。そう考えながら私は、歩いていった。  病室に入るための白いドアを開けて、中から飛び出してきた看護士さんに何事かと思って、  前に、向き直って、 「お……母さ……ん…………?」  無機質な、一本線の音以外が解らなくなって、 「や……イ……いやぁ――――」  何かが脆く崩れ去る音とともに、溢れ出して止まらない涙の感触を、感じた。  CROSS! 4th〜繋いだ手と手、小さな小さな恋愛模様〜 「いヤぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――」  いけない。  世界が歪んで、喧騒が早戻しされていくのを目にして、涙をぽろぽろ流す美弥子さんに駆け出す。  美弥子さんの手から滑り落ちる花束を見た。その途端に理解する。すべてが一本に繋がる。  バスで過ぎ去るときに、俺は花束を持つ美弥子さんを見つけた。そのときの美弥子さんはきっと、ここに訪れる最中だったのだ。  今の美弥子さんの様子から推測するに、この繰り返される"一日"の要因は、現在(いま)。致命的瞬間を迎えて、また世界は戻ろうとしているのだ。  初めではない、決められた位置まで。  とめねばならない。使命感に駆られる。救ってあげたい。それ以上に、ある衝動が俺を突き動かしていた。  床という構成が解かれつつある。しかし躊躇わずに踏み込んで、呼びかけた。 「美弥子さん!!」  世界が無くなっていく。  だがこの最中(さなか)は、都合良くもある。世界の思惑からほんのすこしずつ解き放たれていっているから、理解する間もないが、だんだんと戻ってきていることがわかる。  夢でなく、現の方の――本来の自分。  できる。力が湧いてきていた。  できるなんて当たり前だ。俺はやるべきことを知り得ている。寸分も、迷いはしない。 「美弥子さん――」  伝えるのだ。  想いを。  走る阻害はあったけれど、それらを間一髪で避けていって。俺は、美弥子さんを抱きしめられる距離で見据える。  走行の勢いが殺しきれないが、構ってはいられない。即席に編み出したモーションで、片手を思い描くとおりの軌跡に無理やり辿らせる。  次の瞬間、パァンと、気持ちいいくらいに音が響いてくれた。  あ……と、片頬を手で押さえた美弥子さんが真ん丸い瞳を向けてくる。思わず両手を合わせて謝りたくなるが、それは後回しだ。強く言っておかなければならないのだから、どちらにしても鬼と見えてしまうのだろうし。 「伝えて欲しいって、言われたんです」  振り切った片手と、振らなかった片手で、美弥子さんの肩を掴む。強く強く。顔をじっと覗き込んで、言い聞かせる。  絶対に顔を逸らさせない。ちゃんと前を向かせるのだ。 「がんばれ、と。それだけが心残りだから、言い残させてくれと。弱虫だけど、そんなところを隠すようないじっぱりな性質で、頑張り屋さんだけど、少し肩に力を入れすぎていて、笑顔が一番可愛いのに、むっつりと顔を強張らせてしまうような困ったコのあなたなら――」  息が足りなくなった。一拍あけて、旋律に間に合うよう慌てて紡ぎ足す。 「――がんばれの一言で、私が死んでも立ち直れるわよねと。とても、信頼した風に言い残されました」  言い切って、肺の悲鳴に答えてやる。ぜぇぜぇという自分の声。それにまぎれて、小さな声も。  自分の視線の向きに美弥子さんがいなくて、一瞬驚いた。聴こえる自分以外の声をたどって目線を下げて、余計ぎょっとした。 「……うぇ……ひっ……く…………」  小学生といったところ。7,8歳と思われる背丈の少女が、わんわん泣いているではないか。  白いワンピ姿から、幼さのある清純さが滲み出ている。いや、もう、すでにオーラといったくらいだ。滲み出ているというより、駄々漏れといったふうが妥当そうだ。  ちょっとした混乱。目を手で覆って、上を向く。  とりあえず、思考のフォーマット。  すーはー、すーはー。  よし。  今一度見据える。やはりうっとくるものがあったが、なんとか飲み下せた。代わりに込み上げさせたものを、舌に絡めて、口から吐き出す。 「行こう」  そして、片手を差し出す。だが、思うことがあって、俺はどっこいしょと屈んだ。少女の目線まで低くなって、あどけない瞳をしっかりと見返す。  軽く涙を拭ってあげて、手をできるかぎり優しく握った。 「行こう」 「……うん」  ぎこちなく微笑む少女。その笑顔が目に残って、  世界に極光は差した。  思いがけず、後ろを振り向くと、  光の中を、花束がどこまでもどこまでも落ちていっていた。  そしてそれは、ふわっと舞い上がるとともに解けて、俺と少女とを謳うように踊る。  がんばれ――  まるで、そう言うかのように。