【タイトル】  CROSS!〜物語は交差する〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【サブタイトル】  ♯16[愛してるぜベイベー(6)](第126部分) 【ジャンル】  恋愛 【種別】  連載完結済[全127部分] 【本文文字数】  2404文字 【あらすじ】  舞台は現代風の孤島『風宮島』。主人公は季節を巡って愉快なヒロイン達との物語を築いていきます。一番の見所であるヒロインは、可愛さ溢れて10人以上!諸所に導入されているバトルロワイヤルも必見です。ほのぼので、ちょっぴりえっちなひと時を、味わってくださいね♪紡がれる、自分の心――届くことを、伝わることを願って――CROSS紡がれた、自分の心――届いた、伝わった、心――想い人との愛を育む力となることを願って――CROSS 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************  気づけば、夜道を歩いていた。  俺達は青白い光に照られている。真ん丸いお月様が、澄んだ空にぽっかり開いた穴のように、周りの星々(あかり)を吸い取っていた。  不思議だ。そして、もしかしたらここは夢かもしれないと思う。そう思うと、ここは夢だと、本能から確信が発せられた。  ここは夢か。でもなんで、またこんなところへ。疑問は尽きない。 「……?」 「ううん、なんでもないよ。少しあるこうか」  握られている手に力が籠められて、俺は慌てて笑顔を取り繕った。  いけない、いけない。深刻な顔をしては、してほしくないものまで伝染してしまう。不安に揺れる上目遣いに向き合って、優しく手を握り返す。  とりあえず、行こう。  この夜道の先には、きっと何かがあるはずだから。  CROSS! 4th〜繋いだ手と手、小さな小さな恋愛模様〜  一本道は終わらない。両脇を遮るのは一軒家の林立なのだが、寝静まっているのか居ないのか、人気が失せ切っていた。  どちらにしても、勝手に踏み込んで生存者を確認するのは常識的にイタダケないだろう。美弥子さ――美弥子ちゃんの、これからをつくる道徳のことを考えると。  当の本人は、この道の薄暗さが怖いのか、俺の腕に抱きつかん勢いで、きょろきょろしながら後をついてきている。  確かに、こんな場所を歩き続けるのは堪えそうだ。彼女はまだ幼児だし、体力も俺ほどには無い。  休む回数には気を遣うべきだろう。そう銘じたとき、灯りにぽっと照らされた。  その表現には語弊があるが、どう説明すればいいのか俺にはわからない。灯りの元は、ひとつのコンビニ。移動するようなものではないし、いきなり現れたというのはまずないはずだが。もし前からあったのなら、付近に来るよりはやく気づけてもいいはずだ。  夢物語は、ここを次の場面にするつもりなのだろうか。  道化にはどうせ、何もわからない。都合も良いことだし、大人しく踊ってやることにする。 「美弥子ちゃん。ジュースかなにか、飲むかい?」 「ん」  嬉しそうに頬を緩める美弥子ちゃんを見て、悪い選択ではなかったなと心底思う。 「美弥子。これ好き」  寒天こんにゃくジュースとは、幼児のくせしてなかなか非王道的だ。かんにゃくースマスターの称号を授与してやることにしよう。  俺は、王道的なオレンジジュースの缶を開ける。  そして、一口啜った……うん、良い味だ。  彼女の方を窺う。かんにゃくースマスターの食料は缶タイプではなかったようで、難はなかったようだ。突き刺したストローからちゅうちゅうとおいしそうに飲んでいる。  和やかじゃのぉ。ひとしきり、そう老けてみる。 「ばあさんやばあさんや。飯はまだかのぉ」 「じいさんや、じいさんや。あなたに食べさせる飯なんてありませんよー」  ひでぇ扱い。そんな老後は嫌だ。 「お年寄りには優しくしなさい」 「冗談だもん」  俺が美弥子ちゃんの頭をコツンとしようとしたとき、読まれていたのか、ササッと身を逃がした彼女がべーと舌を出した。  ……むむぅ。お仕置きが必要のようだ。  ひとつ、良い話をしてやることにする。 「――しってるか。美弥子ちゃん。コンビニにはな、ある都市伝説があるんだ」 「へ?」  すっとんきょんな声をあげる彼女に、聞かせる。 「トイレって、あるだろ。あそこでな、寒天こんにゃくジュース好きな人が、飲みながら便をしていたんだが……不幸なことに、何かの拍子にジュースを落としてしまってな。 便器に吐き出されてしまったご馳走に、悲鳴をあげるその人がな……くそぅ……」 「……」 「仕方なくもう一個購入したらしい」 「いっけんらくちゃくだね」  しまった。  ぺらぺらガセを言い募ってションベンを漏らすほど怖がらせるつもりが、最後の最後で思いつかなくて咄嗟に常識的なことを述べてしまった。  純心な疑問をぶつけてくれる美弥子ちゃんから目を離し、豪快にジュースを飲みきった。 「ほら、外にあるゴミ箱に捨てに行くぞ」 「ねぇ、どこがどう都市伝説――」  全身全霊で無視。マサトならば、もっと上手い話を口ずさめたのだろうか。  入口から少し歩いて、屋根の無いガレージまで行く。  コンビニの壁の方に寄り添うようにして、ゴミ箱は設置されていた。中身を飲みきった缶をそこに投げ込む。  カランだとかガコンだとか音が響いた。ナイスシュート。自画自賛して、美弥子ちゃんに振り向く。 「……何してんの?」 「んー」  ガレージの真っ黒なコンクリ地面に、大の字で寝転がっている美弥子ちゃん。いっそ話しかけずに見過ごそうかとも思ったが、考え直しておそるおそる言葉をかけた。 「お星さま、きれい」  彼女が指差す先を見上げる。ああ、と納得した。  子供だな……やはり。少しだけ、彼女をちゃんと見れた気がした。  美弥子ちゃんに、美弥子さんを意識してしまっていたのは、まぎれもない事実。こんなことがあれば、現に戻るまでにきっと美弥子ちゃんの方を見れるようになっていることだろう。 「じゃあ、俺も眺めようかな」  美弥子ちゃんの横に腰を下ろす。両手を後ろについて、脚を放り出すと、美弥子ちゃんが膝の上に絡んできた。  てへへというはにかみ。夜の薄暗さの中で、上にある星空のようにほんのりと輝いていて、俺も思わず笑みをかえす。  そして、二人して、気が済むまで星空を見上げ続けた。  靄のかかる頭を振って、我を取り戻す。  ……ええと、さっきまで何してたんだっけ。  少しだけ混乱する。だが、今居る場所が"入口世界"だと気づいて、幾分か鎮まりをみた。  夜道と、静まり返った街と、濁った光を充満させるコンビニ。  あの場所は終わった、ということか。  いや、物語が終わったのだと思っておこう。これ以上続くと考えると、気が滅入ってしまいそうだから。 「さて、どうするかな」  とりあえず、探す。すぐに見つけれて、声をかけた。 「美弥子ちゃん」  二段下。かけた言葉に、にっこりと微笑み返す彼女。  まるで、見送りきただけというかのように、彼女はじっと立ち尽くしていた。