【タイトル】  CROSS!〜物語は交差する〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【サブタイトル】  ♯18[〔開催! 清輝の爆烈アルティメットバトル☆血みどろの体育祭☆〕3](第30部分) 【ジャンル】  恋愛 【種別】  連載完結済[全127部分] 【本文文字数】  5546文字 【あらすじ】  舞台は現代風の孤島『風宮島』。主人公は季節を巡って愉快なヒロイン達との物語を築いていきます。一番の見所であるヒロインは、可愛さ溢れて10人以上!諸所に導入されているバトルロワイヤルも必見です。ほのぼので、ちょっぴりえっちなひと時を、味わってくださいね♪紡がれる、自分の心――届くことを、伝わることを願って――CROSS紡がれた、自分の心――届いた、伝わった、心――想い人との愛を育む力となることを願って――CROSS 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************  王女は求められる。  幾重もの想いに美化され、崇められた王女は――ただひとりの王子のものとされる。  その口付けは、契り。  強きものが正義であり、強きものが王子であると定義されるが故に。  困惑の覇者はひとつの想いを従え。  正しき意義を持つ覇王は友との対立を望まず。  黒となった覇者は、幕下しの任を携えてほくそ笑む――  CROSS!〜物語は交差する〜♯18[〔開催! 清輝の爆烈アルティメットバトル☆血みどろの体育祭☆〕3] 『さあさあ始まりました。風見学園中学高校混同体育祭後半! 1時間30分という時間をかけて行われる総力戦(コンバット)――『水遊び』!! 王女とされる『三人』に愛の口付けならぬ抱擁をもらうことで、勝利退場となります。 敗北退場の条件は、特殊ペイントされた『水遊び参加者札』が水によって変色子t場合となります。 一箇所であっても濡れていればアウトです。 それは右腕、二の腕に巻いていただきます。 次に使用武器ですが、学校側からの配給は『水鉄砲』ですが、持参OKとなっています。 各々(おのおの)、満足いく武器を持ってきたことでしょう。 選手は総勢10016人! 範囲は風見学園内すべてとなっています。王女の配置はランダムですが、三人いっしょでの行動をルールとしています。 それでは――殺しあブッ! も、もう私は脱落なんですか!?』  実況、ご愁傷様。  一撃の波はさらなる波を起こし、総力戦(コンバット)『水遊び』は始まった。  俺は物陰に身を潜めた。  足音と掛け声のBGMが鳴り響くのを息を潜めて耐え切り、表へ出る。  過半数以上が移動しきり、すでに生命尽きた戦士が幾人も嘆きの声を上げていた。  運動場から散った。進行方向としては観客のいない一方。  道なみにいったところでいうと――風見学園中学校か。  風見学園高等部、またの名を風見学園高校はあまり人がいかないだろう。  すぐ見つかるのなら、1時間半も取るはずがない。  なら体育館は却下、各々の部屋にいる可能性もあるが、それ以上に――『王女の三人』が問題か。  美姫、真紀恵、優衣。  なんでこんなことになったのかはわからないが、三人から助けてという目をされたのなら仕方ない、抱擁をさせたくもない。  つまり三人にも拒否権があるということか――なにか、ある。  とりあえず王女の場所を探し出し、場所を移し、来る戦士どもを全員返り討ちにする――これでいくしかない。  一時間半を過ぎれば強制終了のはずだ。  今日は――午後から雨だから。  だから一時間半と、微妙なのかもしれない。 「さぁて、行くか」  美姫の好奇心通りにいくとすれば、みんなを見下ろせるところ。  それでいて、優衣の満足するようなすぐに逃げられるところ。  中学校と高校を繋ぐ、屋上とは別の屋上。  俺は駆け出した。 『鷺澤様の抱擁を守護せよぉぉぉぉおおお』 『鷺澤様バンザァァァァァアアアアイ!!』  猛攻。  巨大マシンガン水鉄砲を用(もち)いた鷺澤防衛隊、もといファンクラブらしきモノの会員。 「ク……ちょっとくらい――」 『成敗ぃぃぃぃぃいいいいい!!』 「グハッ!?」  問答無用だった。  札は濡れてるのに、さらに水を顔面へと叩きこんでいた。  すごい信教だなオイ―― 「おう、祐夜とかいうやつだな?」  俺へと向く。  豪快な足取り、その声は修学旅行で聞いた気がする。 「俺はな、てめぇを気に入ってるんだ。鷺澤防衛隊総隊長の俺は、鷺澤様を笑顔にするてめぇを認める。 だから――行け。ここは俺様たちに任せろ、グッハッハッハ!!」 「お前……いいやつだな」  名前知らないけど。  風宮学園高校三年だろうか、その巨体は蒸し暑い。  性格も蒸し暑いが――嫌いじゃねぇな。 「ここは任せた」 「おうよ――守護精神の凄さ、思い知らしとくぜ。ハッハッハ!!」  そいつと腕をぶつかりあわせ、脇を抜ける。  守護精神の結果か、走ってる間に戦士と遭遇することはなかった。  くだらない。  くだらないことこの上ないと言うのに、それでもお前は走るのか。  利用されていると言うのに。  お前ならそれを知っても走ることを止めはしないか。 『鷺澤様ぁぁぁぁああああああ必勝ぉぉぉぉぉぉおおおおお』  突然の咆哮。  反射的に動いた身体が、咆哮の音源を捻り潰した。  そいつの手に持っていたマシンガンが暴発して大き目の水溜りを作る。  そこに浸るのは、そいつの札。  気にも止まらない。すぐに目を離す。  くだらない。  だが、それでも、お前が走ると言うのなら。  ――俺がお前を走る理由を、正義にしてやろうか。  お前を無駄に走らせたくはない。  無駄に走らせはしない――祐夜。  数秒後。  覇者の通った跡に、生命ある戦士はいなかった。  祐夜と笑いあった、巨体の戦士すらも、地に倒れていたのだった。  右三人。  左二人。  正面四人。  背後――なし。  数歩全力疾走で下がり、振り返る。  一箇所へと集まった九人に巨体男からもらった連射式水鉄砲を向け、撃つ。  水だから反動も少ない。だというのに、大量で勢いのある水が九人を水浸しにした。  札が濡れた者は攻撃を行ってはならない。  だというのに、一人の男子生徒が俺へと腕を振り上げ、駆けてきた。 「てめぇみてぇな、てめぇみてぇな――馬鹿に、俺が負けるはずがねぇんだよぉ!!」  俺は軽く脚で処理する。 「悪いな」  転ばせるだけでなく、鼻の真横に強く振り下ろした。  盛大な音が響き渡る。 「俺は覇王だ――てめぇみていなやつの戯言でも、本気出すぜ? 気をつけな」  覇者ではない。  もっと強く、圧倒的な存在でなくては――存在意義は、ただの想いのまま終わる。  さあ、行こうか。  自分を試すいいチャンスだ。  俺が守れないのなら終わりだろう。  俺が守れたなら終わらない。  想いと力を連ねて、足場として、意義を前進させよ。 「こんなところで終わりはしねぇさ」  もっと進む。  もっと高みへ、もっと頂点へ。  力を欲するのは想いあるが故に。  想い貫くがために、力を欲する。  なら――走ろうか。  俺は、駆け出した。 『さあさあ、すでに半数が散ったようです! その大半はファンクラブ所属者による大量殺害でしょう。 それでも、まだ王女らの見当はついていないようだ! 風見学園中学校か、風見学園高校か、はたまた巨大プールか、もしかしたらこの巨大運動場かもしれない、まさか巨大体育館かっ、巨大図書館なら隠れる場所は多いぞ。 それでは、残り四十分弱、タイムリミットも短いようで長し。決着はいかに!!』  その結末は。  ゆっくりと、唐突に着くこととは。  このときは誰も知らなかった。  俺は駆け上がる。  無人の階段を昇りきると、すぐに見えたドアへと体を乗せる。  鉄でできた、重みと厚みのある扉が開いていくのを感じつつ、その向こうにある気配を探った。  僅かなしゃべり声覚り、その声が誰かをすぐに理解し、ドアを開ける力をさらに強くする。  開いた。  俺の視界に入ってくる、三人の――『王女』 「美姫、優衣、真紀恵――まだ無事か?」  俺は歩み寄る。  『王女』とするためのものなのか、頭に紙冠をつけた美姫がてけてけと歩み寄ってきた。 「たっくさん人いるね〜。でも、なんでここってわかったの? 弟君? こっちに着てる人、弟君くらいだったよ?」 「お前のことだから、高い所から展望でもするかと思ってな」  ポンポンと冠を指で叩いてみる。  思ったよりも頑丈そうだ。  そのまま美姫を通り過ぎ、優衣と真紀恵に近寄る。 「大丈夫か?」 「えっと……はい、生きてます。ちょっと高いのが――怖いです」 「体育祭でこんなにお暇もらえるなんて、予想外だったかな。祐夜さんも、大変だねぇ」 「人事みたいに言うなって」  下を見下ろす。  数人の生徒がうろついてはいるが、誰もここをみていない。  ここにくるための扉はふたつ。  俺の上ってきた風見学園高校側。  それとは別の、体育館側。  屋上として作られていない、細かい網目の床がこの『無人の屋上』だ。  人は来ない。先生ですらパトロールしにこない。  生徒会で把握してるかも不明だ。  それでも全員がここの存在を知っており、行き方を知らないでいる。  当たり前だ、非常階段からしか来れないのだから。  非常階段なんていう外にあるボロを使う理由がない。学校内で移動はできるのだから。  だからこんなところに繋がってるなんて、ほとんどの人は知らない。  それでもドアがあるのは、ここが『旧屋上』だからだ。  体育館と風見学園高校からしかこれないが、正式にはここは風見学園中学校の上となっている。  中学生という年で、まだ屋上ははやい――などということだろう。  確か、給食まであった気がする。  とまあいろいろと好都合な隠れ場所なのだが、やっぱり非常階段を昇ってまでくるのもめんどくさいという人が多いのだろう。  それでも来るやつはいたようだ。 「……御劉」  体育館側の入り口から上ってきた男子生徒。  遠いので詳しくはわからないが、多分御劉。 「グッドタイミング。ここって二つしかドアないから、俺とお前で塞げば――」 「悪いが、それには乗れない」  深刻な表情をした御劉。  俺が声をかけるよりはやく、言った。 「祐夜、俺の同士よ。ここは退いてくれ、俺には――決着をつけなきゃいけないことがある。真紀恵と話したい」  ここから去ってくれ――と、そういうことだった。  真紀恵に目を移す。  困惑しながらも、コクリと頷いてきた。  優衣と美姫も、扉のほうへと目を向けて――去ったほうがいい、というアイコタクトをしてきている。  俺は御劉へと目を戻した。 「今度、飯でもおごれ。ここにいる全員分な」 「ああ――わかった」  心底からの感謝を述べられた。  その必死さに気づかぬふりをして、美姫と優衣の肩を叩く。  その意味を理解している二人は、俺と歩調を合わせて扉へと歩き出した。  一度も――振り返ることなく。  大変なのはこれからだ。  王女をどうやって守り抜くか。  【水遊び】は――まだ終わらない。  次なる一手を。 「……真紀恵」 「ええと……な、何?」  上手く微笑めない真紀恵は、御劉に強張った笑顔を向ける。  御劉はそんなこと気にすることなく、真紀恵に歩み寄った。 「俺は、お前が好きだ」 「……ちょっと、知ってた」  真紀恵は居心地悪そうに目を逸らす。 「俺は、お前が好きなのに――別の、いろんなことに左右されちまう弱いやつだ。 だから、今言う」  御劉が真紀恵の手を取った。  反射的に一歩下がった真紀恵を逃がさないというように、御劉の手が真紀恵の腰へと回される。 「真紀恵……」 「……ああ、うん。わかった」  真紀恵は茶を濁すように、自分に言い聞かせるように、そう呟いた。  拒絶は、ない。 「私も好きだから――いいよ、御劉」 「………………真紀恵」  音がなくなった。  逃げ切れない。  両手で優衣と美姫を引き、そう判断する。  一直線に長い廊下。  多大な足音が追ってくるのを感じつつ、対応策を考えた。  引き離しているので、まだこの直線状に出てきていない以上俺が二人を連れていることはばれてはいない。  それでも追われている――少し、情報が回ったのか。  水鉄砲がない以上強制退場させることはできない。  さすがに、一般生徒大量を蹴り飛ばすのは……できなくはないが、後で何言われるか。  となると、とりあえずは却下だろう。  ――どちらかを捨てる。  俺がどちらかを選び、追ってくるやつらを引き寄せ、直前で退場する。  選びたくない選択肢だった。 「はぁっはぁ……弟君」 「美姫、もうちょい走ってくれるか?」  息が上がり始めた美姫。  優衣は何も言っていないが、つらそうだ。  どこか隠れる場所を……部屋は多いが、それでは駄目なんじゃないだろうか。  足音の数からして一桁以上、普通に隠れるだけじゃ策が足りない。 「違うの……弟君、優衣ちゃんと退場して」 「――美姫は捨てられない」  俺はそう吐き捨てる。  それでも美姫は立ち止まった。  ちょうど階段がある、枝分かれの場所。 「この廊下、一直線でしょ? 私が階段を昇って、優衣ちゃんと弟君がもうちょい先で退場すれば――なんとかなるよ」 「……クッ」  それしかないのは事実。  でも、抗いたい。  美姫は優しく微笑んだ。 「お姉ちゃんが信用できない?」 「――そういわれたら、何も言えねぇよ」  俺は美姫の手を。  ゆっくり、ゆっくりと。  ――手放した。  私はすべてから目を背けるために、ここにきたのか。  今更になってそう感じた。  彼の過ごす、私という存在が加わった教室。  その無人で、私は弟君の机に指を這わせる。  弟君を思って、弟君なら私をみてくれると思って。  でも、弟君は――私以外にも微笑む、暖かな存在になっていた。  昔の彼は私だけをみていて、私の手だけを握ってくれて。  ――そうか。  今更になって気づく。  私の心が何を求めているのか、私の心が何を生んでいるのか。  ――弟君に依存してほしくて、弟君に私だけを見てほしくて。  ――嫉妬しているのか。  醜い、なんて醜いんだ。  優しい弟君が好きなはずなのに、なんで私はこんななんだ。 「涙を拭くハンカチはいるかい、お嬢さん?」  私は伏せ始めていた顔を上げる。  声の主は、弟君の友達――伊里嶋君。 「ど、どうしたのかな?」  私は無理やり微笑みを作る。  でも、伊里嶋君はすべてを受け止めるような――暖かいのとは違う、微笑みを浮かべていた。  そう、暖かくはない。  弟君とは違う。  でも、強力。 「いや、ね。ちょっと、胸をお貸ししようかと思いまして」  伊里嶋君はそういって一歩歩み寄ってきた。  元々崩れそうだった心が、その一言で揺らぐ。 「抱擁をひとつ、ヨロシク」  伊里嶋君の目を見て。  その穏やかさを見て。  暖かさがないことを知りつつも。  私は、ひと時の安らぎを求めて。  ――ひとつの過ちを犯してしまった。  この瞬間。  この瞬間だけ。  私は弟君を忘れてしまった。  だから、だろうか。  揺るがないはずのハッピーエンド。  愛があれば、起こるはずのないバッドエンドが。  ――示されたのは。  このとき。  私の中に。  弟君を想う気持ちで満たされた心の中に。  別の。  形容できない感情が。  生まれたのだった――