【タイトル】  CROSS!〜物語は交差する〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【サブタイトル】  ♯03[二人の釣合、二人の等しさ](第38部分) 【ジャンル】  恋愛 【種別】  連載完結済[全127部分] 【本文文字数】  5747文字 【あらすじ】  舞台は現代風の孤島『風宮島』。主人公は季節を巡って愉快なヒロイン達との物語を築いていきます。一番の見所であるヒロインは、可愛さ溢れて10人以上!諸所に導入されているバトルロワイヤルも必見です。ほのぼので、ちょっぴりえっちなひと時を、味わってくださいね♪紡がれる、自分の心――届くことを、伝わることを願って――CROSS紡がれた、自分の心――届いた、伝わった、心――想い人との愛を育む力となることを願って――CROSS 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************  記憶整理を試みる。  それでもまあ納得いく理由は見つけられないんだけれども、状況分析はいいことだ。  まずいえることはひとつ。 「あ! あのお店って男物の服売ってるみたいだよ、行こう行こう♪」  ――デートのようなショッピングタイムを、小夜歌さんと過ごしているみたいだ。  CROSS! 2nd〜そして、物語は交差する〜♯03[二人の釣合、二人の等しさ]  確か、今の日付的には【林間学校で使うクラス料理の食材購入】のはず。  それで、あまり来ない風宮島唯一にして最大商店街区域に来たわけなんだけど。  そう、思いだした。  小夜歌さんが一言、こう言ったんだ。 『ついでにいろいろ見ていこうよ♪ フフ、デートみたいで楽しみだねぇ♪』  そりゃ友達同士なんだから買い物はいいだろうけど。  腕を絡められてる説明にはならないんだよね。  ということで、思いっきり連れまわされているわけである。  腕に押し当てられてる二つの突起物が気になったり。 「ねぇねぇ片瀬くん。こんなのはどう?」  片手で服のひとつを掴み、僕へと見せてきた小夜歌さん。  黒に、赤い炎が描かれてたりする――どうみても僕には似合わない。 「片瀬くんは可愛いから、ちょっと乱暴な感じがいいと思うんだけど……」 「先輩ならキッズファッション系にしそうで怖いです、いろいろと」 「………………それもいいわね」 「ささ、小物でも見に行きましょうか!」  僕は無理やり店外へと出る。  正午はまだまだ。別の店に行っている時間もありそうだ。  僕の片腕にしがみついている小夜歌さんが、ジト〜っと僕を見上げてくる。  さすがエスカレーターの段差、小夜歌さんを見下ろさせてくれてるよ。  だけどすぐに小夜歌さんは、僕の隣に上がる。 「仕方ないなぁ、今日は断念しとく♪」  ……。  それにしても、だ。  なんでこんなに楽しいんだろう。  こんなに楽しいんなら、時間なんてあっという間に過ぎちゃいそうだ。  ちょっと勿体無いな。  エスカレータが終わり、僕と小夜歌さんは一歩踏み出す。  そのときだった。 「あ、正樹」  ちょうど目の前。というか、降下活動中のエスカレーターに歩み寄ろうとしていた正樹に出会った。  正樹は僕の声に気づき、振り向いてくる。  そして数秒ほど目を見開き固まった。  ――思考回路がバリバリ活動しているのが想像できてしまう。  小夜歌さんはん〜っと唸り、首をちょこんと傾げる。 「新入生人気ランキングナンバー1の、正樹くん?」 「……なんですか、そのランキング」  初耳。  小夜歌さんの代わりに、正樹が肩をすくめて話し始めた。 「上級生の先輩たちだけで行われる、勝手な順位付だよ。僕としてはちょっと困りものだけどね」 「ほうほう、ふむふむ」  つまり、そのせいで告白率アップということか。 「祐も上位だとして………………僕は何位なんだろ? 小夜歌さん知ってます?」 「知らないわ」   即答。  あまりにも、早すぎる。 「ええと………………」 「知らないわ」 「その………………」 「知らないわ」 「………………」 「絶対、知らないわ」  絶対、知ってるだろうな。  でも、声の冷たさにそれ以上詮索できない。  僕は断念して、正樹に顔を向けた。 「正樹はこれからどうするの? よかったらさ、いっしょに昼飯食べようよ♪」  ちょっと早いけどまあいいだろう。 「え………………」  少しだけ、小夜歌さんが不満そうな声をあげた気がする。  それを気にするよりも早く、正樹がにっこりと微笑んだ。 「ごいっしょさせてもらうよ」  小夜歌さんが口を尖らせたのがわかる。  ――なんで?  気まずかったのは最初だけ。  正樹の対応力は不機嫌さんも許容しているみたいだ。  いつもどおりの笑みを浮かべて、正樹と小夜歌さんが会話している。  僕はでっかいハンバーガーを一生懸命はぐはぐ食べてるわけだけど。 「それで愁ったら【コウノトリが――」 「対正樹チョップ!」  何か恥ずかしい話を暴露してやがってくださったので、チョップをたたきつけた。  ク、にこにこしたままなのが悔しい。  小夜歌さんの表情を伺おうと、その横顔を盗み見た。  ――怖いくらいの小悪魔な笑みがぁぁぁぁぁ!! 「片瀬くんったら………………もう♪」 「一体何を吹き込まれたんです!?」  まったくこの人たちは………………大人なくせに子供っぽい。  僕は立ち上がり、そそくさと歩き出した。 「トイレらしいですよ。自分の話をされてて恥ずかしいらしいです」  正樹が小夜歌さんにそう告げたのも……見破られてるととると、悲しいな。 「ふう……」  用を足し、手を洗い、隅々まで洗い、熱風で乾かし、トイレを後にした。  混雑さが増してきているカウンター。はやめに来て正解だったなと痛感する。  二階建てだけど、僕たちがいるのは一階で。  トイレに近くてよかったと思う。  二階へと階段は見るにたえないほどの混雑だから。  黒イスと、黒の丸テーブル。  五人までは同席できるらしい。  そこで、まるで絵のように食事と会話を行っている二人がいた。  一人は穏やかな微笑みを浮かべ、もう一人は陽気でいて優雅な微笑みを返し。  知人なんだけど、それでも―― 「遠いな……」  僕という異物が、この絵に割り込んでいいのだろうか。  なんでだろう。  ただ眺めてるだけ。僕以外の人に、明るく微笑んでいる小夜歌さんを眺めているだけなのに。  ――胸が痛いや。  地面が揺れてる気がする。  小夜歌さんの笑みが、とてもとても遠いように思えて。  僕はグッと堪えて、足を進ませた。 「ヤッホ、ただいま」  痛みから目を逸らし、無理やりな笑みを浮かべる。  小夜歌さんは普段どおり返してくれた。  正樹は――訝しげに僕を見ている。  そして、片手を僕のおでこに当てた。 「……熱はないようだけど」 「いや、風邪じゃないから」 「恋の病だろうか……」 「そう変な想像を膨らませないで!!」  ちょっと掠ってる気も、なくなくない。  レアな風景を見た後で微妙にもやもやした感情も、すでに消え去っていた。 「それよりさ、正樹は午後からどうするの?」 「う〜ん……」  正樹は僕と小夜歌さんを見比べる。  小夜歌さんは僕をちらちらと見ていた。  正樹はクスリと微笑む。 「午後は商店街を出るつもりでね。ここで別れることにするよ」 「ああ……そっか」  嬉しいような悲しいような。  正樹は財布を取り出し、僕へと近寄った。  零距離に近い距離に、正樹の顔がある。  僕の手には何かが渡されていて、こっそりとそれを盗み見ると―― 「男の子は、女の子をエスコートできないとね」  くそう、正樹のウインク結構かっこいいじゃんか。  そのまま正樹は僕の横を通り過ぎ、出口近くにあるカウンターに消える。  やっとこさ席へと腰を下ろした僕に、小夜歌さんは盛大なため息を吐いた。 「やっぱり……正樹もいたほうが良かったですか?」  もやもやとしている自分が嫌だけど、普通を装って聞く。  小夜歌さんは大きく首を振った。  横へ。 「その反対。せっかく片瀬くんと二人っきりだったのに、邪魔されてショック」 「ぇ………………」  小夜歌さんは僕へとポテトフライを差し出した。  人差し指と親指でひとつだけつまみ出し、僕の口の辺りで泳がせる。 「あ〜ん♪」 「……」 「あ〜〜ん♪」 「…………」 「あ〜〜〜ん♪」 「………………モグモグ」  思わず負けてしまった。  子供ってわけじゃない、と思いたいんだけどさ。  ……弁解できない、ショック。  それにしても――  僕は小夜歌さんの横顔を盗み見る。  やっぱり、眩しい。  それが僕に向けられている。  ――嬉しかった。  もやもやは、今度こそ消え去った。  小夜歌さんといっしょにデパートの中をぶらぶらしていた。  僕の目に、CD店のスペースが映る。 「小夜歌さんって、音楽はどんなものが好きなんですか?」 「ん〜、バラード系かな」  だけど、と前置きをされた。  僕は小夜歌さんに目を移す。 「私、激しい感じの曲でも、歌詞にジ〜ンってくるものがあったら好きなんだよねぇ」  わかるようなわからないような。 「僕は、弾いてみたいリズムとかがあったら好きな分類にいきますけどね……」 「片瀬くん、何か弾けるの?」  小夜歌さんは目を丸くした。  そういえば言ってなかったっけ――僕はすぐさま口を開く。 「ピアノとギターを少しだけ……隠してたわけじゃないんですけど」 「片瀬くん、墓穴を掘るっていう言葉知ってる?」 「う………………」  小夜歌さんはにっこりと微笑んだ。 「じょうだんじょうだん♪」  僕の片手を握り、少しだけ引いてくる。  僕はまっすぐ小夜歌さんを見つめた。 「――いこっか?」  僕は握り返す。  そして、笑みを浮かべた。 「――はい」  僕たちはしっかりと手を握りあい、歩き出す。  そのとき―― 「あれぇ……見間違いかなぁ?」  小夜歌さんの肩がビクリと反応する。  ニヤニヤを押し殺すかのような、女の人の声。  僕はその人の名前を呼んだ。 「こんにちは。卒パで出会ったたこ焼き屋勧誘の人さん」 「それはボケ?」  絶句されてしまった。  どこかおかしかっただろうか?  その女の人は自らを指差し、口を開く。 「天宮、天宮希美だから。もう二度とそのたこ焼きなんちゃらで呼ばないでよ?」 「ははは……了解です」  子供っぽい容姿に似合う子供っぽい声。  先輩振るつもりもないらしい。  あまりにも自然体で行われるコミュニケーションに、色気も何もないけど楽しいっていうか。  ほんと、人の良さはそれぞれ違うものなんだなぁ。  天宮さんだと、豪快にニッと笑ったりしそうだ。  こっちはハメはずしすぎないよう注意しないと。  なんたって、身分は後輩だから。 「それでそっちは、彼女とデート? 新入生のくせに手が早いこと……」 「そ、そんなんじゃないですよ!?」  訂正。やっぱり先輩らしさはあるようだ。  意地悪な面限定だけど。  後輩は先輩にいろいろと遊ばれる。変わらない秩序だな……悲しい。 「ねぇねぇ、ほんとのところはどうなの?」  天宮さんのターゲットが、僕から小夜歌さんに移った。  僕は目だけで小夜歌さんに訴えかける。  だが――意地悪な笑みが、僕を裏切ってくれた。 「……ご想像にお任せします♪」 「げげ!?」  まあた、微妙な発言を。  天宮さんがどういう意味でとったかはわからないけど、僕にとって良い意味ではない。ような予感がする。  天宮さんの、ニヤリという笑みを見てそう思った。 「でもまあ、ちょっと意外な組合せだよね。君たち」 「……そうですか?」 「うん――でもまあ、ある意味は釣り合ってるんだろうけどさ。 周りは、天城ちゃんのような人は正樹っていう人のようなのとくっつくのが当たり前――とか、高嶺の花にしてるし」  僕は無言で小夜歌さんを見る。  すると、小夜歌さんも無言で僕を抱き寄せ―― 「って、ええ!?」  僕は離れようと試みる、前に、肌に触れた肌の暖かさにやられてしまう。  ……僕、なんて弱いんだろう。  ほっぺにキスした仲だっていうのに。 「私は高嶺の花なんかじゃないです。だって、もう片瀬くんが掴んでるもの」 「え、ええ!?」  もう叫ぶしかないんですけど。  天宮さんは大げさに頷いてみせると、ニヤニヤを強めた。 「ベタ惚れってとこね。まあ、末永くいちゃいちゃしててくださいよ。先輩として応援してるぞ♪」 「いや、絶対楽しんでますよね!?」 「滅相もございませんですよ、ウフフフフ♪」  僕の決死な声も軽く流されてしまう。  天宮さんは表情をころころ変えるのが得意のようだ。  満面の笑みに切り替えた天宮さんが、片手を振る。 「それじゃあ私はこれで。またね♪」 「ああ、はい。また……」  なぜか、小夜歌さんにぎゅっと抱き寄せられてしまう。  いや、そのままどこかに歩かされた。  僕は小夜歌さんを見上げる。後悔した。  僕は夜叉か何かに出会ってしまったようだ。。  もしくは般若(はんにゃ)か。  なんてことを考えている場合じゃなく。  いつの間にか、男女トイレ入口前にある自動販売機にまで連れて来られてしまった。  小夜歌さんはふ〜っと息を吐く。  僕は声をかけようとするけど、声がでない。  だってさ。なんか機嫌悪そうだし。  すると、小夜歌さんが柔らかく目を細めて僕を見た。 「片瀬くん。気にしなくていいからね」 「え……ええと――」  何を気にしなくていいのか。  小夜歌さんは僕の髪を撫でる。  僕の髪を撫でた人は二人いる。  小夜歌さんは三人目の撫で人さん、おめでと〜♪  ……なんても言ってられない。 「誰がなんと言おうと――片瀬くんが私の傍にいちゃいけない理由は、ないんだから……」  ああ。  ――そうか。  僕はにっこりと微笑んだ。 「前から、わかってますよ――」  わかってるどころじゃない。  僕の欲した距離は、こんなもんじゃないんだ。  誰にも覆らされることのない、親友とも違う距離。  やっと、わかったんだ。  自分の気持ちを。 「小夜歌さん、前に……キス、しましたよね。ほっぺでしたけど」 「え? う、うん」  僕の様子が少しおかしく見えるのか、小夜歌さんは訝しげにしながらも頷く。  心は妙に落ち着いていて、心は妙に昂っていて、落ち着いているけど落ち着いてなくて。 「じゃあ――お返し、しますね」  そして僕は動いた。  小夜歌さんの、すっとんきょんな声が一度だけ響く。  やっぱり甘い。  キスって良いもんだなぁ。  ほっぺだけど。  蕩ける感じ。ちょっと病み付きになりそう。  小夜歌さんは驚いたように目を丸くしているけど、それほど外側に動揺を曝け出す人じゃないらしい。  そう思った次の瞬間、抱きつかれたわけだけど。  強く強く抱きしめられたから。  強く強く抱き返そうとしたけど、ポンッと背中を撫でることにして。  小夜歌さんはまだ赤い頬を恥じる様子なく、目と鼻の先で僕に話しかけた。 「……買い物、しとかないとね」 「まだ食材のほう、買ってないですしね」  僕たちは離れた。  それでも、意図したわけでなく片手は繋いだままで。  顔が熱くて仕方がなかったけど――こういうのもありかなって、思ったり。  僕たちがいっしょにいるか、いないか。  それを決めるのは周囲じゃない。  僕だ。  僕、そして、僕といっしょにいるその人が、決める。  やっとわかった。  僕は、小夜歌さんを独り占めしたいんだ。  独占欲ってやつ、だろうか。  隠すつもりもない。  隠したら、すぐ誰かに取られちゃう気がするから。  正樹――とまではいかなくても、僕よりもかっこよくて凄い人はたくさんいるから。  だから、僕は積極的でいなくちゃならない。  消極的になったら、せっかく掴んだというのに、零しちゃうかもしれない。  そんなのは嫌だ。  もう手放したくなんてないから――僕は、ぎゅっと握り締めた。