CROSS!〜物語は交差する〜 水瀬愁 文字数の関係で昼と夜を結合した三日目。 ******************************************** 【タイトル】  CROSS!〜物語は交差する〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【サブタイトル】  ♯08[自然での苦悶と爽快 その5](第43部分) 【ジャンル】  恋愛 【種別】  連載完結済[全127部分] 【本文文字数】  5469文字 【あらすじ】  舞台は現代風の孤島『風宮島』。主人公は季節を巡って愉快なヒロイン達との物語を築いていきます。一番の見所であるヒロインは、可愛さ溢れて10人以上!諸所に導入されているバトルロワイヤルも必見です。ほのぼので、ちょっぴりえっちなひと時を、味わってくださいね♪紡がれる、自分の心――届くことを、伝わることを願って――CROSS紡がれた、自分の心――届いた、伝わった、心――想い人との愛を育む力となることを願って――CROSS 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************  三日目。  昼の行動は少ない。  魚手掴み。もとい川遊びだけだ。  その後は自由時間なのだが、生徒のほとんどは極力疲れないようテントでぼ〜っとしている。  なぜなのか。  夜通し行われる――キャンプファイヤーがあるからだ。  夕食である|料理選択式食事(バイキング)のテーブルでキャンプファイヤーを取り囲み、騒ぐってことだが。  何が楽しいのか、全員参加の社交ダンスがあったりビンゴ大会があったりするらしい。  一番盛り上がる。故に、三日目なんだけど。  ハメをはずし、大騒ぎできる長い長い夜。  あの人が動き出さないはずがなかろうか。  CROSS! 2nd〜そして、物語は交差する〜♯08[自然での苦悶と爽快 その5]  息を殺す。気配を殺す。意識の糸で世界を飲み込む。敵の行動によっておこる影響を超高速で察知するために。  こちらのアクションは一度。敵の身体からして命中率は低い。速さをも加算するとさらに低くなる。追撃の命中はさらに低い。  必殺の渾身を込め、右手を槍と想像する。  足の感覚を研ぎ澄ます。水の流れの異常を索敵。一定の圧力に混じる異質を察知する。  おおまかな位置測定を終えて、次に役立つのは目だ。  視界に映る水面の不自然な波を探す。次なるプロセスは無意識下層にて瞬発的に執り行われた。  それはカン。  研ぎ澄まされた五感の先にある気配読みの目。心の目。  臆することも抑制することもなく、惑うことなく命中を揺るぐことなき必中にするために五指を食い込ませた。  そのまま追撃ともとれるもう一方の手で、進行方向を塞ぐように頭部を掴む。  いきおいよく振り上げた。  水しぶきをあげて飛び上がるのは、黒く艶やかな魚体。  その表面の滑りに指を取られたら終り。魚体の不規則な動きに飲み込まれても終り。  グッと掴み、それでも柔軟に魚体の行動ひとつひとつへ対応する。  そして、高らかに宣言した。  胸を張り、震わせることも篭らせることもなく、高らかに。 「とったぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」 「それでこそ男だぁぁぁぁぁぁぁ!!」  共鳴せしは我が友、トモダチ。  川の流れに逆らうようにして足を動かし、川の外で体育座りをしている祐の元へと向かった。  その目元に魚を突き出す。 「今日の飯!」 「………………生臭い」  祐は大げさに咳き込みながらジト〜と僕を睨んでくる。  ふはは、良い気分良い気分。勝利の美酒は最高〜♪  正樹にも見せつけようと、辺りを見渡す。  こちらへと近寄ってくる正樹の両手を見て、唖然とした。  一歩で詰められる距離に来た正樹は、にっこりと微笑む。 「これで合計三匹。どうにか足りるね」  正樹の両手にある魚、二匹。  僕の手にある魚、一匹。  ………………。  …………。  ……。  敗北の美酒は不味かった。 「がんばっとるねぇ一年生諸君!」  芝居染みた声。  語彙ひとつひとつに感情込めてるこんな人は、一人しか該当しないだろう。  僕は振り返った。 「御劉先輩。どうしたんですか?」  爽やかな笑みを携え、存在自体がある意味ネタな御劉誓兎さん。通称御劉先輩。  僕の言葉に、笑みを強くして言った。 「ううむ。実はな、片瀬愁に折り入って頼みがあるのだ」 「ぼ、僕に?」  うわぁ、なんか嬉しいなぁ。  すると、祐が僕と御劉先輩の間に割り込んできた。  そして、キッと御劉先輩を睨む。 「お兄ちゃんに無理させないって約束してくれますか?」 「うぅむ……片瀬愁の体力次第だな。期待しているぞ」 「は、はい!」  うう、信頼されまくってる。  これはがんばるしかないですよ。  力む僕を見て、祐がため息を吐いた。 「それで頼みたいことなのだが……ふむ、行きながら話すことにしよう」  御劉先輩が駆け出し、ついて来いという合図(サイン)を出した。  僕は魚を正樹に投げ、御劉先輩を追う。  三井先輩と同じように、余裕でありながらも僕よりも速い。  背後で何やら御劉先輩を追う多大な声がしたけど……気にしないほうが良いよね。 「……ということなのだ」 「おお、それは凄い」  さすが御劉先輩。 「片瀬愁には過半数の設置を頼みたい。俺では自由に動けないからな」 「了解しました。それで、設置場所は?」 「それらのことはこの紙に書いてある。任せたぞ」  ポン。 「はい、任されました」 「ふむ。それでは――散れ!」  散ったのは御劉先輩自身だけなんだけどな。  僕は手渡された紙を開こうとして、その前にすべきことを思いついた。 「この暑苦しい茂みから出るのが先か……」  御劉先輩もなんでこんな痛くてじんじんしてちょっと痒くなる場所で密談させるかなぁ。  ガサガサと無駄に多い葉を掻き分け、外に出る。  外気はやけに冷たかった。  一息吐いて、紙に目を落とす。  少しくしゃくしゃになったノート一枚の、二回折。  開ききると、十字の折り目とともに綴られた線が見えた。  線は円を描いており、円は不規則な曲線で――ここ一帯を上から見た図と言える。  考え抜かれたであろう位置に、バツ印がある。  多分ここに…… 「この箱を置くんだろうな……」  片手にぶら下げている箱三セット結合状態。  何が入っているかはわからないが、開けろという指示がないから結局最後までわからないだろう。  それでも、用途はわかる。 「さすが御劉先輩……」  『計画』の凄さは、さすがとしか言い様がなかった。  僕もそれに答えられるよう、精一杯動くことにしますか。  ぐっと力む。  そのとき、足音がした。  砂を踏みしめる音。  咄嗟に僕は茂みの中へと箱三セット結合状態を投げ捨てる。  その判断は間違っていなかった。 「あ……れ? 片瀬くん?」  道なき道であるというのに、なんでこう鉢合わせするんだろう。  僕は冷静に言葉を返した。 「鷺澤先輩、こんにちは」 「ああ、うん。こんにちは♪」  鷺澤さんの笑顔は、ご飯三杯いけるなぁ。  だけど、すぐにムスッと唇を尖らせた。 「ごまかしちゃダメだよ。片瀬くん、御劉君の息がかかってる人でしょ」 「まあ、息はかかってますねぇ。なんどか会ってますし」 「む、むむ」  鷺澤さんが唸る。  可愛いから。どうしようもないくらいに可愛いから。  頭ごなしに怒られるよりも効き目があるんだよなぁ、心が無条件に緩みそうになるから。  うう、耐えろ耐えろ、我慢我慢。 「御劉君、またなんかしでかそうとしてるらしいから、片瀬くんも気もつけるんだよ」  うるうるとした目でぎゅっと片手を掴まれる。  心がこもっているってのはこういうことを言うんでしょうねぇ。  などと、ちょっと楽観的に考えてみる。  僕はプルプルと首を縦に振った。 「むぅ……それじゃ、私は御劉君探しにいってくるね……」  鷺澤さんは不満げに唸りつつも、茂みの中へと消える。  僕はその背中を見送り、気配を探り、本当に遠くへ行ったことを確認して息を吐いた。  近くの茂みを少し漁って、箱三セット結合状態を掴みだす。 「急がないとな……」  自由時間は長いといっても有限。  生徒会が動いてるみたいだし、何度かエンカウントすることになるだろう。  それなら、少しでも早く動いたほうがターゲットされにくい。 「よし!」  グッと気合を入れ、駆け出した。  夜まではまだ長い。  今日の夜は、きっと晴天だろう。  そして、その予想は当たっていた。  雲ひつつない快晴の元、キャンプファイヤーは行われる。  夏祭りと同じような賑わい。  ネオンとかテーブルについてるけど、一体どこから用意したんだろう。  まあそのおかげで料理が取りやすいんだけどさ。  テーブル八個ほどで取り囲んだキャンプファイヤーへと目を移す。  赤々と燃える火は炎のごとく猛々しい。  お目当てのものは見つかった。  それに近づく。 「こんばんは、小夜歌さん。小夜歌さんも焼きビーフン目当てですか?」 「……片瀬くん。私は今少しだけいろいろなことを後悔しちゃったよ」 「それはすみません」  とりあえず謝っておく。  切り出しネタとしては良いと思ったんだけどなぁ。  額に手を当てている小夜歌さんを視界の横に。第一とはいえないお目当てのもの、ただ切り出すきっかけにした料理を皿に盛った。  口に放り込む。悪くない味。  そんなどうでもいいことを考えて心を落ち着かせ、小夜歌さんへと向いた。 「ええと……小夜歌さん。誰かと食事する予定ありますか?」 「え? あ、ううん、その……ない、けど」 「なら、僕と……」  口の中がカラカラになっていた。思わず言葉が詰まる。  構成した言葉。脳内でのリピートを繰り返す。感情を込め、それに習うだけだ。  心臓の音を思考で誤魔化す。簡単に言ってのけるが、できることではない。邪魔にならないことだけを願う。  そして、もう一度口を開いた。 「僕と、食べませんか? まだ社交ダンスまで時間ありますし……」  小夜歌さんの顔がまともに見えない。  だが、頬に何かが触れて思わず小夜歌さんに振り返った。  片手を僕へと伸ばした小夜歌さんがニッコリと微笑む。 「ごいっしょさせてもらうね♪」 「…………はい」  なんとなく落ち着かない。  だけど、気に入らないわけじゃ――ない。  嫌じゃない緊張。二度目。僕という共通因子、二人の女の子。ふたつの緊張は違うもののようで似ているような気がした。  そんなことを考えてるから、気がつかなかったのだろう。  ふいに引かれた手。視線を動かすと、前を歩く小夜歌さんの手が僕を掴んでいるのがわかった。  思わずこけそうになり、なんとか勢いに追いつく。  小夜歌さんは前だけを見ていて、前かがみでこけそうな僕には目もくれていない。  そのくせ、強い力で僕の手を握っている。  反対の手に持つ皿が危機に瀕しているが、自分自身で回避しろってことのようだ。  不安定の中で安定を作り、なんとか小夜歌さんについていく。  キャンプファイヤーから遠く離れ、人のざわめきがかすかとなる距離を強引に歩かされ、ふいに手が離された。  踏み出した足に力を込めて踏みとどまり、直立体勢にもっていく。  勢いをそのままに僕へと身を翻した小夜歌さん。スカートなら、ひらひらと舞っているだろう。  あいにくぴっちりとしたズボンだった。残念。  そういえば昨日もズボンだった。小夜歌さんはスカートが嫌いなんだろうか。 「片瀬くん。私、嫌なの」 「…………何が、ですか?」  わかるようでわからない小夜歌さんの心。  今、明確に告げられた。 「社交ダンスだと、私と片瀬くんでずっと踊り続けられない。私は、他の人と踊らなくちゃならない。片瀬くんも、他の人と踊らなくちゃならない。 それが嫌。私は片瀬くんと踊りたいし、他の人と踊りたくない。片瀬くんにも――他の人と、踊ってほしくないんだ」 「…………嫉妬深いですね」 「嫌いになった?」  小夜歌さんは普段を装ってそう訊ねてくる。  瞳は、聞きたくないと言っていた。  僕は片手で小夜歌さんの手を掴む。 「僕は、小夜歌さんのことが好きですよ」  そして、もう片一方の手でさらに包み込んだ。 「世界中のもの全てが小夜歌さんの敵になっても小夜歌さんの味方でいるって約束しましたから。どんどん嫉妬深くなっちゃってください」 「…………バカ。すっごくかっこいいから、小夜歌さんは惚れ直しちゃいました」  胸をポンッと叩かれる。 「僕のほうが小夜歌さんにメロメロですよ」 「そっかそっか。嬉しいな」 「……そこは私のほうが〜って言うんじゃないんですか?」 「女の子って悲しいくらいに気移りする生き物だから、ほっとかれると恋も終わっちゃうんですよ。 だから――愁(・)く(・)ん(・)にはベタ惚れしてもらわないと、ね」  小夜歌さんは寂しい笑みを浮かべて、そう言った。  夜は長い。  長いから、こんな余興もいいんじゃないか。  余興の次があるかはわからないけど、盛り上げるための一策ってことで。  僕は小夜歌さんの顎に人差し指と親指を当て、もう少しだけ顔をあげさせる。  背は僕のほうが低いんだけど、小夜歌さんは僕の胸に顔を埋めようとするから、わざと屈んでいる。  背を高くしよう、堅く心に誓う。  とまあ精神集中時間はこれくらいにしておくか。  心を決めた。  小夜歌さんの瞳をまっすぐと見る。  小夜歌さんは、今から僕がやろうとしていることを察したらしい。頬がほんのりと赤くなりはじめている。  そんなところを見ると、なぜか自分に余裕がでてきた。  愛の言葉でも呟いたほうがいいんだろうか。  検索開始。  ………………。  …………。  ……浮かばない。  元々映画も小説もあまり読まない者の性だろうか。  女の子はムードを大事にするらしいから、尊重したいんだけれども、こればっかりは仕方がない。  小夜歌さんの後頭部に手を回し、さらに近寄った。  自然と吸い込まれそうになる瞳をじっと見つめる。  それは問いかけ。  小夜歌さんは僕の瞳を見返し、両腕を僕へと回した。  それは答え。  故に、結果が生まれる。  結果が余韻と後味を残す。  それ以上に――衝動的な愛情と貪欲が生まれた。  貪るように、愛を発する。  答えるように、愛を叩きつけられる。  愛しくて愛しくてたまらない。故に少しでもそれを表そうと身を絡ませる。  二人の時間は長い。  小夜歌さんの手を僕の手がふれあい、少し離れる。  だけど、どちらともがお互いの手を求め、きつく握り合った。  すべてを忘れ、すべてを無とし、すべてがどうでもいいものと思い。  小夜歌さんだけをおぼえ、小夜歌さんだけを有るとし、小夜歌さんだけが必要と思い。  恋は愛となったことを、甘く痺れる感覚とともに実感した。  遠くで何かの音がする。  それは連続して上がる、花火の音だった。  光が僕の頬を暖める。でも、そちらへ振り向きはしない。  空へと上がっているのは、美の妖精だろう。  美しかろう。だけど、僕はもっと美しい存在を腕に抱きかかえているんだ。  女神――ほんとうにその通りだと、心の中だけで笑った。  四回目のキスは、どちらもが止めることがなかった故に、長い夜と同じくらい長く続いたように感じられた。