【タイトル】  CROSS!〜物語は交差する〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【サブタイトル】  『乏しい。』(第48部分) 【ジャンル】  恋愛 【種別】  連載完結済[全127部分] 【本文文字数】  1778文字 【あらすじ】  舞台は現代風の孤島『風宮島』。主人公は季節を巡って愉快なヒロイン達との物語を築いていきます。一番の見所であるヒロインは、可愛さ溢れて10人以上!諸所に導入されているバトルロワイヤルも必見です。ほのぼので、ちょっぴりえっちなひと時を、味わってくださいね♪紡がれる、自分の心――届くことを、伝わることを願って――CROSS紡がれた、自分の心――届いた、伝わった、心――想い人との愛を育む力となることを願って――CROSS 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************ 『乏しい。』 「レパートリーに乏しい気がする」  朝食を眺めつつ、そういう。  我が弟君、祐はジトっとした目で僕を見ていた。  シトッとした目ならエロそうだし許容するが、殺戮に繋がりそうな視線はちょっとなぁと思う。 「パンに付けるのならジャムが……」 「腹で生物みたいに動いて成長するジャムはすでにジャムじゃないと思うんだが?」 「気のせいよ」  それで切り捨てて良い事項でもないはずだ。  だが、食い下がり続けると生命の危機が訪れるので口を閉じることにする。ちょっとした不満で人生を棒に振るつもりはない。弱い男だという自覚はあるが、直せはしない。 「いちいち不満いわないでよ。 さっさと食えればいいでしょ。学生にとってはさ。 それとも、自分で作る?」  それは嫌だ。  祐がダイエット期間を終えて通常の食事に戻ったのでいっしょに作ってもらっているのだが、こう、なんというか…… 「宝くじでしょうもない値段を当てた感じなんだよな……」  例えの想像力も乏しいことに気づいた。  祐の目がキツイので、次こそは笑いを取ろうと思う。  馬鹿なことには全力を尽くすつもりだ。後悔はない。馬鹿らしいとは自覚しているが。  キーンコーンカーンコーン…… 「バリエーションに乏しい」  もっとこう、青春の一幕みたいな雑音が流れてくれてもいい気がする。放送自体とはまったく関係ないが。  正樹が近寄ってくる。  僕と同じ感情を持っているか確かめるために、訊ねてみることにした。 「ねぇねぇ、俺、俺だよ、俺だってばよ」 「リアル俺俺詐欺って意味ないよね?」  そういえばそうだな。  とりあえず会話が始められたのでよしとする。 「あのさ、チャイムってバリエーションに乏しいっていうか、色気なくねぇ?」 「何を求めてるんだい?」  いわれて気づく。僕は一体、たかがチャイムごときに何を求めているんだろう。  暇すぎる日常は人の脳細胞を過疎化させる。どうせ過密してても賢くはないだろうが、それはそれとしておく。  ということで、もっとためになりそうなどうでもいいことについて考えることにした。 「……」  島全体を一日かけて回り、結論を掴み取る。  僕はゆっくりと、それを口にした。 「……何してるんだろうな」  翻訳、自分は毎日を過ごすネタに乏しい存在だった事実を痛感した。  とぼとぼと歩いて帰ることにした。  カラスの鳴き声が乏しかった。もうちょっとリズム良くノリ良くの泣き声になったら良いと思った。  あまりにも馬鹿らしくて泣きたくなった。 「乏しいんでしょ? ご期待に沿った闇料理のフルコースを用意してみたんだけど♪」 「……」  きっと自分は今、アホみたいに今日のことを後悔しているだろう。  祐は満足そうな顔をして、祐自身しか美味いといえないであろう形容し難いドス黒き料理を指さしていた。  増殖するジャムどころじゃない。今度こそ乗っ取られる気がする。何か大きなものが僕にそう思わせていた。  人はこの大きなものを、絶望というのだろうか。 「祐……すまん。アンパンマンだけどアンパンチもだせないような空っぽの僕に、これを食べる視覚はないと思うんだ」 「大丈夫よ、見えてるでしょ♪」  馬鹿には見えないモノじゃあるまいに。  というより、一生視覚で認識したくないモノだ。  腹をくくる必要性。首をくくる必要性。ゆっくりと手を伸ばし、首を吊るスイッチとなるキーアイテムを手に取る。  死刑囚はこんな感覚なんだろうか。 「ゆ、祐……」 「何?」 「コレ、味見はしたのか?」  ドライアイスのように黒い煙を吐き出し続けている異形をフォークで突く。  反応があった時点で調理が行き届いていないことは明確だ。  こんな料理を作ることは、ある意味偉業かもしれない。 「大丈夫よ。増殖ジャムで死ななかったんだから」 「……」  死ぬか生きるかの判断について推察している時点で、もうコレは味を楽しむための料理でないことがわかった。  逃げ出したい。逃げ出したくてたまらない。乏しい生活がたまらなく愛しい。  料理を口へと放り込むと同時に、明日からは文句なく生きようと心に誓ったわけであった。  というより、ジャムのときと同じ感覚が腹で膨れ上がりつつあった。  いけない……手放せるうちに意識を飛ばす。耐えれるか耐えれないかじゃない。地獄は耐えられない獄なのだ。その辺りは痛く理解している。  とりあえず、日常に不満足な僕が悪いということで完結。  バイオレンスな描写をしないために素早く無意識へとおちた。