【タイトル】  CROSS!〜物語は交差する〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【サブタイトル】  ♯FINAL[さらば、愛する者好し風宮島](第60部分) 【ジャンル】  恋愛 【種別】  連載完結済[全127部分] 【本文文字数】  3209文字 【あらすじ】  舞台は現代風の孤島『風宮島』。主人公は季節を巡って愉快なヒロイン達との物語を築いていきます。一番の見所であるヒロインは、可愛さ溢れて10人以上!諸所に導入されているバトルロワイヤルも必見です。ほのぼので、ちょっぴりえっちなひと時を、味わってくださいね♪紡がれる、自分の心――届くことを、伝わることを願って――CROSS紡がれた、自分の心――届いた、伝わった、心――想い人との愛を育む力となることを願って――CROSS 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************  二人っきりなら、すべてが和解できた。  映画の中でも、現実でのことでも、全部。  二人っきりなら、周りのことなんて気にせずに、素直でいれたから。  幸せになれると思っていた。  でも――二人のうち、一人に拒まれたとしたら。  幸せもなにも、なくなってしまって。  二人っきりの魔力は、二人が向かい合っていないと意味がないもので。  今の改善をしてくれることは――ないだろう。  CROSS! 2nd〜そして、物語は交差する〜♯FINAL[さらば、愛する者好し風宮島]  クリスマス。  ホワイトクリスマスにはならなかったけど、どちらにせよ、気分が変わることはない。  それっきり締め切った窓。カーテンを被せる。電気もつけない。なんとなく、そっちのほうが和らぐような錯覚があった。  ベッドへと突っ伏す。枕へと顔を押し付ける。この場での、小夜歌さんとの思い出が強いからか、それを自発的に走馬灯として脳裏に浮かべてしまうのが忌々しい。  別れた――もう小夜歌さんの傍にいることが叶わなくて、微笑みあうことももう……  好きなのに。大好きなのに――愛は二人で育むものだからこその焦燥。  クリスマスが、こうも虚しく過ぎていくことがあるなんて、少し前までなら思いもしなかった。  考えても仕方がない。僕は――小夜歌さんにフラれたんだ。  元々考えに耽っていたからか、それとも精神が疲れきっているからか、眠りに落ちたのはすぐだった。       ○  ○  ○  お兄ちゃんの元気がなくなった。  それは多分、小夜歌さんのことが原因。  ここ最近は、小夜歌さんに振り回されてばかり。  でも――いきなり消えちゃうんだ。  お兄ちゃんを悲しませて、それでなんとも思わずにこの島からいなくなる。  許さない。許してなるものか。  逃げ出したり、させはしない。  約束したんだ。私(・)と、映画の中だったけど、でも、頼まれると言った小夜歌さんの想いは、本物だった。  それなのに消えちゃうんだ。なんて酷い人。なんて酷い女。  あんな女を好きになるなんて、お兄ちゃんが可哀想。  でも、でも――約束したんだから、僕(・)も腹をくくる。  酷い女の小夜歌さんを、僕は信じるって決めたんだ。  グッと、閉じそうになる目を開いて、片手で構えたハサミに力を込め、二つの刃に挿まれた流れる髪を、誇っていた自慢の髪を――切り裂いた。       ○  ○  ○  ダダダ、と足音が響く。  そして、ノックもなくドアが開け放された。 「お兄ちゃん!!」  声を上げる間なく首根っこを掴まれ、ベッドから宙ぶらんこへ体勢を変化させられる。  弟の祐。キッと、きつい目をしていた。 「……何?」  自分自身が驚くほどに力ない声。眠っていたはずなのに、さらに力を失った気がした。  祐は、言う。 「……おねがい。行ってあげて。|小夜歌さんは(・・・・・・)、|あなたに嘘をついただ(・・・・・・・・・・)|ろうから(・・・・)」  嘘。そうだったらどんなにいいだろうか。  自嘲気味な笑い声を自然と漏らしていた。 「……お兄ちゃん。男はね、必要なときには強引にならないとだめだよ」 「……お前に何が――」  そして、気づいた。  いつもみていた髪、いつまでもみることになると思っていた髪、腰まで伸びたとき、嬉しそうに満面の笑みを浮かべていた――あの美しい髪が。 「…………私も強くなるって、決めたの。だからお兄ちゃん」 「それ以上は――言わなくても、いい」  妙に落ち着いた心。  わかった。自分のしたいこと、自分の想っていること。  そして、自分の決意。  小夜歌さんがあんなにも声を震わせて、肩を小さくして、泣いてまで訴えてくれた本音に気づけないなんて――バカだ。  何かあったんだ。大事な、何か。  気づいたら、僕は祐を無理やりに振り払って、家を飛び出していた。  行く当てもなく、ただ衝動的に――何か大事なものを探し求めはじめたんだ。       ○  ○  ○  それにしても唐突だな。と御劉は思った。  父親のいきなりな転勤。母親は娘の意思を虚構で埋めて、父親についていくという決断をする。父親の望んだ形。娘の気持ちも共にあると、虚構をさらに現実のものと思ってすべては良い方向に進んでいると勘違いする。  身勝手な話だ。天城娘の様子と、天城父の様子からすると、一騒動あったのだろう。  そして、屈するしかなかった。と――そういうわけか。  元々親という立場は、子を人形のように扱う習性がある。  『将来のことを思って』『あなたのため』『なぜわからないんだ』『お前をそんな子に育てたおぼえはない』『ほんとうにそれでいいの? もう少しよく考えなさい』――考えれば考えるほど、虫唾の走る虚言が検索される。  子供のことを考えて、まったく子供のことを考えていないクソな親。根本的なところから違うからこそ和解は絶対に不可能なのだ。 「……みなさん。今日は、私の突然な転校を見送ってくれて、ありがとうございます」  風宮島にただひとつしかない船着場、ひとつだけ止まる定期船。集う生徒。その数は多数。  クリパはどうしたのかと問われれば、すでにその時間は過ぎた夕方なのだというしかない。  船へと移るための板の前で、天城娘――小夜歌は何らかの挨拶をはじめた。  御劉の頭に入ってはこない。別のものを待っている。御劉であってもできることとできないことがある。しかもこの事象は強引ではなく、背中を押す程度の助力で完結させなければ意味がない。  あとすこしで時間がくる――焦りはしても、腕時計をコツコツ叩くだけで押さえ込んだ。 「遅いね――愁君」  御劉へと、輝弥が話しかける。  笑みが消えている。真剣モード、御劉ですら見ることが少ない本音の輝弥。 「時間を稼ぐ。天城娘を船へと入れない方向で……何か策はあるか?」 「ああ――任せといてよ」  貼り付けた温暖な笑み。輝弥は前へと躍り出た。  ちょうど挨拶を終えた小夜歌へと一礼。生徒一同へも一礼。 「こちらからの、返辞をさせていただきたいと思います」  そうきたか――途中で止めることはどのような者でもできない。妙な様子を作らなければ、少しでも時間が稼げる。  残り数分で出航というタイミングなのが味噌か――御劉は感心した。  淡々と述べられる御託。不可解にならない程度となれば、やはりだんだんと終わりへ近づいてしまう。  予定時間七分オーバーで――輝弥は引際を見た。  御劉の舌打ち。聞くものはいない。爆裂する思考回路、何も導き出さない。足止めできない。 「それじゃ……さようなら」  身を翻す小夜歌。御劉は反射的に叫んだ。 「逃げ出すのか!? お前の愛する彼に一言も、本心を告げずに――逃げるのか!?」  背中は止まらなかった。  動き出す船。御劉のこともあったが、盛大に手を大振りする生徒たち。それに振り返すため端に寄った小夜歌。御劉は思う、このタイミングでもいいから来い。と――  そして、その願いは叶えられた。       ○  ○  ○ 「小夜歌さぁぁぁぁぁぁん!!」  叫ぶ。渾身の力を振り絞って、大きく叫ぶ。  そのまま走る。少しでも近くに、と。それでも離れる。小夜歌さんと僕との距離が零にならない。もどかしい。なんともどかしい。 「小夜歌さぁぁぁぁぁぁぁん!! きいてくださぁぁぁぁい!!」 「…………」  返ってくる無言。構いはしない。どうせ一方的な強引を示すんだ。  大きく息を吸う。開いてしまった距離のその先へと轟かせるために。  そして、伝えた。 「いつまでも大好きです!! 嫌いになりません!! だから――別れません!! 別れてたまるかぁぁぁぁぁぁぁ!!」  男を見せろ、自分。  言い切り、まだ言い足りなくて、すべてをぶつけようとして。 「――私も大好き!! 絶対に別れたくないよ!!」  かえってきた言葉に。 「…………」  満面の笑みを返すだけにした。  押しが弱いといわれてもいい――泣いている小夜歌さんをみただけで、もう僕の言葉は、それに秘められた想いは、伝わっただろうから。  見送る。満たされた心のままに、別れは寂しいけど、寂しくてたまらないけど。  でも――きっと大丈夫だから。  ゆっくりと離れる船は、いつしか米粒みたいに小さくなって、見えなくなった。