【タイトル】  CROSS!〜物語は交差する〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【サブタイトル】  ≪僕のピアノと、女の子−出会−≫  (第67部分) 【ジャンル】  恋愛 【種別】  連載完結済[全127部分] 【本文文字数】  1993文字 【あらすじ】  舞台は現代風の孤島『風宮島』。主人公は季節を巡って愉快なヒロイン達との物語を築いていきます。一番の見所であるヒロインは、可愛さ溢れて10人以上!諸所に導入されているバトルロワイヤルも必見です。ほのぼので、ちょっぴりえっちなひと時を、味わってくださいね♪紡がれる、自分の心――届くことを、伝わることを願って――CROSS紡がれた、自分の心――届いた、伝わった、心――想い人との愛を育む力となることを願って――CROSS 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************ 「へぇ、愁ってピアノ弾くのかよ……凄いな!」 「ああ……まあ。ちょっと齧ってる程度なんだけどね」  ――なんでこんな話してるんだろう。 「なんで愁はピアノ始めたんだ? 親がやってる、とか?」 「ううん。そんなんじゃなくて……なんだったかなぁ」  ――なんでこんな話してるんだろう。 「まあ、とにかくさ――つべこべ言わず、さっさと弾けよ」 「…………」  ――なんで、こんな話してるんだろう。 『CROSS! An after story〜こうして物語は交差した〜』 ≪僕のピアノと、女の子−出会−≫  僕の目の前に、鍵盤がある。  ピアノの、白と黒の鍵盤だ。  横には、目をきらきら輝かせている美月さん。  ――と、楽譜やらが並べられた本棚。 「こら、愁…………何こっそり大胆と逃亡図ってんだコラ」 「ちっ――い、いやぁ、楽譜が目に入ったもんでつい……」  首根っこを掴まれ、しぶしぶイスへと戻る。  今いる場所は、デパート三階にある音楽店の中。  ――の、ピアノコーナーだ。  結構本棚の数は多く、ピアノの音も良い様で……なんてことを話していたのもあって、このイベントから逃れられなくなったわけで。 「なぁなぁ、はやく弾けよぉ。は〜や〜くっ♪」  ……。  ……。  ……。  ……腹括るか。  僕はピアノの前で両手を構えた。  ――突然だけど。  僕は、ピアノは世界に喩えていいんじゃないかと思う。  白と黒の世界。総てに価値があって、総てが各々に輝いていて、どれも欠かすことのできない――ピアノという世界に必要不可欠なドレミファソラシドの、世界。  ……少し言葉がおかしくなったな。  ええと、つまり、音はひとつひとつが皆違うからこそ輝いていて、それが連なって人の心を動かす伴奏をつくることから、ピアノが世界だと……思ってる、の、かな。  まあ、いっか。  どちらにしても――弾くものは変わらないし、弾くことは揺るがない。  ゆっくりと、ゆるやかに、ピアノへと指を落とした。  『悲愴』第三楽章。感情の波は憤怒に近く、指がひとつでもはずれれば終わりな、音の多い曲だ。  凛とした音を奏でるのに必要なのは、乱雑で乱暴なスタッカートではなく、あくまでもきちんと整えられた強調切り――速さがある程度あって、さらに丁寧さを持ち合わせていないと、この曲は感動を生みはしない。  曲は終盤に入る。音の羅列が減ることはなく、手は序盤よりたくさん動かさなくてはいけないけれど、もうそんな感覚は麻痺しているといっていい。  ただ、連ねることに集中――それが、僕のピアノだった。  悲しくも変えられない、無音の世界だった。  矛盾。音は響いている。美しくかどうかはわからないけど。僕が弾くことで音は奏でられている。  しかし無音と感じることは揺るがなく、この矛盾はつまりはわかり得ていることで。  フォルテッシッシモで締め括る――その勢いのまま、身を後ろへと倒れこませる。  イスごとひっくり返ることはなく、目が天井に向く程度でしかないけれど、集中を断ち切るのと勢いを殺すのとには必要不可欠な体勢で。 「……う〜ん」  その体勢のまま、美月さんの呟きを聴いた。  体勢を直し、美月さんを見る。  美月さんは、少しためらいながらも――言った。 「……なんつーか、心が籠もってないっつーか、さ。上手いのは、上手いんだけど。なんか違うっていうか……」  言って、くれた。  気づいていた真実。それは圧倒的な、強固な壁。  真実は、超えられそうにない壁だった。 「……ピアノを教えてくれた人も、そう言ってたよ」  笑みを浮かべて言ったつもりなんだけど――上手く笑えてないことがわかってしまって。  それで、自然と笑みは小さくなってしまって。  冗談っぽく、軽い調子でと願うのに――自然と、沈んだ心がそのままに現れてしまって。  これじゃあ美月さんを居心地悪くしちゃうって、わかってるのに――笑みから、哀しい感じを取り除けなくて。 「ポカポカポカポカ……」  ――いきなり美月さんに頭を連打された。  ちょっと、いや、大分痛い。  反射的に、美月さんへと背を向けつつある身体。頭の連打は避けれないって気づいてるけどさ……不可抗力というかなんというか。 「美月さん、やめ――」 「お前はバカだよ」  連打の最後を飾るのは、とても弱い一打と。  ――泣きそうな、声。  それを無視できるわけもなく、僕は自然と言葉を止める。  そして――強打を食らった。  視界が飛んだ、気がする。  意識が飛んだ、気がする。  ……ってか、マジ飛んだぞ多分。  ガァンガァンとする痛みの発信源を両手で抱え込み、思わず蹲る。  膝の間に頭を入れての……三角座りってやつだ。  なんかものすごくいじめられっ子っぽいぞ、自分。  クスクスという笑い声が、耳に入ってくる。僕はのっそりと頭を上げた。 「まあ、なんだ。これで余計なこと、考える余裕なくなったろ? 後ろ向いてちゃだめって、お前が教えてくれたんだろうが――ちゃんと前向いてろ」  美月さんの言い放った言葉は、乱暴で理不尽で。  ――少し優しいように、感じた。