【タイトル】  CROSS!〜物語は交差する〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【サブタイトル】  朝起きたときの話2(第69部分) 【ジャンル】  恋愛 【種別】  連載完結済[全127部分] 【本文文字数】  5171文字 【あらすじ】  舞台は現代風の孤島『風宮島』。主人公は季節を巡って愉快なヒロイン達との物語を築いていきます。一番の見所であるヒロインは、可愛さ溢れて10人以上!諸所に導入されているバトルロワイヤルも必見です。ほのぼので、ちょっぴりえっちなひと時を、味わってくださいね♪紡がれる、自分の心――届くことを、伝わることを願って――CROSS紡がれた、自分の心――届いた、伝わった、心――想い人との愛を育む力となることを願って――CROSS 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************  朝起きたときの話  CD  落ち葉  別れ  私はあなたしか愛せない。  私はあなたしか愛せない。  それは、あなたがあなただから。  どんなに嫌いと思っても。  ぶっきら棒で、投げやりな笑いひとつで私は恋に落ちてしまう。  あなたが忘れられない。  あなたが忘れられない。  私があなたを好きなのは、ぶっきら棒なその笑顔が綺麗だったから。  あなたを嫌いになんてなれない。  あなたを嫌いになんてなれない。  だから、あなたが笑顔を見せる度――私は何度も恋してしまう。 「……ふむ」  美姫の詩によってつくられた歌(美姫が歌った)を吟味してみたはいいが、困ったことがある。 「なんつーか、暗い。異常に暗い。ってか、暗すぎる」  思い詰めている、と推測すべきか。  だが、これの作者はついさっき「クマさんラヴラヴ♪」などと悶えつつユーフォーキャッチャーで俺が手に入れたクマのぬいぐるみかっこじじいバージョンかっこ閉じるを抱っこして満面の笑みを浮かべていた気がする。  何かを思い詰めてる感じは全然なかったと思うのだが…… 「ならば、だ」  なんでこんな詩を書いたのか。  世の中には哀しくなくても哀しい詩を書ける天才作詞家もいるだろうし、美姫がその天才作詞家の一人か天才作詞家になる才能を持っているとも考えられる。  しかし、もしそうだったならば―― 「天災作詞家だなぁ……」 「なんでそうなるのかなぁ? お・と・う・と・く・ん♪」  振り返る。  青筋をピクピクさせた美姫を見ることとなって、少し後悔――いや、大分後悔。 「どうした?」 「どうしたじゃないよ……なんで、私の部屋で、こそこそとクローゼットの中を――も、もも、もしかして、ついに決心がついたの!?」  何の決心だ。 「待ちに待ったときがきたですよ……あの夏の、戸惑いから出ちゃった弟君の行動は、ぎゅっと受け止めて水に流してあげるね♪」  あの夏ってどの夏――ああ、あの夏か。 「美姫、落ち着け」 「落ち着いてられないよ〜♪ ああ、もう、ニヤニヤが止まんない♪」 「何を想像してんだ」  俺の意見を無視して上の空な表情を浮かべている美姫は、正直引ける。  なんだか鹵獲された気分……美姫によって煮たり焼いたりされそうだと言わざるを得ない。  ならば仕方ない。 「UFOキャッチャー」 「その手には乗らんぞよ!」  美姫の頭を鷲掴みしようとして伸ばした手を、裏拳にて弾かれてしまった。  悶えてたんじゃないのかよ。と愚痴りたくなるほどに、速い。  しかたなく距離を置こうとして、美姫の抱きつきを真正面から受けた。  そのままゴォトゥベッ――って、まてまてまてまて。 「落ちてたまるかぁぁぁぁぁあああああ!!」  金髪と化して超祐夜に変身、した気分でガッと踏ん張り。  バリッ  という落ち葉が足で踏みしめられるかのような音とともに、俺は何かを踏んだ。  美姫からの圧力が消える。俺のなかで、ちょびっとだけ余裕が創られる。意識を、妙な音を発した物へと移すことができるようになる。  ということで、視線を下へと下ろしてみる。  下へ下へ。美姫のスリムで美しい身体の曲線が美しくってむしゃぶりつきたくなる。いやそれは関係ない、下へ下へ。うん、下へ下へ。  そして、自分の足元を見た。 「アーッ!」  アーッ!  アーッ!  アーッ!  アーッ!   ……という反響を付ける予定でしたっけ、ディレクター?  なんていう舞台裏の話はともかく。 「私のCDが割れちゃってるぅぅぅぅうううう!?」  やっぱり女の子なんだな。"ぅ"の数と"う"の数が俺よりひとつずつ少ないよ。  うん、なんか嬉しい気分だ。これはきっと、美姫の女らしいところを見れたからだろうな。  誰だCD露出させといたのは。  クマのぬいぐるみかっこじじいバージョンかっこ閉じるで喜ぶんだもんな。女らしいはずだよ。うんうん。というか、思い返れば結構美姫の女らしい行動とか仕草とか見た気がするな。元々、それほど男らしいってわけじゃなかったんだな。俺の見解違いだったか。齟齬ってやつ? まあ、そんな感じじゃなくなくなくない? なくが多すぎて意味わかんねぇよ。アッハッハッハ!  謝るべきか否か。  いや、待て。これは本当に俺が悪かったのか? 俺は馬鹿だ。はっきりいえる。他人に誇れるほどに馬鹿だ。前に一度『バルメテウス・ガルウムの編み出した裏定理というものがあってな。この世の数学問題総てが解ける定理らしく、それでは頭使えないじゃんと思ったアホ賢者共によって闇に葬られたらしい。悲しくもバルメテウス・ガルウムは毛炙りの刑にて死亡してな――なんて話はともかく、そのすぅっばらしい定理がネット世界のどこかにあるらしいコイ(禁則事項)ドメインなるものにて厳重保管されているらしい。ふんもっふ! だと言わざるを得ないな。同士よ? ハッハッハッハッ!』という御劉の言葉にだまされ一週間徹夜してしまうほどの馬鹿が俺だ。俺は馬鹿の代名詞といっても過言ではない。  そんな俺には馬鹿だからこその『解らないところが判らない』スキルがあってしまうため、つまりはこの客観的判断に穴があるかどうかも分からないということになる。  っていうか、穴という欠陥を生むための下地になれるほど俺の判断は良い筈がない。  ということは、だ。 「謝らなくていいよな?」 「爽やかな笑顔で何断言してんの!? バッカじゃないの!? アンタなんて馬鹿の中の大馬鹿よ!!」  ふぅむ。美姫の言動にツンデレキャラ風味な部分が見られるな。 「美姫。お前はツンデレなんていう属性を持ち合わせてはいないんだ。有意義に、自由気侭に、デレデレお姉さんの座を独占していればいい……まあ、CROSS! 2nd〜そして、物語は交差する〜ではお前の座を奪い取っちゃいそうなヒロインもいるにはいるが、あれはどちらかといえば学園のヒロインっていう属性に――」 「……話の噛み合わなさに呆れて、怒りもどっか行っちゃったよ」  そう言いつつ、さっさと部屋から出て行けよコラの威圧は消してくれないんだな。  仕方なく部屋を出て行こうとする。だが、なんとなく――そうなんとなく、言いたいことがひとつだけあって、俺は振り向いた。  美姫は床に膝をついて真っ二つになったCDをいろいろといじくっている。俺には、美姫の表情が今どんな風なのかわからない。  だから、言えるのか――違うかどうかなんて、どうでもいいことだろう。  どっちにしても、俺は美姫にこの言葉を送るんだろうし、な。  口を開く。 「そんな、彼氏彼女が別れるみたいな歌書くんじゃねぇよ。辛気臭い。 今はそんな風じゃないだろ? 少なくとも、お前がそんな詩を書いちまうほどに態度辛くした覚えはない。それでも不満があるんなら、はっきり言ってくれたほうがまだマシだ。報告してくれれば、まだ俺が善処すりゃいいだけの話――」  なんとなく恥ずかしい。美姫に背を向け、まだ溜まってる言葉をどんどん放つことにしよう。うん、それが一番だ。 「とにかく、だ。俺とお前に、その詩みたいな距離はないだろ? どうせなら、今を歌おうぜ。 楽しい感じ、嬉しい感じ、幸せな感じに温かい感じ」  勝手な要望だ。なんてことは自分でも分かってるよ。  でも――俺は、馬鹿なんだ。  枯葉みたいで貧相なコンパクトディスクに込めるものは、みんなで聴けるものにしてほしい。 「鬱っぽいことに、良いことなんてありゃしねぇよ。視野が狭くなって、幸せを幸せと感じられなくなって、幸せがなくなることを拒まなくなって、幸せを自分から手放そうとしちまう、病気みたいなもんだ」  美姫は、自分で作ったものを俺たちに晒すことはない。  だから、これが初鑑賞になるわけだが――ほんと、何が哀しいんだろうね。家(うち)の御姫様は。 「お前には俺がいる。優衣もいる。お前が、さっき言ったみたいな病気にかかっちまっても大丈夫だ。俺たちは家族。家族の絆ってもんは、そう簡単に消せねぇ。っていうか、俺はお前との絆を消すつもりはない。」  ああ……何言ってんのか、わからなくなってきた。  適当なところで区切るのが得策かな。 「っつうわけで、もっとパロディめいた文(もん)を書け。これは家長命令だ。どうせなら萌え萌えな感じがいいな。お前の座だと、結構良い萌え萌えが書けるんじゃねぇの?」  適当なところがどこかはわからないが――ええい、適当だ。 「反論がないってことで、これからは萌え萌えな詩で決定な。それじゃっ」  さっさとぱっぱと退出する。  ドアをバンッと閉め、背中を当てる壁として活用し、一息の脱力。 「それにしても……落ち葉だなんて、比喩にミスったな」  窓の外を、見る。  真っ裸の木は、枯れてるにも等しいほどに頼り無げで霧消に寂しい。  春がくれば、また葉を積もらせることだろう。  出会い、別れ、再会を謳うかのような――四季に翻弄される木々の詩。 「ブルーな気分が消えねぇ……」  これも全部、美姫のせいだな。  まあ、今回の説教で改心してくれれば万々歳。ブルーな気分になってまで言い聞かせた甲斐があるというもんだ。  柄にもないことを言った、気はする。  そして――柄にもないことを返された、気がする。 「ありがとう、か……」  もう少しはやく退室していれば、聞けなかったんだろうか。 「イフの話は、止めとこうか」  これじゃ、美姫と同じじゃねぇか。 「別れは、ない」  美姫が不安がってる、詩が教えてくれたこと。  誤解でもいい。ただそう感じて、俺も不安になっただけだ。 「どうせいっしょにいるんなら、笑顔のほうが楽しい」  そして、こんな感じのことを身勝手に思っただけ。  俺たちの関係は、落ち葉みたいに踏みしめられるようなもんじゃないだろうから。  それでも――いつか、別れるときは来るんだろうか。  岐路はいつか、大体はわかってる。卒業なんていう、分かり易い看板を掲げてるからな。  そこから先は、各々が各々に選んで進んでいく。そこでまた、各々は様々な出会いを得て、また岐路に訪れ、別れを得る。  甘い時間と、苦い時間の、繰り返し。それが人生、と言い切っていいのだろうか。  でも――俺は、馬鹿なんだ。  そんな哲学的なこと、この俺が興味を持つはずがない。テスト勉強ほどの危機感をくれないからな。テスト勉強ほどの危機感を超えても、興味を持たないことも稀にあるが。  ……訂正、大分ある。  まあとにかく、だ。 「俺は美姫と別れるなんてことはないからな。それを、もっとはやくから相手方にもはっきりさせておくべきだったんだ」  ちょっとだけ反省。  それでもまあ反正できたようだし、良いだろう。 「まったく、かったるい」  かったるい一日でした、と言って眠りたい。 「というか、まじで寝るか!」  なんか名案を思いついた気がして、気分良い。  目覚まし時計で寝る時間を決めるほどお堅い人間ではない。優衣か美姫が起こしに来たときが、起床時間ってことで。 「寝〜よ〜寝〜よ〜♪」  走る、走る、走る。冬の寒さが、少しばかり身に沁みる。  それじゃあ、本当に寝るとしますかね。  布団の温かさと、その後に交わすであろう温かい会話。その二つが、最高の楽しみだから――なんて言うと、柄じゃなくて少しこそばゆいな。  まあ自分は詩なんて書いたことも思い描いてみたこともない、素人の中の素人だから、今考えたのも駄目駄目かもしれんが。  それでも、な。  俺の、今の幸せを表すに合う――最高の言葉な気が、してしまう。  自信過剰結構。自画自賛結構結構。  自分の心にあるこの満足感を表してみたかっただけだ。もう二度と思いもしないし、表しもしないし、伝えたりはもっとしないだろう。  だけど――在ることだけは、忘れずにいたい。  当たり前なこの日常がとても大切なんだってことを、俺は必ず忘れてしまうだろう。  多分、それを分かっていなくちゃならないときが一番忘れてる。人間だから、なんてことで流して良いことじゃなくて。  だから、言葉に表し留めておくのではないか。  大切だと思うことは、見えないからこそ、しっかりと刻み込むのではないか。 「そうなると、やっぱ美姫の書いた詩(もの)は間違ってるってことでいいんだよな」  別れの哀しみなんて、書き留めなくて良い。  哀しみの詩は、癒えにくい心の傷を開くだけだろうから。  できれば、美姫にはそんな詩――書いてほしくない。 「俺も、失笑されちまうほどにシスコンか」  美姫のことを煙たがるなんてできないな。  まあ――ブラコンとシスコンで、溺愛し合うのが、つりあってるっていえるかはわからないけれど。 「――っと」  自失して自室を過ぎてしまいそうでした。  ……。  ……。  ……無理に笑ってくれなくて良い。ちょっとした親父ギャグだ。 「それじゃあもう一眠りもう一眠り」  誰が起こしにきてくれるんでしょうかね。  まあどちらにしても――愉快にニコニコと笑い合えれば、これ以上ないくらいに心地よく起きられるんだろうけどな。  限りなく素晴らしいワクワクドキドキが待っていることを願って眠ることにしますかね。  ……。  ……。  ……ぐぅぐぅ。