【タイトル】  CROSS!〜物語は交差する〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【サブタイトル】  五、少女は言った。(第81部分) 【ジャンル】  恋愛 【種別】  連載完結済[全127部分] 【本文文字数】  2487文字 【あらすじ】  舞台は現代風の孤島『風宮島』。主人公は季節を巡って愉快なヒロイン達との物語を築いていきます。一番の見所であるヒロインは、可愛さ溢れて10人以上!諸所に導入されているバトルロワイヤルも必見です。ほのぼので、ちょっぴりえっちなひと時を、味わってくださいね♪紡がれる、自分の心――届くことを、伝わることを願って――CROSS紡がれた、自分の心――届いた、伝わった、心――想い人との愛を育む力となることを願って――CROSS 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************  回避、回避、回避、回避―― 「くそッ!」  フェイントを混ぜて此方を射抜かんとする二つの漆黒に、祐夜は悪態を吐いた。  放つ斬撃では、漆黒を分断しかできず、抹消は不可能。  圧倒的不利な祐夜は、此方を破壊すると宣言した其方の敵を睨むことすらできない。  意識を離せば、今の極限状態が崩れてしまうからだ。  ぎりぎり回避できている現状況が崩れる意味――考えるだけで心が挫けてしまいそうだと、祐夜は汗を流す。  その視界の端、黒い何かが駆けて来る|感じ(・・)がして、祐夜は半歩分退いた。  ジャックスレイヤー  察知どおりそれは闇。  それが祐夜の足元ぎりぎりに落ちて――波動を撒き散らした。  祐夜は目を瞑りそうになって、更に半歩退く。  そこへ飛来するのは、黒でなく――此方の破壊者その存在(もの)。  腐敗堕天使を思わせる、畏怖の歩み寄り。速い。此方が反応しきれないほどに。  自分の身体が動けていないかのような、そんな錯覚――祐夜は無理やりに身体を捻った。  振るう一撃が男へと追いつく。男の側面を叩く一撃は、しかし男に察せられて片腕に相殺される。  同時、錯覚の一瞬が過ぎた祐夜は、男が再度己へと意識を戻すより速く更に動き出した。  男の繰り出す拳が祐夜の残影を斬る――間一髪の回避。  地を滑り行く祐夜を追う黒もまた、的を逃す。  十歩程度の距離を開けた祐夜は思考し始めた。  拳を振り終えた体勢から、立ち上がる男の様は。  まさに、殺戮劇(グランギニュール)の主人公。  CROSS! Fantasia〜もしもを超えての、想いの交差を〜 「……なんで」  男は聞く。  的(てき)の声を。 「なんで俺を殺そうとなんて……」 「貴様に罪はない。俺の勝手なのでね」  そう、勝手なのだ――男は己の中で反響させる。  勝手のままで終わらせる。総てを巻き込まぬ内に。  言葉にした、決意の一角。迷いはない。戸惑いはない。直線。折れはしない直線。 「勝手で殺されること、憎しんでくれていい」  体現の一撃で終えんとするのも、いい。  見させはしない。捉えさせはしない。神速。そう、神速。 「処斬は必中……」  両掌を其方へ。男は絶対を目論んで、そして為す。  出でる。  出でる。出でる。出でる。出でる――  ジャックスレイヤー  出でた闇は滅び。滅ぼす刃。  それは真っ直ぐと其方へと伸び、突き刺さり、打突をやめ、威力の半端以上で地を壊し―― 「――贖罪の煉獄に、鎖せ。悪なる螺旋の虜どもを、今再び」  其方にいるはずの祐夜の立つ、道となった。  一歩。男は驚愕して、伸びるジャックスレイヤーの延長を翻させる。  二歩。溜めのない打突の猛進が追いつかない錯覚を得て、男は怒りを駆り立てた。  三歩――錯覚は現実となった。 「ぉぉぉぉおおおオオオオオオ!!」  剛刃。一蹴の一撃。一掃の必殺。  負けるわけにはいかないというのに――男は想う。想い、そして。  そして、抗った。  迫る凶刃から逃れるため、身を退く。躱(かわ)せと願う故の、全力離脱。反動など知らぬ。何を以ってしても、抗わなくてはならないのだから。  そして、抗った。  粉微塵の自分は避けた。瓦解の自分は逃れた。在る。在る。在り続けている。  打倒の否定。否定した。否定したのだ。生にしがみつけたのだ。  "喉から手が出るほどに、欲したる此方の瞬が訪れる――\"  さあ、打倒の復讐を為そうではないか、さあ、圧倒の仕返しを成そうではないか。さあ、成すために疾駆しようではないか。  そう想って、しかし男は見た。  見て、しまった。  その瞬間で時が止まったかのような錯覚。  呆然しか与えられていない自分の見る、それは。  ――己より出で、己へと戻る行く、滅びの黒。  男は知った。  理想の髄より手に入れ握り締めた己の刻は、しかし錯覚なのだと。  男は貫かれた。  己より伸ばした、殺意の刀によって。 「やった、か……?」  祐夜はふぅっと息を吐く。  朱(あけ)に染まる地。見るに耐えない。  目を逸らし、思い当たった。 「美姫……」  辺りを見回す。  聖堂の大分を占める石版。そこに描かれる三匹の竜。そんなもの、どうでもいい。視線を更に配る。  そして――美姫がいないことを察した。  どこに行った。自問。答えはでない。出せるはずがない。 「美姫…………」  最後に見た美姫の表情を思い浮かべ、祐夜は石版を見上げる。  ガチャンという音が、響き渡った。 「ッ!?」  石版が|石版と見れなくなった(・・・・・・・・・・)ことに、祐夜は目を見開く。  そして、見た。  華を。  花のような、華を。  花のように咲き誇る、可憐を。  人形のようだと、祐夜は思った。  美しいと、祐夜は思わざるを得なかった。  少女。白の花嫁と喩えるに相応しく思える装束に、永久(とこしえ)に眠る姫と喩えるに相応しく思えるその姿の、金髪の少女。  瞳の色はわからない。目蓋が閉ざされているから。死んでいるかのような静けさ、しかし神々しさを纏うその姿は生命力が溢れているように見える。  肌は、どう見ても白くはない。血色のいい肌色。死んでいるのではないかと疑うことはない。生きていると感じざるを得ない。  そんな少女が、見れなくなった石版の代わりに飾られていた。  呆然とする。  眺めるしかない。  祐夜は、ぶっ飛んだ思考をどうにかしようと試みて――見た。  両手でぎゅっと腰の前に構えている花束が、此方の目の高さまで落ちていく様を。  一瞬後に、ガクッと安定を失い落ち行く少女の様を。  それを見た祐夜は、反射的に身体を動かしていた。  少女へと両腕を伸ばし、掴み寄せるのではなく抱(だ)き寄せて、グッと抱(かか)え込む。  勢いを殺しきったと感じた祐夜は、少女から身体を離した。 「…………」  眠っているように見える。  息をしているかと思って、しかしあまりの少女の美貌に、顔を近づけることをためらわされた祐夜は、確認を戸惑う。  そんな祐夜の目の前で――少女は目蓋を、静かに開けた。  澄み切った蒼の瞳に、祐夜は思わず見とれてしまう。  少女の瞳をじっと見ている内に、その瞳が自分に向いていると気づいた祐夜は、視線を逸らす。 「――つれていって」  だが、少女の呟きに反応して目をもどした。  少女は、その容姿に似合わない大人な無表情を浮かべて――言う。 「鏡の向こうに、つれていって」