【タイトル】  "はい" 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【ジャンル】  恋愛 【種別】  短編小説 【本文文字数】  1114文字 【あらすじ】  夏の日の図書館。夏休みの前って、期末テストがあるんですよねぇ。 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************ 「はいを言ってはいけないゲームね」 「は……うんうん」 「高いって英語でなんていう?」 「エクスペンシィブ」 「肺ってなんて読むっけ」 「さあ?」 「そこの本取ってくれる?」 「はいはい」  しまった。頭を抱えて唸る。片手に持った分厚い書物がごんとぶつかった。  図書館の書庫の一角。炎天下の外と違い、快適な涼しさに満ちている。  こちらが顔をしかめるのに対し、勝利の笑みを浮かべる彼女。セミロングの茶髪を揺らして、鈴のような声で笑った。  ……俺達は、夏休み直前の定期テストを乗り切るために勉強会を開いていた。  夏休みを丸々楽しむために最低でも赤点は避けねばならないが、それほどの実力すら欠けているかもしれないのが俺だ。勉強会というよりも、彼女が俺の家庭教師になってくれていると言った方が語弊が無い。しかしそれだと気分が落ち込んでしまうので、表向きはやはり"勉強会"と言っておきたい。  俺が教科書の問題を解く中、彼女はレポートの作成に熱意を注いでいる。こっそり窺った結果、そのレポートは夏休みの課題のものだと判明した。  ――目前に迫るテストで必死な奴を前に、もう夏休みのことかよ。  優秀と並以下の差と断言されてしまえば、何も言えないのだが。考えを巡らせて釈然としないのはいつものことなので、すなおに勉強を再開する。  だが、数分も集中しないうちに困ったことが起きた。 「しりとりしよっか」  ……彼女は、相当暇なようである。  先ほどの"はいを言ってはいけないゲーム"同様、彼女はたびたびゲームを持ちかけてくる。このしりとりという言葉も今で三回目で、もうネタも尽きたというかなんというか。  でも、付き合わねばならない義務もあるわけだ。俺と勉強なんてしなくてもいい彼女が、わざわざここに居ててくれる。俺は感謝を示さねばならない。  彼女が退屈しているならば、そこから引き摺りだしてやるのが俺の使命というもの。 「じゃあ"はいしか言ってはならないゲーム"をしよう」 「ん。は〜い」  興味津々と言った風に、彼女がきらきら瞳を輝かせて顔を寄せる。そのあまりの食い付きっぷりに決心が揺らぎそうになった。  ……ギャグネタとしてはぎりぎり。いや、セクハラかなぁ。  突発的なその案に、いまさら不安をおぼえる。今さらやっぱしりとりしようとも言えない。  せめて、恥ずかしいだけでありますように。死エンドだけは勘弁してほしい。あと、このまま彼女が立ち去るのも困るな。とにかく、一番理想的なのは彼女が笑い飛ばしてくれることだ。祈願、祈願。  ごくりと、生唾を飲み込んだ。  そして、尋ねる。あのさ―― 「俺のこと……好きか?」  答えは"イエス"だった。