【タイトル】  夏の終わりに届いたメール〜今日という日が最後なら〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【ジャンル】  恋愛 【種別】  短編小説 【本文文字数】  753文字 【あらすじ】  今日という日が最後なら――僕だけが本気だった夏休みの恋人ごっこ。 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************  太陽が真上を向いている。 『会いたい』  大きな噴水のある街。僕は、人の喧騒から距離を置かれて立ち尽くしていた。  メールを打つ。相手は、僕の彼女――いや、僕の彼女だった人。  夏の終わりの日、別れると決めた。人混みの中でも目に留まる彼女、人混みの中ならより一層見つけにくくなる僕、どうせ無理な話だったのだ。  彼女は、告白されれば合わない相手とも付き合う。気に入らなければ、最短二ヶ月で縁切りと噂だ。 『待ってる』  ドラマティックにどうにかなると本気で思っていた。外見は悪いけれど、内面を知ってもらえれば……自信過剰気味に、そんなことを初めは考えていた。  でも、僕みたいなやつではどうもなりはしなかった。最短二ヶ月という噂を塗り替え、その上、手すらも繋がなかった恋人関係はたった三週間。  別れると彼女に言われてすぐは、どうにかできないかと悩んだ。  僕と居ると彼女がつまらなそうにするのは気づいていた。でも、時間が経てば、彼女を笑わせてあげられると妄信していた――時間さえあればと、彼女への執着。  でも今では、決心がついている。  けれど想いがくすぶり続けて、どうしようもなくて。最後だから、最後くらいは恋人らしく振舞いたい。  ……今日という日が最後なら、せめて彼女の背中が小さくなっていくのを見届けたい。  一時間、二時間、三時間が経って、まだ彼女が来ない。  人通りが少なくなってきている。けれど彼女はどこにもいない。  まさか送信ボタンを押し忘れたかと、携帯を再確認する。 『送信できませんでした』  ――噴水が鳴いている。悲しげな音をたてて立ち昇っている。  その音にかき消されるように、彼女との思い出がひとつずつ消えていって、  留めるための彼女の名残なんて、僕の手元には何も無くて、  忘れていく。忘れられていく。そんな、僕だけが本気だった夏休みの恋人ごっこ。