【タイトル】  入園式 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【ジャンル】  コメディー 【種別】  短編小説 【本文文字数】  1158文字 【あらすじ】  その名のとおり――季節イベント行事ショート・ショートの消化。ほのぼのでのほほんで計画に優しい掌編が書きたかったから書き上げた。後悔はしてない。原稿用紙一枚ものに挑戦中☆日常の人は常にいろいろ考えてる、と伝えたいかもしれない。 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************  入園式  待ちに待った入園式だ。  この"待ちに待った"の場合について、私は少数の部類に入る。  私は園児達を教育する側なのである。  しかも、今年からなのである。  どうしようなのである。  ……む、無理だとか後ろ向きなわけじゃないから。うん。今のはちょっと本音が漏れたってわけであって、ああそれだとやっぱり後ろ向きってことにぃ。  そうこうしているうちに、ざわざわと園児達が退場していく。  私も、私の組の園児達を先導せねばならない。慌てて、目の前で列を成す子供達に笑顔を振りまいた。 「お姉ちゃんに付いてきて下さいねー」 「お姉さん、ばら組だよね。ぼくたち桃組だよー?」  なぬ。ま、間違えたっ。  指摘してくれた桃組の園児に、偉いねーと言葉を送る。笑みはたぶん引き攣っていただろうが、妙に物分りが良い子らしく、ニッコリ微笑んでくれていた。  手を焼かない子は美しい――いや、そこまでまだ子供に触れ合ってはいないけど。  私は桃組の列から離れ、ばら組のイラストを左胸に付けた子を探す。思ったよりも遠くて、三列向こうにその子達は並んでいた。  先生と園児は近くにしといてくださいよ……組み合わせて解く問題でもあるまいし。園長への愚痴は、最速で打ち消して、 「さあ、お部屋に行きましょうねー」  私はニッコリ爽やか笑顔(営業スマイルとは一味違う)を浮かべ近寄った。  すでに桜組、すみれ組は部屋へ行ったようだ。ちょうど式会場の出口は誰もおらず、都合良い。  思ったよりも園児達は賢く、行儀が良い。ときどき目を配りながら、私は先を行くのだが、おしゃべりに気をやって列を乱すような子はいない。  特に声を飛ばすこともなく、部屋に着いた。脳裏に組み上げる文と、それをにこやかに穏やかに言う自分のイメージ。そんなことに気をとられていたせいで――やらかしてしまう。 「あいたっ」  蹴躓いた。すってんころりん、前転もどきで右側の壁に大激突。  背中からどーんとぶつかっちゃった……痛い。ものすごく痛いであります隊長! 隊長って誰よ。  ハッ。 「ご……その……ぇ…………え、っと」  姿勢を正さないまま、呆然とする園児達に言葉を漏らす。中身が無くて吹っ飛んでしまった白い小棚が、どてんどてんとまだ転がっていた。  ――園児の一人が、それを止める。  更に二人が加わって、小棚がおいしょおいしょと運ばれる。私の横にそれが下ろされて、ぞろぞろと何事もなかったように園児達が室内へ入る流れを作る。  最後尾の女の子が、私に言った。 「世の中"もちつもたれつ"です、仲良くしましょー。お姉さん」  思ったよりも園児達は賢く、行儀が良い。  ……たぶん私よりも、ドジは少ない方だろう。  ずるずると、私は横に倒れる。室内で整列する園児達が私を静かに待っているのだと分かっているから、余計立ち上がるには時間がかかった。