【タイトル】  どろんこ田植え 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【ジャンル】  コメディー 【種別】  短編小説 【本文文字数】  915文字 【あらすじ】  その名のとおり――季節イベント行事ショート・ショートの消化。ほのぼのでのほほんで計画に優しい掌編が書きたかったから書き上げた。後悔はしてない。原稿用紙一枚ものに挑戦中☆日常の人は常にいろいろ考えてる、と伝えたいかもしれない。 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************ どろんこ田植え  青い空。  白い雲。  どろどろでねばねばでぐちゃりぐちゃりな田!  ……嫁の実家での手伝いにしては、あまりにもモダンじゃないだろうこれ。  米を食って生きているのは日本だと殆ど全員であるが、米で食っていってる家庭というのはあまりにも稀だ。  いや、もしかしたら田舎の地での恋愛ならふつうなのかもしれない。しかし、俺と彼女が出会ったのは都会、しかも電車の中、  ――俺が彼女に汚い手を向けた、初めての時。  それがこんなことになるとはその時の俺が予想していたとは到底思えないが、そんなこんなはさておき田んぼである。  彼女の実家の手伝い、というのは前に言ったか。肉体労働というジャンルにおいて星五つを与えてもいいくらいに大変だ。ぶっちゃけ重労働すぎる。  何がつらいかって、脚がにゅっぺりと浸かって思う通りに動かないことが断トツつらい。たまにずぼずぼ埋まるから、実は底無し沼に立ち入ってしまったのではと度肝を冷やす。  どろんこの中でこんな、咄嗟に手を掴む場所も無い危険な田植え。  ……なんで俺こんなことしてんだろ。 「わぁっ」  声を聞いて、振り返る。  沈んでいた。尻から、ずぶずぶズブズブと。どうやら、ちょうど尻餅をついたその場所が底無し地域だったようだ。 「ふぇぇ!? ちょ、だ、誰かーー!」  ふむ。困惑の極みにあると見計らったのだが、ちゃんと救助要請ができるとは。彼女も、ちゃんと成長してるんだな……身体の方は気にしなくていいんだが、むしろ精神に退化の傾向が見られてな。ちょっと心配 だったんだ。まあ、良かった良かった。うんうん。 「沈むぅ! 食べられちゃうぅぅ! やだっ、新婚さんになったばかりなのにぃ。もっと彼といちゃいちゃしたいよぉぉぉ!!」  ……さて、そろそろ助けるか。  近寄って、腕を力一杯引っ張ってやる。  ズポッという音がして、どろんこになった彼女の尻(ズボンの部分である。裸の方は無事、たぶん)が食事されずに済んだ。  ふぇぇと安心する彼女。ほとほと付き合いきれなくて、苦笑しながら俺は言う。 「俺が居ないと駄目だな、お前は」 「……うん。やっぱり、君が居ないと駄目だな私は。あの時から、ずっと、そうだもんね」  そういって、彼女は優しい光を携えた瞳で俺の眼を見て、微笑んだ。