【タイトル】  ライトファンタジー〜勇者と魔王〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【サブタイトル】  FILE10:サクラの戦い、そして次なる戦い(第10部分) 【ジャンル】  ファンタジー 【種別】  連載完結済[全82部分] 【本文文字数】  4276文字 【あらすじ】  語られるは旋律、輪になって踊る道化師達の伝説。ある道化師は勇者の名を語り、またある道化師は魔王の名を名乗り。王道から成る、世界の真実をぶち壊す、ファンタジーストーリー 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************ FILE10:サクラの戦い、そして次なる戦いの始動       「はぁぁぁあああ!!」  サクラは爆炎を放つ。  忍者側から放たれたクナイに、宙で打ち消されるが、あたりを煙が覆った。  サクラは煙に紛れるようにして忍者の輪から抜け出す。 「へへんだ!」  サクラは炎翼をはためかせ、舞い上がる。  サクラは両の手を下に向け、魔力を高める。     【マシンガン・オブ・バニング】      魔力が両手と同じ長さの赤い幕になると、そこに炎の弾が生まれる。  その数は無数、幕が揺れると幕の色の濃度が変化し、四つ以上の弾丸が生まれては放たれる。  忍者がいるであろう場所が弾丸の雨を受け、煙に包まれる。  だが、サクラの左右にひとつのクナイが迫る。 「はっ!!」  サクラは両手をおおきくひろげ、幕を広げる。  幕とクナイが触れ合い、クナイが溶け消えた。  忍者が刀を構え、サクラのいる上空に跳躍すると、サクラに疾速の斬撃を放った。 「遅い!!」  サクラは両拳に炎を纏わせ、斬撃を押さえつける。  忍者等は刀を持たない方の手で印を結び始めた。 「忍術か!」  サクラには、印結びを阻止する術がない。  印結びが終わった忍者等は片手をサクラに振るった。     【剛拳速振・土竜斬】      茶色い気を纏った斬撃がサクラの前と後ろにぶち当たる。  サクラは衝撃に体勢を崩し、炎翼を保てなくなる。  サクラは落下し、忍者等はサクラに向かって落ちてくる。 「今だと、両手は使えちゃうんだな〜〜」  サクラは笑みを浮かべながら両手を重ね、炎をまき散らせた。     【バニング・ブラスト】      小さな火の粉が舞う最弱炎魔法。  忍者等は体をひねるが、炎に直撃した。 「よっ! と」  サクラは地面に触れる瞬間、地面に手をおいて上手く着地し、その場を離れる。  対する忍者は着地体勢に移れない。     【FLAMEゲト】      先ほどサクラが手をおいた場所が赤く光り、小さな丸になる。  その丸は一気に拡大し、マグマが煮えたつ沼となった。  忍者等は身をひねるが、一直線に沼に落ちた。  サクラはそれを合図に、片手を掲げて拳をつくる。 「閉!!」  沼がぐつぐつと煮え音を響かせながら、この空間から在ることをやめた。  あとには、サクラの乾いた血痕が沼跡にのこる。 「ふぅっ、けっこう疲れたな〜〜」  サクラはそういいながら、自らの心臓、それとともにある玉に触れる。  わずかな、二つの鼓動が手に感じられる。  鼓動にリズムはなく、ずれあっている。  サクラは目を閉じ、深呼吸をする。  サクラの額には汗がにじんでいた。  鼓動が重なりあい、一定のリズムをとり始めたとき、サクラは胸から手を離し、額の汗をぬぐい取った。 「さて、リュークス君に加勢しないと。  グルバルドゥムに、リュークス君の攻撃は効かない」  サクラは炎翼を生み出し、魔力のぶつかりあう戦場へと参戦しにいった。         「はあ・・・・はあ・・・・はあ・・・・」  リュークスは荒い息づかいで酸素を取り入れる。  気を引き締めると同時に、意識を朦朧とさせないようにしていたのだ。  リュークスの右腕に広がりつつある傷は、右腕の感覚を麻痺させている。 「貴様の得物をあつかうのに、片腕では難しかろう」  リュークスが片手で持つ大鎌をみて、卵月はつぶやく。  その瞬間、卵月に黒と紫の混ざった魔力砲弾が放たれた。  放った主はグルバルドゥム。絶対障壁の呪を受けた最強の皮膚を持つ暗黒龍だ。  卵月は焦ることなくその場から去り、砲弾を回避した。  グルバルドゥムは卵月に向かって一直線に突進する。  卵月は刀を構え、グルバルドゥムの進路を無理矢理に曲げる。  グルバルドゥムは無様にも卵月の隣を横切る。  その進路跡には黒い撒血がのこる。  グルバルドゥムについた傷は見た目は小さいまま、絶対障壁をじわじわと破るように深くなっていく。 『クッ、忌々しい蝕みだ。解せぬ』  グルバルドゥムは怒りの叫びをあげる。  卵月はグルバルドゥムから視線をはずし、ゆっくりと迫っていたリュークスの大鎌を素手でつかむ。 「貴様はあとで相手をしてやる」  卵月は腕を振るって、大鎌ごとリュークスを投げ飛ばした。  リュークスは片手なので受け身をとることもできずに地面に叩きつけられた。  グルバルドゥムは口に黒と紫の混ざった魔力を集める。     【ヴェノム・レイ・レイン】      グルバルドゥムから極太の闇粒子砲が放たれる。  それは軽々と卵月を飲み込んだ。 『ふははははは!!これが人と魔の差なのだ!!』  グルバルドゥムは【勘違いする】。  倒れているリュークスに目を移したグルバルドゥムは残虐な笑みを浮かべた。      ――よそ見とは、余裕があるのだな。私、卵月がその余裕を叩き壊してやろう――     【零(ゼロ)・澪(レイ)・次元輪球時空斬(じげんりんきゅうじくうざん)】      グルバルドゥムの頭に足を乗せた卵月。  刀を鞘にもどしたとき、グルバルドゥムの皮膚に亀裂が入っていく。 『うおぉぉ、ウオオオォォォォ!?』  グルバルドゥムは断末魔をあげ、地面に叩き落ちた。  皮膚がなくなったことにより、傷が一気に深まり、突き抜けたのだ。  グルバルドゥムに空洞の穴が空き、血が収まる様子なく流れ溢れる。  それは完全に死骸と化した。 「さて・・・・待たせてしまったな」  卵月はリュークスに向き直る。    リュークスは立ち上がって、動かない片腕を押さえている。  顔は伏せられおり、大鎌は地面に突き立てられていた。 「貴様――呪を解いたというのか?」  リュークスの片腕はきれいに治り、傷一つない状態に戻されていた。 「解いたんじゃない。設定してある腕の情報に巻き戻したのさ、呪が打ち込まれる前に書き換えたともいえる」 「ほう、はじめてみる力だ。だが、私と貴様の実力差ははっきりしている。  私の勝ちは――揺るがない!!」  卵月は走り出しながら手裏剣とクナイを投げる。  リュークスは避けることも、防ぐこともしない。  リュークスは両手を突き出した。  刹那、迫っていた忍具が動きを止める。 「あなたを倒す理由はない。だが――倒さない理由はもっとない」  リュークスは顔をあげ、【黄色い瞳】で卵月を睨んだ。  片手が空間から消え、手首にブレスレットのように魔法陣が現れる。  卵月は不振そうに目を細めた。 「幻術――違うな。膨大な魔力が貴様の手の先、別空間に移った片手を包んでいる。  いや、貴様が掴んでいるのか、なにか――剣のようなものを」 「察しがいい。俺が掴んでいるのは剣であって剣でないもの――空間だ」 「!?」     『適合者認証要請――――確認完了。  害者、被害者設定完了。最強無双・時空夢幻大神剣具現化率80%。  空間接合率90%。 具現物転移先指定完了。極限制御障壁展開。空間破損率0%。  オルクリア』     『勇者限定使用最強神具の具現を開始します』      機械的な声が響き、魔法陣から手が引きずり出される。  その手に持つのは底面に赤い宝石とそれを固定する白っぽい水色のものがある、黒い柄。  そのまま引きずりだした剣を、リュークスは掲げ持つ。  青い刀身を持ち、柄の上、刀身の下に青白い逆三角のものがある。  逆三角には柄の下に付いているのと同じような赤い球体宝石が埋め込まれている。  リュークスはそれを地面に叩きつけた。  光の波動が起こり、リュークスを中心に地面が盛り上がる。  卵月はふんばりきるが、呆然としていた。 「この剣を使うのは久しぶりだ。前に使ったのは何十年前だったかな」  リュークスはその大剣を懐かしむように握る。  卵月は冷や汗を顔ににじませながら、刀の先はリュークスに向けた。 「何だ・・・この力は・・・」 「勇者の持つ力の具現、最強の空間剣、いろいろ言い方はあるが――その身で感じてみろ」  リュークスは剣を振りあげる。  刀身の輝きが増し、剣先に光の球が生まれる。  リュークスは剣を強く握り、振りおろした。     【時空歪曲・空間竜神剣】      光の渦が巻き起こる。  剣の斬撃が渦に飲み込まれ、渦は竜の形になって卵月に迫っていく。  卵月は今ある忍具のすべてと、斬撃を放つ。     【万力扇雨・瞬撃】      卵月の放つすべては、竜の周りの歪みに触れ、ねじ曲がり、砕け散った。  卵月は超巨大な跳躍をする。  竜は卵月の下を通り過ぎ、地面を抉りとった。 「貴様・・・・魔力が違う、人格変化したのか」 「俺はリュークスじゃない、勇者の力を100%使いこなす、元勇者だ」  リュークスは剣を横に振るい、巨大な斬撃を放った。  卵月は二枚の札を取り出す。 「勇者、崇められ自惚れた存在――私は認めない、その存在を!  貴様など必要なき弱者だ、私は貴様を越えている!」  卵月は一枚の札を顔に当て、もう一枚の札を指に挟む。 「これが私の・・・・最強と呼ばれる者の本当の力だ」  卵月は呪詛を読み始めた。     『最高魔力継承者認識完了 壱式弐式参式……全式封印一斉解放開始  肉体亜人化 魔力許容量倍増により危険度零  魔力展開開始 肉体変化開始 空間創造破壊管理魔力全解放終了』     【最強零式 究極解放】      卵月が変化する。  肌には黒い斑点が蠢き、増殖し、卵月の全身に広がる。  卵月は右腕を掲げる。  右腕はパキパキッという音を響かせ、深い闇に飲み込まれた。  そして、右腕はなくなり、渦を巻く闇がのこった。  左腕は黒く変色、肥大化し、翼のように大きなものになる。  隻眼は赤銅の光を放つ。  頭には、めきめきっと音を響かせながら盛り上がっていく角がある。 「魔物――――いや、超魔成獣の肉体か、おもしろいものを見せてくれる」 「それだけではない、私はいま【開花】の上限ぎりぎりの力を手にしている。 【赤銅の鬼魔剛】の正当継承者の私に眠る三つ以上の式の一斉解放、貴様にこの一撃を防げるか?」  右腕の闇の渦に、生々しい目玉が姿をあらわす。  卵月の体が斑点に完全に包まれ、灰色になる。 「【奇の零式】闇と光の境のちから、闇に傾きつつあるな。  はっきり宣言する、闇では俺に勝つことはできない。 【絶望混沌の零】から【星祝の零】にならなければ、貴様は俺に勝てない」  卵月はリュークスを睨む。  リュークスは姿勢を低くして駆けた。  卵月は迎え討とうするかのように、構えをとる。 「「いくぞ!!」」  二人の魔力はぶつかりあった。          ・・・・ポッ・・・・ポッ・・・・  漆黒の男が手に黒い光を点滅させる。  男の前にあるテブルが黒く染まり、ある景色を映している。  そこは、聖堂と呼ばれる場所。 「卵月とかいう忍者のクロンはすべて去ったか、予定通りだ。  そして、グルバルドゥムの死骸もある」  クロンに寄生していた魔物はレイスと呼ばれる霊体。  六つはゆらゆらと、グルバルドゥムの死骸に近づいていく。  リュークスも卵月も、それに気づく様子はない。 「死骸にレイスが宿ればドラゴンゾンビとして我が手中に落ちるだろう。  レイス六つ分の魔力を受けた死骸がどうなるかも調べられる」  男は妖しい笑みを浮かべ、リュークスと卵月の戦いの傍観を始めた。