【タイトル】  ライトファンタジー〜勇者と魔王〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【サブタイトル】  FILE11:深き闇の零式(第11部分) 【ジャンル】  ファンタジー 【種別】  連載完結済[全82部分] 【本文文字数】  5036文字 【あらすじ】  語られるは旋律、輪になって踊る道化師達の伝説。ある道化師は勇者の名を語り、またある道化師は魔王の名を名乗り。王道から成る、世界の真実をぶち壊す、ファンタジーストーリー 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************ FILE11:深き闇の零式            天を駆け抜ける鳥魔は天を引き裂く  望みは主に敵なす者の抹消  汝の剛力の両翼は敵なす者に死の概念を与える  破戒零式序翔・闇鳥剛翼招来刺      卵月の右腕を喰らいきってなお貪欲に渦巻き狂う闇、そこで見開く生々しい無数の目玉が、闇の一点を凝視する。  その場所の闇が濃くなり、闇から抜け出す。  その闇はブメランのような形をして、卵月の周りを飛行している。 「貫け」  闇はその一言で卵月の前にたつリュークスに向き直り、何十もその身を回転させながら真っ直ぐリュークスに駆けた。 「生きる弾丸、か――撃ち落とせば同じだ」      空間傷斬・撃破      リュークスは大剣を真っ直ぐ、回転して黒い玉に見える闇の鳥に振るった。  大剣の光が一瞬強くなり、斬撃が地面をえぐりながら鳥に激突する。  闇の鳥は片翼をいとも簡単に斬撃に奪われ、回転力とともにバランスを失い、地面に叩きつけられた。  闇は霧散し、あとには小さな凹凸が残る。  斬撃は鳥の障害をものともせず、卵月に牙を向く。 「空間技・・・元の精霊から生み出されていないイレギュラ、時の精霊の恩恵を受けた者にしか扱えない剣技。    だがそれには弱点がある、最大の弱点がな」  卵月は肥大化し、翼のようになった左腕を持ち上げ、斬撃を叩きつぶすように振り落とした。  斬撃は腕にぶち当たると、押し破ろうとする。 「弱点は――私だ」  斬撃のまとう光が腕に吸収されていく。  斬撃は収縮していき、腕に押しつぶされた。  地面には無数のヒビが入り、小さい地響きが威力のすさまじさを表している。 「零式――いや、式と呼ばれるものは精霊力を奪できる特化がある。  やはり、貴様の零式もそうだったか」 「言っただろう? 私は貴様と、魔王を超える素質を持つ。  魔王の要と呼べる精霊、牙を作る膨大な精霊力、私はそのすべてを紡ぐことが可能なのだ」  卵月は左腕をまっすぐ上空に向けた。  腕には大きな裂け目ができる。      破戒零式弐生・再誕する 眠れる邪獅子王      裂け目には闇が広がっていた。  そこから、うめき声を響かせながら闇の物体がその巨体を引き出している。 「こいつも奪の特化を持つ。  持たないのは闇鳥だけだ。  つまり――貴様に勝つ手段はない」  闇から全身を引き出した獅子は、ぎらぎらと輝く紅い目にリュークスの姿を映す。  口を大きく開け、舌なめずりをした獅子は、リュークスに跳びかかった。 「確かに精霊力は効かないが――この剣は固体だ。精霊力ではないので奪の特化は効かない。  そして俺にはまだ――腕がある」  リュークスは一歩踏み出す。  獅子の視界からリュークスは消え、獅子は目を見開いた。  その瞬間、獅子は上半身と下半身を斬り分けられ、霧散する。 「ほう、珍しい。  忍者特有の《歩法》を扱えるのか、勇者は」  歩法――相手の五覚から感知されなくなる方法のこと。  忍者でも上忍の少数しか扱えない歩法を、リュークスはマスタしていた。  そして、より完璧な歩法を卵月は使用できる。  だから、卵月は動揺することなく、平然としていられるのだ。 「貴様の全力をみせてみろ。そして――俺に叩きつぶされろ!!」  リュークスが消える。  その瞬間、卵月が飛び上がり、卵月の立っていた地面に大剣が突き刺さった。  卵月の視線と、リュークスの視線があう。  リュークスは大剣を引き寄せ、卵月は闇の渦をリュークスに向けた。     【レプリカ・ヴェノム・ストリム】      闇の一部が切り取られ、赤と灰色の球体になる。  それは一瞬中に停止し、唐突に激しく歪みはじめ、最高初速でリュークスに飛んでいく。 「暗黒弾ヴェノム――絶対破壊と呼ばれる闇を、貴様も使えるのか。  だが、所詮は――――闇だ」  リュークスは剣を顔前に、自らの体を隠すように縦にして構えた。  剣の光が強く、神々しくなる。     【神馬角・刺罰】      刀身が、異界とつながる。  刀身が異界への扉となり、そこから黄色く鋭い角が伸びた。  角は球体を突き破り、霧散させる。  卵月はその瞬間を待っていたかのように動き出し、左腕で角を握りしめた。  角がミシミシと音を響かせ、腕に魔力を奪われていく。  幾分か経ち、角は剛の力を失って卵月の手に握りつぶされた。 「くっ・・・・」  リュークスはうめき声を漏らして膝をつく。  卵月はリュークスを見下すようにして、歩み寄った。 「力尽き始めたか、やはり私なら魔王を倒すことも可能。  それを仮定ではないものにさせた貴様に少しは感謝してやる。  だが――もう不必要だ」  卵月は左腕を振りあげた。  超巨大な手の甲に紫の波動が集まり、黒い闇ができていく。      破戒零式産消・絶圧闇      闇を纏った腕は振りおろされる。  闇の衝撃破を纏った腕は像を残しながら、回避しないリュークスを押しつぶした。  リュークスを呆気なく通り過ぎた衝撃破は、地面にクレタを作る。  腕に生えるようにリュークスの上半身があった。 「幻影!?」 「忍者の得意分野だと思ってたんだが、見抜いてくれないとはな」  目を見開く卵月、その背後でリュークスは剣を振りかぶった。     【時空歪曲・汝ヲ連レ去ル手】      剣が振りおろされ、空間に裂け目ができる。  そここら、いくつもの白い、リボンのような手が卵月に絡みついた。 「私は――不滅だ」  手に触れられた部位と、部位に触れた手が消え、空間の裂け目が消えてなくなる。  あとには卵月が居た痕跡のすべてがなくなっていた。 「やつはまだ――駆けあがってくるな」  リュークスはもう一度構える。  唐突に空間の一部に波紋が生まれ、ヒビが入っていった。      破戒零式施傷・空間殺傷波      空間に穴が空き、中から無傷の卵月が蝙蝠のように真っ黒な闇翼をはためかせ、飛び出した。  卵月は優雅に地面に降り立つ。 「破戒零式護唱・封守翼、だ」 「後三つくらいだったかな、出し物の数は」  律儀に技名をいう卵月に、リュークスは余裕の笑みを浮かべ、つぶやいた。  卵月は翼を霧散させ、リュークスに腕を向けた。 「いや、終わりだ。今度こそ全力でいく」 「!? まさか――終掌を使うつもりか――」 「その通りだ。だが――貴様はこの運命から逃れることはできない!!」  突き出した腕に魔法陣の腕輪がつく。  魔法陣は光の点らない六つの紫が頂点になっている六星陣だ。  その頂点にひとつひとつ光が点り始める。  点った光は三つ―― 「やめろ、危険すぎる!!」  リュークスは駆ける。  だが、そのときには四つ目が点っていた。     【ディメンション・ストップ】      リュークスが使う時の操作の完全版、自分以外の物の完全停止を元勇者は発動した。  リュークスの視界にはすべての物が青ざめて見える。  だが、光の点灯は止まらなかった。  五つ目が点る――   「この空間とは別の枠にあるのか――くそっ!」  リュークスは悪態とともに気合いをいれ、無理矢理最高速度で動く。  時の影響を少しは受けているのか、光の点りがこない。  いや――斑点のような光が点っている。  それは少しずつ、だが確実に拡大していた。  リュークスは自らの間合いぎりぎりに目標物を入れ、渾身の力を込めて剣を振るった。  剣先が紫に近づく。紫に点る光が臨界点に達し表面張力でぎりぎり枠内に収まっている。  つまり、まだ結果は決まっていないのだ。  臨界点を超え、周囲の空間に光が点ったことを認識させなければスイッチにONの信号は送られない。  剣先が紫に触れる。だが――遅かった。         『全玉解放宣言――――承認完了』        卵月はつぶやく――      それは亜空間内で卵月だけが動く時、現実では一秒にもならない――      五つの紫玉が五体の前で揺らめく――      最後の一つは卵月の背で浮遊する――       『破戒零式暗黒神紅鎧化 堕天使の罪 魔力具現斧 武力具現槍 堕天使の片翼 ガブリエルの擬似模造翼 戦神最強足装具』      紫玉が内に秘めた神具を解放する――      卵月という存在が書き換えられる――      魔王とは別の闇が卵月を浸食する――      卵月は虚ろな意識の中――一言つぶやく――         『全神具鎧化――現世界にて【破戒零式主核・暗黒神アガルドリム】の具現を許可する』          白い、マス目上の壁に包まれた亜空間が闇に満たされ、音をたてて解き放たれる。  現実世界、戦場へと――         「ちっ! 具現化したのか!」  闇に包まれた卵月、リュークスはそれを恨めしそうにみながら舌打ちをした。  闇が徐々に形をとり始める。 「リュークス君!!」  いつの間にか追いついたサクラは闇の変形に目を見開いて驚愕し、リュークスに駆け寄った。 「そろそろ割れるぞ、構えとけ!」  リュークスはそういい、大剣を構えた。  サクラは大剣がいつもと違うものだと気づき、口を開こうとするが、地響きにかき消される。  闇がひび割れを起こし、ゆっくりと動き始めた。  サクラは両腕を交差させ、横に並んだ手のひらを闇に向ける。  闇は一瞬前かがみになると、顔をあげ、すべての生物を恐れさせる叫びをあげた。  その途端、波動があたりに広がり、サクラとリュークスが闇の創り出した亜空間に飲み込まれた。      この世界の『時』が停止する――      亜空間の『時』が刻をきざみ始めた――     『ガァァァァァ……』  闇に満たされた空間、謎の雄叫びが響きわたる。  リュークスは目を閉じ、何かを感じ取っていた。  闇の中、一つの人が輪郭を作る。  金髪蒼眼――サクラは安心したようにため息を漏らした。  リュークスは目を開けてサクラに微笑みかける。 「よう、一日ぶりだな――サクラ」 「一日、てことは裏人格のほうか。なら大剣を使ってたのにも納得できるかな。  それよりも――状況は?」 「現実世界は0.001秒も動いてないな。ここは亜空間――いや、暗黒神の私戦場だ。  神は自らの世界をひとつ創造できたはずだよな」 「うん、てことは零式の主核が解放しちゃったの?」 「ああ――そして、全力の暴走でくるだろう」 「自らの創造世界にこさせたのは、現実に被害が及ばないようにするためだとしたら――でも、暴走中なら無理なんじゃない? そんな思考ができるとは思えないよ」 「現実が暗黒神の魔力を許容できなかったんだろうな、そして、それに反応するように亜空間が展開された。  それよりも――近づいてくる」  闇の一角、一番濃い闇が動き出す。  柱のように長く、極太の闇。輪郭はぼやけている。  腕だと思えるものがリュークスに振り降ろされた。 「くっ!!」  リュークスは大剣で腕を受けきる。  衝撃がリュークスを襲い、後ろに滑らせる。  だが、リュークスは歯を食いしばり、衝撃に耐えきった。  腕はそんなことなど気にした様子もなく、振り子のように戻り、またリュークスに振り降ろされた。  リュークスは膝をつき、大剣を地面に突き刺し、体全体で剣を押さえるようにして、腕の衝撃を受けきった。 「サクラ、光つけろ。それと――右に移動しろ!!」 「う――うん!!」  サクラは片手を掲げる。  白い玉が上昇すると、弾け飛んだ。  閃光が飛び散り、世界を覆う闇が照らされる。  そのなか、ただひとつ闇を纏う――神。    リュークスに当てられている赤銅の巨槍は神の右腕、黒鉄の巨斧は神の左腕になっていた。  顔に当たる部分にはオレンジ色の宝石があるだけ、目や鼻は全くない。  巨大な柱のような神の背には、深紅の右翼と白色の左翼があった。  柱の根本には、鎖にグルグル巻きにされた棺のようなものがある。  宝石の中で揺れ動く光が唐突に停止すると、サクラに斧を、リュークスに槍を、それぞれ振り降ろした。 「はっ!!」  サクラは炎の壁を顔前に立ち上らせる。  斧は壁の上方に当たり、一瞬停止するが、その後は抵抗なく、サクラまで落ちていった。  サクラは紙一重で斬撃を避け、衝撃で宙を舞ながら、両手からいくつもの炎弾を斧に放つ。  斧に当たった炎弾は、砂のように脆くなり、崩れ、霧散した。 「この斧――魔力を司る神具なのか、ボクには難しいかも」  サクラは、再びゆっくりと振りあがっていく斧をみてつぶやいた。  それに対しリュークス。 「卵月の意志は――消え失せたのか!!」  リュークスは振り落とされる槍に横から叩き、リュークスの少し離れた場所に落とさせた。  そのまま槍に飛び乗ったリュークスは大剣を逆手に持ち、槍に突き刺そうとする。  だが、空間を切る刀身は槍に弾かれ、しびれをリュークスに伝える。  振り上がっていく槍でバランスを崩したリュークスは、地面に片手をつけて着地した。  大剣は肩に乗せている。 「武力を司る神具――打撃や魔法剣技は効かない、効くのは――純粋な魔力そのものをぶつけること」  リュークスは屈んだままでつぶやく。  ゆっくりと立ち上がり、呆然とつぶやいた。 「俺じゃ――こいつに傷をつけられない、か」          神のはるか上空にある顔面、そこに埋め込まれたオレンジ色の宝玉。  そこにともる光が、リュークスたちをあざ笑うかのように妖しく点滅をしたのだった。