【タイトル】  ライトファンタジー〜勇者と魔王〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【サブタイトル】  FILE12:サクラの開花、争奪せし勝利者(第12部分) 【ジャンル】  ファンタジー 【種別】  連載完結済[全82部分] 【本文文字数】  8024文字 【あらすじ】  語られるは旋律、輪になって踊る道化師達の伝説。ある道化師は勇者の名を語り、またある道化師は魔王の名を名乗り。王道から成る、世界の真実をぶち壊す、ファンタジーストーリー 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************ FILE12:サクラの開花、争奪せし勝利者        リュークスはサクラの戦っている魔力具現の斧に目標を変える。  だが、武力具現の槍がリュークスの進路を妨げる。 「どけ!!」  リュークスは槍に斬撃を放つが、簡単に弾かれる。  唐突に、リュークスの視界で槍が何十もの残像をつくる。  リュークスは目を見開いて本体の姿をとらえようとするが、リュークスの頭上を影が駆け抜け、視界から槍が消えた。 「!!」  リュークスはとっさに、体をひねる。  瞬きする間にリュークスの真横に槍が落ちてくる。  槍の纏う空気抵抗に、リュークスは吹き飛ばされた。 「触れなくて大ダメジ……触れたら即死か」  リュークスは全身に傷を作って立ち上がる。  瞬時、傷が色を塗られたかのように消え去り、元の正常時まで修正された。  リュークスは剣を抱え直す。       「てりゃっ!」  サクラは両手に貯めるに貯めた炎を、一気に纏めて放った。  巨斧は炎の渦に飲み込まれる。 「風、水、雷――一斉解放!!」  サクラは両手を斧に突き出す。  空間に穴が空き、中から水の渦でできた竜もどきが姿を表す。  地面から小さな風の渦がいくつも生まれ、サクラの周りを浮遊する。  途端に、水の竜に雷が走ると、青から紫へ変色した。  感電した水の竜に、風の渦が打ち当たる。  竜自体が風の渦を纏い、二重になった。 「三属性融合――最刃竜」  竜が口を大きく開け、斧にかじりついた。  斧がゆっくりと振りあげられる。  それだけのことで、炎の渦も、竜も消え失せた。 「やっぱり効かない……ホントにどうしよう」  サクラは絶句した。          神の神具五体、その頂点にある『堕天使の罪』と呼ばれる巨兜、その中心にある宝石が、閃光を放った。  それはサクラやリュークスのいる地上に円形の後を作るように伸びる。     【最強模造悪魔・隻眼の従魔増殖召喚】         「なに・・・・この光は・・・・?」  サクラはいきなりオレンジ色の光に照らされ、目を細める。 「地面に魔力が浸透していく・・・・違う、ここ自体が召喚陣なのか!?」  サクラは飛び上がる。  炎の翼がサクラの背から広がり、少ししてからサクラは下を見おろした。  そこには半透明の石が組合わさってできた柱がいくつも立ち並んでいた。  それの中心では紫の光がぼんやりと輝いている。 「一気に――消し去る!!」     【クロスFLAME】      サクラの両拳に炎が宿る。  サクラはそれを、斬撃が交差するように振るった。  十時の炎の固まりが、地面に打ち当たる。  巨大な爆発音とともに、真下を火の海に変えた。 「これくらいでボクを倒せると思わないでよ――」  サクラは勝ち誇ったように言う。  言い切った瞬間、振りおろされた巨斧に背を切り裂かれた。 「がっ!!」  サクラは目を見開き、力なくして地面へと落ちていく。  炎翼は吹き消され、サクラのクッションとなるものはなにもない。  リュークスがサクラに駆け寄ろうとするが、巨槍に妨げられる。  サクラは――地面に――直撃した――  サクラの意識が暗転する。        桜が舞う。ボクと同じ名前の木が、ボクの前にそびえ立つ。  いや、巨木といった方がいいかな、それくらい大きな木。  ボクは極端に背が低いから、余計に大きく見える‥‥苦痛だよ‥‥ 『君はどうしてボクを開花させてくれないの』  桜から声がする。  おかしいよね、こんなにきれいに咲いて、花びらが舞っているのに。  たぶん開花の意味が違うんだろうな…… 「ボクは君を開花しない、ボクはボク自身の力でこの物語をクリアする」 『死にそうなのに? 死んだらしかたないよ、それに――ボクは君なんだよ』  桜吹雪が舞う。  ボクは耐えきれずに目を閉じる。  耳から風の音が消え、ゆっくりと目をあけると、目の前に【ボク】が立っていた。 「ボクは君・・・?」 『そう、木(ボク)は君なんだ、君が何かのために戦うのなら、君がそのための力を得たいと願うなら、木はすべてをかけて、君のものになる』  ボクは目を閉じる。この世界を感じる。木を感じる――  完全なる同調、リスペクト、木はつねにボクに壁を作らなかった、ボクのわがままに付き合っていた。 「いつも付きあわせてごめんね……後一つ……わがままに付き合ってくれるかな」 『君が望むこと、それは木の意志、最後まで木は君と手をつなぐよ』    木はボクに手を差し伸べてくる。  ボクは、おそるおそるその手に触れる。  ――あたたかい――  ボクはその瞬間に理解する。木は悪い人格ではない、狂者ではないのだと。 「ボクと木の回線をつなげる、お互いがお互いを完全理解する――あと何秒?」 『五秒――いや、終わった。回線接続は成功――君は自由に木の中身を解き放つことができる、ボクが許すよ』  木はそう言ってはにかむ。  ボクは微笑み返し、手の握りを強くする。  ボクが思い描くのはいくつも棚があるタンス。  木として必要な動作、その他諸々の情報がきっちりと分けられた三つの棚が脳裏に浮かんだ。  検索にかけたから、一気にタンスの数が減ったのだろう。  ボクは迷うことなく一番上のタンスを解き放つ。  中にあるのは――ひとつの桜の枝。     『鳳桜(ほうおう)解放信号認識完了』          ボクは枝をつかみとる。         『全属性一斉発動 化合生成 生成物形成目標:不死鳥  余力温存 魔力制限障壁 ともになし  現実具現 危険度なし 空間傷なし オルクリア』        木はボクが宣言するのを待っている。  桜の花びらが舞い上がり、何か生物を形成しようとしている。  それは鳥、ボクの新たな力。ボクはこの力をつかみとることになる。  元の精霊が生み出したすべてのものの集合体、共鳴体、元が残していったこの世界の守護神。  ボクがこの力をつかむのは《不確定要素》、いや、オルエレメントを創造したこと自体が不確定か。  今やこの世界には多すぎるほどの不確定要素。  魔王は魔神の解放をして、勇者を避けるように侵略をする。  彼も気づいたのだろう、この世界の描き手の存在に。  だからこの物語を壊すような行動ばかりをした。キマイラがそれになる。  そして、元勇者であるボクの父さん。  彼は魔王と同じ考えを持って、繰り返されるこの物語に終止符を打つリュークスを作った。  リュークスは多重人格、可能性を秘めた存在だった。  だけど、それも魔王に奪われた。魔王はこの世界を統べることができればいいのだから、無駄に《描き手》に逆らうことはしない。  そして今戦っている零式、すでに知識に残るだけとなった事項。  《描き手》が物語を整えようとするなら、ボクをこのまま死なせたはずだ。  なぜならボクは《勇者の子》本来なら存在しない不確定要素の塊なのだから。  《描き手》には策がある、だからボクは生かされている。  《描き手》の顔をつぶしてやりたくなるね、しかたないからこのまま策にのってやろうか。 「魔力限定解放――」  ボクの体から桜色の波動がいくつもでて、空間をふるわせる。  巨大な力が、ボクの手を通して流れてくる。  いや――ボクと木がひとつになっていく。 「狂い、咲き乱れよ【鳳桜(ほうおう)】」         「サクラ・・・・開花したか」  リュークスは、地面でうつ伏せになっているサクラをみていう。  サクラの体は桜色の光をまとい、鼓動の波をたたせていた。  唐突に、サクラの体が浮き上がり、ゆっくりと目を開ける。 「【開花】全属性集結化合霊 不死鳥鳳桜(ほうおう)、光臨」  サクラを覆い込むように、桜色の球体が現れる。  零式はリュークスからサクラに目標を変え、巨槍と巨斧を放った。  それと同時にサクラに向かって地面から半透明の岩が伸びる。 「鳳桜(ほうおう)・・・・意志なきオルエレメントすら、意志ある不確定要素と化したか」  リュークスは余裕につぶやいた。  そのとき、サクラを包む球体の前側が割れる。  それはゆっくりと、サクラの背まで移動した。  それは――翼。  サクラの頭側には、赤い二つの目があり、足側にはクジャクのような尾がある。  その姿は、鳥。     「我が舞に――――汝等は魅せられる」  サクラは片手をあげる。  地面からいくつもの土の槍が伸び、斧と槍の進路を曲げた。  サクラの左右を斧と槍が、無惨にも駆け抜けた。 「神具は我が化身、我はすべての呪詛をつき従わせる者・・・・」  サクラは両手を下に向ける。  向けた先には二つの魔力と武力の神具。 「灼熱に燃え盛る気高き炎の神々よ、我が生み出ししものを消し去る焼却の極炎を、この世界に君臨させたまえ」     【焼却極炎全滅波】      緑色の炎がサクラの両手に絡みつく。  それは呪詛を焼却するためだけに生まれた、いわば神の生まれ変わり。  それは重力にそってサクラの手のひらに集まり、落ちた。  巨槍と巨斧に触れた炎は徐々に、ゆっくりと拡大していく。  炎の点く部分から、剥がれるようにして文字の羅列が宙に舞い、炎に燃やし消される。 「拡大せよ・・・・」  サクラのその一言で炎は巨槍と巨斧の全身に回り、二つの神具を灰色に染める。  それは到底神の武具とはいえない、ボロく、錆びたものだった。   「堕落せし神よ、この世界でなにを求む」  サクラは零式に問う。  零式はわずかに【堕天使の罪】を点滅させた。  リュークスはわずかに身構えると、宙に浮き始める。 「サクラ」  リュークスはサクラの側に寄る。  サクラの背に生えるように、桜色の鳥の胴体があった。  サクラはリュークスに微笑みかける。 「我の持ち主の波動・・・・貴様が今回、勇者の役を待つ者か」 「今回――あなたは、この物語の真理をお知りなのか」  鳳桜(ほうおう)がサクラの声でリュークスに話しかける。  リュークスは鳳桜(ほうおう)の言葉に眉を潜めた。 「我はオル・エレメント、この永遠の廻りのなかで同じ意志を固体の中に宿す神だ。  元より力ある私は、貴様と同じ頃に真理を悟るなど当たり前だ」  リュークスは軽く苦笑し、【堕天使の罪】に目を移した。     【最終魔天全開】      オレンジ色の光が強まり、真空の渦と一筋の雷がサクラとリュークスを襲った。 「サクラ!!」 「鳳桜(ほうおう)、行くよ!」 「承知!!」  リュークスがサクラをかばうように胴体を移すが、サクラはその脇を抜けるようにして真空に拳を放った。  鳳桜(ほうおう)が一鳴きすると、拳が真空を消し飛ばした。  だが、雷はまっすぐサクラにぶち当たり、サクラを吹き飛ばした。 「ちっ!!」  サクラが地面に落ちるのを阻止し、地面に降り立ったリュークス。  すると、【堕天使の罪】に宿る光が激しく脈立ち、ざの魔力が魔法陣を描いた。  一瞬で、三色の物を、だ。 「魔法陣――てことは、それなりに威力が大きい上級魔法。  それが三つは――きついな」  リュークスは剣を振り上げ、空間を歪ませながら進む巨大な斬撃を放った。  顔部にあるオレンジの宝石が今までで一番大きな選考を放つと、魔法陣が発動した。     【極光流星雨】【全壊創造ノ闇】【深キ無ノ底ニ沈メ】      斬撃が、蒼い流星のひとつに打ち消される。  それでも大量にある流星がリュークスに向けて降り落ちた。  リュークスは剣を地面に突き刺し、斜めに向きを変え、できた小さな壁にサクラを隠す。  リュークスは両手を空に向け、障壁を何十にも張り巡らせる。  さらに、魔力を集中させると、時間の歪みを創り出した。 「ちょっときついが――受けきる、娘もいるからな!」  障壁が連続して破壊されていく。  だが、それを上回るほどの数の障壁があり、流星はなす術もなくリュークスに傷をつけられなかった。  そのとき、膜のように広がった闇が障壁をすべて消し去り、時間の歪みに向かった。  時間の歪みにあたった闇は、リュークスに届くことなく異次元に消えた。 「ぐっ!!」  闇を消すことに魔力を消費したリュークスは、膝をついてわずかに倒れる。  時間のゆがみがわずかに薄くなった。  零式の宝石が、妖しく光る。  波動を放つ、スライム状の無が空間を侵食しながらリュークスに降りていく。  時間の歪みが、無の幾分かを異次元に流すが、歪み自体が無にのみこまれる。  リュークスは舌打ちし、サクラをかばうように立ちはだかった。  だが、無はいきなり停止すると、内から桜色の魔力に破壊された。  リュークスに向かって桜の花びらが舞い落ちる。 「ありがとう――後はボクたちの仕事だ」 「勇者という確定要素に、零式や我、不確定要素と戦い続けるのは、荷が勝ちすぎるであろう」  リュークスの背後からサクラが跳び上がり、鳳桜(ほうおう)の翼をはためかせる。  鳳桜(ほうおう)の魔力は一筋の閃光となって、零式の【堕天使の罪】へと伸びた。     【ダクネス・ファイタリティ】      闇の不死鳥が閃光を妨げ、それを上回るほどの闇の拳がサクラを握りつぶそうと五指を広げる。      鳳桜(ほうおう)無限・浄化昇      サクラは腕を交差させ、両手を合わせる。  手のひらは闇の拳の中心。  サクラの手から極太の光線が飛び出した。  光線が触れた部分が花びらとなり、拡大していく。  サクラに向かって大量の花びらが降り落ちた。 「墜ちし神に、改心の裁きを――」  サクラは鳳桜(ほうおう)の全エネルギを片手に集める。  鳥姿の鳳桜(ほうおう)がサクラの背から消えるが、サクラは世界の摂理を無視して浮いたままだった。 「解縛――鳳桜(ほうおう)化身・全属性集束神剣【エレクサ】  我の命により、この世界に具現せよ!」  サクラの手に、サクラの花びらを吹き出す細身の剣が握られる。  刀身、柄、そのすべてが桜と同等の色を持ち、幻想的な美しさで魅せていた。  サクラが軽く剣をふるうと、剣の跡に少数の花びらが舞う。 「剣を使うのは馴れてないから――手加減できないよ」 「手加減など必要ない、この亜空間を塗りつぶすつもりでやればいい」  柄にある鳥の顔の彫刻から声が発せられる。  サクラは意味もなく笑みを浮かべ、宙を駆けた。  サクラを阻止するように魔力でできた流星が降り注ぐ。  サクラは太刀筋が見えないほどの速さで剣を振るい、流星を魔力へと帰す。 「はっ!!」  サクラはただの岩となった流星を足場に飛び上がっていく。 【堕天使の罪】に宿る光が怒りを示すように激しく揺らぐ。 「我今一度問う、汝はこの世界になにを求む」 『・・・・再びの幸い望む、懐かしき過去の再誕、我が心を今一度満たす暖かさを求む』 「汝は一度捨てたのだ。公開しても過去は戻らぬ」 『戻してみせよう、我はそのためにこの世界に君臨したのだ!!』  【堕天使の翼】と【ガブリエルの擬似翼】が魔法陣に変わる。 【堕天使の罪】が光を放つ。同時に、魔法陣が解き放たれた。     【ブラックホル・オブ・エタナル】      一つの魔法陣が黒い円球に変わる。  唐突に、空気の流れに色がつくほどの吸引力を発しはじめた。 「鳳桜(ほうおう)に宿りし幾重もの呪詛よ、わが身を守れ――」  茶色い文字の羅列が剣から飛び出し、宙を舞う。  羅列の端と端が結合し、一つの円になると、円の中に膜ができた。  円は黒い円球とサクラの間に割り込む。  それと同時にサクラが吸い寄せられなくなった。 「土の呪詛――絶対障壁は何者の進入も許さない」  サクラは【堕天使の罪】と同じ高さまで飛び上がった。  剣を引き、剣先を【堕天使の罪】に向ける。  剣が桜色の光を帯びはじめる。 「我が手によって浄化されよ、堕落せし友人」     【施突・鳳桜(ほうおう)時空斬光剣】     「土の呪詛――絶対障壁は何者の進入も許さない」  サクラは【堕天使の罪】と同じ高さまで飛び上がった。  剣を引き、剣先を【堕天使の罪】に向ける。  剣が桜色の光を帯びはじめる。 「我が手によって浄化されよ、堕落せし友人」     【施突・鳳桜(ほうおう)時空斬光剣】      帯状に広がった桜色の魔力を絡めた、細身の剣を、サクラは【堕天使の罪】に突き刺した。  ガラスが割れるような効果音とともに、【堕天使の罪】からいくつもの閃光が放たれる。 「これで――終わりだ!!」  サクラの一声とともに、魔力が高まる。 【堕天使の罪】が粉々に砕かれ、魔力が波動となって空間を駆け抜けた。  零式の、闇の肉体が霧散していく。 「神が――ひとつの物語から役目を終え、消えるのか」  リュークスは、呆然とつぶやく。  唐突に、空間が暴風に包まれる。  主の消えた亜空間は、徐々に消滅の末路をたどり、その存在を抹消していく。  風に流されるように空間は消え、リュークスたちは元の空間へと帰還した。     「開花したばかりなのに・・・・動きすぎたかも」  サクラは力なくそう言い、ゆっくりと地面に降り立った。  顔には疲労の色が見え隠れしている。 「セレたちも終わったみたいだ、少し休む――」      ――闇よ、顕現(けんげん)せよ――      横たわっていたグルバルドゥムの肉体が、闇の斑点に侵食される。  サクラに話しかけていたリュークスの頬が固まる。 『我らは六つ・・・・汝等に倒されし命(みこと)』  グルバルドゥムの肉体に六つの赤い光が埋め込まれ、肉体を変化させる。  肉体の全身が鎧のような硬度とツヤを持ち、二頭がサクラとリュークスをそれぞれみる。  サクラとリュークスはそれぞれ、硬直する。  この場で動く者、動ける者、それはただ一人、グルバルドゥムだけ。  【希望ヲ生ム光】  すべてが白に包まれた、見るものすべての邪念をなくす聖なる光。  それが、剣の刀身を作っている。 『グルゥゥ・・・・』  グルバルドゥムは満足したように唸ると、片頭がその剣を咥えた。  もうひとつの頭は、大鎌の、誰の手にも握られていない【隠されし 黄金の 太陽】を咥える。 『我、魔王の霊体(レイス)と、暗黒龍(グルバルドゥム)の融合体(キマイラ)、死龍(ポン・ドゥム)  我が使命は果たされた――――死の絶望を、受けよ』  死龍(ポン・ドゥム)は、全身に黒と紫の魔力を纏う。   「この魔力・・・ヴェノム、いや、もっと大きな・・・まさか、黄泉の・・・」  サクラのつぶやきはかき消される。  死龍(ポン・ドゥム)の魔力が金色に変わる。  吹き上がっていく魔力は、いとも簡単に上空への穴を開けた。  上空で出来上がるのは、巨大な魔法陣。 『我が祖国の力は、生きとし生けるものすべてを、奈落のそこに突き落とす』   【ロスト・ギガ・デストロイ】    金色の魔方陣が膨れ上がり、爆発する。  それとともに現れた数十もの魔力弾が、弧を描きながらリュ−クスたちに飛来した。 「く・・・・鳳桜(ほうおう)!!」  サクラは手を上げ、結界を張る。  結界の色は――桜。  リュークスは歯を食いしばって剣を振り上げる。  剣からは極太の斬撃が飛び出した。  それぞれ、迫ってくる魔力弾を退ける。  軌道を変えられた魔力弾は、周囲の壁をぶち当たり、破壊してしまった。 「聖堂が崩れる――押しつぶされるぞ!!」  リュークスの叫びとともに、壁に亀裂が入り、地響きがリュークスたちの周りを包む。  死龍は双口に魔力を貯める――     【ヴェノム・グレネド】      死龍の口から放たれた黒と紫の混ざった、二つの球体は、ゆっくりとした動きで壁にぶち当たる。  壁は闇の波動で全壊した。  地上までの階が、支えを失ってリュークスとサクラに落ちていった。 『押しつぶされて、わが渇きを癒せ!! 勇者よ!!』  死龍は言葉を吐き出した。  死龍は落ちてくるものを無視して、上昇する。  目標物――【希望ヲ生ム光】【隠されし 黄金の 太陽】その二つを所持して。         「すべては俺の思いどおりに進んでいる」  闇の間。  魔王がその身を置く、物語を傍観する場所。  魔王は一人つぶやいた。 「剣を勇者に渡すことを阻止し、この国に戻るための力も奪い去った。  だが――なにか、解せぬな」  魔王はいらだたしく、手にあるグラスを口に傾けた。 「念のために【狂者 ジョカ】で勇者らを始末するか」    魔王がそう呟くと、紫の水晶がテブルに映る、壊れ始めた聖堂上空の映像に落ちた。 「向こうはこれでいいだろう、こちらは――二人か」  映像が切り替わる。  映るのは、シスタとして勇者に接触した、蒼の魔術師と呼ばれるこの国の指揮官。  髪は赤く、とてつもなく長い、足まで伸びていそうなほどだ。  青との共通点が見当たらないが、魔王はそんなことどうでもいいというかのようにあざ笑う。 「従者は一人か――こちらも氷帝魔をつれていくか」  魔王は立ち上がると、自らの戦場へと向かった。      ――宣言しよう、すべてを絶望に落とすとな――        上空で飛翔する死龍。  聖堂跡で倒れるリュークスとサクラ。  それに駆け寄るセレとフレイア。  その誰もが、魔王の動きを知ることはなかった。