【タイトル】  ライトファンタジー〜勇者と魔王〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【サブタイトル】  FILE14:双魔剣士の白狼(第14部分) 【ジャンル】  ファンタジー 【種別】  連載完結済[全82部分] 【本文文字数】  8086文字 【あらすじ】  語られるは旋律、輪になって踊る道化師達の伝説。ある道化師は勇者の名を語り、またある道化師は魔王の名を名乗り。王道から成る、世界の真実をぶち壊す、ファンタジーストーリー 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************ FILE14:双魔剣士の白狼  殺気立った空気が俺の頬を焦がす。  俺の視界には雷の瞬きがあふれる。  俺の聴覚には雷の弾ける音や移動する音やぶつかる音が、嫌というほどあふれる。  天に伸び、届くことのない手を伸ばし、そして挫けた城は、不気味なほどに静まり返っていて。  その場所は―― 「ここか……」  サクラが呟く。  俺はただ、廃墟と化した城を見つめていた。  想像するのは――城の心。  この、人無き場所で一人孤独な城の心を読み取る。  だが、所詮は俺の独りよがり。他人の心とは所詮他人のものなのだから。  けれども、感じ取ることはやめない。  それが、この現状を侵害する俺たちにできる、ただひとつのことなのだから…… 「とりあえず、一番下にあるコアに向かうよ。そこにあるデタリンクに検索すれば、求めるものの場所が特定できるだろうし……」  サクラはそういって先頭を歩こうとする。  俺はサクラを制して、戦闘を進む。  城の架け橋に近づき、俺は歩きながら少しだけ振り返った。  俺の後ろにいたサクラがにっこりと微笑んで俺を励まし、その後ろにいるセレが首をかしげ、フレイアがぷいっと顔を背ける。  俺は三人に微笑み返し、前に向き直った。  架け橋。紫の球玉がいくつか埋め込まれた、鉄製の巨大な橋が、俺たちの行く先に待ち構える。  見たところ、トラップはないようだが、魔力の濃度が高く、発達した超科学を取り込んだこの場に、普通の客観が通じるかはわからない。 「注意して歩けよ――」  俺は後ろの三人にそう言い、覚悟を決めて一歩を踏み出す。  その途端、橋にある球玉に、ひとつずつ光が灯り始める。  橋が小刻みに揺れる。 「なんだ――?」  俺はサクラに振り返る。  だが、そこにサクラはいなかった。  そして、俺は気づく。架け橋が徐々に上がっていることを。 「ちっ!!」  俺の脚がすべり、城の中へ中へと誘われていく。  取っ手にあるようなでこぼこも見当たらない。俺には橋の外に出ないようにするしかなかった。  俺はすべるようにして城内に着地し、振り返った。  そこには、入り口を塞ぐ壁になった架け橋しかなかった。 「リュークス君、聞こえる?」  橋の向こうから、ぼやけたサクラの声が聞こえる。 「ああ、聞こえる。この橋をもう一度下げるようなスイッチはそっちにないのか?」 「うん、まったくないよ。中に転移するのも今セレちゃんが試してるんだけど――無理みたいだ」  俺は橋の表面をなぞり、手がかりがないか探す。  だが、そこにはつるつるとした表面しかない、手はすべるだけだった。 「ボク達は別の入り口を探す。リュークス君は奥を目指して進んで」  その声がして気配が遠ざかった。  俺は橋から離れ、城内に目を向けた。  規則的に電撃の迸(ほとばし)る雷柱が左右に並んでいる。  電撃が左と右から中央に伸び、ぶつかりあい、通るものを妨げる。 「これを抜けるのか……?」  俺は絶句した。  サクラ側  ボクは城のまわりを歩き、なにか中にはいるための手がかりを探す。  セレちゃんとフレイアちゃんには架け橋を調べてもらっている。 「裏口――は、ないか」  ボクはため息を吐く。  そのとき、ボクは魔力の高まりを感じ取った。 「リュークス君が動いて、仕掛けが作動したからか」  連続して、魔力の波動をいくつか感じ、ボクは考えをめぐらせた。  そして、ひとつの考えに行き着く。 「桜天で架け橋の魔力を一時的になくし、そこを破壊する、か……」  ボクはため息を吐いて、セレちゃんたちのところに戻ろうと振り返った。 「この城の中に入りたいのか……」  ボクの後ろで声がする。  ボクは振り返り、声の主を探した。  ボクの視界にはボクと同じ背の少年が立っていた。  少年の髪は白く、その瞳は髪に相反する漆黒だ。 「きみは……」 「私のことなどどうでも良い、事実を述べてもらおう。私もこの中に用がある」 「コアかい?」  ボクの問いに、彼はふっと笑った。 「ああ。あれを停止させる」 「なぜ今になって? それに、とめたら魔力が暴発して城が消えうせるよ」 「不必要だからだ。あれがなくてもつぼの魔力は並に下がっているから何も変わらない」  ボクは困惑する。  ツボの魔力、つまり一番魔力が高いこの場が、この場の魔力が、流を作らないほどに安定している。  それは、はっきりいってありえない、想定外のできごとだ。  もしあるとすれば――魔王が現れたことで何かが変わったということ。 「魔王の手にコアの、膨大な魔力が渡っては、何者にも止められなくなる。 だから、私が破壊する」  彼の纏うマントから、彼の両腕が曝け出される。  その両腕は蒼い金属に包まれており、光の反射で輝きを放っている。 「オトメイル……金属の義腕か、その技術は失われたと思ったんだけど」 「私しか使えぬ技術だろうな、だがそんなことはどうでもいい。先ほどの問いに答えていただこう、魔法使いよ」  ボクは彼の腕を見る。  その腕には、細い線が入っていた。  そして、その腕の中にしまわれているなにかの、威圧の力を感じ取る。 「魔剣が二つか……君は謎ばかりだ」  ボクは笑う。  それと同時に、考えがまとまる。 「わかった。いこう。でも、仲間が向こうにいるから――」  そのときボクたちの後方から爆発の煙が上がる。  それとともに、セレちゃんとフレイアちゃんの魔力がボクにはっきりと感じ取れた。 「魔王が何千の魔物を送り込んできたみたいだな」 「もうばれてたか……さすがに手が早い」  ボクは彼に向き直った。  そして、ゆっくりとうなずく。  彼はそれをうけ、両腕を交差させた。  開閉音が同時に響き、彼の両手に彼の身の丈以上の剣が二振り握られる。  ひとつは、つやのない黒剣。瘴気に似た魔力を感じさせる。  もうひとつは、血よりも濃い紅剣。鉄の匂いを匂わせる。 「唸れ、夜魅。舞え、紅夜――我は汝らの創造者」  そのとき、ボクの前にある城壁が爆発した。  セレスティア側 「散れ――花のごとく」  私の声に応じて、空からいくつもの閃光が降り注ぐ。  地に立つ魔物が焼かれ、消炭となっていくが、数が減ったようには見えない。  私はさらに詠唱を行おうと口を開いた。 「キシャァァァッ!!」  魔物の一体が紅いつめを振り上げて、私に襲い掛かってくる。  私はそれに対応しようとして詠唱をやめようとするが、それより先に魔物が切り刻まれる。  切り刻んだのは――ピンク色の半透明な羽を背に持った、私の妹。  その手には、羽と同じような刀身の剣が、二振りある。 「お姉ちゃん!!」 「りょうか〜〜い!」  私はフレイアちゃんの考えを察し、詠唱を続ける。  体中にみなぎる魔力が、私の体から外に向かって光を発する。  フレイアちゃんは剣を交差し、屈むようにして、フレイアちゃんの背にある羽を宙へと解き放った。  その羽はまるで意思があるかのように魔物の上を不規則に移動し、羽根から光線を降らせ、魔物を撹乱させる。  私たちの後ろと上以外の全方位が、魔物で溢れかえっていた。  私は詠唱をやめる。 「照度(ルクス)よ……闇をその極光で照らし滅せよ……」  上空に、この戦場と同じくらい大きな魔法陣が、その姿を現す。  それは、視界が完全に潰されるほどの光を放ち始める。  魔物は魔法陣から目をそらしていった。  至高の光(アーリアル)  光の輪がこの城がある地域一帯を覆いこむ。  その範囲の光がさらに強まっていく。  そして、そのなかにむかって一粒の光粒子が落とされ、その粒子が纏う波動で魔物が一気に消滅した。  魔法陣の魔力を高める。 「爆発の――ルクス!!」  ルクスエンド  魔法陣を創るすべての魔力が、極太線となって降り注ぐ。  魔法陣が霧散した時、魔物の姿はあとかたもなく、全て消え去っていた。  地形はところどころ変化されている。 「さすがお姉ちゃん!!」  フレイアちゃんの言葉に、私は笑みを見せる。  けど――  ウィンウィンウィンウィンウィンウィンウィンウィンウィン――  何かの効果音とともに、なにもない空間に闇の球体が膨れ、しぼれる。  しぼれる時、球体の変わりに魔物が姿を現した。  一瞬にして、城は魔物の大群に囲まれる。 「まだまだいるみたいだね……」 「うん……でも、倒し続けるしかないよ!!」  フレイアちゃんが魔物の群れに向かって駆ける。  私は手に魔力を集めた。  ルクスエンド・ツインレイ  両手に集まった二つの光は、太線となって魔物の群れをなぎ払い始めた。  リュークス側 「はぁぁぁぁぁぁ!!」  俺は全速力で走る。  動く地面が高速で俺の動きを妨げ、遅くさせる。  だが、動く地面の向こう側、動かない普通の地面に何とか足をつけ、俺は荒い息をしてひざをついた。 「なん……だよ……この……お遊びみたいな……仕掛……けは……ふぅっ!」  俺は気合の一声とともに、起き上がった。  その視界には新たな仕掛けが映る。  −−これは、通るものに死ねといっているかのような――  俺の視界には、左右に揺れる振り子の様な両刃鎌が見える。その数一〇。  そして、そこには細い細い道が見える。そして、それは俺の足元から伸びている。 「ここを通れと――いうのか?」  −−はっきり言おう。踵を返したい。  なぜか、前までは頻繁に出てきていた元勇者様も今はいないかと思わせるほどに静かだ。  俺は恐怖を押し殺して、歩み始めた。  サクラ側 「きみはここにきたことがあるの?」  ボクは、彼の手で無力化されたトラップの数々を思い浮かべる。  彼は、首をかしげた。  このあたりのしぐさが子供っぽい。 「来たことはないが、機械(マシン)に関して私は天才といえる。 この腕にはさまざまな情報(データ)を保存(インストール)してあるからな、それを使えばだいたいは難題にならん」  彼はそういって、片腕を壁の一点に突き刺した。  それとともに、ボク達の前にある地面が可動音を一瞬だけ漏らして、そのすぐ後に気が抜けるような音がした。  ボクはその地面を警戒するけど、それ以上の音はしない。 「トラップは停止した。そろそろあれが見つかるはずだ」 「あれって……?」  ボクの問いに答えずに、彼は進む。  ボクはむっとしながらも、その後についていく。  少し歩いた先には、ひとつの小部屋があった。  トラップはないようにみえる。  彼は戸惑うことなく小部屋に入っていった。 「これだ……」  彼は小部屋にただひとつある、白い椅子と百八十度の机に敷き詰められたキボドにむかう。  そして椅子に座ると、何百ある四角のボタンを、手元も見ずに叩き始めた。  机の向こう側に、投影機で映し出された文字列の画面が高速で下り始める。  そこに、新たなウインドウが開いては閉じ、ある一点で止まった。  彼は一番近くにあるボタンを、きっちり三回押す。  文字列に、ローマ数字の一のようなものが文字三つ分移動する。 「これは……超科学の文字かな、たぶん集央記憶体(データリンク)やその端末(モバイル)に指示を送ったりするための特有の文字」 「そのとおりだ、そしてこの記憶(データ)を私に保存(インストール)し、具現化(アップ)させる」  彼の腕から伸びたケーブルが、机にある接続ポイントに喰らいつく。  それと同時に投影機に映し出された画面が消える。 「高速保存ができるから、たかが線やペイントで作られたワドデタを取り込むのに、一秒もかからん」  彼はそういって、片腕を横に向ける。  すると、腕の一部が光を放ち、地図のようなものを壁に映した。 「小型投影機――まったく、今日はつくづく超科学に縁があるね」 「このさきにはまだまだあるがな」  彼はそういっておどけたように笑う。  そして、片手が、光を放つ腕に触れた。  すると、地図のひとつに紅い四角が点滅する。 「ここがいま、私たちのいる位置だ」  紅い四角が移動し、いくつかの部屋を抜けた。  そして、いくつかの道を曲がって、広部屋でとまる。 「ここには、飛行用の器機や極太粒子砲台がある、お前の求めるものはここにあるだろう」 「へぇっ」  ボクはそこへの順序を即座に暗記する。  それと同時に、コアへ行かなくても良いことを導き出す。 「私はコアへいく、お前はあと五分で来るお前の仲間と合流しておけ」 「え?」  ボクは今まで来た道を振り返る。  人が来るような足音はして――きた。  今の瞬間、魔力によって鋭敏にした聴覚にわずかな足音が拾われる。  そして、ボクの記憶に残るリュークスの足跡と照合し――一致の結果を叩きだす。  そうしてからに振り返るまで数秒。その間に、彼の姿はこの部屋の先へと消えていた。  ボクは、ため息を吐き、椅子に座り込んだ。  そのときにボクの腕があたったのか、投影機が動き始める。  壁に文字、画像、色が映されていく。  そこに載っている文字は、ボクの理解できる精霊界の文字。  画像は、さっきまでいっしょにいた彼の顔。  色は、彼と同じ白。 「彼の履歴書かな?……白狼(ハクロウ)……な!?」  ボクは映し出されたものの、本当の意味を知る。  そして、驚愕する。 「彼は……ここにきたことがあるかどころじゃなく……ここの……いや、それだとあの超科学の結晶とも言うべき最強のオトメイルも頷ける……でも……それだとつまり……」  ボクは、この世界が徐々に不確定要素(イレギュラ)ばかりの、レル外の未来を歩み始めたことをひしひしと感じ取った。  白狼側  気に入らない。  世界には摂理があることは確かだ、そして、それを超越するものがあることも確かだ。  ならば、摂理という制限は必要なものなのだろうか?  私は昔、そんなどうでもいいことに悩んでいた。  昔の私はそんなことを考えるほど、退屈だったのだ。  そして、今の私も同じく、人生を退屈に過ごしている。  だが、どうでもいいことを考えることはなかった。  それは――なぜだろうか? 「心理上の問題を、平面で証明するのは無理だな……」  私は、私の心理をこんなにも変えた彼女のことを思い出す。  私の腕を整備した彼女の横顔。  私が迷案にはいったとき、私を導いてくれた彼女。  私は、私の才能を呪い妬む者を見ていた、それしかみていなかった。  だからこそ、私と同等の彼女はあんなにも輝いて見えたのだろう。 「この城の建設をしたいと願望したのも、彼女を見ていたかったからだったな……」  彼女のそばにいたくて、でも彼女に目を合わせることができなかった――自分。  あるとき、彼女はこういっていた。 「この世に絶対はない。だからこそ、想い続けることが、絶対に等しいものになるのだ」――相変わらずわけがわからない。  だからこそ、私は彼女を想い続けるのだろうか。絶対にするために――  私は考えをやめ、足を止める。 「やっとここまできた――君の不安がっていたものは、私がぬぐって見せよう」  コアと呼ばれる、彼女自身が創った、彼女の死とともに出来上がった、巨大なエネルギ保存ドム。  その中心で、呼吸するようにオレンジの光が点滅する。 「心残りだといった君の推測、それはやはり合っていた。 私は君の、最後の創造物を破壊する。 私は――悲しい破壊者だ」  私は信号を送る。  腕の開閉部が二瞬の間に作動し、私の手に二振りの魔剣が握られる。  夜魅――私の化身なるもの。  紅夜――彼女から受け継いだ、彼女の化身なるもの。  私は、紅夜という彼女に魅入ったのだ。彼女という夜に。  私は一歩、コアに歩み寄る。  二歩――まだ距離がある。  三歩――あと一歩で攻撃範囲内にコアが入る。  四歩――いや、正確にはマイナス半歩。  私の剣には、白い双剣が交わる。  私は動揺することなく、唐突に始まったこの戦闘で有利な立場に立つべく、コアから目を離す。  だが、その私の視界に、『敵』の姿が駆け抜ける。  同時に、『敵』の狙いと、『敵』がだれなのかが、一瞬で理解できる。  だが、体が反応するのに必要なのは、およそ三瞬。  遅い、遅すぎる。こういう時、頭は至って冷静だ。  二瞬目で、【それ】は唐突に始まる。  私は、彼女の不安要素を取り除けなかったことを、冷静な頭で感じ取った。  そして、【吸収】がはじまった。  私の一瞬が訪れても、私はただ剣を持ってむなしく立ちすくむしかなかった。  セレ側  ルクスエンド・ジャッジレイ  光の弾丸が、城の周りに螺旋状に降り注ぐ。  魔物が抹消され、チリすら残らない。  私は、魔物以上の魔力を感じさせる空の一点に、手に集めた光を放った。  永久(とこしえ)の絶望歌  極太光線を、闇の波動が打ち消す。  波動はそのまま、私に迫ってくる―― 「三羽(さんう)三角光晶結界、展開!!」  私の前に、ピンク色の半透明な膜があらわれる。  三つの羽の枠が私の視界の端に映った。  闇の波動が膜を私のほうに膨らませるが、破られることはない。  それを張ったのは、フレイアちゃん。 「姿を現せ――魔の者よ!!」  私は先ほどより大きな極太光線をはなつ。  すると、空の一点が黒い霧に包まれ、闇の極太線が放たれる。  二つの線がぶつかり合い、打ち消された。 『さすが陽の申し子と月の申し子……戦う価値はありそうだ』  霧が一瞬にして晴れる。  整った顔つきの、私と同じくらいの若い男。  彼の顔の半分を隠す白いお面から、紅く輝く瞳が狂喜を宿す。  隠されていないほうの顔は、死んでいるかのような無表情で、私とフレイアちゃんを観察している。 「あなたは……【絶望を紡ぐ真闇 魔神】ですね」 『そういう貴様は、勇者の聖官、ただ一人の戦友となる者か』 「……それは前勇者までですよ」 『……ほう』  彼のマントが舞い上がる。  それは、彼が腕を動かしたからだ。  その腕には、ピンク色の双剣が押さえられている。  剣の持ち主は……フレイアちゃん。  フレイアちゃんの目は、驚愕で見開かれている。 『不意打ちにもならんな……だが、なかなかの速さがある。 月の魔力の大部分を身体能力強化に当てているのか、陽の申し子とのパーティでは妥当だな』  彼はそういって、フレイアちゃんを叩き落した。  フレイアちゃんは羽を広げ、わたしのそばへ。 『さあ、君たちの開花を見せてくれたまえ、そうでなければ――瞬きの間にその命散ることになる』  彼の言葉を現実と感じさせる威圧感が、私の心を締め付ける。 「いくよ――」  私はフレイアちゃんに目を移す。  フレイアちゃんと目が合い、しっかりと頷いてきた。  私は魔力を極限まで高め、限界ぎりぎりで――駆ける。 「開花――大光使セレスティア!!」  私は一瞬で彼の懐に跳び上がり、拳を叩き込んだ。  彼の姿が一直線に跳んで行き、地面に大きな削り音を響かせて落ちる。 砂が舞い上がり、彼の姿が隠された。  そうして、私の姿の変化が収まり、白い袴の巫女さん姿になったこと、光の結晶が組み合わさったダイヤが背にあることを自覚する。 「【生贄十字使 フレイア】――我が未来の――糧となり、生け贄となれ!!」  フレイアちゃんの翼が実体化し、白い羽根を撒き散らす双翼になる。  その腕に抱えられた、大きく厚みのある十字架が彼の落ちた場所に向けられる。  十字架にある蒼く透き通った宝玉に光の粒子が集まり、極太蒼光線が放たれた。  それは砂煙を突き破り、晴らし、更なる爆発を起こす。  私は左右に視線を走らせた。  唐突に、地面が魔物に溢れかえる。 『さすがだよ、予想以上の力だ』  私たちに対峙するように、彼が宙で不気味な笑みを浮かべる。  その姿に、傷はひとつもない。  私はいつそこに移動したのか、なぜ私たちの攻撃を受けて無傷なのか、私には理解できない。  フレイアちゃんも同じなのか、目を見開いている。  彼は、そんな私たちの様子に満足したのか、目を細めた。 『さあ、きたまえ――そしてともに演じよう、この人形劇に等しい役を』  彼の声が残酷に響き渡った――  リュークス側  俺は今、とてもキレている。  俺はぼろぼろになって、いくつものトラップを乗り越えたのだ。  なのに――こいつときたら―― 「なんで無傷!? なんでここにいる!? というかいつ俺を抜いた!?」 「細かいことは気にしちゃだめだよ〜〜、仕様っていうやつ?」  俺に聞くな。  こいつは俺より速くここに来ていたらしく、目標物の場所まで割り出したらしい。  いったいどうやって調べたのか……疑問が絶えん。  どうも、部屋の隅にある机と椅子が関係してそうだが、机にあるキボドを見るだけでギブアップだ。 「ま、さっさと取りに行こうよ。外で待ってる二人に悪いよ」  サクラはそう言ってさきさき進んでいく。  俺が疲れていることを理解してくれないのだろうか……無理なような気がする。  俺はため息を吐いて、サクラの後についていった。