【タイトル】  ライトファンタジー〜勇者と魔王〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【サブタイトル】  FILE17:上りしは天空(第17部分) 【ジャンル】  ファンタジー 【種別】  連載完結済[全82部分] 【本文文字数】  9257文字 【あらすじ】  語られるは旋律、輪になって踊る道化師達の伝説。ある道化師は勇者の名を語り、またある道化師は魔王の名を名乗り。王道から成る、世界の真実をぶち壊す、ファンタジーストーリー 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************ FILE17:上りしは天空 『なぜだ――なぜ無機質にそこまでする、なぜ君が命を捨てなければいけない!!』  私は叫ぶ。  彼女の創造物に光が灯る。  彼女は、五柱でできた創造物の真ん中で、その命を終わらせようとしていた。  彼女は私に微笑みかけてくる。  だが、それは私の問いの答えにはならない。  私は機械の両腕をしならせ、【夜魅】を両手で掴み、彼女と彼女の創造物の融合を防護する魔力流を切り伏せようとする。  だが、私の斬撃は彼女まで届かない。 『【私】をよろしくね――』  急速に、音が失われる。  止まったような、無音の嵐の前の静けさ――  同じく急速に、爆発音が私の脳裏を埋め尽くした。  私の平衡感覚が崩れ、地に転がるときのような衝撃が私の体を襲う。  私の思考回路が復活を果たし――絶望するしかなかった。 『なぜだ………………』  私は、オレンジ色のあれを視界に収める。  彼女の姿は――ない。 『なぜだ………………』  語彙が強くなる。  五柱の規則的な機械音が、五柱の規則的な作動が、五柱――彼女の命の対価が、そのすべてが、私には理解できない。  理解――したくない。 『なぜだ………………なぜだ………………なぜだ………………ッ!!』  私は一瞬駆ける。  心の先走りに、体はついてこない。  私は今一度、地面に近い視点からこれを見上げることになる。  私に立ち上がるということは思いつかなかった。  私はただ叫びをあげた。  ただただ、狂ったように絶望した。  双振りの魔剣が――交差して地面に突き刺さっていた。 「勇者ぁぁぁぁぁぁ消えろおぉぉぉぉぉ!!」 「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」  イシャの右腕が、白銀の剣と交わる。  イシャの左腕が、リュークスを側面から叩いた。  リュークスは吹っ飛びながらも、屈んで威力を殺す。  リュークスが完全に止まり、イシャに目を向けたとき、イシャは駆けていた。  リュークスはその場を去る。  イシャの左腕がリュークスのいた場所を粉々にする。  イシャは身をひねり、回転するようにして右腕を振るった。  腕撃がリュークスの剣に当たる。  だが、押し合いにあるのではなくリュークス側に腕が流れた。  流された、のほうが正しいだろう。  リュークスはイシャの懐に入り込んで、剣の柄で強打した。  イシャは痛みを感じはしないが、その体は衝撃で強制的に曲げられる。 「はっ!!」  リュークスは白銀の長剣を引き寄せ、横に振るった。  鈍い光の斬撃がイシャを吹っ飛ばす。  だが、イシャの背から魔力が噴出し、体勢をもどす。 「我輩は………………貴様などどうでもいいのだ!!」  イシャの全身が青く輝く。  身体攻撃力、防御力、機動力、そのすべての限界を破棄し、人どころか生物すべてを凌駕する実力を得る。  イシャは姿が消える。  その途端、リュークスが宙を舞った。  いや、吹き飛ばされた。  五回、同時に聞こえる連続の打撃音がリュークスを吹き飛ばしたのだ。  宙に舞ったリュークスは決死に剣を振るう。  剣に当たったなにかが、地面に穴を開けた。  リュークスはどさっと言う音とともに地面に落ちる。 「我輩が見えたのか……それで剣を振るったのか……」  地面の穴から立ち上がる、イシャ。  リュークスはわずかに刃こぼれした長剣を握りなおし、立ち上がった。 「来い――ともに解放の刻をきざもうか」  大地に振りまかれた絶望。  立ち上がるものはいない。  上空でその光景を見て、笑みすら浮かべる――魔神。 「さあて、城に影響はなかったようだな」  魔神の視線のさき――あるのは、いま勇者の戦う廃城。  魔神は深き青の花びらを消し、片翼の色をもどした。  槍は、空間の裏側にその姿を隠す。 「手こずっているようだが、邪魔をする気にはなれん――」  ――なにか考えでもあるのかな? 魔神よ――  希望が溢れる。  桜色の希望が、蛍光となって宙へと舞い上がっていく。 「なんだ………………これは………………」  魔神がぼうぜんとその希望画を眺める。  凝縮した桜色の巨大双翼が、揺らめく炎のような姿で顕現される。  その双翼の出る場所に、一人の少女が光臨する。  少女の双眼が魔神を射抜く。  圧力――魔力の差によって生まれる弱者の押しつぶし。  魔神は歯を食いしばり、自らを保つ。 「まだ終わってないよ。ボクの出し物がまだだ」  サクラは双翼をさらに巨大にさせる。  それは城よりも巨大な、すでに翼としての飛行能力を失っていそうな鳳桜。 「ルクスエンドを知っているかい? あれは光魔法最強の技だ。 でも――ボクはそれを超える光を使えるとしたら?」  サクラは両手を横に伸ばし、自らを抱きしめるように交差させた。  ……ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……  翼が重い巨体をゆっくりと、着実にうごかす。  そうして出来上がるのは――球。 「始動せよ。汝は極光の絶対破壊光魔法陣(ルクスエンド)を超越せし絶対破壊光巨大魔法陣集合体――」 「させるかぁぁぁ!!」  魔神は槍を突き出し、黒風で球を破ろうとする。  だが、大きさに差がありすぎる。  城を超える大きさのものの氷山の一角を攻撃しても、壊れる可能性は未無。  サクラは球の内から最後の宣言を終える。  それは一言。 「爆ぜよ」  球全体に刻まれる文字が、球という魔法陣が、起動される。  魔法陣がその形状の破棄とともに、魔法陣を作る魔力が拡散してあたりに散る。 「これがボクの出し物だ――!!」  鳳桜光魔力最終形態発動・エレメンタルレギオス・ルインクラスト  ひとつひとつが通常よりも大きな、人二人分ほどの魔力弾が、いくつもいくつも八方に散る。  魔神は闇を放ち、魔力弾を紙一重でかわし続けるが、七方に散った魔力弾が追撃する。  魔神はついに魔力弾に飲み込まれ、断末魔をあげた。  その叫びをかき消す、魔力弾の嵐。 「ボクの――勝ちだ!!」  サクラが言い放つ。  止めというように、数十の魔力弾が砂煙に包まれた魔神に降り注ぐ。  閃光があふれ、巨大な爆発と砂煙の柱が昇った。  地面には巨大なクレタができていることだろう。  勝利――その一言がサクラに掲げられた  サクラは 力尽きたようにため息を吐き―― 「まだ終わってはおらんぞぉぉぉぉぉぉ鳳桜使いよぉぉぉぉぉぉ!!」  煙を突き破るようにして、槍を持って突進する魔神。  その全身はいまにも崩れそうで、ヒビだらけだ。  サクラは驚愕に目を見開く。 「私のぉぉぉぉ勝ちだぁぁぁぁぁ!!」  サクラが両目を閉じる。  死を覚悟したのだろう。  魔神は残虐な、勝利の笑みを浮かべる。  そのとき、魔神の左右を二つの衝撃が襲う。  ひとつは、フレイアが両手で放ったひとつの斬撃。  もうひとつは、地にふせながらも片手をまっすぐ魔神に向けたセレの光弾。  微妙なバランスで顕現していた魔神は――それをスイッチに腐敗し始める。  片翼が弾ける様に消える。 「うおぉぉぉ……ウオオオオオオオオ!?」  魔神の断末魔。  その叫びを最後に、魔神は砂と化した。 「連続千回以上の消滅のなかで――魔神はぎりぎり生き残ったのか……」  サクラは、押し合いに負けた。  だが、結果的には勝てたといえよう。  仲間――その存在のありがたさを、サクラはひしひしと感じ取る。 「あとは――君だけだ、リュークス君」  魔力の存在自体がまったく感じられない城を、サクラは眺めた。   「ちっ……」  リュークスは舌打ちをもらす。  リュークスの右肩を血の筋が這う。  それとともに、吹き上がる血しぶき。  リュークスは剣を左手に持ち替え、イシャを探す。  イシャは左肩に火花を散らせてはいるが、本人は痛覚がないので無傷に等しい。 「そろそろ限界ではないのか? 若造勇者」 「そっちこそな、自分の力を体が許容しきれてないぜ、人工生命体」  リュークスは魔力を込めた斬撃を放つ。  斬撃は地を這うが、向かう先にイシャはいない。  いや、イシャは斬撃の真横を抜いた。  イシャの直線的な蹴撃を、リュークスは目で追わずに剣で軌道を捻じ曲げた。  イシャは自らの攻撃の反動で、機械義腕を軋ませる。  イシャの体を、リュークスの二撃目が襲うが、イシャは身を反らして避ける。  前屈みになったリュークスを、上からイシャの打撃が、リュークスを地面に叩き付けた。 「ちっ!!」  リュークスは打撃の範囲から逃れるように横にずれる。  リュークスの体が吹き飛ばされた。  だが、それはリュークスの戦略。  リュークスはわざと吹っ飛ばされ、イシャの圏外にでたのだ。  リュークスの目の前までの地面が、イシャの腕を中心にして巨大なクレタと化す。 「こわいな。なんて威力だ」 「我輩に傷をつけることは不可能ではないか?」  イシャは腕をゆっくりと地面からあげ、呟く。  イシャは片足に力をこめ、駆け出そうとする。 「それは――」  イシャは音もなくリュークスの目の前に移動し―― 「どうかな?」 「ッ!?」  反対側に弾き飛ばされた。  イシャは地面に二度、三度と叩きつけられ、跳ね飛ばされた。 「自らの速さが仇となる。俺はただ剣を構えるだけでいい」  リュークスは地面に深く突き立てた白銀の長剣を指差す。  剣の鍔が削りとられたように凹んでいた。 「………………人工生命体の、機械の判断能力を上回るとは、恐れ入った」  イシャは嫌みったらしく言い放つ。  リュークスは剣を握りなおし、にやりと笑った。 「――グラム。もうすこしもってくれよ」  リュークスは横に大きな斬撃を放った。  それはイシャに向かって飛翔する。  イシャは斜めに跳び上がり、斬撃を避ける。  リュークスは剣を全力で握りこみ、縦に振り下ろした。  斬光撃・一閃  閃光のように鋭く鈍い斬撃が、光速でイシャを宙から地面に叩き落した。  リュークスは一躍で、イシャの落下地点にはいる。  リュークスは体を旋回させ、螺旋状に残光を残して、かがむ。  リュークスは残光が消えるよりもはやく、剣をイシャに突き出した。  旋空刺突・閃撃  螺旋を砲身にして、剣から長方形に似た斬撃が放たれる。  イシャは腕を突き出した。 「決めようか、華麗なる最後を!!」  イシャの腕が四方向に展開する。  中から引き出されるのはふたつのスマト・ガンの銃身。  肩から接合されているようで、握り部分はない。  さらに、イシャの背に白い機械翼が展開すると、そこに埋め込まれた片翼三つ合計六つの青い宝石に魔力が充填され始める。 「魔力核砲六発に……長距離用メガ・スマト・ガンだと……この城の超科学武器を奪取していたのか」  地に無残にも伏せる白狼が、苦虫を噛み潰すように顔をしかめる。  イシャはふんと鼻を鳴らすと、翼をさらに展開し四枚翼にし、なかからミサイルの嵐を巻き起こした。  ミサイルは斬撃を消して尚、リュークスに牙をむく。 「ちっ!!」  リュークスは剣をなぎ、斬撃でミサイルを爆発させた。  リュークスの剣に、時の扉を開ける魔力が込められる。 「おそい。我輩の攻撃は始まったぞ!!」  イシャの一言とともに、リュークスの体を一筋の光が貫通する。  途端に、リュークスは血まみれになった腹部を押さえた。  イシャのもうひとつのスマト・ガンが、リュークスの肩をえぐる光を放った。  リュークスは剣を手から滑り落とす。 「死に落ちろ――勇者!!」  リュークスは、イシャの背から放たれる六本の極太線を目にする。  だが、それはリュークスに届く前に霧散した。  ウイルスバグインストル………………精神理解不可状態での破損完了………………影響開始………………  イシャの体を黒い粒子が駆け抜ける。  イシャの翼は粉々に地面に崩れ落ち、イシャのスマト・ガンは暴発して銃身の途中で爆発する。 「これは………………がっ!!」  イシャは呻きをあげる。  白狼は満足そうに笑みを浮かべた。 「やっと効き始めたか……ぎりぎりだな」  イシャの体が停止をはじめる。  内からの破壊……それにより、開放している魔力を許容できなくなったのだ。 「我輩は……ちっ!!」  イシャは心核から魔力波をはなつ。  空間が揺れ、大きな六星陣の門が生まれる。  巨大術式陣・遠隔発動型移動魔術―― 「これは――魔王の力のものなのか!!」  リュークスは、六星陣に消えていくイシャに叫ぶ。  イシャはリュークスを鼻で笑うと、こう言った。 「そんなのどうでもいいことだ。バカ者――」  イシャは瞬間的に、音もなく消え去ったのだった。  それとともに、リュークスの剣が音をたててヒビ割れた。 「グラムの模造剣(レプリカ)……ありがとう。安らかな眠りについてくれ」  リュークスの手から、柄と鍔が消える。  それとともに、地に伏せた。 「満身創痍ってとこだな……そこで転がってる五体不満足のひと、生きてる?」  リュークスは、白狼に話しかけた。  その声は、余裕に満ちている。 「……生きては、いる」  白狼は、落ち着いた風に言った。  リュークスは苦笑を浮かべた。 「これから死ぬかもな。俺も、あんたも――」 「いや……それは大丈夫だ」  白狼の言葉に、リュークスが言葉を返すよりはやく、それは起こった。  空――いや、城の頂上から光が放たれる。  それは、すべての物体を貫通する五つの光弾――  だが、それは攻撃の命を受けし光弾ではない。  それは、それぞれの場所へと向かった―― 「避けるなよ、これは攻撃の魔力弾ではない」  リュークスの視界に光弾が落下してくる。  リュークスは言われるまでもなく、動く力がない。  光弾がリュークスを包むルクスドムになり、リュークスに魔力が当てられる。 「傷が――なおっていく」 「完璧ではないがな」  白狼の呟きは、リュークスの聴覚に入らない。  光が伸ばす、不可視の触手がリュークスを治癒していく。  唐突にドムは消えてなくなった。  すると、リュークスはぎりぎり立てるようになっていた。 「デタリンクに、タイマ付で回復援助弾を放つように申請しておいた」 「――それはまた用意周到なことで」  リュークスは立ち上がり、苦笑いを浮かべる。 「動くなよ、座標から外れて半身を失いたくなければな」  リュークスは、白狼の言葉に固まる。  白狼はまだ立てるほど回復していないようだ。 「そとにいる三人は回復援助弾を受けても動けないどころか、意識すら戻っていないようだ」 「なら、今すぐいかねぇと!!」 「だから動くな!! もう一つの機能で自動転移する」  どこへ――リュークスの問いは、リュークス自身にも届かない。  空から降り注いだ線に包まれたからだ。  白狼も同じ状況にある。  光がじょじょにその照度(ルクス)を高め、リュークスの視界と思考能力と聴覚を奪いとる。  そして、リュークスは唐突に意識を搾取した。  その場所は、オレンジ色の地面の―― 「ここがデタリンクだ」 「デタ……リンク」  リュークスはあたりを見回す。  あきらかに奇妙な光沢のオレンジの地面、その周りには紫の壁、壁までの膨大な距離が底なしの黒い空白。  そして、リュークスと白狼を見下ろすように、人の顔のように盛り上がった巨像がはるか上にあった。  この地面の端には、浮き上がったオロラの壁ができている。 「デタリンクにある………………完全回復プログラムを起動する」  白狼はゆっくりと立ち上がると、危ない足取りで巨像に向かった。 「管理者コド00880014。完全回復プログラムの起動を要請する」  ……コド確認……指定プログラムを起動します……  そんな、感情のない声が響くと、地面から光が溢れ上がり、傷が蒸発するように塞がっていく。  リュークスの肩は射抜かれた傷の痕跡をのこさないほど、完璧に治癒される。 「――そろそろ来るか」 「なにがだ?」 「満身創痍の仲間さん、がな」 「サクラたちか!?」  リュークスの叫びに呼応するように、地面から湧き上がるように三人の幻影があらわれ、実体化した。  血まみれ――傷があるのかわからないほどに、泉と化した赤き水のなかに、動く様子のない三つの姿。 「回復援助を受けてこの度合いか――私よりひどい傷だ。神とでも戦ったのか」  白狼の呟きが終わると同時に、地面から光が溢れる。  血が見る間に浄化されていき、傷のない正常へと還される。  サクラは目をゆっくりと開けた。 「んにゃ? まゆまゆフィバは?」 「こいつは大丈夫みたいだ。スル」 「ひ、ひどいよ!? ボクだっていろいろと大変だったんだから――」  サクラの騒ぎを聴覚から消したリュークスは、まだ虚ろなセレに駆け寄った。  セレはまだ、ここにいることを理解していないようで、ただ意識が覚醒していないだけらしい。 「ん……ここは……?」  セレの隣で頭を押さえたフレイアが、きょろきょろとあたりを見回す。  リュークスは自分の知りうる情報を伝えるために、口を開いた―― 「これで――いい」  私はなにもできなかった。  ただ、この劇の傍観者にすぎない。 「彼らの繋ぎになる」  それが、私の与えられた運命。  不確定要素(イレギュラ)である私が、生かされている理由。 「だが、私には意思がある――」  想いがある。意識がある。心がある。過去がある。未来がある――  そのすべては《私》である。使命ではない。 「この操作不可能な万象ですら――」  《やつ》のマリオネットであるのか。  所詮、すべては仮定。証明には情報が足りなさすぎる。 「私の彼女の思いを果たすという決意が――私であることに変わりはない」  私は世界などどうでもいい。  彼女の恐れた、元凶を除去する。  それが私の生きる理由―― 「それが、私が双牙をもつ理由――」  私は地に突き刺さる双振りの魔剣を、わが身に収納する。  そして、腕をマントの裏に隠し―― 「やあ、また会ったね――白狼くん」  金髪の美しい少女に話しかけられてしまった。 「貴様は……あの時の……」 「ちょっと間、君といっしょに冒険したじゃないか。忘れたの?」  少女は意図の読めぬ笑みを浮かべる。  私は興味がない。  知能ある者は必ず何か策を持ち、それの得を考えて動くもんだ。 「ああ、どうでもいい。私には関係ない。 貴様らはあの超科学装置を持ち出したはずだ。それはここにある発射装置で出なくては」 「どうしてだまってたの」  説明を阻止され、私は眉をひそめた。  彼女たちに利益ある情報を伝えているというのに、彼女はそれよりも優先すべき事項があるという。  私はすっとぼけることにした。 「なんのことだ?」 「――最高管理者、この封印形式雷城(マウンテン)の創造者(オリジナリスト)の一人、白狼(孤独の天才)」 「……」  私は感嘆する。  あの携帯端末(モバイル)から調べたのだろう。  だが、情報量が適度で、的確すぎる。  彼女はまだ運命に操られた人形(アカシック・マリオネット)なのだろう。 「それがどうした。私であることに代わりはない」 「――君の戦闘能力は《不完全》だ」  知っていた。  私は知っていた。  自分のことだ。知らないはずがない。 「なら、それは肯定しよう。 だから、それがどうした?」 「――君はそれを創ったのはいつか、覚えているかい?」  わからない。  興味はない。  興味がない。だから知ろうとはしない。 「興味がない。それより、速くこの場をさってくれ」  私はそういって踵を返した。  彼女の呟きは、私に聞こえない。  それで――いい。 「興味がない。それより、速くこの場を去ってくれ」  ボクは言うつもりがなかった。  だが、どうしても口から漏れようとする真実を、押しとどめることはできなかった。 「君はもう――」 死んでいる――  ボクの呟きはだれにも届きはしなかった。   だから、こんなにも重くボクに突き刺さってくる。  彼はボクの目の前からいなくなっていた。  彼の肌が、彼の目が、彼の想いが―― 「すべては、虚幻――」  ボクは信じられない。  彼は運命に操られた人形(アカシック・マリオネット)ではない。  だからこそ、その存在自体が操られている。  想いすら、気づかないうちに―― 「ボクですら、本当は――」  不確定要素(イレギュラ)。  ボクはこの世界にはそれが溢れてきているといった。  でも、本当は―― 「すべて、確定要素(レギュラ)で―― すべて、予定どおりで―― すべて、通るべき事項なのか――」  ボクは、いまだからこそ思う。  この世界をゲムにした、永久円環物語(エンドレス)の主の恐ろしさを―― 「これが――発射口」  壁に向かってレルの引かれた、用途のわからない場所。  リュークスは首を傾げ、フレイアは興味なさそうにあくびし、セレはわくわくという効果音がつきそうなほど目を輝かせている。  サクラはスツケスを抱え、レルの端にいった。 「ここに設置するとして……ふたつまでか」  サクラのケスを掴み取った白狼は、ケスをかちゃかちゃといじくる。  すると、ケスが唐突に開き、青と緑の翼付バイクが二台飛び出した。  それは、レルの上に並列でならぶ。  ぎりぎり、レルからはみ出してはいない。 「序速で上空に舞い上がれば、あとは半永久的に飛行できるだろう。 それでは――飛竜の怒りと聖罰の贄とならんことを願って」  白狼は見送りをしようというのか、その場を離れることはない。  サクラが傍によってきた。 「えっと、どっちに乗る?」  サクラが気まずそうに言う。  すると、リュークスにふたつの威圧感が迫った。 「弟く〜ん? お姉ちゃんといっしょに乗ってくれるよね?」 「………………わ、私は別にいっしょに乗りたいわけじゃないんだよ?」  セレがリュークスの腕を掴む。  それに対抗するように、フレイアがリュークスの腕を引っ張った。  セレは満面の笑みを、フレイアは必死で不安そうな上目遣いを、それぞれリュークスに向けた。  選択肢のないリュークスに、救いの手が伸ばされる。 「じゃ、ボクと乗ろうよ!」 「え?」 「サクラさん?」  リュークスに抱きつくサクラ。  サクラはそのままリュークスを連れまわし、青のバド・シェイルに乗りかかった。 「とばすよ、しっかり掴まっててね」 「サクラさん!!」  セレはサクラさんに頬を膨らませる。  サクラは、いたずらっ子の笑みを浮かべる。  リュークスは、サクラを窒息させないよう力をだいぶ加減した。  セレとフレイアは、しぶしぶもうひとつのバド・シェイルに乗り込んだ。  壁に、天空への大空門が顕現される。  そのさきにのぞかれしは、風の住処。 「いくよ――」  リュークスは隣に目を移す。  そしてひとつのことを確認した。 「みんなで――進もう」  いままでのように、これからも――  リュークスの呟きは、そこまで続かなくてもいい。  三人が微笑んできている。  それが、同意の証。  バド・シェイルが唸りをあげる。  火花がちり、羽ばたきの力を得たそれは、願望せし大空へと迷いなく飛び出した。  途端に襲い来るのは――風の侵犯者としての待遇。  全身から感じる圧力。  そのどれもが、侵犯者を押しとどめることはできない。  バド・シェイルは、なにかにむかって突き進むように、空を割き進む。  そして、リュークスは青空をみた。  大きく、広大な青空を――  それとともに、地から立ち上る一本の闇柱を―― 「あそこは……国」  リュークスからは遠すぎる距離。  だが、肉眼で見れるほど大きな、絶望の闇。  闇は、何かを宣言するように、空を侵す。  闇雲があたりを覆っていた。  リュークス立ちのいる空は、まだ汚れを帯びてはいない。 「魔王……ついに動き出した……」  リュークスは圧力を感じ取る。  王国の、肉眼ではみることのできぬ一部から、リュークスに注がれる視線を。  リュークスはその視線をなぜか感じ取り、にやりと笑った。 「魔王――俺は今お前が嫌いになったぜ」  リュークスたちはさらに上へと、舞い上がった。  闇は――魔王は、その濃さを強めた