【タイトル】  ライトファンタジー〜勇者と魔王〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【サブタイトル】  FILE18:クラウ・ソラス(第18部分) 【ジャンル】  ファンタジー 【種別】  連載完結済[全82部分] 【本文文字数】  8702文字 【あらすじ】  語られるは旋律、輪になって踊る道化師達の伝説。ある道化師は勇者の名を語り、またある道化師は魔王の名を名乗り。王道から成る、世界の真実をぶち壊す、ファンタジーストーリー 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************ FILE18:クラウ・ソラス 彼は泣き叫んだ。  孤独を、悲しみを、焦燥を、絶望を、そのすべての自分をつたえるように。  だが、その声はただただ空に響き渡り、その思いを歪曲し、届かせる。  地に定住せし者達は彼をこう言った。  『空に巣食う魔龍』と―― 「これが巣か――」 「観光してる暇はなさそうだよ、しっかり掴まって!」  サクラがそう言うと、リュークスの視界が急速に変化する。  リュークスに迫るのは、まるで木の幹のようにしっかりとした巨大な飛行物体。  サクラはそのまわりを旋回した。 「ここに死龍がいるのなら――反撃をうけるだろうね!」  巣の、ところどころにある壁の狭間から、金色の光弾が宙に放たれ、サクラたちを狙う。  サクラは、サクラの隣で旋回する緑のバド・シェイルをみた。 「二手に分かれるよ。できるだけ離れて。いくよ!」 「「はい!!」」  緑のバド・シェイルにのるフレイアとセレ。  彼女たちは真剣に頷くと、直角に下降した。  光弾がバド・シェイルの軌跡を追う。 「よそ見してる暇はなさそうだよ……」  サクラは前から迫る光弾を目踏みする。  そして、読みきれない軌跡を描き始めた。  光弾はそのとおりに動き、いくつかが同士打ちする。  爆発が起こる中、生き残った光弾が迫ってくる。 「リュークス君は右翼を任せたよ!」  サクラはそういって、左手を掲げた。  【ゴスペル・インフェルノ】  サクラの片腕にまとわりつくように、炎の竜があらあれる。  その竜は、光弾に恐れなすことなく、その咆哮を轟かせた。  ともに波立たされる炎の波は、主に牙向くものを丸呑みにする。 「俺って近接戦闘のほうが好みなんだけど……」  リュークスはそういいながら、片手を光弾に向けた。  その片手に集まり、形成されるのは半透明の蝶。  蝶は光を纏うと、尾を引きながら不規則な動きで光弾を打ち落としていく。  【エンジェルドラグン・アルティメットバスト】  緑のバド・シェイルから何本かの羽が放たれる。  それは、バド・シェイルの八方に位置して、迫り来る光弾をひとつ残らず射抜く量の羽根の弾丸を放った。 「この巣にはいるには壁の狭間に入り込むしかないね……」  サクラはそういって、手近の狭間に目を向けた。  途端、狭間から弾丸があふれ出る。  サクラはハンドルを瞬間的にキリ、横へ抜けた。  弾は素通りするが、弧を描いてもどってくる。 「簡単に入れさせは――」 「してくれないがな!」  リュークスはバド・シェイルの上で立ち上がり、両手を突き出した。  その両手には、時空を歪ませる波紋を宿した球。 【ディメンション・ツインオブ】  リュークスの手からはなれた二つの球は、あたりの空間を吸収するように波だたせる。  光弾は強制的に進路を変えられ、球に取り込まれる。 「勢いに乗ってくれ、そのまま突入する!!」 「アイアイサ!!」  サクラは球越しにある狭間に進路を向け、全力で進んだ。  球に飲み込まれる寸前、俺は球を消滅させる。  バド・シェイルはそのままの速度で、狭間のなかに飲み込まれた。 「フレイアちゃん、私たちはどうする?」 「決まってますよ、お姉ちゃん」  緑のバド・シェイル。  セレは近くにある狭間の前で、急停止した。  そして、光弾の放流が終わったとき、まっすぐと突撃する。 「正面から――」 「堂々と――」  セレは光結界を、フレイアは弾幕を、それぞれバド・シェイルを守るように張る。  光弾が弾幕とぶつかり、相殺された。 「「通り抜ける!!」」  別の狭間から放出された光弾が、光結界を傷める。  だが、傷ひとつついた様子はない。  左右に火花を散らせたまま、バド・シェイルは狭間のなかへ飛び込んだ。  それと同時に、砲撃がぴたりと止む。  外見的な静寂を取り戻したのだった…… ・・・・・・ ・・・ ・  ここが巣。  瓦礫の組み合わされた、道と呼ばれるものの存在が危うい構造物。  無理をさせたバド・シェイルは、不可思議なアタッシュ・ケスに収められる。 「上……でいいのか?」 「たぶんね。鳥の巣って、結局は乗るタイプのものでしょ?」  鳥と同じ考え方でいいのか、と思う。  俺はため息を吐いた。  全体から感じ取れる魔力のせいで、索敵は不可能。  さらに、道なき道お進まなくてはいけない。 「強力なので一気に頂上にでてもいいけど、巣が落ちるかもしれないからねぇ……」  サクラは絶句したように苦笑いする。  ――暗いな。  天井は完全に塞がれているから当たり前だろう。  ――セレとフレイアは無事だろうか。  暗闇にいるせいか、不安が募る。 「……セレちゃんたちのこと、考えてるでしょ?」 「え?」  俺はいきなり図星を突かれ、目を丸くしてサクラを見てしまう。  サクラは悪戯っ子の笑みを浮かべた。 「まったく、セレちゃんたちがそんなに可愛いか、このこの〜」 「……そんなことないって」  サクラはため息を吐いた。  そして、わざとらしく落ち込んだように言った。 「ボクのときはそんなに考えてくれないんだろうなぁ〜……セレちゃんたちは可愛いもんねぇ〜」 「そんなことないって」  俺はとりあえず全力否定する。  俺としては、そんな誤解はない。 「ほんとかな〜?」  サクラはにやりと笑ってくる。  俺はとりあえず激しく頷いておく。  サクラは腕を組むと、満足そうに頷いた。 「よろしいよろしい♪」 「……はぁ」  遊ばれたということはわかっていても乗らないわけにはいかなくて、でも結局はサクラのテンションに乗ってしまって……  −−どうすればいいのだろうか? 「じゃ、そろそろ実戦といこうか」  サクラがその一言で桜色の大剣を創り、振るった。  生まれた炎は、闇から生まれでし絶望の子を照らす。  光の祝福は、闇に開放の死を与えた。  俺はその光景を呆然と見つめ、迫る『何か』を感じて抜刀する。  引き抜かれるのは、時空を超越し、時空を称した魔剣。 「見い出せ、運命の根本を――」  魔剣は急速にその刀身を形成する。  生まれるのは紫の幅広剣。  エタナルの名を受けし魔剣は、幻影刀身を纏っている。  その剣に、一体の異形がからみつき、一瞬にして無へ帰った。  俺は異形のあらわれた場所を睨んで、後ずさる。 「グル……魔王の最多の手下。囲まれてるよ」 「――仕掛けてたか、向こうが上手だな」  そして、飛び出してくる異形。  俺はその数を見定め、三瞬で片付ける。  残してはいけない。その分こちらが不利になるからだ。  サクラは片手で剣を振るいながら、闇に潜む異形に神の炎(ウリエル)を放っている。  だが、俺には増えているのか、減っているのか、まったくわからない。 「さて……どうしたものか」  俺は斬撃で、飛び出してきた異形を一刀両断する。  やはり、何も浮かばない。 「……やっぱり、穴開ける?」 「だめなんじゃなかったのかよ」  サクラはもう飽きたようで、今すぐにでも極太光線を放ちそうだ。  俺は、さっきのサクラとの矛盾を指摘しておきながら、考えをめぐらせる。 「切り抜ける方法は――」  俺は、剣を握り締める。  幻影剣がその規模を増し、長剣という言葉に収まらないほどの長さに変化する。  俺はそれを、渾身の力を込めて薙いだ。  剣の軌道を砂煙が舞い、闇に伸びた斬撃はそこいいるであろう何十体のグルを切り裂いた。  その範囲の闇が、気持ち程度薄らいだ。 「一気に駆け抜けるぞ!」  サクラは頷くと、薄らいだ闇に炎の渦を投げ込む。  炎が通り、できた道を俺たちは全力で駆けた。  左右から飛び出してくるグルを切り伏せるのに、歩みを止めるほどの力を込めない。  そして、またサクラが炎を放つ。  その繰り返しは、エンドレスのようで、一瞬だった。  サクラが、俺の制止も忘れて鳳桜を開放したのだと気づいたときには、もう穴ができていた。  その余波で、八方で波寄せるグルが一掃される。 「ま、こんな巣どうでもいいや。さっさといこう?」 「……俺はもう知らんからな」  サクラは、六枚翼のふたつを広げて、首を傾げる。  俺はあきらめの意味を込めてため息を漏らし、跳躍した。  私は異質であった。  私は生き残りであった。  現在、過去、未来、そのすべてを孤独で生きるであろう龍であった。  私は長い長い寿命をもつ。  すべての生物を超越せし私は、彼らと同じ感情に締め付けられた。  寂しい――そんな感情。  だが、私と共にいれるものなど、有機物には存在しない。  だからこそ――想った。  せめて、清輝の物をこの手に、と。  せめて、私の心を満たすものをこの手に、と。  だが、地に定住せし者たちは、そんな私の淡き願いすら拒絶する。  私は何もしていないというのに、彼らは私を恐れ。  私は何もしていないというのに、彼らは私から距離をおき……  だから、私は強引に奪取することを選んだ。  ただそれを奪えれば、私は完全に異境へと消えるというのに。  二度と、彼らの前に顕現しないというのに。  彼らは自らの思案を、私という存在に塗りつけ、勝手に恐れおののく。  私はどうすればいい。  何もしなくても孤独。  何をしても孤独。  だから、癒してほしかっただけだというのに。  そんな願いすら、拒絶されて――  私は――どうすればいい――  闇夜が訪れる。  月はその淡い輝きを、凛としたものとさせる。  そのなか、月光が地に届くのを妨げるひとつの点。  それは、月の規模に比べると本当に小さな飛行物。  その飛行物は、巣と呼ばれる。  八方を、丸く整えられた壁で覆うのは頂上。  壁の内には、巣の主に用意された、巣の主が用意した、大きな平野がある。  悲しみを含んだ恐怖の咆哮がふたつ、巣から響き渡る。  それは――巣の主、死龍の奏でる曲。  その曲は唐突な終わりを告げる。  この物語の前奏は終わったのだ。  そして、始まる―― 「やっと、やっと見つけた」  平野を踏み荒らすのは一人の男。  男の足元には、大き目の穴がある。  その手に握り締められしは、時空の魔剣。 「来たか――私の欲せし清輝を奪いし愚かなる地の定住者」  男――リュークスは、死龍が愛しむ聖剣を睨み見た。  聖剣は平野に突きたてられている。 「彼だけじゃないさ」  リュークスの背後から舞い上がったのは、精霊王をその翼とせし少女。  死龍は、その二頭を持ち上げた。 「はじめようか――フィナレへの軌跡演奏を。そして、私は勝ち取ってみせよう、私を満たすことができる天使を!!」  死龍は宣言をするように、強大な威をしめす咆哮をあげた。  リュークスは駆けた。  サクラも、魔力を高める。  そして、戦いが始まりを告げた―― 「バド・シェイルはここに置いて行こっか」 「サクラさんしか、圧縮収納機能付アタッシュ・ケス持ってないからね……」  セレとフレイアは、機能を停止したバド・シェイルから離れる。  セレは、片手に光を灯した。  閃光があたりを照らし、その姿を顕わにさせる。  腐敗した木や、酸化鉄の柱が無造作に組み合わされた道なき道。  まわりも、同じようなものでできている。 「何で浮けるのか……はわからないとして、やっぱり巣だね」  フレイアは苦笑を浮かべる。  セレはまわりを隅から隅まで照らしながら、ゆっくりと歩を進めた。 「中心の『安定地』を守るように創られた『壁』 どちらにしても、巣の中は甘い創りになってる……上に行く方法ないかもね」  セレは真剣なまなざしで、上に上れる何かを探す。  セレのあとを追おうとしたフレイアは硬直した。  そして、震えながら自らを抱きしめる。 「フレイアちゃん!?」  フレイアの異常を、視界で得たセレは蒼白になってフレイアに駆け寄る。  フレイアは『ここではない何か』を見つめるように呆然としている。 「なに……来る……私は…………………私は……」  フレイアの手首に刻まれた、蛇の絡み合う腕輪の刺青。  それは、ゆっくりと鼓動をはじめた。  フレイアの声は大きさを増し、爆発するように魔力を高めた。  異常な量の魔力を纏ったフレイアは、ピンク色の半透明な羽を背に顕現させる。 「お兄ちゃん………………お兄ちゃん!!」  フレイアは叫んだ。  そして、上へと視界を移す。  閃光が瞬き、フレイアは弾丸となって発射した。  セレは目を腕で覆いながら、驚愕する。  フレイアは天井を音もなくぶち破り、すぐに跡無くセレの前から消えた。 「フレイアちゃん!!」  セレは魔力の球体でその身を包み、フレイアの軌跡を追う。  光をなくした場は今一度闇が治め、闇の異形が歩み溢れていく。  そして、バド・シェイルはその暴流に破壊されたのだった…… 「闇は黄泉を具現する。黄泉は死し者どもの住居。現世から流れ着く終点。その具現は――死を間近に感じさせるということ。汝も感じよ、黄泉の告死を……」 ヴェノム・フォビドゥン  金色の魔力が、死龍の二頭に集まる。  ひとつの咆哮と共に、魔力は極太光線となって放たれた。  サクラは両手を、迫る光線に向けた。  張られるのは、厚みある桜色の結界盾。  極太光線は結界盾にぶち当たり、火花をあげる。  汗を滲ませるサクラの側面に、離れた場所を進んでいたはずの極太線が不自然な曲がり方をして迫る。  サクラは翼で己の体を隠した。  翼と光線が激突し、サクラが吹き飛ばされる。  サクラは地面に触れる瞬間、魔力を噴出して浮遊した。 「結構きついね――神なる闇(ヴェノム)の進化系だから、当然だけど」  死龍の二頭のひとつを、幻影剣が叩く。  だが、衝撃で動くすることすらない。  幻影剣の根本には、苦い顔をするリュークス。  死龍は右へうねり、牙をむいてリュークスに突進した。  リュークスは跳び上がり、それを回避する。  だが、振り返った死龍はすでに魔力を込めていた。  ヴェノム  紫と黒の極太魔力光線がふたつ、宙に跳んだリュークスに放たれる。  リュークスはそれを斬撃で消し飛ばした。  そこに、金色の極太光線が放たれ、リュークスは地面におちる。  地面に足と片手をつけて着地したリュークスは、睨むようにして死龍をみる。 「ヤバイ……な……」 「あの絶対障壁の皮膚――『焼却』で消せるのも数秒だよ、強化されてる」  死龍は二頭に金色の魔力を込める。  そして、それを地面に叩きつけた。  痕跡の黄泉  地面から巻き起こる、半球の金色衝撃波が、秒単位で拡大していく。  リュークスは斬撃を己の前に突き出した。  リュークスの前を覆うように、斬撃の壁ができる。  サクラは手に魔力を集めた。  鳳桜・皇王鳳凰滅砕天駆(メテオフェニックス)  サクラの手に顕現される弾丸は、鳥。  鳥は翼を極限まで広げ、横に長い弾丸となって飛来した。  リュークスの斬撃も、サクラの弾丸も、衝撃波のまえには無力と化して飲み込まれる。  そして、サクラとリュークスは弾き飛ばされた。  衝撃波の傷跡は、円形となって地にのこる。  地に倒れる二人。 「私の勝ちだ――」  そのとき、地から天使が舞い昇った――  その天使は、美しき神透羽をもつ少女――  死龍を圧するように、地から弾丸が昇ってくる。  死龍の巨体が曲げられ、弾かれるようにして宙に吹き飛ばされる。  弾丸はその速度を緩め、リュークスに駆け寄った。 「兄さん!!」  フレイアは泣き出しそうになりながらも嬉しそうに微笑み、リュークスに抱きついた。   リュークスの傷が一瞬にして完治する。  リュークスは、己の腕で泣き笑いしているフレイアに目を丸くする。 「サクラさん。大丈夫ですか!」 「セレちゃん……あっちはどういう心境の変化?」  サクラは、フレイアの軌跡からでてきたセレに、説明を要求する。  セレはただただ苦笑するだけだった。 「フレイア、わかったから、心配してくれたのは嬉しいがこれはさすがに恥ずかしいぞ……」 「……」  フレイアは、リュークスの言葉を聞いていないかのように無言。  その上、リュークスに顔を深くうずめた。 「あれが……なら……だが……魔王は……私は今のほうが……」  死龍は思案するように呟いた。  そして、戦闘続行を告げるように雄たけびをあげた。  そして、フレイアはきょとんとした表情でリュークスから離れる。 「えっと……なんで兄さんに抱きついてるんだっけ……」 「俺が聞きたい」  リュークスはそういいながら立ち上がり、剣をかまえた。  フレイアは首をかしげながらも、羽のふたつを剣にして構えた。 「天使の娘よ。汝が光となり、我らを開放するのなら――私は、悪役を任ずる!! 悪として、貴様らに立ちはだかろう!」  死龍はそういって、その身を縮込ませた。  皮膚に、光の筋がはいっていく。  刻まれるのは――紋章のような、規定の痕。 「あれは――絶対障壁!!」 「私を乗り越えてみせろ!!」  死龍は紋章を放った。  それは半透明の壁となって、全方位に波立つ。  絶対障壁最終開放(ゴッド・ラストレディス)・|完全拒絶防攻壁顕現紋起動(パフェクトバリア) 「俺がなんとかする――」  リュークスは構えをとる。  フレイアはその隣にたった。 「フレイア。おまえは下がってろ」  リュークスの言葉に、フレイアは首を振って否定した。 「兄さん。私たちはね」  そこに、フレイアの反対側にたつセレ。 「一心同体なんだよ、弟君」  リュークスの両脇に立つ姉妹。  リュークスは呆れるようにため息をつき、でも嬉しそうに微笑んで、壁を見つめた。 「なら――最後までついて来てくれ!!」  そして、全力が解き放たれる。  【開花】  セレは巫女服を纏うと同時に、背に浮かぶ光結晶を組みあげる。  フレイアは白き実体翼を羽ばたかせ、腕に抱える十字架を蒼白く輝かせる。  【命帝滅衝・光剣突最集一閃破】  【エクスメティオ・パフェクトエンド】  セレの結晶は、ひとつの巨大な針。  それはすさまじい回転力を加えられながら、魔力の幻影の尾を引いて突撃する。  同時に放たれる、十字架をそのまま巨大化させたものの飛来。  そのふたつは、ほとんど同じ場所に衝突する。  押し合いが起こり、壁が侵攻をとめる。  そして、リュークスは動いていた。  針に乗ったリュークスが、絶対障壁に向かって落ちていく。  リュークスは、そのまま剣を振るった。  幻影剣と実剣、ふたつの斬撃が絶対障壁に火花を散らせてぶつかる。  そして、リュークスは十字架と針のぶつかる場所でかがんだ。  壁は侵攻を開始する。  針と十字架を越すように大き目の穴を開けて。  そしてリュークスは壁の内側へとはいった。 「進む壁が、移動をとめられた場合。その力の影響もあって、ぶつかったものは壁に埋め込まれるようにはいっていく」  リュークスはゆっくりと歩み寄っていく。  死龍の皮膚は絶対障壁を失って、あまりにももろくなっている。  リュークスは死龍のすぐ側にまで歩んだ。 「フィナレだ。俺は勇者の役を任ずる。過去の勇者は関係ない。俺らしい勇者を!」  リュークスは剣を振るった。  力は込められていない。  だが、剣はやすやすと死龍を切り裂いた。  中身は――ない。  ただただ、乾いたような皮膚が崩れ落ちていく。  そのなかは闇、そのなかは空虚。  死龍は風化したように色あせ、砂塵と化して地面に落ちた。  針と十字架を越し、また隙間ない壁になった絶対障壁は、セレとフレイアに届くことなく消えた。  紋章は戻るところをなくし、宙で歪曲したあげく閃光となって消える。 「やった、な……」  リュークスは脱力するようにため息を漏らす。  セレとフレイアはリュークスに微笑んだ。  リュークスは二人に微笑み返そうとして――止まった。  いや、状況が変わった。  あまりにも、唐突に。  破砕音、崩壊音、地割れ――  その全てから推測できる、ただひとつのことをリュークスは呆然と呟いた。 「巣が――落ちているのか?」  その言葉を証明するように、巣は粉々になって、地へと降り落ち始めた。  さっきまでのような安定した足場も、いくつかに分かれる。  そして、リュークスは空をみた。  まわりには同じように落下する巨大なものがいくつもある。  徐々に、リュークスはセレたちから遠ざかっていく。 「弟――君!!」  セレは落下する岩をつたって、リュークスに抱きついた。  フレイアはまわりを岩に囲まれ、リュークスの視界から消える。 「フレイア!? サクラ!?」  リュークスはフレイアたちのほうへと手を伸ばし、無力にも空をきる。  セレはあたりに目を走らせ、リュークスに指差した。 「弟君! あれって――」  リュークスの目に映るもの。  それは、岩にもまれながらも輝きを放つ一本の聖剣――  リュークスのそばを通過しようとしていた。  リュークスは無造作に手をのばし、その手に剣が掴まれる。  「【クラウ・ソラス】――」  リュークスの呟いたその名に鼓動するように、剣の光が強まる。  そして、リュークスとセレが光の球体となって、崩落から離れていった。  それと同時に、フレイアたちのいるであろう場所から、桜色の球体が飛び出す。  その球のなかには、フレイアとサクラの姿がみえる。  だが、その動きは不安定で、放物線を何度も描きながらリュークスたちから離れていく。  リュークスはそれに近づきたいが、球はその想いを拒否して崩落範囲から離れていった。  二つの球体の間には崩落の波が降っていく。  そしてリュークスは気づいた。  サクラたちの落ちるであろう場所は――闇の支配下に置かれた域であることに。  そのことに遅れて気づいたセレは蒼白になる。  そして、リュークスたちの耳に、崩落の音が届かなくなる。  地にゆっくりと降り立った球は、その包容を解いた。  震えるセレ。  俺はそれをただ抱きしめることしかできない。  そして、おれ自身が震えないようにすることしかできない。 「――いこう」 「……うん」  俺の言葉に、セレは頷く。  俺の手で輝く、俺が名づけた輝剣は、ただ次の指示を待っている。 「ぜったいに二人を助ける」 「……うん」  セレは俺に抱きつく力を強くする。  俺は言葉を続けた。 「だから――いこう」 「……うん」 「だれも、死んでいない。いこう」 「……うん」  セレはただ頷く。  理解はしている。だが不安は除けない。  俺も同じだ。  だから――俺は守ることを選ぶ。  ただ不安になるだけの者であるわけにはいかない。  俺は――守りたいものがあるのだから。  そして俺は、すでに色濃く現れた闇の領域を睨みみた。  サクラと、フレイアが無事であることを祈って――