【タイトル】  ライトファンタジー〜勇者と魔王〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【サブタイトル】  FILE14:こちらこそ……これ以上好き勝手はさせない(第40部分) 【ジャンル】  ファンタジー 【種別】  連載完結済[全82部分] 【本文文字数】  6793文字 【あらすじ】  語られるは旋律、輪になって踊る道化師達の伝説。ある道化師は勇者の名を語り、またある道化師は魔王の名を名乗り。王道から成る、世界の真実をぶち壊す、ファンタジーストーリー 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************  ついに終わった。  世界という枷から、ついに飛び出した。  すべてこの身体のおかげ。【神の決定】なんてものの完全侵攻を待っていなくても、簡単に世界ひとつを壊すことができた。  神よりも加減ができるから、ボクの愛しいエルを少しおちょくることもできた。  願ったり叶ったりで――恐いくらいに上手くシナリオが進んでくれた。 「ほんとに……この身体は最高だよ」  これからも、この身体と【風の神歌】があれば思い通りに事が運べそうだ。  エルからのプレゼント――詰められた、溢れるほどの愛をしかと感じる。  お返しをしなくちゃ、ね。 「さあ……行こうか、≪騎士団≫の諸君」  居空間は、【神殺し】の特徴ともいえる異質空間。  発生装置が活動しなくなれば、戻る世界のないボクらは、気づく間もなく消失するだろう。  エネルギーの底はまだまだ遠い。危険地帯まで消費するよりもずっとはやくに――かたをつける。  ≪騎士団≫全員を見渡して、口を開いた。 「我々は、我々の望む理想郷を真実のものとするために――神の反逆者となる騎士なり」  拳を突き上げる。 「剣を持て! 槍を持て! 己の心を表す刃を持て!!」  声によどみなく。 「恐れ戦慄く心を捨て、狂気に生きよ!!」  心を一束と思い。 「これより――天界への道を穿つ、心せよ! 我々は、個々が覇者である!!」  高らかな叫びと、賛同する叫びとが織り成す、轟旋律。  心の奥底だけでほくそ笑んだ。  視線を、漆黒のマントで肌の露出を完全にまでなくした二人へ向ける。 「君達の活躍も、期待しているよ――『武装屋』シドゥ、レフエム」  返事も、頷きすらも、返ってはこない。  ただ黙りこくるだけ。  その、無反応という反応が――ボクを満足させた。  …………ごめん……  ――なぜ謝るのですか。  ……巻……ごめん……  ――何を謝りたいのですか。  ……巻き込んで……ごめん……  ――どうして謝るのですか。  謝る必要はないですよ。  私は――望んで、いますから。  ライトファンタジー〜君の待つ向こうへ〜 「なんで世界は、ハッピーエンドを迎えないのでしょう?」  問いに対する返答は、ない。  少女は視界を無一色として、問うた相手に背を向け。  問いに対する返答を粘り強く待たずに、少女は再び口を開いた。 「なんで真実が、黒くも暗いバッドエンドでなくてはいけないんでしょう?」  今度も同じく、返答はない。  だが少女はクスリと微笑んで、小さく小首を傾げ。  それに伴う金色の髪を軽く押さえ。 「世界は、本当に黒くて、本当に汚くて、本当に荒んでいて、ハッピーエンドこそが全くの幻なのかもしれないけれど。 世界が美しいと、輝かしい幸の終幕はあるのだと――そう信じることは間違っていないと、今も思っています。真実を知った、今も」 「……人は醜い。そして僕も、人の事をいえないくらい醜い欲に塗れている」 「それでも――」  少女は、今にも泣きそうな叫びをあげた。  先ほどまでの冷醒な声とは比べられない、溢れるほどの感情が込められた――少女に背を向けられし者は、それから何を感じ取ったのだろうか。何を感じ取れたのだろうか。 「それでも私は――」  小さな嗚咽混じりに、少女の声は続く。  その頬に、音もなく回された腕が触れた。  優しく、柔らかく、穏やかに。  されど、少しの強引性を持って。 『神に代わって、聞きましょう。叶えましょう。僕の選んだあなたの、優しき願いを――』  少女は一瞬躊躇って。  己の願いを……口にした。  神域への突入。  必要な空間操作関係の技術は、身体が変わって尚健在している。  もっとも、根本的な性質や影響の差には覆ることのないほどの距離があるが――ラミスは、ラミスに宿る|それ(・・)は、満足していた。  ゆっくりと、天井にて発揮する幾重もの術式を見渡す。  大まかにいえば、その形は樹枝付角板。中心は、さらに上の遥かに伸びる螺旋と結合していて。  ≪天空穿ちし弾丸の発射口≫なるそれに装填されるのは、異質空間とそれに住まう者ら。  ラミスを含めたすべて、だ。  装填される弾にある発射口。若干の矛盾を許容するのは多大なる力。  一瞬さえ保全を確定できればいい――ラミスの策は一瞬をつくるために注ぎ込まれる。  片手を――掲げ上げた。 「魔術式全起動……他介入阻止式五重展開……異質空間発動出力最大!!」  矛盾によって、異質空間か発射口かが消えることを阻害する。  魔術式と阻止式による結界が幾重もの壁となり、すでに壁越しの向こうが見えなくなるほどの厚さを確定する。  だが、即座にはじまった。  空間の端々が消えては周囲から生成されるという、崩壊速度と再生速度の戦闘。  ラミスは動揺することなく、落ち着き払った様子で、発射口へと意を送った。  術式が動き出す。  砲先の向こうへ穿たれた世界。崩壊速度が格段に上昇し続け、異質空間が喰われ始めた。  抗いが功を煮やしているのか、一瞬にて消失するはずの運命が先送りにされ続けている。 「時間がないね……さっさとしようか」  ラミスはさらに別の術式を起動させた。  それは異質空間ぎりぎりにまで伸び広がり、展開し終えるが――何も起こらない。  あったとすれば、発射口が消えたことのみ。  だが、ラミスは微笑んだ。 「……成功だ。成功だよ」  何の変化もないことが、ありえなさすぎる変化。  崩壊は止まり、異質空間は正常を取り戻し。 「さあ、行こうか……ボクたちは【外】へ。神のそばまで連れて行ってくれる此方から、一刻一刻を目にするために……」  ラミスと、シドゥ、レフエムと呼ばれる者が、光という空間旋律に飲まれた。  ラミスの狂気にまみれた一言の叫びが、木霊する。 「超時空という……神への路線を踏みしめようじゃないか!!」  そして―― 「ほんとうに……良かったのかな?」  ――今更、ですね。 「……それもそうか」  ――そうそう、リュークスは変なところでぽけぽけさんだから。  ――戯けるのも対外にしておけ、リュークス。 「……マーブルとノーブルは言いすぎ」  ――そろそろいいんじゃないですか?  ――ん、もうそんな頃合かぁ。リュークス、行くよ。  ――トロくてはだめだぞ、リュークス。さっさとしろ。 「口うるさいな……まあ、独りじゃないって実感できるから、いいか」  ――一人じゃないのはいいですよね。  ――その分、責任をとって一生涯という永遠をともにしてもらうけどねっ。  ――こいつと永久にいっしょとは、悲しいのやら嬉しいのやら。 「いいじゃんか、きっと楽しいって……なんて話をする暇も、もうないみたいだ」 「なぜ……キミがここにいる!?」  超時空は、まるで宇宙のようだった。  そんな場所に出て、ラミスの機嫌は一転する。  驚愕と疑問を入り混ぜたラミスの声に、彼は応えた。 「なぜ、か……訊く必要があることか、それは?」  彼は鞘から剣を抜刀する。  煌きとともにある、純白の長剣――ラミスは戦慄いた。 「知らない……ボクは知らないよ…………そんなキミも、そんな剣も、そんな……そんな…………知らない……知らないのに…………なんで……」  顔に五指を当てる。  一瞬。そう、一瞬で――ラミスは表情を一変させた。 「知らないけどね……一対|四(・)にあるこの優勢で! もう一度!! 完全に!!」  妖しい笑みとともにラミスは告げる。  顔に当てていた五指を、片手を、彼へと向けて。 「叩き潰してあげるよ――憎らしいリュークス」  彼――リュークスは応じるように、剣先を向ける。 「こちらこそ……これ以上好き勝手はさせない」  一とは、再びの復活を果たしたリュークスという人間。  四とは、ラミスとそれを取り巻く二人の者と。  ――ひとつの異質空間が織り成す、巨人。  ラミスの施した術式によって異質空間は、人の大きさを遥かに凌駕する巨大な人形(ひとがた)兵器となっていた。  それに意思はなく、あるのは敵意体抹消という命令のみ。 「【カタストロフ】はたくさんもの人間を飲み込んでいる……キミには倒せないんじゃないかな?」  ラミスは不敵な笑みを浮かべ、リュークスに訊ねた。  カタストロフと呼称されるその巨人も中身は異質空間、矛盾による崩壊を逃れ、ラミスに置いてきぼりとされた人々が何十人と収納されていることだろう。  ――リュークスは素直な頷きを返した。 「確かにそのとおり。俺にはいろいろと厄介な相手なんだけど……そっちは別のやつが当たるから」  その瞬間。一対四は崩された。  巨人の身へと叩き込まれる何か。音はなし。しかし威力は強力。  リュークスはつぶやいた。 「巨人対巨人なら――結構、対等だよな」  巨人に拳をのめりこませるのは―― 『最高魔力継承者認識完了 壱式弐式参式……全式封印一斉解放開始 肉体亜人化 魔力許容量倍増により危険度零 魔力展開開始 肉体変化開始 空間創造破壊管理魔力全解放終了 神曲連奏 敵性者確認 光明生命守護正義魔力全開放全具現全発動 抑制魔力除去 音声認識開始 破戒零式暗黒神紅鎧化 堕天使の罪 魔力具現斧 武力具現槍 堕天使の片翼 ガブリエルの擬似模造翼 全神具鎧化――』 「《守る。誓いは破られぬ約束》」 『音声認識完了 顕現開始』 【最強零式 星祝の零 神現】 【星祝零式主核・戦禍終息神アガルドリム具現】  ――斧と槍を両腕とし、瞳をひとつの宝玉とする、純白の巨人だった。  大きさは異質空間体と同等か、それ以上。足元へスカート状に伸びる装甲から下にあるはずの脚はなく、白い光が噴出しているだけだ。  それでも、リュークス対の頃よりは対等。 「ついでにいえば……一対四も、覆された」  ……虚無の剣が、ひとつの鳴(なり)を奏であげていた。  空間を轟く鳴。それが作るのはひとつの黒炎。  その内から、それ自体を切り裂くようにして―― 「ついでといえるほど、俺の価値が低いのかはわからないがな」  リュークスと同じ容姿をもつレクスが、大剣を振るって顕現した。  ラミスは舌打ちする。 「リュークスが生きていることに不可解さは拭えないけど…………擬似神化できる零式の者は個の空間をもっているからそっちに逃げ込めるし、リュークスの裏なる狂者は振の力で消失を拒絶することも可能だから……ここにいたりするのか」 「正解だ。それじゃあ、俺のいる理由の――ヒントをプレゼントしてやろうか」  リュークスは駆け出した。  視覚できるぎりぎりの、まるで一瞬かのような速さで。  一気にラミスとリュークスの距離は縮まって――衝突した。  リュークスの持つ長剣と、ラミスの反射的に生み出した風の剣が、ぎりぎりの均衡をもって衝突を続ける。 「意外だ……ついてこれない速度の、つもりだったんだけどな」  リュークスは長剣を退かせた。  ラミスは弾かれるようにして風を纏い、リュークスとの距離を開ける。  風の剣をもう片手にも構えて――ラミスは言った。 「おかしいと思ったよ……いや、おかしいはずなのか。なのにボクは見逃してしまってた。情けない、情けないよ……あまりにも事は上手く進みすぎてて、必死に足掻くことを忘れかけてたみたいだ」 「もう答えがわかったのか? たった一撃だっていうのに」 「一撃? そんなの関係ないさ。ただそれは、ボクがわかるようにと強調してくれただけのこと――元々わかりやすくなってるんだよ。今でもわかる。一度わかってしまったからね」 「そうか」  リュークスは長剣を何度か振るう。  一歩、また一歩とラミスとの距離をゆっくりと詰め―― 「それじゃあ――答えを訊かせてくれ」  轟音を付けての打突を、ラミスの風の剣と衝突させた。  いつの間にか、ラミスとリュークスの距離はまたも零近くに縮められていて。  衝突の波紋が、常人が健在できぬ超時空に響き渡る。  雷電を思わせるその一太刀にラミスは押し負け、若干に身を仰け反らせた。  その状態で見る――リュークスが、剣を振りかざすその瞬間を。  ラミスに回避の瞬は与えられず、リュークスの煌撃がラミスを直に――弾き飛ばした。  超時空を何回転かして勢いを殺しきり、立ち直ったラミスは、無残にも折られた風の剣を捨て、ジロリとリュークスを睨む。 「予想外だ……キミという存在が現れたということも、|リュークスという存在(・・・・・・・・・・)|がそうなってしまった(・・・・・・・・・・)|ことも(・・・)」 「倒せる気がしないか? これでもまだ身体能力で圧倒してるだけだ。|絶対防御(アドヴァンスドガード)があるお前を殺せはしないぞ?」 「それでも、だ。それでも――キミという存在は、揺るがなさすぎる」  リュークスはクスリと微笑んで、剣を構え直した。 「『神の代行者』としての域を超えたんだ。揺らぐはずが無い――揺るぎない力を持って再誕したんだから」  当たり前だといわんばかりに、幻想かとさえ思わせる『プロセス無き進化』を肯定し。 「空想具現化をこの身とし、 絶対という比較や対立を絶した存在(モノ)――他のいかなる万物にも侵されること無き秩序の中心に在る存在(チカラ)の行使者として再誕し」  己が存在を、今言葉として表明し。 「三つの心と三つの想いによって、 強靭と、 強固と、 断固と化した、 『クラウ・ソラス』を超えし、現在(いま)も未来も絶対たる聖剣『エクスカリバー』を己が手に収め」  絶対であることを、今一度明確に宣言し。 「『神の代行者』エルレイド改め『神の代行機関 空想具現化の絶対者』リュークス・ファンタズムは告ぐ」  それにて為すことを明確に。 「――微塵(みじん)の容赦(ようしゃ)なく、裁き断ずる」  三対四だ。まだ数では勝っている。しかし――ラミスは未来を想った。  攻撃方法は無数。しかし相手への損害は皆無。それは、相手が絶対的存在であって、戦神だからだ。  何気ない一撃ですら必殺の威力をもつ戦神が――全力を籠めれば、その敵である己らに待つのは死でしかない。  有象無象(うぞうむぞう)が幾百幾千(いくひゃくいくせん)と集まろうと傷一つ与えることすら叶わぬ一個の戦神。腕の一振りで天までが震え上がる大いなる信仰対象の絶対者に対抗することはどうすれば叶うのか。  そしてラミスは思う。  ――望みは絶対者の背後にあらず。  策略戦は得意分野だと、心の奥底でのみ――そう、ラミスという器に数ミクロすらも漏らさずに、微笑んだ。  ラミスは片手をあげる。  すると、ふたつの事象が起こった。  まず、レクスとリュークスの前へと二人の付人が立ちはだかった。  レクスの前にレフエムが。リュークスの前にシドゥが。  そして――その対峙と同じ刻に、ひとつの衝突が起きた。  異質空間体――カタストロフと、零式――アガルドリムのぶつかり合い。  カタストロフの纏う真空が、アガルドリムを数瞬押し切る力となる。  その轟音はリュークスの時の比ではなく、すでに空間崩壊時ほどの振動を響き渡らせた。  それに隠されるようにして――もうひとつの、音無き事象が超時空を駆け抜ける。  リュークスは気づいた。逸早く、しかし遅く。  ――ラミスが此方に背を向けて、一人超時空の彼方に消えていくその瞬間を、見届け続けた。  届きはしまい。例え、瞬より早く人外の必殺にて敵を切り刻める絶対者であっても、距離というもうひとつの絶対を覆らせる術を持ち合わせてはいない。  できるのはもうひとつの絶対――ラミスという、空間操作者。  空間操作を行わせない連撃を放つ自信はあった。例えリュークスであっても、周囲の空間ごと膨張や収縮をなされれば千切れ飛ぶ。  そういう類の操作には数瞬が必要で、だからこそ速さの極みたる連撃こそがたったひとつの打開策で。  だが、これほどに絶対的な――追いつくに一瞬は必要な距離では。  仝一瞬を与えられし此方の者との速度差は途方もない。しかし――空間操作は望む距離を無しとして、此方との差を無限とした。  追いつけぬ――その絶対を黙止して。 「ラミスの付人……退いてくれないか? 俺は、あいつを追わなくちゃならない」 「…………」  シドゥはマントの隙間から、歪に機械的な刀身を持つ大剣を曝け出した。  その重剣には無数の回転刃と、装飾の一部にも思えてしまうほど小さく多数な漆黒点が仕込まれている。  シドゥとリュークスの距離は、一歩や二歩で射程へと誘えるほど柔なものではない。  リュークスにとっては別だが、シドゥにとってはどうなのか……  その答えは、錯乱を思わせるシドゥの宙への一振りが携えていた。  斬撃が宙を切る。摩擦によって生まれる威圧の音が響く。  それにかき消されるようにして飛来する数弾の牙を、リュークスは目視して丁寧にひとつひとつを聖剣で弾いた。  そして分析。 「近距離特化のくせに長・中距離にも対応する銃剣…………ってところか。そんな凄いものを使ってでも手に入れたいものがあるのか?」  呆れた風にそう言ったリュークスは、付け足す言葉の前に真剣な顔つきをつくった。  不敵な笑みとともに――言う。 「『武装屋』――マリオル」 「……やはり、わかりましたか」  シドゥはマントのフードを払った。  その後に、リュークスへと向けられた顔は――マリオルその人。 「平和のみの楽園創造がために――何が何でもあなたには退いていただきますよ」  マリオルは呟きとともに大剣を構えなおし、爆ぜた。