【タイトル】  ライトファンタジー〜勇者と魔王〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【サブタイトル】  FILE16:それでは…………神は聞き入れましょう(第42部分) 【ジャンル】  ファンタジー 【種別】  連載完結済[全82部分] 【本文文字数】  7440文字 【あらすじ】  語られるは旋律、輪になって踊る道化師達の伝説。ある道化師は勇者の名を語り、またある道化師は魔王の名を名乗り。王道から成る、世界の真実をぶち壊す、ファンタジーストーリー 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************  同じ刻。同じ時代。同じ世界――で。  風の神歌が、全知全能神に牙を剥いていた。 『……』 「キミがゼウスかな?」  超時空の彼方。ラミスなど粉粒よりも小さく思えるほど壮大な『神』  ラミスはそれをゼウスと呼んだ。  全知全能――まさに、無数の人は一振りで抹殺できそうな最強の、神の名に相応しい絶対さが、その超巨体を表している。 『世界救済システム【勇者】 世界消滅野望システム【魔王】』  ゼウスは呟く。 『世界救済使役システム【聖光天使】 世界救済使役システム【闇の娘】 世界監視機関【鳳桜】 世界記録書【アカシックレコード】 世界概念行動性光眷属使役者主核【ノヴァ】  世界概念行動性闇眷属使役者主核【ヴェノム】 世界概念行動性風眷属使役者主核【エア】 世界概念行動性炎眷属使役者主核【ゴスペル】 世界概念行動性水眷属使役者主核【アリス】 世界概念行動性雷眷属使役者主核【ヴォルト】 世界概念行動性土眷属使役者主核【デュエル】』  呟き――続ける。 『世界監視機関因果存在【|魔蒼桜(マオウ)】 世界救済システム因果存在【狂者】 世界指定路線離脱異分子【リュークス】 世界指定路線離脱異分子【ルクス】 世界指定路線離脱異分子因果存在【ネメシス】』  ゼウスは唐突に呟きをやめた。  息を吸うかのような間を開けて、ゼウスは静かに――言う。 『……プロローグ【勇者と魔王】 セカンドゲーム【君の待つ向こうへ】』 「セカンドゲーム……だと?」  馬鹿な、とラミスはゼウスの言葉を否定した。  これが終点だ。この次に待つのは、平穏のみだ。 「路線離脱モノまで理解してるのは予想外だったけど、そんなこと関係ない。ボクがほしいものの何の障害にもならない――そうだろ!?」  ラミスは右腕を真横に翳し、紋章砲身を幾何学展開。自らの躯体を上回るほど巨大な、しかし自らだからこその強大な力を孕んだ砲台を生み出し創る。  それは咲き誇る花のよう。  それは神秘に冷たき花のよう。  それが生み出し、滴らせる蜜は――それに魅入られし者からすべてを根こそぎ奪う、悪魔と同じ。  ラミスは――そんな狂気を解放った。  |絶望の魔光(リヴァヴィウサー)  闇が、咲く。  八方へと広がる光は、しかし黒い闇の魔で。  奪う力が蝕み喰らうものはすべて。すべてが対象。分け隔てなく、それのみが平等。  食らうことに優先順位など存在しない。手当たり次第に吸収し消化し栄養とし主の力とする――作業のようなものなのだから。  その力が侵食したものは、浸食の道を行って必ずに消滅する。対象の力量など関係ない。抗う方法など、ないのだから。  ラミスは神の力を手に入れられると確信していた。光が差せたことで確立したと思い込んでいた。  神を甘くみすぎていたとも、いえる。  侵食は確かに、ゼウスという空間を喰らっていた。  だが、喰った分だけ世界はすぐに周囲から修復され、結果は±0を保つ有様。  これにはラミスも驚愕に目を見開いた。  そして――嘲笑を浮かべる。 「面白い……神を凌駕するのも一興、か」  黒く染めあげられた風の神歌が壮麗に響き渡り始めた。  危なく、甘美な音をもってして――|切札(アドヴァンスド)はきられる。  ただ、間違えるな。  |切札(アドヴァンスド)は|切札(ジョーカー)ではない。その程度で終わるものではない。  ラミスにとっては主力。惜しむべき力ではないのだ。 「|絶対殺戮(アドヴァンスドアタック)……」  ラミスの片腕より、彼方の者に必中必殺を誓う風刃が伸びる。  それは『ゼウスの少女』の胸元を難なく一突きし――打ち滅ぼされた。  広がる、無機質な音の波。  広がる、『ゼウスの少女』の抗いの、その余韻。  ラミスは呻きを漏らして、しかし笑みを浮かべ、驚愕した。  『ゼウスの少女』の胸元に穿たれたものが|ない(・・)。『ゼウスの少女』はただただ佇んでいる。  そして、ラミスは気づいた。 「神は何時(いつ)、何時(なんどき)も傍観者で在り続ける所存なのか……」  絶対を超える絶対。絶対を処理しきれる絶対。  ゼウスはラミスを超える、完璧に人外な神だということ――ラミスは舌打ちした。  ふと、『ゼウスの少女』の瞳がラミスからはずれた。  なぜなのか――それは、ラミス以上に好奇を誘う存在が、『ゼウスの少女』の瞳に映っているということだ。  なんなのか――それは、超時空にいる者でラミス以上の存在。  合点いく存在(もの)が浮かぶと同時に、ラミスは斜めへと跳躍していた。  即座に生み出す風の剣。間髪入れずに交わる白刃。  滑り落ちる直線運動のまま――ラミスとリュークスは刃を交し合った。  圧倒的なリュークスの腕力勝ち――だが、ラミスが何もをしないはずがない。  ラミスの背で瞬く風。展開するは、八枚を超える風の翼。ラミスの機動は一時的に音速を超えたが故に――ラミスはリュークスとの交錯から逃れた。  そこに待つのは、リュークスと同じ容姿を持つレクスの一言。 「第二振解放定義に沿って――煉獄を発動する」  ……虚無の剣が、ひとつの鳴(なり)とともに畏怖の存在を露にした。  ラミスですら視覚できない圧倒的な存在――いや、視覚してはいる。しかし、全貌を捉えられない。  それほどに巨大な闇だった。  煉獄は手を伸ばす。ラミスへと――そして、ラミスが逃げるであろう方向すべてへと。  逃げることも防ぐことも叶わぬ――それが煉獄。希望を処刑する絶望の世界。  ラミスはそれに掴まれる瞬間、それ自体を否定した。  煉獄が消える――間髪いれずに展開するは、五芒星(ペンタグラム)の呪縛。 「『"光"は何処? 何処に"光"? "光"は光? "光"は力! だっまされるなよぉっ! と』」  煌柱がラミスを、全方位より追い詰める。  ラミスはそれを――風の翼を代償とした風爆によって逃れた。  ラミスの代償は、機動力の削減。  それは一時的なもので、風の翼はすぐに構成しなおせるのだが――今この瞬間のラミスは、死角より迫る光魂を察知しつつも、避ける術がないために直撃するしかなかった。  超高機動の突進は槍のごとく――ラミスは"く"の字に身体を曲げられて、ぶっ飛ばされる。  しかし、即座に風の翼を再展開したラミスは痛みも何も感じていない様子で、光魂が抉ったはずの身体はまっさらのまま。  |絶対防御(アドヴァンスドガード)――ラミスは間一髪のところで無傷を守り抜いたのだった。  そのラミスは視線を走らせる。  この場に揃う者は、五人。  ラミス、『ゼウスの少女』――リュークス、レクス、美影。 「これは……少しばかり厄介かな?」  ラミスは呟く。  言葉とは反対に、その表情は、これからの殺戮に悦楽と狂喜を望む嘲笑いを浮かべていた――  ライトファンタジー〜君の待つ向こうへ〜 「『光は闇を閉ざし勝る 封印のごとく断固とした強制にて』」  詠唱は常より長い。最強は何を成そうとしているのか。  本能が察する。だが、それは悟りにない覚り。確信は突いていない。  本能の警告に気づきつつも理解はできぬまま――ラミスは美影へと跳んだ。  阻害者は一人。其の者の阻害が成立するかは壱か零で区別され、零の可能性は皆無。  故にラミスは方向転換する。ともに身体反転――ラミスは脱兎のごとき逃げの一手を、躊躇なく打った。  そこに迫る飛来者も一人。其の者は、妖黒剣を煌かせる悪。  阻害者は聖。飛来者は魔。どちらも"絶対"なのは共通の揺るがなき物事―― 「『圧倒のみぞ意義と思い 殺しに逃げの道与えることなきこそが圧倒の意義にして――』」  壱を超えし零の少女――美影――の詠みも終盤。高まり集う魔力は底知れない。  零とは無。無は限りない。限りないものは、最大の未知。  そして、未知なことぞが恐れの対象なのは道理。道理に適う者であるラミスは畏怖の念を抱きて思った。  ……基礎的にして、絶対に破られることなき布陣。  前衛、中衛、後衛。後衛がとどめの溜めをして、前衛が惑うことなく切りかかり、中衛が前衛の隙を塞ぐ。  故に、リュークスを撒いて尚ラミスは美影の元へたどり着けずにいるのだ。  ラミスはレクスへと暴風の撃を放ち、翻して一太刀振るう。  無音にて迫っていたリュークスの煌撃と風撃は衝突し――風の剣は完膚無きまでに砕け散った。  ラミスはその一瞬に風爆による一幕を今此処に再現――その勢いをも利用して、ラミスは美影への大跳躍を達成した。  距離は縮む。構える風の剣は六。美影は無防備にも歌い続ける。  詠む歌の終わりと、ラミスの射程へ美影が入るのと――この競争は。 「『勝つことは揺るがない それこそが圧倒の定義なり』」  絶対的な"時間"というものにて――結果は定められた。  【サウザンド・キュベルレイクス≪散≫】  そして。  屈託ない光より。  逃げることも防ぐことも許すまじ力の顕在する"光"が。  ――雨と喩えるに相応しい奔流となった。  針山にされるはラミス。獲物へ喰いかからんとする動きは、針山にされることを自ら要求する動きへと変わる。  動きの方向性は変わっていない。なら何故変わったのか。答えはひとつ。  ――ラミスの目の前にて奔流は発せられたから。  正しくは美影の鼻先にて光は展開した。"光"が発せられたのもそこからだが――処刑を為す奔流は、初速にて人の視覚を振り切った。  故にラミスには、自らが針山となった場景より視覚する。すべてが終わった後よりラミスの抗いなる施行が許される。故、絶対防御など展開されているはずもない。  よって、ラミスは今度こそ。 「ガァァァァァァァアアアア!!」  何らかのカードを切ることなく――無残にも断末魔の叫びをあげた。  狂ったかのような絶叫。それは、すぐにかすれ消える。  残響はない。生命の為す――最後の足掻きは、あまりにも儚く。  終わった。死んだ。生命の灯火は途絶え断たれた。  ――\"ラミス"のみが。 『アハハハハハハハ!!』  慟哭が狂喜に染まった結果のその声は、悪夢の千里行を超えてトチ狂った心から発せられる。  希望に満ちる夢の反存在だから――そんな理由で、悲劇に満ちる悪夢の連鎖の傍観を意義とされたその少女は、|ラミスから抜け出て(・・・・・・・・・)。ついにその姿を曝け出し。 『苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。  苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。  苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。  苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。  苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。  苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。  苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。  苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ――』  永劫に続く牢獄の中で得た呪詛だけを、強く空しく響かせ続けた。  |それ(・・)は魔女だったものだ。  今の|それ(・・)は、二股に分かれていた金色の美しい髪のひとつをちぎり取られ、残るひとつにもドス黒く濁った血痕をこびりつかせ、全身を白い紙切れでぐるぐる巻きにしている。  その紙のところどころにも明確な黒が滲んでおり、見るも苦しいその満身創痍からは、悲愴よりも畏怖を誘われる。 『苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ――』  |それ(・・)は、聖が知らぬ悪夢の姿だった。  |それ(・・)は、魔が知らぬ悪夢の姿だった。  誰もが受け入れきれぬ、受け切っても|それ(・・)のようにトチ狂うのみの、純粋には程遠い"憎悪"は聖にも魔にも属さぬ凶。  |それ(・・)の、濁り曇り、光の割れた瞳は映す。  美影、レクス、リュークス――『ゼウスの少女』  最後で、止まる。  呪詛も、視線も、動きも――すべてを止めて。 『……ァァァ』  渇望の呻きを漏らした。  魔女だったものは望む、望む、望む。  望みが叶わぬことにはなれたからこそ得た、得てしまった、懇願以外の強引な"望む"を今行使する。  両手を伸ばして――纏う紙が解けるのも構わず、白い肌が曝け出されるのも構わず、満足に飢える心を僅かでも満たそうと渇望の衝動に身を委ねて、『ゼウスの少女』へと飛んだ。  悪臭纏うその様は、やはり畏怖を誘う。  リュークス、レクス、美影はすぐさま弾かれるようにして跳んだ。だが、絶対的な距離は速度差をもろともせず、『ゼウスの少女』は――  "…………ボクの勝ちだよ、愛しのリュークス……"  ――憎悪に飲み込まれた。  魔女だったものは消え、それが纏っていた悪臭と憎悪は『ゼウスの少女』を取り巻く。  『ゼウスの少女』はゆっくりと眼を閉じ――無造作に大量の悪臭を全身より吐き出した。  まるで拒絶するかのように。  あっさりと拒まれたものの負傷は痛手――今一度、他から畏怖を誘うあの姿を形作れなくなるほどに。  悪臭は崩壊を始めた。  ゆっくり、ゆっくりと薄気味悪い気体は散り散りになっていく。  レクスと美影は確信した。納得はなく、呆気ないとも思ってはいるが、はっきりと――\"終わりだ"と。  だが、リュークスは"まだだ"と思った。  故に跳ぶ。残り少ない悪臭の元へ、掴むことのできないそれをひしと抱きしめて。 「【神現】『春(プリマベーラ) 』」  |君の待つ向こうへ(・・・・・・・・)と――消えた。 "はは……神様はそう簡単なものじゃなかったみたい" 『消えちゃうよ……リュークス……ボク、君を大いに裏切っちゃったんだね。今更になって気づいた。今になってしか気づけなかった。本当にごめん……』 「俺こそごめん……気づいてやれなかった、から」  表と裏。|両方(・・)の融合体――『サクラ』  願いは同じだった。欲しいものは同じだった。望む未来は同じだった。故に――同一と化して、間違えてしまった。  死は解放。しかし、『春(プリマベーラ) 』は本当の意味で『サクラ』を解放することになる。  それまでの、残る数秒の時間――『サクラ』は寂しい笑みを浮かべて終わりを待っていた。  言葉はない。リュークスは無言に耐え切れなくなってか、呟く。 「サクラ……なんでそこまで、俺を引き込もうとしたんだ?」 『……男の子としてはダメな部類だね。リュークス君。 そんなところが君の良さだったかな?』 「はぐらかすなよ」 『はぐらかしてないよ、ただ君という存在は……っと、こんなことに時間割いてもだめだよね、少ないんだし』  『サクラ』はふぅっと息を漏らして、意思を断固とした。  ゆっくりとリュークスへと歩み寄る。  身長差は歴然。『サクラ』は頭二つ分ほどリュークスより低い。  うっと唸って、少し悩んだ後――『サクラ』はリュークスの肩に両手を添えて、足先へと体重を移し。  "大好きだからだよ…………"  ――桜ここに咲き散り舞った。  その様は、まさに解放。  しかし儚く、散り行く桜の花びら舞う空は悲しく。 「……」  リュークスは身を翻して、|三人(・・)の見送りの元――舞台へと戻った。 『…………人とは、なんと知的で本能的な生き物で、未知なのでしょうか』  ゼウスは言う。  少女という姿をとる必要もなくなり、今一度空間へと戻ったのだ。  ぽつんと立ち尽くす二人は、三人へと戻る。  増えた一人は、ゼウスへと答えた。 「…………神。俺たちは、欲したい」 『回帰、でしょうか。それとも――再現、でしょうか』 「いや、復元をおねがいしたい」 『……正しい判断ですね。もどっては、人が歩む意味がなくなる』 「神にしては感情溢れすぎなんじゃないかな?」  空間が鼓動した。  それは笑い声――神にあるとは到底思えない、感情の爆発。  少ししてから、神は言った。 『それでは…………神は聞き入れましょう』  世界が、変わる。  神の体内という空間の果てへと辿り着きし者は、去ることを望まれ、それに従うのみが選択。  戻る空間は超時空か――否。  己が望む、己が生まれ、己が愛し、己が歩みともにあった――世界へともどるのだ。  リュークスは感じる。五感すべてが潰えたと。  一時的なもの。元々、世界が生まれそこへと落ちる様の比喩は不必要なのだから、問題はない。  リュークスは目を閉じた。  リュークスは、己が絶対をミた。  次見る風景がどんなものかと期待膨らませ――五感が戻るという合図がそれを目を開ける衝動と変えて。  それでもリュークスは、ゆっくりと目を開けた。  そして、言う。  "ただいま…………いや、おかえりのほうがいいのかな?"  リュークスの視界の中にいる皆へと――