ライトファンタジー〜勇者と魔王〜 水瀬愁 ライトファンタジー 第三部 第一章 第一話 ******************************************** 【タイトル】  ライトファンタジー〜勇者と魔王〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【サブタイトル】  largando/トワイライト(1)(第44部分) 【ジャンル】  ファンタジー 【種別】  連載完結済[全82部分] 【本文文字数】  2469文字 【あらすじ】  語られるは旋律、輪になって踊る道化師達の伝説。ある道化師は勇者の名を語り、またある道化師は魔王の名を名乗り。王道から成る、世界の真実をぶち壊す、ファンタジーストーリー 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************ 「この世界は、四つの元素から成り立っている」  水、土、光、風。  それらは『超常現象』という形をもって、神の感情を表現する。  水ならば、奔流となり。土ならば、地を揺らし。  光ならば、天空に轟き。風ならば、猛り狂って。  しかしながら、今述べたものたちは『超常現象』の負ばかり。 「この素晴らしい場景は、神の清々しき心をお表しになられているのだろうな……」  彼はそう考え、感嘆の声を漏らした。  彼の前に広がる場景には、水がせせらぎを囀り、土が豊かな森々を築き、光が暖かな微笑のように注いで、生きとし生ける者を撫でるように風がふわっと吹き抜ける。  小さな丘から己の行く先を見つめ、彼はそよぐ自らの髪を押さえながら深刻気に表情を暗める。 「明があれば陰がある。あなたがおっしゃるように、悲しいことですね……」  彼の脳裏に、マリスがその言葉を口にしたときのことが掠める。  それを打ち消すように……その"騒がしい音"は響いた。 「ううううううううううううう――」  一瞬、何かわからなかった。  しかし彼は、波立つもののように音が大きくなっていくのを耳にしつつ、音量に比例するようにして血相を変えていく。  そして…… 「――あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」  ……彼へと、飛んできた。  咄嗟に避けた彼の、元いた位置に|それ(・・)は着弾して数度跳ねる。静止した状態に落ち着いたのを見てから、彼は|それ(・・)へとおそるおそる近づいた。 「はぅあー!」  彼の目の前で、ぴょんと跳ね上がって|それ(・・)が起きる。  |それ(・・)は、リスの様な猫だった。  くるんと巻かれた尻尾は、リスであって猫でない。ヒクヒク動く耳は、リスでなくて猫である。その猫は、彼の存在に気づいた風なく不平不満を口走った。 「はてて、大鷲さんも恥ずかしがり屋さんですねぇ。こんな愛らしいミココを蹴飛ばすなんて、ツンデレすぎますよぉ」  ミココを、彼はしげしげと見つめる。それだけミココは、彼にとって摩訶不思議な存在だったのだろう。 「……誰?」  彼が、やっと声を搾り出す。 「はぅ!?」  その一声で彼に気づいたミココは、ビクッと怯えた拍子に躓いてしまった。 「ミココは美味しくないのですぅ〜。丸焼きはご勘弁を〜ぉぉ〜〜!」  ぽてんと尻餅をつき、悲鳴地味た声で言うミココ。それを聞いて、彼は今になって刀剣の存在を思い出した。  自らの腰に差しているそれを、彼は見下ろす。 「ミココはまだ死にたくないのです〜ぅ、ぅぅ、ぅうううあああああああああ!!」  恐怖しすぎて、ミココは泣き出してしまった。彼は慌ててミココに目をもどし、自らの顔ほどの高さで両手をぱたぱたと振る。 「大丈夫、大丈夫。僕は君を殺さない。涙を、拭いて」  彼は己の懐から布切れを取り出して、ミココに差し出す。その布切れは、一杯の水を一滴一滴丁寧に受けて洗浄されたものだ。水というのも、人の手の触れていない一帯の自然に隠された小さな水源で汲まれ、元素の純度に近いものに厳選されている。太陽の微笑みをいっぱいに受けて乾かされたために、その布地は非常になめらかだ。  ミココは泣くのを止め、彼と布切れとを見比べる。そして、意を決した様子で布切れを取った。 「……悪い人では、ないようですね。優しいことは良いことなのですよ」  威張った風を装って、ミココはそう言う。しかし次の瞬間、幸せ気に布切れへ頬擦りし始めた。  それを見て、彼がクスッと苦笑を浮かべる。 「君も、この平野を横断するのかい? 方向は、アドバザラム方面?」  頃合を見計らって、彼は尋ねた。ハッと我に返ったミココは、パシパシと両頬を引き締めた後、彼に顔を上げる。 「はいです。森の方を下って、川を渡って、右に曲がるのです」 「ってことは『第三聖女』アンジェ・リ・リーナ様がお治めになられている国の方へ?」  ミココの言葉に当てはまる辺りの地図を脳裏に浮かべ、彼が言う。  ミココはコクリと頷いて、満面の笑みを浮かべた。 「でもでも、私は気まま気ままの風向くままの旅人さんなんですよ〜。だから、目的はないのですっ」  へぇ、と彼は驚く。彼が今の今までに出会った旅人は、総て大柄な男ばかりだったのだ。その旅人から旅のつらさを聞いていたので、女子供には荷が勝ちすぎるのだろうとばかり思っていたのだろう。 「ミココ、良い事を思いつきました。あなたもいっしょに行きましょう! 旅は道連れ世は情けですよ♪」 「あ……う、うん。それは名案だ。俺も、どのみちアドバザラムを横切らねばならないし、ちょうどいいからいっしょに行こう」 「そうと決まれば、レッツゴーですよ〜♪」  とてとてと先頭を切って歩き始めるミココ。  元気の良い子だなと思わず微笑んでしまう彼は、道すがら自己紹介でもしようかと考えながらミココの後をゆっくりと追った。       ☆    ☆    ☆    ☆    ☆    ☆    ☆    ☆  ――三分の一しかない世界は、さらに小さな範囲≪世界≫に人をぎゅうぎゅうと詰め込んでいる。  その範囲ぎりぎりを線で結ぶように、五つの砦はどっしりと聳え立てられているのだ。  その中のひとつに、『第三聖女』アンジェ・リ・リーナが収める砦がある。  その砦は人の住まう範囲の下方ぎりぎりに設置されており、中心へ伸びるようにして広がる|砦下町(さいかまち)は一番人口密度が高い。  砦下町に引きずられるように、広く人口密度が展開している様があり、そこを含めての大範囲を≪アドバザラム≫と呼称されている。  残された今の世界に、脅威と呼ばれる存在はそう群れをなしてはいない。そのため、聖女のいる砦はアドバザラムの中心都市といっても過言ではないだろう。  なお、砦・砦下町・その他の範囲という構成は、その他の砦にも当てはまることでもある。  それらと少し距離を置くようにして≪国≫がある。国は総ての砦との距離が同一の辺りにあり、砦という点をすべて通る円の中心に座標をもつ。  ≪世界≫の大部分はあるがままの自然ばかり。人が行き往き去るそこは、人が住居を構える一帯よりもとても広い。  そうして、びくびくと息を殺すかのように小さく寄り集まって、人の世は成り立っていた。