ライトファンタジー〜勇者と魔王〜 水瀬愁 ライトファンタジー 第三部 第一章 第二話 ******************************************** 【タイトル】  ライトファンタジー〜勇者と魔王〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【サブタイトル】  largando/トワイライト(2)(第45部分) 【ジャンル】  ファンタジー 【種別】  連載完結済[全82部分] 【本文文字数】  1807文字 【あらすじ】  語られるは旋律、輪になって踊る道化師達の伝説。ある道化師は勇者の名を語り、またある道化師は魔王の名を名乗り。王道から成る、世界の真実をぶち壊す、ファンタジーストーリー 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************  灰色の厚い雲が、空を覆う。  光が弱いためか、空の下にある大地(まち)はどこか薄暗い。 「降ってきそうですねぇ」  空に顔を上げるミココは呟いた。 「はやく、宿を決めないとね」  先を行くレスナが、ちらりとミココに振り返って言う。  彼らが歩いているのは、街の道路だ。真っ白いコンクリートで塗り固められたその道路は、整備が行き届いているようで、ゴミが見当たらない。また、ゆるやかな曲線を描いているために、レスナやミココのような歩行者に道の先は少ししか見えない。左右には家々が連なって――ときには店と思わしき建物も見かけるが――いる。その家々は、全貌を緑の花壇に隠しているため、天気さえ良ければ|街道(まちみち)からの景色は申し分ないのだろう。  レスナは、歩を早めた。ミココも、前へと目を戻してレスナに続く。  妙に静かで、まるで夜のよう。しかしその実はまだ夕暮れでもない。  どういうことだろう。レスナがそう訝しげに思った矢先、ミココがあっと声をあげた。 「あそこが宿みたいですよぉ。はやく行きましょ行きましょ♪」  振り返ると、ミココがすでに走り出している。  走り出しているといっても、ミココとレスナの歩幅は大きく違う。そう急がなくても追いつけるなと、レスナはミココの方へ方向転換しただけで、走り出しはしなかった。  ミココの身が消えた入口に、レスナも足を踏み入れる。  ぎぃぃぃっと床が悲鳴をあけて、見た目どおり相当古びているとレスナは思った。  穴でも空いていそうな、しかしきっちりと掃除が行き届いている店内。大きなテーブルが三つあり、その向こうにはカウンターがある。店の表記は【inn(宿)】とあったが、この階層はバーを兼ねているのだろうか、カウンターの後ろにはワイン瓶やらグラスやらが並べられていた。 「いらっしゃいませ」 「あ、ここの店員さんですか。宿泊したいのですけど……」  レスナがじっくりと店内を見渡している間に、ミココが老婆――ほんとうに店員なのか疑いたくなるが、店員なのだろう――を捉まえて話し込んでいる。  寝床の確保は任せられるなと、レスナがそう思った矢先にミココはレスナに振り返った。  ぶんぶん手を振って、満面の笑みで。 「早速お部屋に行きましょ〜♪」 「……ああ、うん。なんていうか」  元気が尽きない様子のミココに、レスナは小さく肩を竦めた。  用意された一部屋は、テーブルに整理タンスにベッドがあるだけ。  ドアを開けてすぐの、手近な辺りにタンスがある。部屋の全貌は入口近くから見渡せて、驚くほど狭いが不満をおぼえるほどではない。視界の右方にテーブル、左方にベット、真っ直ぐ向こうにあるカーテンはまったく揺れる気配を見せていない。 「ふっかふっかですねぇ♪」 「騒ぐと、宿主さんに怒られるよ」  ベットをトランポリンに見立て、ミココはぴょんぴょんと跳ねる。レスナは無意味となるであろう注意をした。 「はいです〜♪」  予想通り、ミココは言葉だけは素直に頷き、まだ跳ねるのを止めない。幾分か諦めの意を思って、仕方ないなぁとレスナは呟いた。  そして、ダブルベットのもうひとつに腰を下ろす。  背負っている茶色いカバンは、レスナの身にぐるぐると縛り付けられている。レスナはその糸を総て解き終えてカバンを下ろし、やっと一息を吐いた。  彼の身体はぐったりとしている。環境が変わったことに身体がまだ適応できていないのか、疲れやすいのだろう。 「レスナさん、レスナさん」 「……何?」 「レスナさんは、何のために旅をしているのです?」  毛布に顎を置くミココに上目遣いで見られ、レスナは嗚呼と気づいた。  ……そういえば、道中の自己紹介でそこまで話してなかったな。  道中で話したことといえば、己が聖女様の側近で付き従う騎士であること。それを聞いたときのミココははぅ〜すごいです〜〜と目をきらきら輝かせていたなと、レスナは絶句気味に思い返す。そして、言った。 「ある人と、合流しなくちゃならないんだ」 「そのために旅を?」  興味津々といった風なミココに、レスナが頷く。 「あ、でも、合流することだけが目的ではないかな」 「大切な方なんですねぇ。わざわざ会いに行くなんて」 「そうでもないよ」  ミココの夢見心地な表情とは裏腹に、レスナは目を細めて呟く。 「……もしかしたら、殺すことになるかもしれない」 「へ――」  ゴォォォォォォオン――  驚きの声とともに上げられた、空間をびくびく震え上がらせる大音量の咆哮が、レスナの耳を痺れさせた。