ライトファンタジー〜勇者と魔王〜 水瀬愁 ライトファンタジー 第三部 第一章 第五話 ******************************************** 【タイトル】  ライトファンタジー〜勇者と魔王〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【サブタイトル】  largando/トワイライト(5)(第48部分) 【ジャンル】  ファンタジー 【種別】  連載完結済[全82部分] 【本文文字数】  1774文字 【あらすじ】  語られるは旋律、輪になって踊る道化師達の伝説。ある道化師は勇者の名を語り、またある道化師は魔王の名を名乗り。王道から成る、世界の真実をぶち壊す、ファンタジーストーリー 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************ 「ここまで来れば、少しの間は大丈夫」  小さな横穴に滑り込み、少女は言った。  ほっと息を吐いたレスナは、少女の美しい金髪から花のような香りを不意打ち気味にくらって、かぁっと頬を赤くする。  しかしレスナは、悶えながらも冷静に少女の横顔を盗み見た。  透き通った青の瞳は、彼へと向いてはいない。幾分か安堵の色が見え隠れしており、小さな口は酸素を求めて少し喘いでいた。  順を追って少女の白い喉を見たレスナの方は、ゴクリと生唾を飲み込んで欲情を燻らせられるほど余裕だが。これが男女差というものなのだろう。  少女の着ているグレーのチャックミニスカートが揺れた。少女がレスナに振り返ったからである。 「……もしかして、助けたのは間違いだった?」  チラリズムをじっと凝視しているレスナに、少女は据わった目を向けた。レスナはハッと我に返り、わたわたと両手と首を横へ振る。  推し量るようにレスナをじろじろと見る少女。少女の人差し指は、自然に己の唇を押さえている。くせなのだろうかと、レスナは首を傾げる。ともにレスナは、茶色のチュニックシャツを押し破らんばかりの少女の双丘に目がいきそうになるのを必死に堪えた。堪えているというのに、オレンジの生地に包まれる少女の胸元の上辺が視界の隅に映ってしまっているというのは、レスナの精神力がか弱いせいか。 「で。お兄さんはなんでここにいるの? 閉鎖空間は、私とナタリエしか許可していないはずなんだけど」  ナタリエというのは、あの男のことだろうか。表情を一変させたレスナが、真剣な様子で答える。 「魔物の後を追って、ここに来たんだ。苦戦は覚悟してたんだけれど、こんなにも戦況が悪くなるとは思わなかった」 「そう……それで、か。じゃあ、お兄さんとは共同戦線が引けそうだね」 「君も、あの人を倒そうと?」 「あ、驚いてるね。ひどいなぁもう。さっきの氷(まほう)、みたでしょ。ボクだって結構強いんだから」  むんと、服を捲くった片腕に少女が力を籠めた。こぶができるはずはないが、そんな仕草が余計に少女を子供っぽく見せてしまっているとレスナは苦笑を浮かべる。 「たしかに、頼りになりそうだ」 「でしょでしょ。お兄さんも強いみたいだし、協力してナタリエを倒そうよ♪」 「駄目だ――」  レスナは、少女の髪に手を添えた。そして、がしがしと撫でてやる。 「君はまだ幼い。取り返しのつかないほど危険になるより前に、戻るんだ」  レスナの言葉に、少女は驚いたという風に目を丸くする。  だが次の瞬間には表情を整え、少女は穏やかな声を紡ぐ。 「……言ったでしょ。ここは、閉鎖空間。出ることも入ることもままならないんだ。 進入するための裏技はいろいろあっても、出るための方法はたったひとつしかない」  わかっている。レスナは、ピタリと手を止めた。  たったひとつの方法。それは、空間を展開した者を戦闘不能にまで追い込んで、展開を維持させられなくするというもの。 「お兄さんはナタリエと対等。ボクが加わらないと、決着はつかないよ?」 「それでも、君みたいな女の子を戦地に連れて行けはしない」 「ん」  照れた様子で、少女がほんのりと頬を紅潮させる。レスナはそれに気づけず、ただ深刻そうな面持ちで対策を考慮していた。 「しょーがないなぁ。じゃあ、支援ってことでどう? それなら、私は安全な後衛にいるし、いいでしょ?」 「……そういうことなら」  レスナは顔を顰めた。少女の我儘を通してしまったことにではない。少女が戦闘に参加してくれることに、少なからず喜んでいる自分が内にいたからだ。  少女がいれば、炎を易々と対処できるようになる。わかっているからこそ、少女の案で妥協してしまう。甘く弱く醜く卑劣な自分を見つけた気がして、レスナは吐き気にも似た不快感を抱いた。 「じゃあ、ここを出よう」 「待ってくれ。そう急がなくても――」  レスナは、少女が己の脇をすり抜けていこうとするのを止めようと思った。しかしそれは思っただけで終わり、次の瞬間には少女の意図を痛いほどに解ることとなる。  いたのだ、それが。  男ではない、しかし尋常でない存在。  ――人型の、炎。 「あれ、不死身だから。そういう意味では、ナタリエ戦よりも結構つらいよ」  レスナ達のいる横穴に、たったひとつある入口兼出口の道。  そこは今、数人の"炎人"がレスナ達に忍び寄るための通路となっていた。