ライトファンタジー〜勇者と魔王〜 水瀬愁 ライトファンタジー 第三部 第一章 第六話 ******************************************** 【タイトル】  ライトファンタジー〜勇者と魔王〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【サブタイトル】  largando/トワイライト(6)(第49部分) 【ジャンル】  ファンタジー 【種別】  連載完結済[全82部分] 【本文文字数】  3523文字 【あらすじ】  語られるは旋律、輪になって踊る道化師達の伝説。ある道化師は勇者の名を語り、またある道化師は魔王の名を名乗り。王道から成る、世界の真実をぶち壊す、ファンタジーストーリー 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************  距離を詰めてきた三人の"炎人"に拳銃(リヴォルバー)の咆哮を叩きつけ、レスナがにじり下がる。 「キリがない……」  レスナの頬を、一筋の汗が伝った。 「お兄さん。"人"がいるということは、どこかに"神"がいるよ」 「"神"」  レスナは一瞬、男(ナタリエ)のことが脳裏を掠めた。しかし、すぐにその想像は自身によって否定される。  レスナは前を見た。"炎人"が数十も連なって進行してきている様から、レスナは不可解さを見いだす。  ――量が多すぎる。  通常、個人が契約できる獣はの数は、その者の契約持続に費やせる魔力量に比例する。最大でも五。強い獣は、一体を呼び出すも難しいとされている。  これら"炎人"は弱い。それでも、大量に契約できるというのはおかしい。  だから"神"がいると、少女は指摘したのだ。  "神"というのは、召喚獣の一種を表す呼称だ。上位というわけではないが、特殊性がある。"神"と呼ばれる召喚獣は、自身も召喚を行うのだ。しかも、"神"が行う召喚にコストは一切存在していない――同じ血族を召喚するため、という説がある――\"神"によって召喚される獣を、俗に"人"と呼ぶ。これの所以は"神"に召喚されるもののほとんどが人型であることに繋がると、レスナは教わった事々を思い出していった。 「じゃあ、"神"を倒せばこいつらは消えるんだね」 「うん、そう」  少女が言った。その間も少女が張り巡らしていく氷の壁が、"炎人"を飲み込む波として荒れ狂う。  "神"の行う召喚には、人間の召喚との違いがもうひとつある。それは、主人となる存在"神"が消えれば自然と召喚される側"人"も消失するということだ。  目標が定まり、よしと気合を入れるレスナ。次の瞬間から、ぞろぞろと群れる"炎人"の倒されていくスピードが跳ね上がった。  続々と、切り薙ぎ払われる"炎人"  レスナと少女は、薄暗い洞窟の中をがむしゃらに突き進み始めた。  そうしてレスナ達が行き着いたのは、予想外な場所であった。  都市。廃墟と言うに相応しい、無人の街。無人とわかるのは、それほどに無音だからだ。どころか、人が住めそうな建物がひとつも見当たらない。街並だったと思われる一角を順繰りに見ていっただけでも、岩の塊が散乱しているだけに思えるものがいくつもある。  天井がとても高い。それに、ぼんやりと街自体が発光している気がする。レスナは岩の塊のひとつに飛び乗り、ぐるりと廃墟都市を見渡した。月光に照らされる夜の街といった風で、レスナはゾクリと寒さを感じた。 「炎人が一人も見当たらないよ」 「じゃあ、さっさと行く?」 「うん」  レスナは岩から降りた。  ボォォォォォオオオオオ――  そのとき、蒸し暑い熱波が駆け抜けていく。  まるで目の前で灼熱が燃え上がったかのようで、思わずレスナはうっと呻いて顔を腕で覆った。  数秒もしないうちに動揺が去り、レスナは細め目ながらも前を見れるようになる。  そして、そいつはいた。 「あれは……」 「多分、"神"」  少女は、レスナと違って全く動じた様子を見せていない。汗ひとつ噴出していない白い肌に、熱さを感じていないのかと疑いたくなる。対するレスナは頬を一瞬で汗まみれにされている。  瞳も違った。少女は揺らいでおらず、レスナは驚きのあまり見開いてしまっている。 「あれが"神"――」  "炎人"と同じ、純粋な炎質で作られているであろう人型の身体。ごぅごぅと橙に燃え盛っている様子からするに、固体ではないようだ。レスナにとって『受けても致命傷にならずに済む』部位がないと言えるわけであり、自らが炎の拳で消し炭にされる場景を脳裏に浮かべてしまったレスナはぞぉっと悪寒を感じた。そんなレスナをけらけら嘲笑うように"炎神"の双眸――ひときわ赤く燃える炎――が細められる。 「お兄さん、構えて……来るよ」  次の瞬間を予期したような少女の言葉を耳に、レスナは"炎神"が動き始めたのを見た。  先手を打つつもりで、拳銃を数度発砲する。しかしその弾丸は、振りかぶる"炎神"の図体にのめり込むも、水蒸気を上げて溶けてしまった。  "炎神"が己の前方へと、両腕に空を切らせる。  次の瞬間、一体どこから溢れたのか、"炎神"の背後から炎の波が身を跳ばして来た。  その身が横たわる範囲には、レスナと少女が未だ足をつけている。 「氷よ、隔てて!」  少女が両手を揚げた。応じるように、砂埃をたてて地から氷の城壁が発起する。  そうして炎と氷は衝突し、対消滅する。後に残り三者のうち、即座に動き出したのはレスナだった。  氷と炎の戦線を迂回するように動くレスナは、"炎神"との距離を残り四歩まで詰めている。来訪を果たした場合の位置も、"炎神"の側面になるであろうから不意を狙うには十分。レスナは刀剣の柄をギリリと握り、歯を強く食い縛り、風のごとく疾走した。レスナの射程に"炎神"が入るとともに、"炎神"がレスナに気づく。しかし"炎神"にはもう反応するための時間が残されてはいない。  一閃。  レスナの打突は"炎神"に届いた。 「がァ……」  "炎神"の呻きを聞きながら、レスナは追撃を重ねていった。  突き出した刀剣を引き抜き、横一字に振り切る。  振り切った刀剣を上手く流して、遠心力分を加算した一撃を"炎神"に右斜め上方から喰らわせる。  その次にレスナは、速度重視の斬撃を縦横無尽から浴びせることで"炎神"の体勢を瓦解し、サッとしゃがみ込んだ。  地面すれすれにまで身を低くし、懐の方に刀剣をしまいこむレスナ。  次の瞬間レスナは、わざと片足を滑らせて、超低空を横へと跳んだ。  通常なら地面と垂直なレスナの背が、地面と平行している。彼の顔は"炎神"へと向き、手の物は真っ直ぐ"炎神"へと向けられていた。  刀剣ではなく、銃。  一瞬で変形を果たした刀剣の銃口(マズル)は、"炎神"を捉えている。  引き金が、レスナの人差し指によってゆっくり素早く引かれた。  バァンバァンバァン――  魔力弾三発を防御無しで受けた"炎神"は、人の身長五つ分はあるであろう距離を吹っ飛んでいく。  反動によって地面を転がることとなったレスナは、片膝を立てて据わり勢いを殺した。 「……やったのか」  その後、呟く。 「残念。世界は、そう期待通りに動いてくれねぇもんだよ」  答えが、どこからか返ってきた。  その声が|誰の物か(ナタリエだと)即座に気づいたレスナは、ざわっと胸の底の方が撫でられる不快感を抱く。 「上だよ、お兄さん!」  混乱に陥りそうになったレスナは、少女の声を聞いてハッと顔を上げた。 「遅(おせ)ぇっ」  しかし、レスナが気づくのは遅すぎた。  猛進の勢いで飛来してきた者の一撃は、糸も簡単にレスナの腹部へ衝撃を叩き込む。その衝撃は、鋭くレスナに突き刺さる針のよう。  レスナから苦悶の声が漏れた。一気に崩壊し始めた意識をかき集めたレスナは、銃のままの得物をがむしゃらに振るった後大きく退く。衝撃は衝撃でしかなく、刃ではないために、運よく流血はしていなかった。もし受けたものが刃物だったら、今頃レスナは立てていなかっただろう。それでも五十歩百歩、耐えるにつらい|狂痛(マグマ)はレスナを駆け巡る。レスナは、閉じていきそうになる目蓋を無理やりこじ開けて、来訪者を見た。 「やっぱ、この打撃力は不意打ちでも物足りないわな。回転刃でも仕込むかぁ」  小手でステッキを玩ぶその者は、レスナの予想通りな容姿をしていた。  姿は、黒に白は走るマント服。  目は、色を塗り忘れたキャンバスの紙のように白い。  髪は、銀といえないほどに光沢も美しさもない真っ白。  レスナの肩が震えた。  見知った服装。見知った顔つき。見知った嘲笑い―― 「よお、弱者の少年」  その者は、|自称魔人(ナタリエ)あの男以外の何者でも無い。