ライトファンタジー〜勇者と魔王〜 水瀬愁 ライトファンタジー 第三部 第一章 第九話 ******************************************** 【タイトル】  ライトファンタジー〜勇者と魔王〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【サブタイトル】  largando/トワイライト(9)(第52部分) 【ジャンル】  ファンタジー 【種別】  連載完結済[全82部分] 【本文文字数】  2143文字 【あらすじ】  語られるは旋律、輪になって踊る道化師達の伝説。ある道化師は勇者の名を語り、またある道化師は魔王の名を名乗り。王道から成る、世界の真実をぶち壊す、ファンタジーストーリー 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************  崩壊址の物々(ぶつぶつ)が散乱する廃墟都市で、不意打ち狙いの一撃を終えて退避していたレスナは異変に気づいた。  遠目に見える少女の様子がおかしいのだ。身を折り、悶えているように見える。  その内に氷の嵐も見る間に縮んでいくので、レスナはついに危機感を抱いて少女の方へと駆け寄っていった。 「大丈夫か!?」 「だい、じょうぶ……うう」  無理に微笑もうとした少女は、自らを抱くように両腕を回して蹲(うずくま)る。  レスナは脳裏に逃走経路を思い浮かべた。そのとき、高らかな笑い声が騒ぐ。  弾かれるようにして、レスナが顔を上げた。 「クックックックッ。これはこれは、神様あたりが俺様に一目惚れしちまったかなァ?」  ごぅごぅと燃え盛る炎に足をつける男が、レスナと少女に嘲笑を向けている。氷は跡形も無く消去したようで、男の真下には氷の溶けた跡であろう水溜りがちらほらとしていた。  レスナが、ぎゅうと少女を抱き寄せる。 「さぁて、どうする?」  男は楽しげに呟いて、ステッキを構えた。  その瞬間、レスナもともに動いた。  男に背を向けて猛進。都市から離脱して、男を撒こうとでもいうのか。 「まあ、そう来るわな」  高速の世界に、物語は入り込む。素早く疾走するレスナに、それよりも素早い炎の龍が男から放たれる。レスナはその龍を斜め前へとスピンジャンプすることで躱(かわ)し、失速することなく再び前へ。 「残(ざ)ぁ|念(んねん)」  そちらにはもう、籠手を持ち上げて立ちふさがる男が。  珠も五つ出来上がっており、レスナには射線から飛び退く暇が無い。  次の瞬間、珠が総て発射された。レスナは即座に後ろへと跳躍、宙にいる間に銃を珠と同じ数連射し、珠の相殺とともに後退距離を大幅に長くした。五つの火柱越しにレスナを見据え、男がヒューと口笛を吹く。 「まぁた、ムカつく小細工なこって」  立ち昇る火柱のうち、一番手前のものに男がステッキを向けた。腰を低く構え、片脚を前にもう片脚を後ろに。手も、片手はステッキの前の端をもう片手はステッキの中部より後ろをそれぞれ掴む。  息を少し吸って、止めた。男はふっと後ろのほうの片手でステッキを押し出した。 「≪|動火柱(ファイアタワー)≫」  その途端、五つの火柱が数を同じままで前へ前へと進み始めた。その姿はまるで、地面を這う巨大百足のよう。  行く先にはレスナ。巨大百足は飛び越すには大きく、防御するには灼熱すぎる。さらに動きも速く、レスナに巨大百足の体当たりを避けられる確率は無い。 「爆沈せよ、絶大な力をもって!」  口端を酷く歪めて、男が言う。  次の瞬間にはもう、巨大百足がレスナに追いついてしまった。  ブォン――  しかし、いきなり姿を現した紫の盾によって、軽々と持ち上げられた。  防がれたのではない。その盾に、男はおぼえがあった。"炎があの盾から逃げた"と即座にわかった男は、レスナが前に発砲を行った座標に逃亡を図ったのだとわかる。少女よりも斬新さにかけるが、この少年も頭がキレると男は余裕ありげに賞賛の思いを抱いた。  と、そのとき、身を持ち上げられて立つ巨大百足の足元の方でさらに盾が展開した。  盾が炎を退ける効能をもつなら、展開する場所自体に炎が充満していたなら盾の効能は最初から全力で発動されるということ。  そして、眼に見えるほどの雷撃を迸って、盾は炎を吹っ飛ばした。  巨大百足の身である火柱のひとつが、まるで固体であったかのように千切れ。それだけで威力は済まなく、巨大百足は、地面に近い方の自らの身をごろごろと地面に転がさせ、最初の盾で持ち上げられた大部分の自らの身をグォンと上昇させた。  上昇した方は、背の高いこの廃墟都市の天井にまで到達しそうな勢いで上りつめ。  ボォォォォォオオオオオ――  何重もの熱波を暴れ狂ったように放散させ、天井にぶつかった。 「おいおい、嘘だろ……」  巨大百足とぶつかった部分の天井から、周囲に少し亀裂が伸びる。  もしかしたら、廃墟都市の天井の地層は薄く脆かったのかもしれない。  ――――崩壊が始まった。  ガガガと、途切れることのない地割れ音が響き、青空が天井と取って代わっていく。  天井だった巨大な破片がいくつも降り注ぎ始め、男は真っ直ぐ自分に落ちてくるそれらを避けるために足に力を籠めた。  ブォン――  が、動けない。  なぜと、自分を見下ろした男が我が目を疑う。  在り得ないと、男はレスナへの感想を改めた。  ――化け物。  少女に対しても抱かなかった畏怖の念を思った男は、自分の身に押し当てられるようにして八つもの紫の盾に蝕まれていた。  炎に効能がある上に、展開したその場所からは移動しない性質なのだろう。盾を無理やり押し退けようとした男は、地面に強く打ち付けられた柱を押そうと無謀を働くも同じ。  そして、動きを封じられた男へと瓦礫が降り注いだ。  断末魔の叫びが響く。今までのどんな音よりも大きく張り上げられるが、山となった瓦礫に埋もれてあっけなく消えた。 「火は、砂をかけられると簡単に消えてしまう……」  レスナは男を見届けてそう呟き、少女の熱い吐息を聴いて再び疾走をはじめた。  悩ましげに眉を顰める少女を、大丈夫と言うふうにレスナが抱きしめる力を強める。  そうして、廃墟に更なる廃墟が上塗りされる最中で少女とレスナは都市から姿を消した。