ライトファンタジー〜勇者と魔王〜 水瀬愁 ライトファンタジー 第三部 第一章 第十話 ******************************************** 【タイトル】  ライトファンタジー〜勇者と魔王〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【サブタイトル】  largando/トワイライト(10)(第53部分) 【ジャンル】  ファンタジー 【種別】  連載完結済[全82部分] 【本文文字数】  2346文字 【あらすじ】  語られるは旋律、輪になって踊る道化師達の伝説。ある道化師は勇者の名を語り、またある道化師は魔王の名を名乗り。王道から成る、世界の真実をぶち壊す、ファンタジーストーリー 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************ 「ここまで来れば、少しの間は大丈夫」  小さな横穴に滑り込み、レスナは長く細く息を吐き出した。  そのとき、少女の美しい金髪から花のような香りを不意打ち気味にくらって、デジャ・ヴとともに心配に思った。  レスナは、冷静に腕の中の少女を見下ろす。  今にも光を失ってしまいそうに揺るいでいる青の瞳は、彼へと向いてはいない。幾分か苦しみの色が見え隠れしており、小さな口は激しく喘ぎ声を漏らしている。  順を追って少女の白い喉を見たレスナは、少女が身じろぐのを感じた。  少女の着ているグレーのチャックミニスカートが揺れる。両脚がふらふらとイラつくように揺れ、少女の身が弓なりに硬直する。茶色のチュニックシャツを押し破らんばかりの少女の双丘が、先っちょで宙に円を描いた。 「お兄さん……」 「大丈夫。俺が絶対に助けるから」  毒だろうか、特殊な病だろうかと、混乱するレスナが少女を励ますように笑みをつくる。  そんなものが見えていないようで、少女はほんのりと紅潮した頬に二つの瞳を誘惑げに潤ませ、甘い吐息とともに言った。 「抱いて…………おねがいぃ、抱いてぇ……」  少女の片手が、レスナの胸板をざわざわと這う。もう片手は、ぎゅうっとレスナの片手に絡められている。  レスナは目を丸くして少女をはたと見、口をきっと結んで覚悟を決めた。  少女は、飼育されていた。  内に秘めし、大いなる魔力を宿しし剣。それを永久に封印する力は、時たま弱まってしまう。  そして漏れ出した大いなる魔力の一部は、三年は放出し続けてもなくならない程の量にあたるため、少女には収まらない。  だから、飼育されていた。魔力が漏れ出す度に性交に耽らされ、少女の身体自身がそう調教されてしまった。  ――発情。  魔力が漏れ出すと、したくなる。元々その行為は魔力の伝達に特化しており、一番の対策といってもおかしくはなく、むしろそれしかないといえるほどに正しかった。  そんな正しさを盾にされ、少女は陵辱を受けた。少女自身が求めるようになるまで放置され、正当化が相手側の思い通りになってしまったのが運の尽きだったのかもしれない。  発情がくるたび、少女は今までの自分を蹴落としてやってくる本来の自分を感じた。自分(ほんらい)というのも、環境に適応しようとする本能がつくる人格にすぎないのだが、少女には発情しているときの自分が真実の自分に思えて仕方がなかった。  また、発情が鎮まっても少女は熱を感じていた。己を満たす、何らかの熱。その熱は発情時に駆け巡るものと酷似していて、高まりも沈みもしないその熱に少女はずっと渇きを得ていた。  そして、少女はずっと思うようになった。  ――黄昏の来ない苦しみの太陽  少女の内に秘められし、大いなる魔力を宿しし剣(たいよう)。少女はそれに、ギラギラと照らされ続けて生きてきた。  レスナに身をくねらせた少女は、恍惚にも似た快楽を感じていた。  抱かれるという喜び。辱しめられるという苦しみが、そう変換されている。  理性を完全に瓦解された少女は、本能のままに雌と化していた。そこには、理知的なものなど微塵も無い。  少女の秘所は潤いを帯び、今か今かと男根を待望している。少女もそれと同様に想いを馳せ、まだ前戯すらも行おうとしないレスナを急かすように誘惑しようとして。  ぎゅうと、抱きしめられた。  えっと声を漏らす。身で溢れる熱も忘れ、少女は幼稚な様子で目を丸くした。 「大丈夫……大丈夫だよ」  大丈夫、大丈夫とレスナが呟いているのを知って、少女はさらにわけがわからなくなる。  しかし、レスナが一心になってくれているのを見て、少女の中でサッと熱が引いていく。  ――暖かい。  でも、熱じゃない。  熱なんて乱暴なものじゃなくて、もっと柔らかくて、もっと繊細で、もっと穏やかで。  ――|レスナ(おにいさん)、暖かいよ。  抱かれるとは違う、|抱かれる(・・・・)。少女は、あんなにつらくてどうしようもなかった熱が、どうでもいいように思えていた。  ただ、もう少しと。もう少し、このままで。  ――――――居たい。  少女は薄く清らかに微笑んで、レスナの腕にくるまれて。  ゆっくりと、目を閉じた。 「ああああああアアアアアアアアア!!」  崩壊址の物々(ぶつぶつ)が散乱する廃墟都市で、ひとつの瓦礫の山が今吹っ飛ばされた。  代わって、立ち昇る火柱。それを巻き起こす者は、雄叫びを振り絞った。 「アアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」  衣服が裂けても、止めない。  その人ならざる様子は、まさに魔人。 「ア……ァァ…………」  声が掠れてしまって、大口を開けるだけになってやっと魔人は叫びを止めた。  あ゛ーと荒い呼吸を繰り返し、魔人がニヤつきを浮かべる。  それは、これからの殺戮を楽しむ狂犬のような笑み。  ザッ――  足音がして、魔人の笑みが消えた。  機械のようにギギギと首が回って、魔人の顔が足音の方へと向く。  女の子がいた。  リスの尻尾のようにくるんとカールするツインテールは、淡い桃色を帯びている。瞳は黒い真珠を埋め込んでいるようだが、クリッと猫のように大きく覗き込みすぎたら吸い込まれていってしまいそうだ。胸元を覆う花柄に装飾された装甲は、ショートパンツと同じく深い紫色をしている。身の丈に合わない超質量のガントレットは大きく、どこか可愛らしくも見えた。  その子は、言う。 「すみませんけどぉ、あなたにはここで倒されちゃってほしいんですよぉ」 「……なら、コロスんだな。それ以外では、俺は倒れねぇ」 「じゃあ、そうしますかねぇ」  次の瞬間、女の子が一歩踏み出した。  その一歩で、普通なら十歩分はあるであろう距離が詰められてしまう。  驚愕の表情を浮かべる魔人。女の子は腰を捻り、振りかぶる片拳を魔人へ伸ばす。 「≪小竜波≫」  魔人が叩き上げられた地上の世界には、まだ日が天上を向いていた。