ライトファンタジー〜勇者と魔王〜 水瀬愁 ライトファンタジー 第三部 第一章 第十二話 ******************************************** 【タイトル】  ライトファンタジー〜勇者と魔王〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【サブタイトル】  largando/トワイライト(12)(第55部分) 【ジャンル】  ファンタジー 【種別】  連載完結済[全82部分] 【本文文字数】  1394文字 【あらすじ】  語られるは旋律、輪になって踊る道化師達の伝説。ある道化師は勇者の名を語り、またある道化師は魔王の名を名乗り。王道から成る、世界の真実をぶち壊す、ファンタジーストーリー 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************  廃墟都市の真上の世界。日が怖ろしいほどの早さで暮れ始めているが、まだまだ明るい。魔人を滅多打ちにした女の子が、少女の背後にいるレスナの元へと退いた。少女はそれを見て、心の中だけでありがとうと呟く。そして、前を見た。 「さすがナタリエ。凄い精神力だね」 「……うるせぇ」  鉛のように重くなっている自らの身体を無理やり持ち上げる|自称魔人の男(ナタリエ)の瞳には、黒くおぞましい炎が猛る。  対する少女は、どこか落ち着いた様子で男を待っていた。 「なんで……トドメを差さねぇ。情けか、優しさか、くだらねぇ、くだらねぇよ、逃げる奴がやるもんじゃねぇよ」 「情けじゃ、ないよ。優しさでもない。でも、君はもう少し生かす。生きて、見てほしい」  何を、という問いが二人を伝った。答えるという風に、少女がスッと両腕を宙に差し出す。  何が起こるのかわからず、男はどんなことにも対応できるよう構えを取った。  そして――少女の背後に、いや、少女に覆いかぶさるように、または、少女の頭上に浮くように、蜃気楼は現れた。  そう、蜃気楼。あるはずのない幻影。幻とは、夢か妄想。男は、幻だと思った。男は思った。  こんな完璧な物が世界にあるはずないと。  円錐の底面と底面とを接合したかのような形をした、氷。それの内にある、灼熱の色をした剣。剣が圧倒的な存在感を持っているが故に、氷が薄っぺらく思えてしまう。しかし剣に伴っているであろう威圧がまるで無く、氷に押し殺しているかのよう。  最強の氷に阻まれるように、最強の剣は包まれて、だからひとつの最も美しい芸術(アート)がここにある。男はそう思った。  そして、その次の瞬間、氷に無数の亀裂が走った。  男がハッと息を飲む。氷が崩壊を始め、剣に滾る魔の力が噴出する。氷が昇華し、霧散していく。芸術が瓦解されていってしまう。  それすらも、おそろしいほどに美しい。  砕ける。砕ける。砕ける。砕けに砕け、氷が跡形も無くなる。  氷の内に秘められし、大いなる魔力を宿しし剣。それが重力に沿って、いや、自らの発する不思議な重力によって、まるで枝から飛び立ったひとひらの花びらのようにはらりはらりと降りていった。  そして、少女の手の中に収まる。同時、爆ぜた。 「ッ!?」  男は、あまりの戦慄に目を逸らそうとする。そんな男を叱るように、少女が声を飛ばした。 「ちゃんと見ろ!」  男が、離そうとした視線を再度少女に合わせる。 「目をこじ開けろ!」  がちがちと歯を鳴らしつつも、男は少女を見る。 「しっかり感じて、しっかりと憶えろ――」  男が見る中で、少女が剣を振りかぶった。  空間が脅えるのを感じる。一瞬の静けさが訪れるのを感じる。静寂と真反対の現象がこれから起きると、心の中の何かが気づいている。怖い。しかし目は離さない。見届ける。運命の行き着く先にある死の訪れた自分が、今生きている理由が見届けることなのだから。見届けねばならない。彼女が乗り越えていく様を。そうしてからでなければ、死ねない。 「これが――君への手向けだぁぁぁぁ!!」  少女が、振るった。  幾千もの轟きを纏って、幾千もの力を束ねて、幾千もの刃となって。淡い赤紫色の激流が、万死を煮やす業火が、男を焼きなぎ払う。  三つの黄昏(トワイライト)が訪れた。  少女の、苦しみの太陽(うんめい)が黄昏(しずみ)。  男の、まさに炎のような激動たる人生が黄昏(おわり)。  ――――――世界を廻る太陽が黄昏(くれた)。