ライトファンタジー〜勇者と魔王〜 水瀬愁 ライトファンタジー 第三部 第一章 エピローグ ******************************************** 【タイトル】  ライトファンタジー〜勇者と魔王〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【サブタイトル】  attacca/始終(2)(第56部分) 【ジャンル】  ファンタジー 【種別】  連載完結済[全82部分] 【本文文字数】  1223文字 【あらすじ】  語られるは旋律、輪になって踊る道化師達の伝説。ある道化師は勇者の名を語り、またある道化師は魔王の名を名乗り。王道から成る、世界の真実をぶち壊す、ファンタジーストーリー 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************  風が吹いた。  朝の風が、草原を駆けて丘を越えて青空を飛んで其処(そこ)に吹いた。  吹いた風は、其処にいる少女を優しく撫でていった。少女の白く細い首も、少女のぽよよんとした頬も、少女のさらさらとした金髪も。  と、そのとき、少女がうっすらと開けた唇に風がの幾らかが吸い込まれていった。  その風は、少女の言葉を乗せる吐息となる。 「ナタリエは、分け目も振らずに走ってたんだ」  そして吐息は風に戻り、再び世界を行き始める風を少女は見送る。 「太陽のようだった。ギラギラと、痛いくらいに陽射しを浴びせてくる白昼晴天の太陽。傍にいて、とても痛かった」  少女は目を伏せた。今彼女の傍にいるレスナは、自分はどうなのだろうと杞憂する。 「ずっと彼は昇っていたの。どれだけ満身創痍になっても、彼は燃え盛っているしかなかった。ボクが苦しみの太陽に照らされていたなら、彼は自分自身が苦しみの太陽だった。 照らされる者よりも、満ちる者の方が苦しみは大きい。彼はボクと同じように、ずっとずっと苦しんでいた」 「……君は、あの男が好きだったのかい?」  レスナに、少女は首を横へ振った。 「でも、助けてあげたかった。彼の太陽に、黄昏を迎えさせてあげたかった。ボクのように、彼も救済されるべきだったはずなんだ。 でも、彼にとっての黄昏は、ひとつでしかないんだ。炎が消えることでしか、彼に黄昏(おわり)は訪れない。彼を知っているボクだから、この選択肢しか選べなかった」 「……お友達さん、だったのですね。それは、悲しいです」  次に、女の子が言った。少女はまたも、首を横へ振った。 「そうでもなかった、かな。友達なんて良い関係ではないけれど、絆(つながり)があったんだ。ただそれだけ。愛情も、友情も、何も無い。ボクも彼もわかっていたのだけど、ボクと彼は、いつか対峙することになっていただろう関係だった。いつか来るとわかっていたから、悲しくもない。切なくもない。寂しくもない。感慨とよべる思い出だって、ひとつもない」 「それでも……あなたは、泣いていらっしゃいます」  女の子の指摘に、少女は自分の目元に触れてああと思った。自分でも気づいていなかったことに、ようやく気づいたのだ。 「やっぱり、ボクは悲しいのかもしれない」  少女は見下ろした。埋め立てられたばかりで、まだ土が地面に馴染めていないその場所を。  少女が静かに十字を切り、祈祷を捧げる。ぎゅうと目は閉じられ、その背中をレスナは小さいと感じた。  長い時間がかかった。だけど、レスナと女の子は待ってあげた。少女が振り向くのを、何も言わずに押し黙って待った。  そして、少女がついに姿勢を戻す。次の瞬間、にぱっと輝く笑顔を浮かべて少女がレスナ達へと振り向いた。 「行こっか」  どこへ、とも言わず。また、どこへとも訊かず。  ただ三人はこの場に居る理由が無くなったと感じて、前かどうかわからぬ方向へと足を進め始めた。  黄昏た太陽がまた昇った明朝の頃、世界を巡る風の幾つかが彼らが行くのを見届けた。