ライトファンタジー〜勇者と魔王〜 水瀬愁 ライトファンタジー 第三部 第ニ章 第一話 ******************************************** 【タイトル】  ライトファンタジー〜勇者と魔王〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【サブタイトル】  tempo rubato ma quasi con fuoco/王の命令(1)(第57部分) 【ジャンル】  ファンタジー 【種別】  連載完結済[全82部分] 【本文文字数】  2137文字 【あらすじ】  語られるは旋律、輪になって踊る道化師達の伝説。ある道化師は勇者の名を語り、またある道化師は魔王の名を名乗り。王道から成る、世界の真実をぶち壊す、ファンタジーストーリー 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************ 「自己紹介が遅くなったね。ボクはミシェル・ハル・ルヘリ。すっごい魔法使いだよん♪」 「えと、私はチチルです。ミシェルさんは、魔法使いなのに、剣もお使いになられるのですね?」 「俺はレスナ・クリグファルテ。魔法使いといっても、ミシェルは錬金術の類を扱う派なんじゃないかな?」  三人が食事を交わすのは、こじんまりとした木造の料理店。  同じ店内にいる者は、彼らに羨望の眼差しを向けていた。  チチル――リスの尻尾のようにくるんとカールするツインテールは、淡い桃色を帯びている。瞳は黒い真珠を埋め込んでいるようだが、クリッと猫のように大きく覗き込みすぎたら吸い込まれていってしまいそうだ。胸元を覆う花柄に装飾された装甲は、ショートパンツと同じく深い紫色をしている。身の丈に合わない超質量のガントレットは大きく、どこか可愛らしくも見えた。  ミシェル――流れるような金髪。透き通った青の瞳。着ているのは茶色のチュニックシャツで、胸元にはオレンジの生地が覗いている。ポトムスはグレーのチャックミニスカート。背の高さに不相応なバディが、幼い身の丈に色気というものを匂わせる。  レスナ――なめらかな青白で統一された服。赤銅色の瞳に、黒髪がよく似合っている。キリリと引き締められた顔つきは、どんな表情を作っても格好良く見えてしまう。  美少女・美男子の集うそのテーブルは注目の的となっているが、本人達はそんなことに気づいてはいない。 「ボク、全魔法を習得し終えちゃってるけど、錬金術は齧ってないよ。剣を扱えたのは、魔法剣に鍛錬データが残っていたからだと思う」 「鍛錬データ……ほよよ?」 「前の持ち主の技術が、ミシェルに身につくってこと?」 「大体は、そう。技術がまるまる依存するんだけど、処理速度は現在の熟練者の力量によるし、結局はボクのステータスが高いってことだけどね」  チチルを置いてきぼりにして、ミシェルとレスナが頷きあった。チチルはこほんと咳払いして、話を切り替える。 「それで、今私たちの居る場所は、いったいどこなんです?」 「んとね」  ミシェルが懐より、折りたたまれた紙を取り出す。どこか古ぼけているそれは、ミシェルの手によって慎重に広げられた。 「アドバザラム方面と真反対。ここは『第五聖女』フルフル・リリ・アバンの砦下町(さいかまち)みたい」 「閉鎖空間が、この辺りで時空固定展開されてたんだろうね。でもそれだったら、アバンが気づくはずだけど」  ミシェルとレスナが頭を捻る。とその時、チチルがさらっと言ってのけた。 「容易に気づけるものでは、無かったですよ。定着してるはずの入口はステルスで、魔力遮断が丁寧に施されてましたし。 ステルス特有のぎこちなさだとか、大気中魔力の誤差が極端に大きいかとか、そういう物量作戦をしないと探し出せなかったんですよぉ?」 「……そういえば、チチルちゃんはお兄さんと違う侵入方法を行ったんだよね。しかも、一番正当なやり方で」  瞬間、レスナを責める目がふたつ。レスナはすっ呆けて、それじゃあ、と前置きした。 「それじゃあ、これからはそれぞれ別行動だね」 「え?」 「ほへ?」  すると、チチルとミシェルが同時に声をあげた。訳がわからなくて、レスナは眉を顰める。  当然のことのはずだと、レスナは思った。レスナの旅には目的があり、チチルとミシェルはそれに何ら関わりが無い。また、こちらの都合に巻き込むわけにもいかない。友好関係が築かれ、まだ共にいたいのはやまやまだが、そんな些細な気持ちで判断を揺るがすわけにはいかない。レスナは、その程度の良心は持ち合わせているつもりだ。故の発言に、なぜか不満げな声が発せられる。さらには、ミシェルがおかしくなった。 「お兄さん……ボク、今、一文無しなんだ」  神妙な面持ちのミシェルは、レスナの片手をぎゅうっと握り締める。 「お兄さんに捨てられると、身を売っていくしか……およよよ〜」 「そ、そうなんだ。それは、困ったね。うん」  ミシェルの潤んだ瞳の上目遣いに、レスナは、かぁっと頬が紅潮する思いを抱いた。  その様子をきょろきょろ見つめるチチルが、慌ててレスナのもう片手を引っつかむ。 「わ、私も! レスナさんに捨てられたら、すっごく困るのですよ!?」 「え、ええと……」  四つの瞳に見つめられるレスナ。おどおどして、何も言葉を発せないレスナ。  なのに、話は進展した――ミシェルの一言によって。 「やっぱり……二人ともは、無理だよね」  ギラリと、ミシェルの瞳がぎらつく。  そして視線が移り、パッとチチルと目が合った。  チチルも、視線をミシェルへと向けたのだ。瞳はミシェル動揺、黒い炎をめらめらと燃やしている。  レスナは、まさかと、嫌な予感を抱いた。殺気をぶつける二人を見て、瞬時に、予感は確実性を増す。  レスナが、制止の声をあげようとした。しかし、遅かった。  ――疾風が吹き荒れる。  二つの疾風は、昼食時で人の押し寄せるこの料理店を飛び出し、外へ。  何事だと訝しげに思う周囲の人々が見守る中、疾風は牙を剥き合って対峙した。 「勝った方が――」  ミシェルが、じりっと足に力を籠める。 「レスナさんと――ご一緒するです」  チチルは、ぎゅうっと拳を握る力を強める。  次の瞬間、疾風は竜巻と化した。  竜巻は、衝突し合って――嵐を、生んだ。