ライトファンタジー〜勇者と魔王〜 水瀬愁 ライトファンタジー 第三部 第ニ章 第三話 ******************************************** 【タイトル】  ライトファンタジー〜勇者と魔王〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【サブタイトル】  tempo rubato ma quasi con fuoco/王の命令(3)(第59部分) 【ジャンル】  ファンタジー 【種別】  連載完結済[全82部分] 【本文文字数】  2286文字 【あらすじ】  語られるは旋律、輪になって踊る道化師達の伝説。ある道化師は勇者の名を語り、またある道化師は魔王の名を名乗り。王道から成る、世界の真実をぶち壊す、ファンタジーストーリー 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************  実体があるのは、光竜と土竜だけ。それ以外は、液体か気体かの集合体でしかない。しかし満ちる力は桁外れである。  それらは、≪|魔源(マテリアル)≫より召喚された神獣にして、人が扱える究極(アルティメット)。  究極域の力の存在は、究極に近い力量の者にしか応じない。  "全魔法を習得し終えちゃってるけど"というミシェルの発言はまぎれもない真実であった――チチルは思う。そして、瞬時に考慮する。  考慮は間に合い、その半瞬後に第三幕が始まった。 「神よ、示せ」  攻撃指示。同時、四つの神の巨躯がそれぞれに行動を起こす。  まず一撃は、水竜だ。開けた大口から、力が内で激動する砲丸を撃ち出した。それを目視も認識もできるが、チチルは直進行動に身を任せているため、動けない。仕方なくチチルは、胸の前で両腕を交差させ、防御を図った。  砲丸が其方の者を穿たんとする。チチルはそれを受け止めるが、衝撃を殺しきれずに落雷のごとく地に降った。  疾風同士でぶつかり、嵐となったあの場所へ、チチルの衝突した穴があく。チチルはケホと少しむせただけで、即座に立ち上がれるだけの力を振り絞れなかった。  のけぞるチチルへ、更なる砲火が向かう。  風竜による追撃は、息吹的砲丸であるのは水竜と同じだが、一撃以上の数で弾幕をつくっている。  見て取ったところ、砲丸ひとつひとつの威力は水竜と同レベル。複数をいっぺんに受ければどうなるのかと、嫌な想像をめぐらせて、チチルはその場から強引に退(ど)いた。  間一髪、嵐どもの飛来から逃れる。ほっとしたも束の間、チチルは更なる脅威を見上げることとなった。  土竜。己を砲丸に見立て、炎気の渦を巻きながら、一直線にチチルへ牙を剥く。その様は、天よりも高い方からグングン地に迫る隕石だ。  チチルは、もう一度跳ぶだけの猶予は無いと察し、急所だけは避けるために身をよじった。  そして――隕石は落ちた。  極光の火柱が昇る。世界は一瞬、それによって明かされる。だが、それはすぐに闇に閉ざされ、世界は元にもどった。  天空へと舞い戻る土竜。地には、隕石が落ちた痕と。 「――ハァッ」  チチル。  落下して来た隕石に直撃したが、瞬殺には至らなかった。その後の火柱の衝撃で、三度は地を転がることとなってしまい、ぼろきれのごとくチチルの身は地に突っ伏したまま動かない。  瀕死なのは違いない。満身創痍に、一時的に呆けてしまっているのだろうか。そう考え、ミシェルは不敵に笑った。 「光竜を使うまでもなかったね。チチルちゃん。 君は弱い。弱い君じゃ、お兄さんの傍に居ていい資格なんて得られるはずがない」  光竜は、天を裂いて降臨した様のままじっと動かないでいる。  金色で統一された、装甲のような全身。光竜はまさに、石像のようだ。  ミシェルは思う。この四竜は、自分がチチルに課した試練なのではないか。  これらを越せば、あるいは――そう、対等であることくらいは認めてやってもいいかと。魔女は思う。  魔女は、覇者に心を許してはいない。  覇者の存在を。覇者の可能性を。覇者の未来を。  そして、覇者に揺るがされる、己の可能性を。  故に、ミシェルは浸る。優越感に、己の勝利に、勝者である自分に。  そうして、不安を晴らす。自らが強き者であると実感する。選ばれるのは自分であると、妄信を強める。  なぜ――居場所だからだ。居場所だと思えるからだ。居場所であると、信じてやまないからだ。  居場所を奪われたくないという黒い炎が滾っているから、ミシェルは力を示すことに躊躇しないでいる。  名は、居場所と同じ三文字にして、重みが全然違う。そして、大切な人のものでもある。  ……ミシェルは、覚悟していた。得るための覚悟を、断固に。 「――弱者は、サッサと舞台から降りて。目障りなんだよ」  ミシェルは嘲り、片手を振って最後の指揮を執った。  ……だからか、ミシェルには見えていなかった。ミシェルは、知れていなかった。  たとえ知れていたとしても否定しただろうが、わかっていれば、自身の|魔女以上の力(・・・・・・)をもっと早くから発揮していたにちがいない。そうなら、こうはならなかったにちがいない。  ……ミシェルは、覚悟していた。得るための覚悟を、断固に。  しかし、そんな覚悟をした者は一人で無く、覇者もまた同等くらいの覚悟を内に秘めている。  ミシェルには見えていなかった。ミシェルに見えていたのは、自らの勝利のみ。チチルの異変にも、力の集束にも、気づけなかった。  故に、成った。  ――――逆転。  ミシェルの眼下で、ついに異変が形をつくった。  ミシェルは目を丸くして、呆ける。その肩は、頼り無く小さくみえる。  それは、傍に『より強き存在感』があるからこその誤認であろう。  『より強き存在感』の主は、一人。  その一人は、大気が恐れをなすほどに荒々しく。  その一人は、光の矛先をより集めてしまうほどに美々しく。  その一人は、人で無い者として世界に愛でられるほど特別で。  その一人は、遥か太古に人としての領域を飛び越えた覇者。  ――この世界は、四つの元素から成り立っている。  水、土、光、風。  だが、これらだけが世界にある力とは到底言い切れない。生物は、もっと違う力を備え持って生まれてきている。  腕力。脚力――身体に漲る≪力(フォース)≫  元素の究極が神と祭られるならば≪力≫の究極もまた、神に等しき超越者。  超越者に神の名が与えられるなら、元素の究極に神と竜の二つが与えられたように、その一人はこう通ることだろう。  覇神。覇者を越え、覇王をも凌駕し、人を捨てた絶対主。  孤独のみに傷つけられてしまう、破壊の創造を目論む君。  ――覇神が、打滅の力を駆使する。