【タイトル】  ライトファンタジー〜勇者と魔王〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【サブタイトル】  FILE6:皆の思い、皆の誓い、一時的な間章(第6部分) 【ジャンル】  ファンタジー 【種別】  連載完結済[全82部分] 【本文文字数】  6659文字 【あらすじ】  語られるは旋律、輪になって踊る道化師達の伝説。ある道化師は勇者の名を語り、またある道化師は魔王の名を名乗り。王道から成る、世界の真実をぶち壊す、ファンタジーストーリー 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************ FILE6:皆の思い、皆の誓い、一時的な間章  闇が生まれる。異形という闇。  異形は徐々にうごめき、ひとつの形をとり始める。 それは人。  黒きマントを羽織り、薄暗い紅の片翼を持つ、人をはるかに凌ぐ存在。  彼のことを、ある者達は【魔神】と呼んだ。 「遅いお目覚めだな【絶望を紡ぐ真闇 魔神】よ」 「そなたは……彼昔、にくき勇者討伐に出たあげく、呆気なく封印された【人ならざる魔 魔王】か」  二つの異なる闇が充満していくなか、魔神の姿が完全となる。  魔神の顔の半分を覆い隠す、白いお面。そこからは紅く輝く瞳がのぞいていた。  隠されていない半顔は美しいほど整い、漆黒の瞳が凛とした輝きを放っている。  神々(こうごう)しい威圧をまとった、神という名に恥じない存在だった。 「あまり図に乗るなよ、貴様は今私の【服従者】なのだから」 「ほう、【闇の娘】という女限定でしか操れなかった貴様が、時の流れのうちに成長したか」 「まあな、だが完璧ではない。精霊の力を宿らせることはできなかった、できるのは――束縛までだ」  魔神のマントから出した片腕に、蝶の紋章が刻まれている。  魔神はニヤリと笑うと、マントを浮き上がらせてしまうほど強大な魔力を発する。  それは濁流を創り、空間を震わす。 「束縛だと? この魔神が――何者かの管理下におかれるなど、絶対にない!!」  魔神は腕を引き寄せる。  そのとき、引き寄せた腕から手の甲に向けて真紅の刃が突きだした。  手の甲から突き出た刃はさらに伸び続け、人の身長ほどの長身になる。 「絶対切断の呪を受けた、妖刀の切れ味、 その身で味わえ!!」  魔神は駆け出す。  一歩――魔王の懐に魔神の姿が移る。  誰も気づくことはない、人の速さを超えた者の特権。  魔神は腕を大振りになぐ。剣先が魔王に触れるその瞬間―― 「【禁止コマンド発動】」 「!!」  魔神の動きが止まったかとおもうと、痙攣し、もがき、のたうちまわり始める。  魔王と呼ばれる、王国で作られた豪華なマントをまとった剣士。  剣だけが異様な魔力を漲らせている。  生々しい目玉の柄から伸びる三つの刃が絡み合う、長剣の魔刀。  魔王の名に恥じぬ闇の武具だ。  魔王はその剣を軽く撫で、魔王の様子を眺めている。 「俺に従え、そうすればなにもしない」  魔神は怒りに顔を歪ませ、地団太を踏むと、転移した。  魔王は困ったような笑みを浮かべると、なにもない空間を睨んだ。 「動き出したか――状況変化の刻は近い、俺の有利な状況への変化の刻が」  そう言った魔王は【最凶最悪の封印殿】と呼ばれる、魔神の封印跡から去ったのだった。 「………きれいな月ですね、ゴンザレス」 「………ああ」  紅いロングヘアを軽く押さえ、彼女は言った。  空には雲一つない夜空と、淡い光を漏らす満月がのぼる。  大男、ゴンザレスは彼女のそばで、彼女をみる。  そして思う――わたしはあと何回、彼女を拝められるのだろうか――と。  そんな考えを察したのか、彼女はゴンザレスにほほえみかけた。  すべての男を魅了する、最上美の微笑み。  それすらも、ゴンザレスは悲壮に感じてしまう。 「そんな顔しないで――まだ負けると決まった訳じゃないんだから」 「しかし……勇者なんかに任せられるのか、所詮奴は世界救済しか考えてない者なんだぞ」  勇者の使命は魔王を倒し、世界を助けること。  つまり、ゴンザレス【七聖神】や彼女【青の魔術士】は見殺しにされる可能性もあるからだ。  現に今、勇者は王国に魔王がいることも知らず、国から去ろうとしている。 「大丈夫よ、何たって今回の勇者は【信じることができる】んですもの――」 「根拠は?! なにもないだろう!」  彼女の、迷いなき言葉に苛立ちを覚えたゴンザレス。  うろたえることもなく彼女は、微笑み続けた。 「私たちにできること――勇者の留守を守る。明日からは忙しくなりますよ。 勇者がいなくなって、魔王も行動を起こすでしょうから」 「………フンッ」  ゴンザレスは彼女に背を向けた。  彼女はそれを不思議そうに眺めた。 「必ず……必ず、貴女を守ってみせる」  彼女はその意味を理解できないというように眉を潜め、ゴンザレスが赤面しているのに気づき、意味を理解したところで吹き出した。  ゴンザレスは足音を豪快に響かせながら早足で去っていった。 「クスクスクス……」  ひとしきり笑い続けた彼女は、息を整えながら月に目を移す。  その目はうれしそうに、愛しそうに、月を眺めていた。 「……次、こんな月をみることはないんだろうな」  彼女はそれでも、悲しみをみせることはなかった。  満月は凛とした輝きを放ち、彼女を照らした。 「月がきれいだ……」  リュークスは誰に言うのでもなくつぶやいた。  セレの変化に戸惑いながらも、闇を完全に感じさせない笑みをみることができたことだけで成果といえるだろう。  そのほかにも、【聖光天使】との不言語意志疎通、お互いの近くに瞬間転移できる力があることにも気づいた。  さらにセレは、身体的攻撃力と瞬間集中力が瞬発的に上がり、開花を得たようだ。  二つ以上の魔法の同時発動、そして、全属性魔法の使用可能――後者は前からあったようだが、前者には感嘆のため息を漏らしてしまった。 「あ、まだ起きてたんだね、明日出発なんだから休んどかないときついよ?」  俺は声の主に目を向ける。  金髪のツインテール、青空のように透き通った瞳を持つ背が極端に低い少女。 俺の腰ほどまでしか背がないので、見下ろす形になる。  少女の名はサクラ。 「おまえこそ。冷えるぞ」  俺は吹き荒れる風を肌で感じながら言う。  夜の寒気を受けた風は、刺すような冷たさを感じさせてくる。 「にゃはは! リュークス君はやさしいね」  サクラはそういいながら、俺の隣にたつ。  終始無言、お互いがなにも言わない。そう思えた。 「…………だってね」 「ん?」  俺は、唐突に放たれたサクラの言葉を聞き逃して、眉をひそめる。  サクラは俺を見つめる瞳に何らかの感情を込める。  俺はそれにたじろぐようにして、真剣さを取り戻す。 「セレスティアちゃんを【聖光天使】にしたんだってね」  ――ああ、なんだ。そんなことか。  俺の真剣がほぐれ、自然と笑みを漏らす。  サクラは目を見開くと、気押されてしまうほどに睨みつけてくる。 「きみは、人を物のように扱えるほど、偉い人間なのか!!」  サクラの瞳に宿るのは――――純粋なる怒り。  俺の心は冷えきり、目を閉じれば自ずと答えが浮かぶ。 「――違うな、偉くなんかねぇな」 「なら、きみは人一人の人生を変えてしまうことを、その重みを、そのつらさを、持つことができるのか?! きみのしたことは良い面では救いだ。でも、彼女を縛り付けて、夢や希望をつぶさせて、一つの道に進ませない、それは所詮魔王と同じ【服従】だ!!」 「――ああ、そうだ」 「わかってるなら、なんで!?」  サクラはつかみかかってくる。  俺は冷えきったまま、サクラの言葉を待つ。 「君は絶対運命の規律をやぶった、君はそんなに偉い人間なのか!? ボクは、君がそんな奴だとは思わなかった。彼女の意志をねじ曲げて、それが本当の救いなのか? ボクはそんなこと認めない、彼女が死んで解放されたいと願って、それが絶対運命なのなら、その通りにすべきだったんだ!!」 「――――死なせるべきだった、そういうのかよ。 俺は【メシア(救世主)】だ、救う相手を決めるのは俺だ。 そして、俺はセレを救うと決めて、それを押し通した」 「君はそんなに偉いのか!! 運命を変えるほどに――」 「偉くなってみせるさ!! 人を死なせる運命をぶっ壊せるほどに!!」  俺の視線、サクラの視線、押し合いを始め、お互いがお互いを睨み潰そうとする。  俺は俺の精神に話しかける【勇者様】に気づき、サクラから目を離す。 「アンタと話したいそうだ――――かわるぞ」  俺の人格が底なし沼に落ちるように、沈んでいく。  俺はふぅっとため息を吐く。 【俺】も頭を冷やしてくれると良いが、今は目の前にいるサクラが先か。 「父さ……いや、勇者。ボクになにか用?」 「ああ、まあな」  サクラは一瞬ガドをなくした本当の笑みを見せそうになるが、すぐに距離をおいた仏頂面になる。  俺は、【今は碧のはず】の瞳の前に手を掲げ、指と指の間でサクラを見る。 「用といってもちょっとしたことだ――――いまさっき二人が話してたことへの訂正」 「訂正?」 「――おまえ、【人一人の人生を変えてしまうほど偉いのか】っていったよな。 そのままおまえに返すぜ」 「……なにを言ってるかわからないな」 「仮にも【愛しき娘】のサクラの嘘を見抜けない父親だと思うか。 あの言葉はおまえにも返るし、俺にも返る。 俺もおまえもイエスとしか言えないし、【俺】に言えるような人間じゃない。 それでも――――おまえは【あの計画】を実行しようとしてるなら、【俺】と同じなんじゃないか?」 「…………」 「言わせてもらう、お前はリュークスの人生を縛り付けてしまうほど、偉い人間なのか?」 「そんなこと――」 「貴様の答えはNOだろう、当たり前だ。 【俺たちはすべてを縛り、従わせた】 リュークスになにか言うことは許されない」 「――わかってるさ」 「いや、わかってない。貴様はまだ偽っている。自分と、自分の心を」  形成は逆転した。  サクラは圧敗している。俺は声を荒げていった。 「――ちょっと言い過ぎたな、悪い父親だ」 「ううん、そんなことないよ――――ボクの勝手で、リュークス君に、ボクたちみたいになってほしくなくて、言っただけだから」 「そうか」  俺は微笑みかける。  暖かい、ぎこちない空気。俺とサクラはお互いに笑いかけている。  俺はふぅっとため息を吐き、気分を入れ替えた。 「サクラ――まだあれを作っているのか?」 「………いや」  サクラは感情を断ち切った瞳で、抑えきった冷めた声で、言い放つ。 「もう【完成した】よ、だからここにいる」 「へぇ、いったいどうやったのか気になるが、そろそろ切り替わるぞ」 「ボクは部屋に戻るよ、冷えてきたからね」  サクラが背を向け、俺の視界から消える。  俺は夜風の冷たさを感じられるだけ感じ取り、目を閉じる。  ――五感が失われ、沼に落ちた。 『望め望め望め望め望め望め望み重ねよ幾重にも』  呼吸する。  吐き出すものは闇、吸うのも闇。  世界には相反するものは必ず存在する。  勇者に対して魔王が、光に対して闇が。  ならば《コレ》はなんなのか。 『恨め恨め恨め恨め恨め恨め恨み重ねよ幾重にも』  《コレ》は、リュークスという【不確定要素】に相反する存在。  《コレ》は――剣。 【最強にも、最弱にもなれる、闇でも光でもない、無の剣】といったところだ。  それを持つ者は現れるのか、剣はただただ呼吸を繰り返し存在し続ける。  持ち主が現れるその時まで――  満月が淡き光を落とす。  その下で剣を振るいし者は、若き剣士。  その太刀は鋭く、その眼は空間の一点に殺しを送り、まるで空気と闘っているようだ。  ふいに彼は動きを止め、顔に吹き出る汗を拭った。 「アッシュ」  彼を呼ぶ、幼い、ソプラノの声。  彼は声の主に顔を向けると、おろおろとして言う。 「こ、こんな時間に出てはいけませんよ!!」 「敬語禁止です、それと――村にいた頃はよかったんですから、今も外に出てOKです」  少女はショトヘアの白髪を軽く風で乱してはいるが、神々しさが隠れることなくあらわれている。 「ですが……」 「もう! アッシュは友達なんだから、村にいた頃みたいに話してくれていいの! 命令だからね!」  幼い、わがままな少女は頬を膨らませて怒ってるといってくる。  ふつうの人ならひざまずいてしまうほどの神々しさの魔力を秘めているという威厳はそれでも健在で、構えずに話すことは不可能に近い。  そんなことも理解していない鈍感な少女の態度に、アッシュは苦笑し、腹を決める。 「リース」 「うんっ!」  リースはうれしそうに顔を綻ばせ、アッシュはそれに赤面する。 「でも本当に外に出ちゃだめですよ! 夜は危ないんですから!」  アッシュはできる限りきつめに言う。  リースはきょとんと首を傾げる。 「なんで?」 「な、なんでって――」  アッシュはしどろもどろになる。  リースはアッシュに抱きつき、胸板に顔を埋め、アッシュを上目遣いでみる。 「アッシュが守ってくれるでしょ?」 「そ、そりゃ――」 「まあいっか、もどろ〜〜」  リースはそういい、腕をぶんぶんと振りながら、足元も見ずに光無き夜道に足を踏み出そうとしている。  アッシュはすかさず明かりを灯す炎を手から生み出す。  最年少にして、七聖神最強の剣士、勇者に変わる最強――【七聖神】アッシュ。  対するリースは、【鍵の少女】といわれ、その身の中に何該、何京の魔物を封じ込めた異界の扉を開ける、鍵を宿した最凶の人間。 「ありがと」  明かりを灯したアッシュに対して太陽のように陽気な笑みを見せるリース。  アッシュはそれをみて、愛しさを覚えて――誓いをたてる。 「ぜったい僕が守るから――」 「え、ええ!?」  小さくつぶやいたアッシュに、耳まで真っ赤に染めるリス。 「もう、アッシュったら……鈍感なのか、鋭いのか……」 「え?」 「もう、なんでもない!」  いきなり怒り出すリスに、動揺するアッシュ。  二人を満月は、優しい光で照らしたのだった。  一夜が開ける。  それは、国に眠る闇を忘れさせてしまうほどの、すがすがしき日の出。  セレはそれを見て、朝がきたことに気づき、ため息を吐いた。 「結局……眠れなかったな……」  セレは眠そうにあくびをし、肩を落とした。  そのまま、自らにつけられた首輪の痣【服従者の証】に触れると、耳まで真っ赤に染めた。  |そういう系(・・・・・)の話に疎く、弱いセレはこの行為を繰り返して眠れなかったのだ。 「うう〜〜〜寝不足だよ〜〜〜」  嘆くセレだが、すぐに拳をぐっと握り、立ち上がった。 「せっかく早く起きたんだし、弟君の所に行こっと」  切り替えが早いというか、前向きというか。  セレはリュークスの眠っている部屋に向かったのだった。  その後、リュークスの寝顔を見つめ続けていたセレがリュークスを抱きしめるように熟睡、そこをフレイアに見つかり怒鳴り起こされたのは、また別の話である……  聖堂。表向きとしては平常を取り続けている場所。  その最奥部では、聖堂の守護者が集まっていた。 『やはり……【剣の奪い手】が来たか』 『はい、我が同者の【朱雀】と【赤月】が討ちに行きましたが、全く歯が立たず、命を落としました……』 『ということは、なにか改造を施された可能性もある、勇者はまだなのか!』 『今、王国から出発したところのようです、奪い手と鉢合わせすると思われます』 『なら、儂たちができることは一つ、剣を守り抜くことじゃ』 『なら、聖堂入り口の守りはオリジナルである私が……』 『ならぬ、残り少ない同胞であり、最後の要であるお主にいかせるわけにはいかん そもそも、魔物は聖堂内から湧き出ているのじゃ、入り口では挟み撃ちになりかねん、コピを二体配置しておけ、剣の守りには貴様を混ぜて三人を配置する』 『アトス様は……』 『儂は行く』 『はい――――お気をつけて』 『儂を誰だと心得ておるのじゃ、精霊と自然を従わせし大賢者を、甘くみるな』  白髪・白髭をもった、青い服を着たご老人。  木の杖で体を支え、魔力は全く感じられない。  その横にたつのは包帯で口元を隠した、茶髪と紅い隻眼をもった女性。  その女性は忍装束を着込み、華奢な身体からは殺意や威厳が感じられない。  近くにはいくつもの棺が並べられ、血痕が残っている。 『今は亡き同士よ、儂はいくぞ、この場は任せた』  ご老人は杖のしたで地面をノックする。  すると、青白い光の穴が広がり、ご老人を飲み込んだ。 『………ご達者で』  女性は近くに設置された、巨大な魔力岩に歩み寄る。  それには数個の呪符が間隔を置いて張られている。 『………【陽炎】【風守】出陣せよ』  女性と同じ姿をした忍者がふたつ、その場を去った。  女性は腰に差した忍刀を抜き、構えた。 『ここはオリジナル忍者【卵月】が死守させていただく!!』  そのとき、魔物が溢れた。 『愚かなる人間どもよ・・・・我に差し出せ、神々しき剣を』  闇が蠢く。  その闇は龍。  邪気が目に見えるほどに満ち溢れ、青く美しい絶対障壁の呪を持つ皮膚は、太陽からの光を反射して輝いている。  紅い、宝石のような瞳がギラギラと輝き、龍はすべての生物を震え上がらせる叫びをあげた。 『我が手に落ちよ、罪なき純粋【勇者の牙】よ!!』  唐突に、龍は姿を消した。  否、姿が見えなくなるほどの早さで動き始めた。  その向かう先は――聖堂。  闇と光が交わればどうなるのか。  その答は誰にもわからない。  物語は着実に――進行を――始める――