【タイトル】  ライトファンタジー〜勇者と魔王〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【サブタイトル】  tempo rubato ma quasi con fuoco/王の命令(7)(第63部分) 【ジャンル】  ファンタジー 【種別】  連載完結済[全82部分] 【本文文字数】  2223文字 【あらすじ】  語られるは旋律、輪になって踊る道化師達の伝説。ある道化師は勇者の名を語り、またある道化師は魔王の名を名乗り。王道から成る、世界の真実をぶち壊す、ファンタジーストーリー 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************  三人と二人が腰を下ろすのは、こじんまりとした木造の料理店。  同じ店内にいる者は、彼らに羨望――というよりも、疑惑と畏怖の眼差しを向けていた。  チチル――薄い桃色をした毛皮を首に巻き、そこから下には、毛皮と同じ色をしたマントをサラッと垂らしている。マントは、全身を覆うほどの大きさに、巨大な魔法陣を縫いこんである。全体の色は毛皮と同じで、魔法陣は一際濃い桃色をしている。身の丈に合わなかった超質量のガントレットやラフな装備が取り払われ、武闘士というよりも騎士に近い雰囲気を醸し出すようになっていた。  ミシェル――流れるような金髪。透き通った青の瞳。着ているのは茶色のチュニックシャツで、胸元にはオレンジの生地が覗いている。ポトムスはグレーのチャックミニスカート。背の高さに不相応なバディが、幼い身の丈に色気というものを匂わせる。残念ながら、美貌の究極に位置しているであろう顔には青筋がひくひくと浮いていて、見る方向にいる者を射殺さんばかりにギロリと目つきを悪くしてしまっている。  レスナ――なめらかな青白で統一された服。赤銅色の瞳に、黒髪がよく似合っている。キリリと引き締められた顔つきは、どんな表情を作っても格好良く見えてしまう。だが、ミシェルの様子と二人のイリーガルに気圧されている姿は、至って惨めだ。  二人の者――片方は女性で、紫髪黒眼の、白い肌をした少女。もう片方は、今まさにマントのフード部分を取り払おうとしていた。 「……俺が、こいつの兄で、そこのチビを叩き伏せたクロシュ・アルナ・エイドだ。こいつは、ナナ・アルナ・エイドと言う」  恐怖を誘う、刺々しい銀髪。赤っぽい黄色をした肌の顔には――素なのだろうが――ミシェル以上に獰猛で威力的な双眸が輝いている。双眸の色は、夜闇だと尾を引いていそうな不気味な赤だ。 「俺たちは、旅人だ」 「……嘘くさ」  ミシェルが吐き捨てた。だが、クロシュは顔色ひとつ変えずに、素知らぬ風にしている。そんな彼の様子に鬱憤が余計募っていき、ミシェルは歯軋りの音をたてながらそっぽを向いた。  コホンと咳払いをして、レスナが話を切り出す。 「二人を止めてくれてありがとう。感謝しているよ……だけど、ひとつ質問に答えて欲しい」  細められるレスナの瞳。ゾクリとくる威圧を、発する。 「|チチルとミシェルを(・・・・・・・・・)|一度消し去った(・・・・・・・)君たちの力は、一体何なんだ」 「――答える義務は無い。そうだろう?」  だが、と前置きするクロシュ。身を乗り出して、テーブルを越えてレスナに顔を寄せる。口元が、ニヤリと酷く歪んだ。 「だが、教えてやらんこともない。俺たちが、選ばれた存在であることをな」  冷然としているレスナと、悪魔の表情を貼り付けるクロシュ。互いが互いに刃を向け、死を呼び込む殺の感情を押し当て合っている。  その余波か。店内が静まり、客がおそるおそる去っていき、店員や店長が困った風に小声で話している。誰もかれも『決して彼らに割り込んではならない』という共通する意識に支配されていた。  空気すらも恐れ戦慄き、まるで二人が必殺の間合いを見切っているかのようだった。その中、笑みを強めながらクロシュが言う。 「≪王の命令≫」 「……?」 「俺とこいつの、力の名だよ。選ばれた三人が人間という枠から飛び出した証でもある≪王の命令≫ 俺はすべてを拒絶し、こいつはすべてを選択できる。いうなら、絶対不敵の超能力ってとこか」 「お兄ちゃん、嘘吐いちゃだめだよ? 人の生死までは選択できないし、拒絶もできないでしょ」  少女、ナナがぷくぅと頬を膨らませる。その表情をリスみたいだなと思い、ふいにレスナはミココのことを脳裏によぎらせる。  ……今は、どうしているんだろう。  少ししかいっしょにいなかったけれど、心配してくれているだろうか。もしそうだったら、嬉しいような謝りたいような、不思議な感じがしてきてしまいそう。  レスナはグッとその感慨を押し殺して、冷然を取り繕ったまま言葉を紡いでいった。 「三人といったけれど、もう一人は共にいないのかい?」 「……ッ」  その瞬間、クロシュが沈んだ。  何に沈んでいったのか。レスナは、クロシュの瞳を覗ける位置だからこそ容易に解る。  ――憎悪。黒い、怒りの炎。  焦がれ苦しむ中で搾り出すかのように、クロシュは掠れきった声で小さく囁いた。 「……ヤツは、俺に殺される――そんな弱者だ」  何というわけもなく、レスナはナナの方を盗み見た。  暗がりに翳る瞳で、ナナは目伏せする。  レスナはそこに、踏み込んではならない領域を視た。そう気づいて、表情をころりと切り替える。 「わかった。いろいろ教えてくれて、あ、あと、チチルとミシェルを止めてくれたんだよね。ほんと、ありがとう」 「……気にするな。数日は滞在することになるこの街を、ぶっ壊して欲しくなかったんだよ」 「げ、ここに居るの?」  ミシェルが、嫌そうな顔をして呟いた。 「安心しろ。この宿には泊まらない。それに、俺たちの意思でも無いしな。 最低でも二日か、多くなったら五日くらいか。鎖国状態が解かれたら、すぐに出て行く――」 「鎖国、とは?」  驚いた風に目を丸くし、レスナがクロシュに食いついた。その深刻げな様子に、先ほどまでとは打って変わって動揺して、クロシュがああと頷く。 「『第五聖女』フルフル・リリ・アバンの治める砦、および砦下町(さいかまち)のここは、入出の自由を完全規制している――つまり、鎖国状態になってんだよ」