【タイトル】  ライトファンタジー〜勇者と魔王〜 【作者】  水瀬愁 【管理】  小説家になろう[ウメ研究所] 【サブタイトル】  tempo rubato ma quasi con fuoco/王の命令(9)(第65部分) 【ジャンル】  ファンタジー 【種別】  連載完結済[全82部分] 【本文文字数】  2499文字 【あらすじ】  語られるは旋律、輪になって踊る道化師達の伝説。ある道化師は勇者の名を語り、またある道化師は魔王の名を名乗り。王道から成る、世界の真実をぶち壊す、ファンタジーストーリー 注意 小説には著作権があります。この小説を無断で再配布・転載する事は著作権法で禁じられています。 (C)水瀬愁 ************************************************  目の前で生じる、黒い障壁。  防ぐも止まらず、レスナはずるずると退くことを余儀無くされる。 「クッ」  それでも抗いはやめず、レスナは銃撃を放った。同時、その銃撃の"余韻"を紫の盾に変換する。  が、それでも障壁はとまらず、盾は障壁の内に飲み込まれていって、レスナは万事休すという言葉を思い浮かべる。 「お兄さん」  そのとき、レスナの両脇に手を差し入れ、グッと持ち上げる者が。  レスナは振り返る。豊満に肉付いた胸と、心配げに見つめてくる瞳が、目に映る。 「ミシェル――ッ!」  氷の翼を羽ばたかせるミシェルは、レスナを持ち上げて、障壁の届かぬ上空まで飛び上がる。そして、安全でいられる高度を保つ。 「チチルも……無事で、良かった」  その場にはチチルも留まっており、レスナの言葉に対してほのかに微笑んだ。  途端、レスナは空気の振動に気づく。ふと下を見下ろして、息を呑んだ。  八方に伸びていく黒い障壁が、円を形作っていたのだ。見る間に拡大していく様子は、キャンパスを塗りつぶす一色のように見える。  どこまでも漆黒が続いていそうなのに、鈍い光を返している――レスナが防げなかったのは、そんな球状障壁の侵攻であったのだ。 「一体何がどうなって――」 「少し遠い方に、ナナがいるみたい。合流する?」  ミシェルは、何処かを見ながら助言する。その言葉にクロシュが含まれていないと、レスナの脳裏で何かと何かの線が繋がった。  今一度、下を見る。  ……君は、ここにいるのかい。  問いは、大地に広がる漆黒の海に飲まれて失せる。       ○  ○  ○  闇の粒子が、降っては消え、降っては消えを繰り返す。  ゆるやかな風景を絶つ影が二つ。どちらかが欠けてもいけない、どちらかが欠けるべき宿命を裏付けられている二人。  ナタリフ。クロシュ。 「やっと――めぐり遇えた。この機に、百以上の賞賛を告げたいものだよ」  クロシュが呟く。感動に打ちひしがれ、殺戮の使命感に身を焦がしながら。  前の事象から、何年が経ってしまったであろうことか。この再会は、あまりにも遅かった。だが、そんなことはもうどうでもいい。来てくれたのだから、何もかもが許せてしまう。  焦燥も、煮えきらぬ憎悪も、無い。  あるのは、己が身で煮えくり返る復讐達成の祈祷と、 「≪王は拒絶する≫」  ――満ち溢れんばかりの力。  その力を、復讐の意思が紡ぐ軌跡に沿わせる。拒絶力の蓄積する"渾身"を、叩き込もうとする。 「≪王は決定を命ずる≫」  少し跳び、回避を行うナタリフ。その回避が決定され、クロシュの"渾身"は軽々と躱(かわ)されてしまう。 「許すかッ!!」  ――・≪王は拒絶する≫  さらに逃げ延びようとするナタリフに、大気の枷をはめる。ぐぐぐと押し込められるナタリフに、クロシュはすぐさま距離を詰めていった。  ――・≪王は決定を命ずる≫  だが、追いつくには時間が足りず。枷に抗う自分を決定したナタリフが、枷に纏わりつかれたまま逃げ行く。クロシュの拳は、二度目も空を切ることとなった。  それすらも、予測の範囲内。 「――『王は」  両腕を交差させる。その間に、方向を微調整し、確実性を追求する。 「拒絶」  力の蓄積は、既に果たしている。放散を強く強くイメージして、両腕を振るい、イメージを現実に投げ込む。 「する』」  そして、拒絶の刃が宙を突き進んでいった。  十字のそれは、紙一重で躱せる仕様でない。避けるためにはある程度距離を開ける必要があり、直進中のナタリフに許される行動は微弱な方向修正くらい。避けれるとは、到底思えない。 「≪王は決定を命ずる≫」  止まって、刃に手を向けたナタリフ。その瞬間、刃がパッと霧散した。  理由は簡単。形状はつくっているが、所詮は大気に失せながら進んでいる力の衝撃にすぎない。失せるという事象を決定されれば、霧散という結果が急激に追い上げてきてしまうのも想像につきやすい。  拒絶の技のほとんどが、決定に分が悪い。クロシュは気づく。  力を絶たすものであれば、決定の管轄外であっただろうが、拒絶には過程が存在してしまう。二つの力関係に作用するのだから、選択式の決定力には逆らう余地がない。 「でもなぁ――この力は、テメェと同等なんだよ」  決定を圧倒するに必要なのは、きっと、もっと感情的な要素。  拒絶を強大に増幅して、世界すらも揺るがせるためには――もっと、必要なのだ。  故に、望む。 「来い」  必要な程は孕んでいたつもりだが、足りなかった。 「koい――」  足りぬのなら、注ぎ足せばいい。  前の事象から、何年が経ってしまったであろうことか。  この再会は、あまりにも遅かった。  だが、そんなことはもうどうでもいい。  来てくれたのだから、何もかもが許せてしまう。  焦燥も、煮えきらぬ憎悪も、無い。  いや――それは、嘘だ。  焦燥している。  抱えきれず、煮えきらずにいる。  実は、人間の身であることに不満を抱くほどまで、感情を生じてしまっていたのだ。押し隠していたが、今ははっきりと明言しなくてはならない。  それが、必要なのだから。  だが、問題がある。この身では耐え切れぬ業火であること――どうするか。  クロシュならば、こう想う。  ……問題など、無い。  問題が無いことを肯定。問題が有るという真実を否定。そんな摩訶不思議を"拒絶"を通して実行する。  ……故(だから)、来い。  最大も最強も超絶も、足りぬ。それらを追い越して、更なる高みを渇望する。  人ではありえぬ。それがどうした。元々、人であったことがあるか。  ……俺は何処までも歩き続ける――ッ 「素晴らしい。絶景ではないか、"同胞"よ!!」  だまれと思う。感想を力に宿す。力を感想の様に変換し、標的を狙う。  あとは、穿て―――― 「ウオォォォォォォオオオオオオオオオオ!!!」  万物万象を拒絶できるイメージ。体現するそれを、伴うものを些細にすら感じずに振るい、薙ぐ。  立ち向かう存在もまた、イメージを備えたようだ。だが、気にはとめない。無我。たった一つのもののために、無我を貫く。 「狂え! 力の剣戟に、踊り狂おう!!」  ……これで終わりだッッッ!  ――・≪王は拒絶する≫  ――・≪王は決定を命ずる≫